ブラジルから来た少年

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ブラジルから来た少年』(ブラジルからきたしょうねん、The Boys from Brazil)は、アメリカの作家アイラ・レヴィン1976年に発表した小説。映画化、ラジオドラマ化されている(下参照)。

小説は日本語版が早川書房ハヤカワ文庫から出版されている。

ブラジルヒトラークローンを再生させようとする科学者ヨーゼフ・メンゲレと、それを阻止しようとするナチ・ハンターのユダヤ人・リーベルマンとの葛藤を描く。

同じくメンゲレについて取り上げたスレイヤーの「エンジェル・オブ・デス」にフレーズが引用された。

あらすじ[編集]

ナチ・ハンターの青年コーラーは、パラグアイで開催された旧ナチス党員の会合に潜入し、そこでアウシュヴィッツ収容所の主任医師だったヨーゼフ・メンゲレを目撃する。コーラーはウィーンにいる古参ナチ・ハンターのリーベルマンに情報を伝えるが、リーベルマンは情報を疑い取り合おうとしなかった。会合の様子を録音したコーラーは再びリーベルマンに電話を掛けるが、党員たちに発見され殺害される。メンゲレは9か国に点在する94人の公務員を殺害する計画を党員たちに告げ、西ドイツの郵便局長を手始めに標的を次々に殺害していく。

リーベルマンはコーラーの情報を元に調査を進め、犠牲者の未亡人の元を訪れ、そこで黒髪青眼の子供と出会う。少年は全員同じ特徴を有し、容姿だけではなく声までも同一だった。調査を進めるリーベルマンは、殺害された公務員は全員65歳前後で息子に対して冷淡・暴力的な態度を取っていた一方、母親は42歳前後で息子を溺愛していたことが判明する。彼は養子斡旋会社に勤務する元ナチスのフリーダ・マロニーから、少年たちが特定の条件の家庭(夫が1910年から14年の生まれで、妻が1933年から37年生まれの夫婦)に養子に出されていたことを突き止める。さらに生物学研究所のブルックナー教授の元を訪れたリーベルマンは、そこでメンゲレの計画の全容に気付く。メンゲレはアドルフ・ヒトラーのクローンを生み出すため、ヒトラーのDNAから生み出された少年を北欧系の家庭に養子に出し、ヒトラーと同じ家庭環境下に置いてクローンを育成しようとしていた。彼が養父たちを殺害していたのは、息子に対して暴力的だったヒトラーの父アロイス・ヒトラーが65歳で死んだことを再現するためだった。

リーベルマンが調査を進めていることを知ったナチス上層部は計画の中止を通達するが、メンゲレは通達を無視して計画を続行する。上層部から派遣されたセイベルト大佐はメンゲレの施設を破壊して証拠を隠滅するが、すでにメンゲレは逃亡していた。メンゲレはペンシルベニア州ランカスター・ニュープロビデンス(英語版)で暮らすクローンの一人ボビー・ウィーロックの自宅に向かう。彼はボビーの父ヘンリーを殺害し、ヘンリーのフリをしてリーベルマンの到着を待ち構える。リーベルマンはウィーロック宅に到着してヘンリーに面会しようとするが、ヘンリーに扮していたメンゲレに銃撃される。重傷を負ったリーベルマンは別室にいたドーベルマンを解放し、メンゲレはドーベルマンに襲われ重傷を負う。そこにボビーが帰宅し、血塗れの2人を見て趣味の写真を撮り事情を調べる。リーベルマンはメンゲレが父親を殺したと告げ、ボビーは別室に向かいヘンリーの死体を確認し、ドーベルマンにメンゲレを殺すように指示する。メンゲレを殺した後、ボビーは「警察に事件を口外しない」という条件でリーベルマンを助けた。

映画[編集]

映画化は、英国貴族で映画製作者のルー・グレード卿により製作された。監督はフランクリン・J・シャフナーである。1978年10月5日に公開された。日本では劇場未公開となり、1984年3月3日にフジテレビ系列の「ゴールデン洋画劇場」でテレビ初放送された。本作品に対しては公開後、有識者より過度の遺伝子決定論的内容に対し批判が向けられた。そのためか、ヒトラーの遺伝子をもつ子供一人が、自ら撮影したメンゲレの死体の写真を現像し、見て悦んでいるラストシーンがビデオソフトでは削除されている(DVDには存在する)。

第51回アカデミー賞作曲賞の候補となっている。テーマ曲はウィンナ・ワルツ風であり、これは主人公がウイーンに在住している場面から始まるためである。この注文を監督から受けた作曲家は、あまり賛成ではなかったが、注文どおりに作曲した。また、メンゲレらナチの残党が潜む南米の場面ではギターを使用してラテン情緒を醸し出し、ナチ残党の陰謀を表現する際はオーケストラがワーグナー風の和音を響かせる。

ラジオドラマ[編集]

この作品はNHK-FM青春アドベンチャー』でラジオドラマ化され、1996年5月20日から5月31日にかけて全10回放送された。

スタッフ[編集]

キャスト[編集]

ほか

関連項目[編集]

参考文献[編集]