大連方言

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大連方言
大连话
話される国 中国
地域 遼東半島
言語系統
言語コード
ISO 639-3
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大連方言(ダイレンほうげん)は、中国語の主要な方言の一つである膠遼官話の下位。大連で話されており。

発音[編集]

普通話のzh-,ch-,sh-,r-,w-,-o,er,-u(e)i,-uan,-u(e)nは、大連方言ではz-,c-,s-,y-,v-,-e,ar,-ei,-an,-enである。

普通話の単語の何々「子(zi)」は、大連方言では「e」である。例えば「椅子(yǐ zi)」は、大連方言で「yǐ e」である。

普通話の調値55陰平は、大連方言で31である。

普通話との発音対照[編集]

大連方言と普通話の発音対照
普通話 → 大連方言
zh、ch、sh、r → z、c、s、y 中国人 zhōng guó rén → zōng guó yín
d、t、n、l、z、c、s の後の介音 u がなくなる 対 dù(e)i → dèi
o個別のuo → e 胳膊 gē bo → gĕ be
脱 tuō → tĕ
詞尾「子」→ e 孩子 hái zi → hái e
a、ai、ei、an、en、ang、eng の前の母音 w → 子音 v
wuwo はそのまま
晚飯 wǎn fàn → vǎn fàn
数字「二」→ àr 王二小 wáng èr xiǎo → váng àr xiǎo
瑞 → suèi
崖 → ái
瑞士 rùi shì → suèi si
泡崖 pào yá → pào ái
介音iとüの前の子音n → 子音gn
介音uの前の子音nはそのまま
你 nǐ → gnǐ
虐 nüè → gnüè
子音z、c、sの後のen[ən]、eng[ɤŋ] → en[ɿn]、eng[ɿŋ]
ほかの子音の後のen、engはそのまま
森 sēn[sən] → sēn[sɿn]

普通話にはない音節[編集]

  • biǎng(対応する漢字は無し)-【接頭辞】通常、けなすような意味をもつ名詞の前に置いて、語気を強める作用。(例:biang彪「頭がおかしい」)
  • piǎ(対応する漢字は無し)-【動詞】皮肉の意味。

子音[編集]

b
[ p ]
p
[ pʰ ]
m
[ m ]
f
[ f ]
v
[ v ]
d
[ t ]
t
[ tʰ ]
n
[ n ]
l
[ l ]
g
[ k ]
k
[ kʰ ]
h
[ x ]
j
[ ʨ ]
q
[ ʨʰ ]
gn
[ ɲ ]
x
[ ɕ ]
z
[ ts ]
c
[ tsʰ ]
s
[ s ]

母音[編集]

児化母音の16種類[編集]

基本母音 ai an (i)an (ü)an i ei en ü a (i)e (ü)e o
児化母音 ar
[ aʅ ]
(ü)anr
[ œ̜ʯ ]
er
[ əʅ ]
ür
[ yʯ ]
a'r
[ äʅ ]
(i)e'r
[ ɛʅ ]
(ü)e'r
[ øʯ ]
or
[ ǫʯ ]
基本母音 e u ao ou ang (u)ang ong eng
児化母音 e'r
[ ɤʅ ]
ur
[ uʯ ]
ao'r
[ ɑʊʯ ]
ou'r
[ ǫʊʯ ]
angr
[ ɑŋʅ̃ ]
(u)angr
[ ɔŋʯ̃ ]
ongr
[ ʊŋʯ̃ ]
engr
[ ɤŋʅ̃ ]
  • 「碗」と「瓦」は異なり、「根」と「歌」も異なる。「根」の母音はそり舌の中央母音である。
  • zicisi の中のi は先舌母音で、児化すると er になる。たとえば、「事 sèr」のようになる。
  • iuü が児化母音にかけるルールは基本母音にかけるルールと同じであるため、その部分の表は省略する。

声調[編集]

大連方言と北京語の声調対照
調号 1 2 3 4 5 6 マークなし
  • 大連語
陰平(中低降) 陽平(中升) 上声(中凹) 陰去(中高降) 中去(中平/低升) 陽去(低降) 軽声
31 24 213 52 33/13 21 --
陰平(高平) 陽平(高升) 上声(高凹) 去声(高降) 軽声
55 35 214 51 --

大連方言の変調傾向:

  • 第1調号の音節が並ぶ場合、あるいは第4調号の後に第1調号の音節が来る場合、前の音節の声調は一般的に第5調号になり、後の音節の声調はそのまま維持される。例:「家家戶戶」jia'r5-jia'r1-hur6-hur4、「駕崩」jia5-beng1[1]
  • 第1調号の音節の後に第4調号の音節が並ぶ場合、前の音節の声調はそのまま維持され、後の声調が第6調号になる。例:「蟋蟀」xi1-suai6あるいはxi3-suar、「稀碎」xi1-sei6。
  • 第4調号の音節が並ぶ場合、前の音節の声調は一般的に第5調号になり、後の声調は第6調号になる。例:「畢恭畢敬」bi5-gongr1-bi5-jingr6、「客客氣氣」ke'r4-ke'r-qi5-qi6[2]
  • 第5調号と第6調号は独立な声調ではなく、変調である。

語彙[編集]

大連方言に独特な語彙は[3]、多くが大部分の大連人の祖先の山東省膠遼官話からきている。また、大連はしばらくロシア日本の配下にあったので、ロシア語フリェープなど)と日本語(ワイシャツ、モチなど)の影響も認められる。

大連語読み方意味
しぇとても
らんおしゃれ
英語のshowすばらしい
干浄がーんじんとてもいい
開了けーら不満された
英語のchaw時代遅れ
びょう馬鹿
べー~ないで
玄了しゅあんらとても多い
毀了ふいらやばい
磕了かーら仕様がないな~
章程じゃんちん能力を持っている
哈呼はーふ叱責
膈応がーやんうっとうしい
作索ずウォすウォ台無しにする
刺毛撅腚つもじゅえでぃんリュード

文法[編集]

一般に大連方言は英語官話と同じで、文中の要素の順序はSVO、すなわち主語+述語+目的語の順であるとされるが、実は高齢者の大連人が話すような特殊な状況下では「回家吧!回家吧!(「家に帰ろう」の意味)」を「家走吧!家走吧!」のように言うこともある。「家走」はVOではなくOV、すなわち目的語+述語の順となっている。

その他[編集]

分類[編集]

分布[編集]

参照[編集]

  1. ^ この第1調号は大連語の31で、普通話の55ではない。
  2. ^ 畳語と擬音語の特殊性に注意。
  3. ^ 大連方言独特の語彙については「彪(ピャオ)」(馬鹿」)などから始まって、大连话(百度百科) (中国語)の「词典」によくまとまっている。