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「ヴィルヘルム・オルバース」の版間の差分

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'''ハインリヒ・ヴィルヘルム・マトイス・オルバース'''（Heinrich Wilhelm Matthäus Olbers, [[1758年]][[10月11日]] - [[1840年]][[3月2日]]）は、[[ドイツ]]の[[天文学者]]・[[物理学者]]・[[医師]]。 '''ヴィルヘルム・オルバース'''もしくは'''ハインリヒ・ヴィルヘルム・オルバース'''と書かれることが普通である。
'''ハインリヒ・ヴィルヘルム・マティアス・オルバース'''（Heinrich Wilhelm Matthias Olbers, [[1758年]][[10月11日]] - [[1840年]][[3月2日]]）は、18〜19世紀[[ドイツ]]・[[ブレーメン]]の[[天文学者]]・[[医師]]。
3番目の名<!--Vorname-->を'''マテーウス''' (Matthäus, {{IPA|/maˈtɛː.ʊs/}}) とする文献もある。通常は'''ヴィルヘルム・オルバース'''と呼ばれた{{R|suub16}}。カナ書きでの姓は'''オルベルス'''と書かれる場合もある。


[[天文台]]などに属さないアマチュア天文学者であったが、本業の医業のかたわら熱心に観測を行い、19世紀初頭に四大[[小惑星]]のうちの2つを発見した。特に[[彗星]]に興味を持ち、当時のドイツの彗星観測の権威ともみなされていた。また、かつて[[宇宙論]]上の長年の謎であった[[オルバースのパラドックス]]に名を残していることでも知られる。
ドイツの[[ブレーメン]]で生まれ、[[ゲッティンゲン]]で医師となるための勉強を重ねた。[[1780年]]に大学を卒業し、ブレーメンで開業医となった。


==略歴==
オルバースは毎晩のように天体観測に明け暮れ、[[1802年]][[3月28日]]に小惑星[[パラス (小惑星)|パラス]]を発見した。[[1807年]][[3月29日]]には小惑星[[ベスタ (小惑星)|ベスタ]]を発見した。
ヴィルヘルム・オルバースは、ともに[[ルーテル派]][[牧師]]の家系をもつヨハン・ゲオルク・オルバース ({{lang|de|Johann Georg Olbers,}} 1716&ndash;1772) とアンナ・マリア・オルバース（旧姓フォクト） ({{lang|de|Anna Maria Vogt,}} 1728&ndash;1798) との間の16人の子の8番目として、1758年10月11日、[[ブレーメン]]郊外のアーバーゲン ({{lang|de|Arbergen}}) に生まれた。1760年、父ヨハン・ゲオルクはブレーメンの大聖堂牧師となり、ヴィルヘルムもそこで成長した{{R|suub16}}。


1769年、10歳のときに長く尾を伸ばした大[[彗星]]（メシエ彗星、<small>英語版：</small>[[:en:C/1769 P1]]）を見たことがきっかけでオルバースは天文学への興味を開花させたが、当時のギムナジウムでは数学・科学がほとんど教えられることなく、天文学について知るために独学でそれらを学ぶしかなかった。
[[1815年]][[3月6日]]、オルバースは[[周期彗星]]を発見し、オルバースの名が付けられた([[オルバース彗星|13P/Olbers]])。
1777年より[[ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲン|ゲッティンゲン大学]]で医学を学び始め、それとともに、物理学者[[ゲオルク・クリストフ・リヒテンベルク|リヒテンベルク]]、そしてゲッティンゲンの小さな天文台を運用していた[[アブラハム・ゴットヘルフ・ケストナー|ケストナー]] (<small>英語版：</small>[[:en:Abraham Gotthelf Kästner]]) に付いて数学・物理学や天文学を学んだ{{R|multhauf}}。
1779年には、発見されたばかりの彗星（ボーデ彗星、C/1779 A1）の軌道を計算しようと、病床の友人に付き添うかたわらで計算をすすめ、観測値から放物線軌道を決定する新たな方法を作り出した。翌1780年には、彼自身で独立に彗星を発見した（モンテーニュ＝オルバース彗星、C/1780 U1, 1780 II）{{R|multhauf}}。


医学においても、数学の応用の問題に傾注した。1780年の学位論文''{{lang|la|De oculi mutittionibus}}''（変異性眼球について）では、眼球の変形による焦点の変移に眼がどう適応するかを論じていた。
オルバースは、「宇宙が一様で無限の広がりを持つならば、宇宙は無数の星によって太陽面のように明るく輝かなければならないが、現実の夜空が暗いのは何故か」という「[[オルバースのパラドックス]]」を提唱したことで知られる。
学位取得後は[[ウィーン]]で研修を行うとともに、夜は天文台で過ごし、発見直後の[[天王星]]を追跡するなどした{{R|multhauf}}。
1781年、ブレーメンで開業医となった。
医師としてのオルバースは、眼科医としてとともに、[[メスメリズム]]（動物磁気療法、<small>英語版：</small>[[:en:animal magnetism]]）に傾倒し、磁気や[[催眠]]を利用して疾患を治療できるとして、ブレーメンの他の2人の医師とともに患者を受け入れた{{R|suub16}}。
メスメリズムは、1770年代に[[ウィーン]]の医師[[フランツ・アントン・メスメル|メスマー（メスメル）]]が提唱したばかりのものだった。後の[[催眠療法]]のもとともなったが、その機序や有効性に関して当時から多くの議論を呼び起こしていた。
オルバースはその有効性を認めつつ、特別な力を仮定せずに説明できるようになるだろうと論じた{{R|multhauf}}。

オルバースは1785年、ドロテア・エリザベート・ケーネ（{{lang|de|Dorothea Elisabeth Köhne,}} 1767&ndash;1786）と結婚したが、翌年、娘ドリスの出産後にドロテア・エリザベートは亡くなった。1789年、アンナ・アーデルハイト・リュアセン ({{lang|de|Anna Adelheid Lürssen,}} 1765&ndash;1820) と再婚し、1790年に一人の息子をもうけた{{R|suub16|multhauf}}。

[[File:Fernrohr_Olbers_(Focke_Museum).jpg|thumb|200px|オルバースが愛用していた屈折望遠鏡。ロンドンのジョン・ドロンドの工房で1800年頃制作された。ブレーメン、フォッケ博物館（ブレーメン州立芸術文化史博物館）所蔵。]]
医師となった当初は多忙となったが、その後、ブレーメン近郊[[リリエンタール (ニーダーザクセン州)|リリエンタール]] (<small>英語版：</small>[[:en:Lilienthal,_Lower_Saxony|Lilienthal]]) にヨーロッパで最大級の私設天文台[[リリエンタール天文台]]を有し、リリエンタールの執政官<!--chief magistrate-->でもあった天文学者[[ヨハン・シュレーター|シュレーター]]と親交を深め、以後長年に渡って協力し合った。
学生時代に編み出していた彗星の放物線軌道の決定法は、それまで用いられていた方法より簡明で、[[フランツ・フォン・ツァハ|フォン・ツァッハ]]の手引きで1797年になって公刊された。これはオルバースの名声を高め、この方法は以降20世紀まで広く用いられるものとなった{{R|britannica11|uemura18}}。

1799年には、ブレーメン[[聖ペトリ大聖堂]]のそば、ザント通り ({{lang|de|Sandstraße}}) にあった自宅上階の2つの大きな出窓を改造して、口径約10センチメートルの[[ジョン・ドロンド|ドロンド]]製[[屈折望遠鏡]]やシュレーターの[[反射望遠鏡]]<!--Schröter reflector-->、[[六分儀]]などを備えた観測施設とした。
睡眠時間を削って観測を行い、毎日4時間以上寝ることはなかったという{{R|britannica11|nature40}}。

このころ、火星と木星の間には未発見の惑星があるとの推測がなされ、熱心で広範な探索が始まっていた。
1801年に[[シチリア]]の[[ジュゼッペ・ピアッツィ|ピアッツィ]]が発見した天体[[ケレス (準惑星)|ケレス]] (Ceres) をオルバースらが再発見した後、自身で1802年に同じ[[小惑星帯]]の新天体[[パラス (小惑星)|パラス]] (Pallas) を、さらに1807年には[[ベスタ (小惑星)|ベスタ]] (Vesta) を発見した。
これらは19世紀初頭に相次いで発見された最初の4つの[[小惑星]]のうちの2つであり、当時は新たな[[惑星]]とみなされた。オルバースはこれらを単一の惑星が破壊されたものではないかとの説を唱えた<small>（後述の[[#小惑星の発見とオルバースの仮説]]の節を参照）</small>。
また、6つの[[彗星]]を発見した。うち1815年に発見された彗星はおよそ70年の公転周期をもつ[[周期彗星]]であり、[[オルバース彗星]] (13P/Olbers) として知られる。

オルバースは一連の小惑星の探索を通じて、シュレーター、フォン・ツァッハのほか、当時20代の青年で、後に天文学者としてだけでなく数学者としても名声を馳せる[[カール・フリードリヒ・ガウス]]とも親密な交流を持つことになった。オルバースの観測からガウスが軌道計算を行い、またガウスの予測からオルバースが観測を行うという相互の関係が続いた。
[[ハインリッヒ・シューマッハ|シューマハー]]、[[カール・ハーディング|ハーディング]]、[[ヨハン・フランツ・エンケ|エンケ]]といった同時代のドイツの天文学者とも交流を持ち{{R|suub16}}、特に、1804年、20歳そこそこの[[フリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセル]]が[[ハレー彗星]]の改良された軌道計算結果をオルバースに送ったときには、彼の卓越した数学的才能を見出だし、学術界に紹介するとともに貿易商社の徒弟であった彼にリリエンタール天文台の助手の地位を手配した{{R|mtbessel}}。

1784年にはブレーメン博物館協会 (Bremer Museumsgesellschaft) の会員に選ばれ、1789年から1831年まで理事を務めた。ここでは天文学や気象などに関する多数の講演を行った（医学に関する講演は1度きりだった）。
1804年には、ロンドンの[[王立協会フェロー]]にも選出された。
ブレーメンが[[ナポレオン]]の占領下となった1811年には、ブレーメンの代表として[[パリ]]を訪ねた{{R|suub16|multhauf}}。

1818年、娘ドリスが早世し、1820年には二番目の妻アンナ・アーデルハイトも亡くなった。自身の健康上の理由もあってオルバースはこのとき医者を廃業したが、天文学の研究は継続した{{R|suub16}}。

オルバースは胸部の疾患のため、1840年3月2日、81歳で死去した{{R|suub16}}。
息子ゲオルク・ハインリヒ・オルバース (<small>独語版：</small>[[:de:Georg Heinrich Olbers]], 1790&ndash;1861) はブレーメンの議員を務めた。
曽孫にあたる[[ヴィルヘルム・オルバース・フォッケ]] (<small>英語版：</small>[[:en:Wilhelm Olbers Focke|{{lang|de|Wilhelm Olbers Focke}}]], 1834&ndash;1922) は[[キセニア]]の概念を提唱した植物学者である。
オルバースが遺した蔵書のコレクションは天文学に関して当時のヨーロッパで最大級のものであった{{R|multhauf}}。オルバースの死後、[[ロシア]]・[[サンクトペテルブルク]]郊外に新設された[[プルコヴォ天文台]]の[[フリードリッヒ・フォン・シュトルーベ|フォン・シュトルーベ]]に買い取られたが、[[第二次世界大戦]]と1997年の放火により大きな損傷を受けた{{R|oestmann01}}。


オルバースの名は、その功績を称えて、小惑星や月のクレーターに付けられている。
オルバースの名は、その功績を称えて、小惑星や月のクレーターに付けられている。
* [[火星]]と[[木星]]の間の[[小惑星帯]]にある小惑星 → (1002) [[オルバーシア (小惑星)]]
* (1002) [[オルバーシア (小惑星)]]：[[火星]]と[[木星]]の間の[[小惑星帯]]にある小惑星
* [[月]]の西の周縁、[[嵐の大洋]]の西端に位置するクレーター → [[オルバース (クレーター)]]
* [[オルバース (クレーター)]]：[[月]]の西の周縁、[[嵐の大洋]]の西端に位置するクレーター
* [[ベスタ (小惑星)|ベスタ]]にある直径200kmの[[アルベド]]が低い地域 → オルバース・レジオ
* オルバース・レジオ：小惑星[[ベスタ (小惑星)|ベスタ]]にある直径200kmの[[アルベド]]が低い地域


==小惑星の発見とオルバースの仮説==
== 参考文献 ==

*『夜空はなぜ暗い?』（[[エドワード・ハリソン]]著、[[長沢工監]]訳、[[地人書館]]）「オルバースのパラドックス」について天文学史をたどり、最初に正答に到達したのが[[エドガー・アラン・ポー]]であったと指摘した。
[[File:Wilhelm_Olbers,_004.jpg|thumb|200px|ブレーメン・ザント通り、聖ペトリ大聖堂そばにあったオルバースの住居（現存しない）。1906年撮影。]]
1781年に[[ウィリアム・ハーシェル]]によって新たな[[惑星]]である[[天王星]]が発見され、地球以外の惑星は古代から知られた5つだけではないことが明らかとなった。
特に、19世紀初頭までには[[ティティウス・ボーデの法則|ティティウス＝ボーデの法則]]を論拠として、軌道の開いた[[火星]]と[[木星]]の間には未発見の惑星があるという推測がなされ、[[フランツ・フォン・ツァハ|フォン・ツァッハ]]、[[ヨハン・シュレーター|シュレーター]]らによって'''天空の警察''' (<small>独語版：</small>{{lang|de|[[:de:Himmelspolizey]]}}<!--PolizeyはPolizeiの古いスペル-->) と呼ばれた組織的な探索も開始されていた。
これは[[黄道]]帯を24の領域に分割し各地の天文台で分担して捜索するという前例のない国際的プロジェクトだった。
オルバースもこの探索プロジェクトにおいて重要な役割を果たした。

はたして、1801年初頭に[[シチリア]]の[[ジュゼッペ・ピアッツィ|ピアッツィ]]が新天体[[ケレス (準惑星)|ケレス]] (<small>[[小惑星番号|小惑星符号]]<!--minor planet designation-->:</small> (1) Ceres) を発見した。
ただしこれは惑星探索と別に発見されたもので、当初ピアッツィはそれを[[彗星]]と考えた。
しかし、すぐにその動きが円に近い軌道にふさわしいものだと判明した。
短い期間の観測記録からガウスが導いた位置予測を元に、1801年12月になってフォン・ツァッハとオルバースが太陽の反対側を巡ってきたケレスをそれぞれ再発見し、ケレスが4.6年の公転周期で太陽を周回し、予測されていた火星と木星の間の軌道を持つ天体であることが確かめられた{{R|usra|moltenbrey195}}。
オルバースらがガウスの軌道計算の手法の正しさを証明したことは、ガウスの名声を高めることとなった。

それからわずか数か月後の1802年3月28日にこのケレスを探索していたオルバースは、偶然にも近くに記録にない星を見出だし、時間とともにそれがわずかに移動していることを確認した。
驚くべきことにガウスによって求められたこの天体の軌道はケレスとよく似ていた。[[軌道傾斜角|軌道面の傾き]]と[[軌道離心率|離心率]]こそ大きかったが、ほぼ同じ[[軌道長半径]]を持ち、よって火星と木星の軌道の間をほぼ同じ4.6年で公転していた。
この新たな天体は、[[パラス (小惑星)|パラス]] ((2) Pallas) と名付けられた{{R|jpldawn}}。

ケレスとパラスの発見は、単なる新惑星の発見を超えて、[[太陽系]]の起源と歴史、そして未来に関する興奮した議論を天文学者たちにもたらした。
オルバースは、すぐさまこれらがかつて存在した中規模サイズの単一の惑星が何からの原因で破壊されたものとの説を提唱した。
オルバースがその可能性に触れた手紙に返信して、ガウスは1802年5月18日に仮説のもつ重要な含意について注意を向けさせている{{R|cunningham101}}。
{{Quote|もし惑星が粉砕されることがあるのだという可能性が事実だと確認されたなら、そのとき現れることになる衝撃、精神的な葛藤、不信感、神の摂理に対する擁護と反発とを想像してみてください！ 惑星系が揺るぎない安定性を持つということにあまりに躊躇なく基づいて知識の枠組みを構築している人々は何を言うでしょうか。もし、自分たちは砂上の楼閣を築いてきたのであり、すべてが自然の力の盲目的な偶然の戯れに委ねられているのだと知ったならば！}}

仮説が正しければ、さらに類似した軌道の天体が多数発見されるものとオルバースは考え、その軌道を推定した{{efn2|同じ頃にはすでに物理学者フート（独語版：[[:de:Johann Sigismund Gottfried Huth]]）が新たな小天体は他の惑星と同じ程度に古く別々に形成されたものだと主張していた。フートはその場合もやはりさらなる小天体が存在するだろうとした。}}。
実際、1804年には[[カール・ハーディング|ハーディング]]により3番目の小惑星[[ジュノー (小惑星)|ジュノー（ユノー）]] ((3) Juno) が発見され、オルバース自身も1807年3月29日に[[ベスタ (小惑星)|ベスタ]] ((4) Vesta) を発見した。ベスタはオルバースがそれまでの3小惑星の軌道が接近すると考えたところから見出だされたものだった{{R|multhauf}}。その後、オルバースは1817年頃まで精力的に新天体の探索を続けたが、オルバースによっても他の観測者によっても新たな発見はなかった。19世紀前半のしばらくの間、これら4つの天体が太陽系で新たに発見され加わった惑星とみなされた{{R|hughs97}}。

オルバースの死後、1840年代になって5つ目以降の小天体が相次いで発見され、その後、これらの天体を表すのにウィリアム・ハーシェルの提案した'''アステロイド'''（asteroid, [[小惑星]]{{efn2|日本語では、asteroidとより広い対象を含むminor planetとをともに小惑星と訳している。2006年、[[国際天文学連合|IAU]]はケレスをその形状に基づいて[[準惑星]]だとする決議<!--resolution-->を採択し、IAUの定義上ではこれら小天体を統べる簡明な呼称が失われているが、現在もasteroidの呼称を用いる文献も多い。}}）の名が一般に定着した。
オルバースが提唱した仮想惑星には名前が無かったが、後に[[ファエトン (仮想惑星)|ファエトン]] (Phaëthon, Phaeton) とも呼ばれ、SFなどを含め人々の多くの想像力を掻き立ててきた。
ただし現在、小惑星帯の天体の成因は木星による[[摂動]]によってそもそも単一の惑星の形成が妨げられたためであるとの見方が有力である{{R|taylor17}}。

==オルバースのパラドックス==
{{Main|オルバースのパラドックス}}
1823年、オルバースは「宇宙空間の透明度について」({{lang|de|Ueber die Durchsichtigkeit des Weltraumes}}<!--綴りまま-->) と題した論考を発表し、夜空が暗く保たれているという誰もが知る事実が十分広大な宇宙において直ちには理論的説明がつかない謎であることを示した。
この謎の提示と解決策は、早世した[[スイス]]の天文学者[[ジャン＝フィリップ・ロワ・ド・シェゾー|ド・シェゾー]]がそのおよそ80年前に定量的に提示していたものとほぼ同じものでありオルバースの発案ではなかったが、現在一般に[[オルバースのパラドックス]]の名で知られている{{R|harrison87|jaki70}}。

==資料==
遺族らによりまとめられた資料集。オルバースの論文やガウスとの間の書簡などが含まれる。
* {{cite book|
|editor=Schilling, C.
|title=Wilhelm Olbers, sein Leben und seine Werke
|year=1894&ndash;1909
|publisher=Verlag von Julius Springer
|language=de
}}.
** [https://www.archive.org/stream/wilhelmolberssei00olbeuoft#page/n8/mode/1up Erster Band. Gesammelte Werke], 1894.
** [https://www.archive.org/stream/bub_gb_zsVNAAAAMAAJ#page/n5/mode/1up Ergänzungsband. Neue Reduktionen], 1899.
** [https://www.archive.org/stream/p1wilhelmolberss02olbeuoft#page/n6/mode/1up Zweiter Band. Briefwechsel zwischen Olbers und Gauss. Erste Abtheilung], 1900.
** [https://www.archive.org/stream/p2wilhelmolberss02olbeuoft#page/n6/mode/1up Zweiter Band. Briefwechsel zwischen Olbers und Gauss. Zweite Abtheilung], 1909.

==注釈==
{{notelist2}}

==出典==
{{Reflist|2|refs=
<ref name="suub16">{{cite report
|first=Maria|last=Hermes-Wladarsch
|year=2016
|title=Der Nachlass von Heinrich Wilhelm Matthias Olbers (1758 &ndash; 1840) in der Staats- und Universitätsbibliothek Bremen
|chapter=Kurze Lebensbeschreibung Olbers’
|publisher=Staats- und Universitätsbibliothek Bremen
|language=de
|url=https://www.researchgate.net/publication/304255428_Der_Nachlass_von_Heinrich_Wilhelm_Matthias_Olbers_1758_-1840_in_der_Staats-_und_Universitatsbibliothek_Bremen
}}</ref>
<ref name="multhauf">{{cite web
|first=Lettie S.|last=Multhauf
|title=Olbers, Heinrich Wilhelm Matthias
|url=https://www.encyclopedia.com/science/dictionaries-thesauruses-pictures-and-press-releases/olbers-heinrich-wilhelm-matthias
|work=Complete Dictionary of Scientific Biography, Cengage
|website=Encyclopedia.com
|accessdate=2020-07-17
}}</ref>
<ref name="nature40">{{cite journal
|year=1940
|title=Heinrich Wilhelm Matthias Olbers (1758&ndash;1840)
|journal=Nature
|volume=145|pages=341&ndash;342|doi=10.1038/145341c0
}}</ref>
<ref name="britannica11">{{cite wikisource
|year=1911
|chapter=Olbers, Heinrich Wilhelm Matthias
|wslink=1911 Encyclopædia Britannica
|plaintitle=Encyclopædia Britannica (11th ed.)
|publisher=Cambridge University Press
}}</ref>
<ref name="mtbessel">{{cite web
|first=J.J.|last=O’Connor|coauthors=E.F. Robertson
|year=1997
|title=Friedrich Wilhelm Bessel
|website=MacTutor History of Mathematics Archive
|url=https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Bessel/
|accessdate=2020-07-15
}}</ref>
<ref name="uemura18">{{cite thesis|和書
|author=植村栄治
|year=2018
|title=軌道決定法から見た超短周期彗星発見の歴史
|chapter=天体の軌道計算の発展に関する考察―1797年〜1818年を中心に
|degree=博士（学術）
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<ref name="harrison87">{{cite book|和書
|author=エドワード・ハリソン|others=長沢工（監訳）
|year=2004
|title=夜空はなぜ暗い?―オルバースのパラドックスと宇宙論の変遷
|publisher=地人書館
|isbn=9784805207505
}} (原書: {{cite book
|first=Edward|last=Harrison
|year=1987
|title=Darkness at Night: A Riddle of the Universe
|location=Cambridge, MA|publisher=Harvard University Press
}})</ref>
<ref name="jaki70">{{cite journal
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|title=New light on Olbers's dependence on Chéseaux
|journal=Journal for the History of Astronomy
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<ref name="oestmann01">{{cite
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|url=https://www.researchgate.net/publication/265466200_Die_Geschicke_der_Bibliothek_von_Wilhelm_Olbers
}} in
{{cite book
|title=Neue Welten. Wilhelm Olbers und die Naturwissenschaften um 1800
|year=2001
|publisher=Braunschweig
|isbn=9783927939608
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<ref name="usra">{{cite web
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|title=Ceres: Keeping Well-Guarded Secrets for 215 Years
|url=https://www.lpi.usra.edu/features/012916/ceres/|website=Lunar and Planetary Institute
|accessdate=2020-07-16
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<ref name="moltenbrey195">{{cite book
|first=Michael|last=Moltenbrey
|year=2015
|title=Dawn of Small Worlds: Dwarf Planets, Asteroids, Comets
|publisher=Springer-Verlag
|isbn=9783319230023
|page=195
}}</ref>
<ref name="jpldawn">{{cite web
|title=Astronomical Serendipity
|url=http://dawn.jpl.nasa.gov/DawnCommunity/flashbacks/fb_06.asp
|work=Flashbacks, DAWN - A Journey to the Beginning of the Solar System
|website=Jet Propulsion Laboratory
|accessdate=2020-07-17
}}</ref>
<ref name="cunningham101">{{cite book
|first=Clifford|last=Cunningham
|year=2016
|title=Early investigation of Ceres and the Discovery of Pallas (2nd ed.)
|publisher=Springer-Verlag
|isbn=9783319288130
|page=101
}}</ref>
<ref name="hughs97">{{cite journal
|first=David W.|last=Hughs
|year=1997
|title=Only the first four asteroids
|journal=Journal of the British Astronomical Association
|volume=107|pages=211&ndash;213
}}</ref>
<ref name="taylor17">{{cite web
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|date=2017-05-05
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|accessdate=2020-07-18
}}</ref>
}}


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2020年7月20日 (月) 08:08時点における版

ヴィルヘルム・オルバース
ルドルフ・ズールラントによるリトグラフ
生誕 1758年10月11日
神聖ローマ帝国の旗 神聖ローマ帝国、ブレーメン州の旗ブレーメン
死没 (1840-03-02) 1840年3月2日（81歳没）
ブレーメン州の旗自由ハンザ都市ブレーメン
研究分野 天文学・医学
プロジェクト:人物伝
テンプレートを表示
発見した小惑星
(2) パラス 1802年3月28日
(4) ベスタ 1807年3月29日

ハインリヒ・ヴィルヘルム・マティアス・オルバース（Heinrich Wilhelm Matthias Olbers, 1758年10月11日 - 1840年3月2日）は、18〜19世紀ドイツ・ブレーメンの天文学者・医師。 3番目の名をマテーウス (Matthäus, /maˈtɛː.ʊs/) とする文献もある。通常はヴィルヘルム・オルバースと呼ばれた[1]。カナ書きでの姓はオルベルスと書かれる場合もある。

天文台などに属さないアマチュア天文学者であったが、本業の医業のかたわら熱心に観測を行い、19世紀初頭に四大小惑星のうちの2つを発見した。特に彗星に興味を持ち、当時のドイツの彗星観測の権威ともみなされていた。また、かつて宇宙論上の長年の謎であったオルバースのパラドックスに名を残していることでも知られる。

略歴

ヴィルヘルム・オルバースは、ともにルーテル派牧師の家系をもつヨハン・ゲオルク・オルバース (Johann Georg Olbers, 1716–1772) とアンナ・マリア・オルバース（旧姓フォクト） (Anna Maria Vogt, 1728–1798) との間の16人の子の8番目として、1758年10月11日、ブレーメン郊外のアーバーゲン (Arbergen) に生まれた。1760年、父ヨハン・ゲオルクはブレーメンの大聖堂牧師となり、ヴィルヘルムもそこで成長した[1]。

1769年、10歳のときに長く尾を伸ばした大彗星（メシエ彗星、英語版：en:C/1769 P1）を見たことがきっかけでオルバースは天文学への興味を開花させたが、当時のギムナジウムでは数学・科学がほとんど教えられることなく、天文学について知るために独学でそれらを学ぶしかなかった。 1777年よりゲッティンゲン大学で医学を学び始め、それとともに、物理学者リヒテンベルク、そしてゲッティンゲンの小さな天文台を運用していたケストナー (英語版：en:Abraham Gotthelf Kästner) に付いて数学・物理学や天文学を学んだ[2]。 1779年には、発見されたばかりの彗星（ボーデ彗星、C/1779 A1）の軌道を計算しようと、病床の友人に付き添うかたわらで計算をすすめ、観測値から放物線軌道を決定する新たな方法を作り出した。翌1780年には、彼自身で独立に彗星を発見した（モンテーニュ＝オルバース彗星、C/1780 U1, 1780 II）[2]。

医学においても、数学の応用の問題に傾注した。1780年の学位論文De oculi mutittionibus（変異性眼球について）では、眼球の変形による焦点の変移に眼がどう適応するかを論じていた。 学位取得後はウィーンで研修を行うとともに、夜は天文台で過ごし、発見直後の天王星を追跡するなどした[2]。 1781年、ブレーメンで開業医となった。 医師としてのオルバースは、眼科医としてとともに、メスメリズム（動物磁気療法、英語版：en:animal magnetism）に傾倒し、磁気や催眠を利用して疾患を治療できるとして、ブレーメンの他の2人の医師とともに患者を受け入れた[1]。 メスメリズムは、1770年代にウィーンの医師メスマー（メスメル）が提唱したばかりのものだった。後の催眠療法のもとともなったが、その機序や有効性に関して当時から多くの議論を呼び起こしていた。 オルバースはその有効性を認めつつ、特別な力を仮定せずに説明できるようになるだろうと論じた[2]。

オルバースは1785年、ドロテア・エリザベート・ケーネ（Dorothea Elisabeth Köhne, 1767–1786）と結婚したが、翌年、娘ドリスの出産後にドロテア・エリザベートは亡くなった。1789年、アンナ・アーデルハイト・リュアセン (Anna Adelheid Lürssen, 1765–1820) と再婚し、1790年に一人の息子をもうけた[1][2]。

オルバースが愛用していた屈折望遠鏡。ロンドンのジョン・ドロンドの工房で1800年頃制作された。ブレーメン、フォッケ博物館（ブレーメン州立芸術文化史博物館）所蔵。

医師となった当初は多忙となったが、その後、ブレーメン近郊リリエンタール (英語版：Lilienthal) にヨーロッパで最大級の私設天文台リリエンタール天文台を有し、リリエンタールの執政官でもあった天文学者シュレーターと親交を深め、以後長年に渡って協力し合った。 学生時代に編み出していた彗星の放物線軌道の決定法は、それまで用いられていた方法より簡明で、フォン・ツァッハの手引きで1797年になって公刊された。これはオルバースの名声を高め、この方法は以降20世紀まで広く用いられるものとなった[3][4]。

1799年には、ブレーメン聖ペトリ大聖堂のそば、ザント通り (Sandstraße) にあった自宅上階の2つの大きな出窓を改造して、口径約10センチメートルのドロンド製屈折望遠鏡やシュレーターの反射望遠鏡、六分儀などを備えた観測施設とした。 睡眠時間を削って観測を行い、毎日4時間以上寝ることはなかったという[3][5]。

このころ、火星と木星の間には未発見の惑星があるとの推測がなされ、熱心で広範な探索が始まっていた。 1801年にシチリアのピアッツィが発見した天体ケレス (Ceres) をオルバースらが再発見した後、自身で1802年に同じ小惑星帯の新天体パラス (Pallas) を、さらに1807年にはベスタ (Vesta) を発見した。 これらは19世紀初頭に相次いで発見された最初の4つの小惑星のうちの2つであり、当時は新たな惑星とみなされた。オルバースはこれらを単一の惑星が破壊されたものではないかとの説を唱えた（後述の#小惑星の発見とオルバースの仮説の節を参照）。 また、6つの彗星を発見した。うち1815年に発見された彗星はおよそ70年の公転周期をもつ周期彗星であり、オルバース彗星 (13P/Olbers) として知られる。

オルバースは一連の小惑星の探索を通じて、シュレーター、フォン・ツァッハのほか、当時20代の青年で、後に天文学者としてだけでなく数学者としても名声を馳せるカール・フリードリヒ・ガウスとも親密な交流を持つことになった。オルバースの観測からガウスが軌道計算を行い、またガウスの予測からオルバースが観測を行うという相互の関係が続いた。 シューマハー、ハーディング、エンケといった同時代のドイツの天文学者とも交流を持ち[1]、特に、1804年、20歳そこそこのフリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセルがハレー彗星の改良された軌道計算結果をオルバースに送ったときには、彼の卓越した数学的才能を見出だし、学術界に紹介するとともに貿易商社の徒弟であった彼にリリエンタール天文台の助手の地位を手配した[6]。

1784年にはブレーメン博物館協会 (Bremer Museumsgesellschaft) の会員に選ばれ、1789年から1831年まで理事を務めた。ここでは天文学や気象などに関する多数の講演を行った（医学に関する講演は1度きりだった）。 1804年には、ロンドンの王立協会フェローにも選出された。 ブレーメンがナポレオンの占領下となった1811年には、ブレーメンの代表としてパリを訪ねた[1][2]。

1818年、娘ドリスが早世し、1820年には二番目の妻アンナ・アーデルハイトも亡くなった。自身の健康上の理由もあってオルバースはこのとき医者を廃業したが、天文学の研究は継続した[1]。

オルバースは胸部の疾患のため、1840年3月2日、81歳で死去した[1]。 息子ゲオルク・ハインリヒ・オルバース (独語版：de:Georg Heinrich Olbers, 1790–1861) はブレーメンの議員を務めた。 曽孫にあたるヴィルヘルム・オルバース・フォッケ (英語版：Wilhelm Olbers Focke, 1834–1922) はキセニアの概念を提唱した植物学者である。 オルバースが遺した蔵書のコレクションは天文学に関して当時のヨーロッパで最大級のものであった[2]。オルバースの死後、ロシア・サンクトペテルブルク郊外に新設されたプルコヴォ天文台のフォン・シュトルーベに買い取られたが、第二次世界大戦と1997年の放火により大きな損傷を受けた[7]。

オルバースの名は、その功績を称えて、小惑星や月のクレーターに付けられている。

小惑星の発見とオルバースの仮説

ブレーメン・ザント通り、聖ペトリ大聖堂そばにあったオルバースの住居（現存しない）。1906年撮影。

1781年にウィリアム・ハーシェルによって新たな惑星である天王星が発見され、地球以外の惑星は古代から知られた5つだけではないことが明らかとなった。 特に、19世紀初頭までにはティティウス＝ボーデの法則を論拠として、軌道の開いた火星と木星の間には未発見の惑星があるという推測がなされ、フォン・ツァッハ、シュレーターらによって天空の警察 (独語版：de:Himmelspolizey) と呼ばれた組織的な探索も開始されていた。 これは黄道帯を24の領域に分割し各地の天文台で分担して捜索するという前例のない国際的プロジェクトだった。 オルバースもこの探索プロジェクトにおいて重要な役割を果たした。

はたして、1801年初頭にシチリアのピアッツィが新天体ケレス (小惑星符号: (1) Ceres) を発見した。 ただしこれは惑星探索と別に発見されたもので、当初ピアッツィはそれを彗星と考えた。 しかし、すぐにその動きが円に近い軌道にふさわしいものだと判明した。 短い期間の観測記録からガウスが導いた位置予測を元に、1801年12月になってフォン・ツァッハとオルバースが太陽の反対側を巡ってきたケレスをそれぞれ再発見し、ケレスが4.6年の公転周期で太陽を周回し、予測されていた火星と木星の間の軌道を持つ天体であることが確かめられた[8][9]。 オルバースらがガウスの軌道計算の手法の正しさを証明したことは、ガウスの名声を高めることとなった。

それからわずか数か月後の1802年3月28日にこのケレスを探索していたオルバースは、偶然にも近くに記録にない星を見出だし、時間とともにそれがわずかに移動していることを確認した。 驚くべきことにガウスによって求められたこの天体の軌道はケレスとよく似ていた。軌道面の傾きと離心率こそ大きかったが、ほぼ同じ軌道長半径を持ち、よって火星と木星の軌道の間をほぼ同じ4.6年で公転していた。 この新たな天体は、パラス ((2) Pallas) と名付けられた[10]。

ケレスとパラスの発見は、単なる新惑星の発見を超えて、太陽系の起源と歴史、そして未来に関する興奮した議論を天文学者たちにもたらした。 オルバースは、すぐさまこれらがかつて存在した中規模サイズの単一の惑星が何からの原因で破壊されたものとの説を提唱した。 オルバースがその可能性に触れた手紙に返信して、ガウスは1802年5月18日に仮説のもつ重要な含意について注意を向けさせている[11]。

もし惑星が粉砕されることがあるのだという可能性が事実だと確認されたなら、そのとき現れることになる衝撃、精神的な葛藤、不信感、神の摂理に対する擁護と反発とを想像してみてください！ 惑星系が揺るぎない安定性を持つということにあまりに躊躇なく基づいて知識の枠組みを構築している人々は何を言うでしょうか。もし、自分たちは砂上の楼閣を築いてきたのであり、すべてが自然の力の盲目的な偶然の戯れに委ねられているのだと知ったならば！

仮説が正しければ、さらに類似した軌道の天体が多数発見されるものとオルバースは考え、その軌道を推定した[注 1]。 実際、1804年にはハーディングにより3番目の小惑星ジュノー（ユノー） ((3) Juno) が発見され、オルバース自身も1807年3月29日にベスタ ((4) Vesta) を発見した。ベスタはオルバースがそれまでの3小惑星の軌道が接近すると考えたところから見出だされたものだった[2]。その後、オルバースは1817年頃まで精力的に新天体の探索を続けたが、オルバースによっても他の観測者によっても新たな発見はなかった。19世紀前半のしばらくの間、これら4つの天体が太陽系で新たに発見され加わった惑星とみなされた[12]。

オルバースの死後、1840年代になって5つ目以降の小天体が相次いで発見され、その後、これらの天体を表すのにウィリアム・ハーシェルの提案したアステロイド（asteroid, 小惑星[注 2]）の名が一般に定着した。 オルバースが提唱した仮想惑星には名前が無かったが、後にファエトン (Phaëthon, Phaeton) とも呼ばれ、SFなどを含め人々の多くの想像力を掻き立ててきた。 ただし現在、小惑星帯の天体の成因は木星による摂動によってそもそも単一の惑星の形成が妨げられたためであるとの見方が有力である[13]。

オルバースのパラドックス

詳細は「オルバースのパラドックス」を参照

1823年、オルバースは「宇宙空間の透明度について」(Ueber die Durchsichtigkeit des Weltraumes) と題した論考を発表し、夜空が暗く保たれているという誰もが知る事実が十分広大な宇宙において直ちには理論的説明がつかない謎であることを示した。 この謎の提示と解決策は、早世したスイスの天文学者ド・シェゾーがそのおよそ80年前に定量的に提示していたものとほぼ同じものでありオルバースの発案ではなかったが、現在一般にオルバースのパラドックスの名で知られている[14][15]。

資料

遺族らによりまとめられた資料集。オルバースの論文やガウスとの間の書簡などが含まれる。

注釈

  1. ^ 同じ頃にはすでに物理学者フート（独語版：de:Johann Sigismund Gottfried Huth）が新たな小天体は他の惑星と同じ程度に古く別々に形成されたものだと主張していた。フートはその場合もやはりさらなる小天体が存在するだろうとした。
  2. ^ 日本語では、asteroidとより広い対象を含むminor planetとをともに小惑星と訳している。2006年、IAUはケレスをその形状に基づいて準惑星だとする決議を採択し、IAUの定義上ではこれら小天体を統べる簡明な呼称が失われているが、現在もasteroidの呼称を用いる文献も多い。

出典

  1. ^ a b c d e f g h Hermes-Wladarsch, Maria (2016). "Kurze Lebensbeschreibung Olbers'". Der Nachlass von Heinrich Wilhelm Matthias Olbers (1758 – 1840) in der Staats- und Universitätsbibliothek Bremen (Report) (ドイツ語). Staats- und Universitätsbibliothek Bremen.
  2. ^ a b c d e f g h Multhauf, Lettie S.. “Olbers, Heinrich Wilhelm Matthias”. Encyclopedia.com. Complete Dictionary of Scientific Biography, Cengage. 2020年7月17日閲覧。
  3. ^ a b ウィキソース出典 “Olbers, Heinrich Wilhelm Matthias” (英語), Encyclopædia Britannica (11th ed.), Cambridge University Press, (1911), ウィキソースより閲覧。 
  4. ^ 植村栄治「天体の軌道計算の発展に関する考察―1797年〜1818年を中心に」『軌道決定法から見た超短周期彗星発見の歴史』（博士（学術）論文・文化科学研究科文化科学専攻専攻）放送大学、2018年。http://id.nii.ac.jp/1146/00008484/。 
  5. ^ “Heinrich Wilhelm Matthias Olbers (1758–1840)”. Nature 145: 341–342. (1940). doi:10.1038/145341c0. 
  6. ^ O’Connor, J.J.; E.F. Robertson (1997年). “Friedrich Wilhelm Bessel”. MacTutor History of Mathematics Archive. 2020年7月15日閲覧。
  7. ^ Oestmann, Günther (ドイツ語), Die Geschicke der Bibliothek von Wilhelm Olbers, https://www.researchgate.net/publication/265466200_Die_Geschicke_der_Bibliothek_von_Wilhelm_Olbers  in Neue Welten. Wilhelm Olbers und die Naturwissenschaften um 1800. Braunschweig. (2001). ISBN 9783927939608 
  8. ^ “Ceres: Keeping Well-Guarded Secrets for 215 Years”. Lunar and Planetary Institute (2016年1月29日). 2020年7月16日閲覧。
  9. ^ Moltenbrey, Michael (2015). Dawn of Small Worlds: Dwarf Planets, Asteroids, Comets. Springer-Verlag. p. 195. ISBN 9783319230023 
  10. ^ “Astronomical Serendipity”. Jet Propulsion Laboratory. Flashbacks, DAWN - A Journey to the Beginning of the Solar System. 2020年7月17日閲覧。
  11. ^ Cunningham, Clifford (2016). Early investigation of Ceres and the Discovery of Pallas (2nd ed.). Springer-Verlag. p. 101. ISBN 9783319288130 
  12. ^ Hughs, David W. (1997). “Only the first four asteroids”. Journal of the British Astronomical Association 107: 211–213. 
  13. ^ “Asteroid Belt: Facts & Formation”. Space.com (2017年5月5日). 2020年7月18日閲覧。
  14. ^ エドワード・ハリソン『夜空はなぜ暗い?―オルバースのパラドックスと宇宙論の変遷』長沢工（監訳）、地人書館、2004年。ISBN 9784805207505。  (原書: Harrison, Edward (1987). Darkness at Night: A Riddle of the Universe. Cambridge, MA: Harvard University Press )
  15. ^ Jaki, Stanley L. (1970). “New light on Olbers's dependence on Chéseaux”. Journal for the History of Astronomy 1: 53–55. doi:10.1177/002182867000100107. 
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