メメント・モリ
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メメント・モリ(Memento mori)は、ラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」という意味の警句である。日本語では「死を想え」「死を忘れるな」などと訳されることが普通。芸術作品のモチーフとして広く使われ、「自分が死すべきものである」ということを人々に思い起こさせるために使われた。
古代ローマでは、これは将軍が凱旋のパレードを行なった際に使われた、と伝えられる。将軍の後ろに使用人が立ち、この使用人は、将軍は今日絶頂にあるが、明日はそうであるかわからない、ということを思い起こさせる役目をになっていた。そこで、使用人は「メメント・モリ」と言うことによって、それを思い起こさせていた。
ただし、古代ではあまり広くは使われなかった。当時「メメント・モリ」の趣旨はcarpe diem(今を楽しめ)ということで、「食べ、飲め、そして陽気になろう。我々は明日死ぬから」というアドバイスであった。これの起源は聖書にあり、イザヤ書22:13には「食べ、飲もう。我々は明日死ぬのだから」とある。ただし、この考えは聖書以外で現れている。例えば、ホラティウスの詩にはNunc est bibendum, nunc pede libero pulsanda tellus.(今は飲むときだ、今は気ままに踊るときだ)とある。ホラティウスは、死後においてはそういうことができない、と言うことを示そうとしたのである。これがcarpe diemの古典的なテーマである。
しかし、この言葉はその後のキリスト教世界で違った意味を持つようになった。天国、地獄、魂の救済が重要視されることにより、死が意識の前面に出てきたためである。キリスト教的な芸術作品において、「メメント・モリ」はほとんどこの文脈で使用されることになる。キリスト教の文脈では、「メメント・モリ」はNunc est bibendumとは反対の、かなり徳化された意味合いで使われるようになった。キリスト教徒にとっては、死への思いは現世での楽しみ・贅沢・手柄が空虚でむなしいものであることを強調するものであり、来世に思いをはせる誘引となった。
「メメント・モリ」の思想がもっとも顕著に現れたのは、葬儀のための芸術及び建築物である。おそらく、現代人にとって最も衝撃的なのは、腐敗した死体を表現した墓であろう。これは15世紀に富裕階級の間で流行した。現存するものは、現世の富のむなしさを思い起こさせる。有名な『死の舞踏』は、「メメント・モリ」の最も知られているテーマで、死神が貧乏人と金持ちを等しく連れ去っている。これと同様なものがヨーロッパの多くの教会に飾り付けられた。その後の植民地時代のアメリカでも、ピューリタンの墓には翼を持つ頭蓋骨、骸骨、蝋燭を消す天使が描かれている。
また時計は、現世での時間がどんどん少なくなっていくことを示すもの、と考えられていた。公共の時計にはultima forsan(ことによると、最後(の時間))やvulnerant omnes,ultima necat(みな傷つけられ、最後は殺される)という銘が打たれていた。現代ではtempus fugit(光陰矢のごとし)の銘が打たれることが多い。ドイツのアウグスブルクにある、有名なからくり時計は、死神が時を打つ、というものである。こういった「死の時計」は、古き思想を思い起こさせる。個人はもっと小さな時計を持ち歩き、死の運命のリマインダ-としていた。例えば、スコットランド女王メアリーは、銀の頭蓋骨が彫られ、ホラティウスの詩の一文で飾られた、大きな腕時計を持っていた。
芸術では、「静物画」は以前vanitas(ラテン語で「空虚」)と呼ばれていた。静物画を描く際には、なにかしら死を連想させるシンボルを描くべきだと考えられていたからである。明らかに死を意味する骸骨(頭蓋骨)や、より繊細な表現としては花びらが落ちつつある花などがよくシンボルとして使用されていた。美術における骸骨に関しては、en:Skull (symbolism)に詳述されている。
写真が発明されると、多くの人々は最近死んだ親族の写真を撮らせた。ダゲレオタイプの技術的限界を考えて、肖像対象をじっとさせて置く一つの方法であった。
また、「メメント・モリ」は文学上でも重要なテーマであった。イギリスの作品では、トーマス・ブラウンの[『Hydriotaphia、Urn Burial』とジェレミー・テイラーの『聖なる生、及び聖なる死』が有名である。これらはエリザベス1世時代の終わりからジェームス1世時代にかけての陰鬱な時代の産物であった。18世紀後半では、トーマス・グレーの『Elegy in a Country Churchyard』やエドワード・ヤングの『Night Thoughts』が有名である。
多くの「メメント・モリ」に関する作品は、メキシコの祭り「死者の日」に関連付けられる。この祭りでは、パンで作った頭蓋骨が飾られる。
現代の文学でも「メメント・モリ」のモチーフが見られ、例えばホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編『不死の人』に見られる。最近では、映画のタイトルにも引用された(『メメント』)。
