ボンバルディア・マルチレベル・コーチ

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マルチレベル・コーチ
Multilevel Coach
マルチレベル・コーチ
ニュージャージー・トランジット2008年撮影)
基本情報
運用者 ニュージャージー・トランジット
メリーランド交通局英語版MARC
モントリオール大都市圏交通局
製造所 ボンバルディア・トランスポーテーション
製造年 2006年 -
運用開始 2006年
主要諸元
軌間 1,435 mm
最高速度 160 km/h(100 kph)
減速度(常用) 3.78 km/h/s(2.35 mphps)
減速度(非常) 3.89 km/h/s(2.42 mphps)
車両定員 制御車 127人
客車 142人
客車(便所有) 132人
車両重量 制御車 63.183 t(139,250 lbs)
客車 60.323 t(132,990 lbs)
客車(便所有) 61.182 t(134,880 lbs)
全長 25,908 mm(85 ft)
全幅 3,048 mm(10 ft)
全高 4,420 mm(14 ft 6 in)
床面高さ 1,295 mm(51 in)(車端部)
車体 ステンレス鋼
車輪径 914 mm(36 in)
固定軸距 2,591 mm(8 ft 6 in)
台車中心間距離 18,136 mm(59 ft 6 in)
制動装置 空気ブレーキディスクブレーキ
備考 主要数値は[1][2][3]に基づく。
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マルチレベル・コーチ英語: Multilevel Coach)は、カナダの鉄道車両メーカーであるボンバルディア・トランスポーテーション北アメリカアメリカ合衆国、カナダ)の鉄道事業者へ向けて展開する鉄道車両のブランド名。車両限界が狭い路線向けに開発された、定員数が多い2階建て客車である[1][2][3]

この項目では、マルチレベル・コーチと同型の2階建て電車であるマルチレベルIII(Multilevel III)についても解説する[4]

概要[編集]

2002年12月ニュージャージー州を中心に公共交通機関を運営するニュージャージー・トランジットは、深刻化していた通勤列車の混雑を改善するため、ボンバルディア・トランスポーテーションとの間に新型客車の大量導入に関する契約を交わした。その際に提示された条件に基づき、ボンバルディアが開発したのがマルチレベル・コーチである[1][2]

それまでNJトランジットで使用されていた客車は1階建てであったが、マルチレベル・コーチは着席定員を始めとする容量増加を目的に2階建て構造を採用しており、従来の客車列車から座席数が15 - 30%増加している。その一方で、NJトランジットの走行区間に存在するハドソン川下部を潜るトンネルのような車両限界が狭い路線にも対応できるよう、全高は4.4 m(14 ft 6 in)程に抑えられている他、車体の両端は1階建て構造となっている。車体にはステンレス鋼が、台枠には高張力鋼が用いられている。車種として運転台が設置されている制御車と運転台がない中間客車が製造されており、後者はトイレの有無による2種類が存在する[1][3]

車内の座席配置は2 + 2列のクロスシートを基本としており、従来の車両(2 + 3列)と比べてシートピッチや通路の幅が拡大し、快適性の向上が図られている。またバリアフリー面の配慮もなされており、1階建て部分には車椅子自転車が設置可能なフリースペース[注釈 1]や車椅子対応トイレが存在する。冷房や照明に必要な電気は連結される機関車から供給される(集中電源方式、head end power)[1][3]

乗降扉は車端に低床式、1階 - 2階部分の境に高床式プラットホームに対応したものが車体両側面に2箇所づつ設置されているが、制御車については運転台が片側に存在する関係で低床式プラットホームに対応した乗降扉は1箇所のみ存在する[1][3]

運用[編集]

2006年にニュージャージー・トランジットで営業運転を開始して以降、マルチレベル・コーチは以下の事業者に導入されている。2000年代に各事業者へ導入が実施された1次車は「マルチレベルI(Multilevel I)」、2010年代以降に導入された2次車は「マルチレベルII(Multilevel II)」とも呼ばれる[1][4]

下記の車両のうち、2020年時点でニュージャージー・トランジットに在籍する8両についてはニューヨークアトランティックシティの間に運行していたアトランティックシティ・エクスプレス・サービス(ACEC)英語版向けに製造された車両(マルチレベル I)で、2012年の事業停止後にニュージャージー・トランジットへ転属した経緯を持つ。ACEC時代は観光客の利用を考慮して優等座席やバー、大容量の荷物室が設置されていたが、転属に合わせてこれらの設備は撤去、もしくは改造されニュージャージー・トランジットの車両と仕様が統一されている[5][6]

都市・運営組織 車両数 解説・参考
アメリカ合衆国 ニュージャージー・トランジット 329両 "マルチレベルI"[2][7][4]
100両 "マルチレベルII"[7][4]
メリーランド交通局英語版
(MARC)
54両 "マルチレベルII"[1][3][8]
カナダ モントリオール大都市圏交通局
(EXO)
160両 "マルチレベルI"[1][9]

発展車両[編集]

2018年12月、ニュージャージー・トランジットは、1970年代に製造され老朽化が進んでいた1階建て電車の"アロー英語版"やこれらを改造した1階建て客車の"コメット英語版"の置き換えおよび今後の輸送力増加を目的に、ボンバルディアとの間に113両の2階建て車両「マルチレベルIII(Multilevel III)」導入に関する契約を交わした。これらは従来の車両(客車)と異なり交流電化に対応した中間電動車を連結する2階建て電車として使用される予定で、1両単位で走行可能なアメリカの電車として初めて交流電化に対応した回生ブレーキが搭載される。また、車内にはUSBに対応した充電ポートや情報ディスプレイが設置される。運用開始は2023年を予定している[4]

関連車両[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ フリースペースには5人分の折り畳み座席(ロングシート)が設置されている。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i MultiLevel Coaches - New Jersey and Maryland, USA & Montreal, Canada”. Bombardier Transportation. 2016年4月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月1日閲覧。
  2. ^ a b c d Ronald Smothers (2002年12月12日). “N.J. Transit Buying New Cars to Ease Crowds”. The New York Times. 2020年10月1日閲覧。
  3. ^ a b c d e f Summary Minutes MARC Riders Advisory Council Meeting”. MARC (2013年5月16日). 2014年11月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月1日閲覧。
  4. ^ a b c d e William C. Vantuono (2018年12月12日). “For NJ Transit, another rolling stock innovation”. Railway Ave. 2020年10月1日閲覧。
  5. ^ Dan Heath (2013年12月17日). “NJ Transit Corporation Change Order”. NJ Transit. 2020年10月1日閲覧。
  6. ^ NYC to Atlantic City train folds: a good idea that failed on execution”. WHYY (2012年5月12日). 2020年10月1日閲覧。
  7. ^ a b Dan Heath (2010年9月1日). “Bombardier Transportation awarded $267 million railcar contract”. Press-Republican. 2020年10月1日閲覧。
  8. ^ Maryland’s MARC Railroad Upgrades Fleet, Service to Bolster Ridership”. Metro Magazine (2016年6月17日). 2020年10月1日閲覧。
  9. ^ Bombardier To Supply 160 Multilevel Commuter Rail Cars In Montreal”. Bombardier Transportation (2007年12月18日). 2020年10月1日閲覧。
  10. ^ Worldwide projects”. Bombardier Transportation. 2020年10月1日閲覧。
  11. ^ LIRR C-3”. Kawasaki Rail Car, Inc.. 2020年10月1日閲覧。

外部リンク[編集]