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'''うつ病の治療'''では、[[うつ病|大うつ病性障害]]として知られる[[精神障害]]の[[治療]]法について述べる。患者は、通常外来患者として評価・管理し、患者が自分自身や他人に危険をもたらすと考えられる場合のみ精神福祉部門に入院させる。
'''うつ病の治療'''では、[[うつ病|大うつ病性障害]]として知られる[[精神障害]]の[[治療]]法について、現状で存在するものを列挙する。患者は、通常外来患者として評価・管理し、患者が自分自身や他人に危険をもたらすと考えられる場合のみ精神福祉部門に入院させる。


うつ病は数ヶ月以内の自然回復率が50%を超える<ref name="RW2009"/><ref name="DS1974"/>。もっともうつ病で共通する治療は、休養、心理療法、薬物療法<ref>[http://kokoro.mhlw.go.jp/about-depression/002.html うつ病の治療 厚生労働省]</ref>、電気ショック療法(重度の場合)である。
うつ病は数ヶ月以内の自然回復率が50%を超える<ref name="RW2009"/><ref name="DS1974"/>。もっともうつ病で共通する治療は、休養、心理療法、薬物療法<ref>[http://kokoro.mhlw.go.jp/about-depression/002.html うつ病の治療 厚生労働省]</ref>、電気ショック療法(重度の場合)である。
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=== 環境調整 ===
=== 環境調整 ===
患者が所属する環境(状況、対人関係)の変更や患者が所属している環境(状況、対人関係)の改善を行うことも有用である<ref name=":03">新宮 尚人 (2011). 「[https://doi.org/10.3951/sobim.35.9 うつとリハビリテーション]」 バイオメカニズム学会誌2011年 35巻 1号 p.9-14, {{doi|10.3951/sobim.35.9}}</ref>。たとえば、ストレスの強い環境から離れたり、良質なソーシャルサポート(人からのサポート)を増やしたりといった、環境調整の工夫も有効である<ref>伊藤 絵美 (2008). 事例で学ぶ認知行動療法 誠信書房, 33頁.</ref>。
{{See|うつ病#環境調整|}}


=== 問題解決法 ===
=== 問題解決法 ===
ある問題が患者を苦しめ、うつ病の一因となっている場合、その問題を解決し症状の緩和を図るため、患者の問題解決を治療者がサポートする問題解決法が用いられる<ref name="oono">大野 裕(監修) (2003).「うつ」を直す事典:自分と家族の心を守るために 法研, 294-295頁.</ref>。問題解決法は、次の5段階から構成され、全ての段階で治療者がサポートを行う<ref name="oono" />。
{{See|うつ病#問題解決法|}}

# 問題の明確化:真の問題・具体的な問題を見つける
# 解決方法の案出:見つけた問題への解決方法を、できるだけ多く提案する
# 解決方法の選択:それぞれの解決方法の長所と短所を列挙し、最も実行しやすく、かつ問題解決につながりやすい解決方法を選択する
# 解決方法の実行:事前に準備をし、選択した解決方法を実行する
# フィードバック:問題を解決できたらその解決方法を続け、解決できなければほかの解決方法を実行する

これらを通じて、直面している問題をひとつでも解決することができれば、うつ病の一因を取り除くとともに患者が無力感から立ち直るきっかけを作ることもできる<ref name="oono" />。

==== ストレス管理 ====
{{See also|ストレス管理}}
ストレスは、うつ病の一因であるとされている。そこで、ストレスを引き起こすもの・事柄・状況をなくすことや変化させること、受けたストレスを上手に発散させることなどをサポートする、[[ストレス管理]]も重要な技法である。ストレスの発散に関しては、治療者や支援者が患者と協働し、楽しい活動とそうでない活動を探っていき(楽しいことリストの作成も有益である)、生活の中でできるだけ楽しい活動の数を増やし楽しくない活動を減らすことをサポートしていくことが多い<ref name="oono" />。


=== リラクゼーション ===
=== リラクゼーション ===
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抗うつ薬は統計的にプラセボよりも優れているが、しかし全体的な効果は低から中程度である。多くの場合、国立健康臨床研究所による臨床有意基準を満たせない。
抗うつ薬は統計的にプラセボよりも優れているが、しかし全体的な効果は低から中程度である。多くの場合、国立健康臨床研究所による臨床有意基準を満たせない。
とりわけ、中程度のうつには効用は非常に小さいが、非常に深刻なうつの場合臨床的有意性は上がっている。<ref name="Kirsch08">{{cite journal |author=Kirsch I, Deacon BJ, Huedo-Medina TB, Scoboria A, Moore TJ, Johnson BT |title=Initial severity and antidepressant benefits: A meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration |journal=PLoS Med. |volume=5 |issue=2 |pages=e45 |year=2008 |month=February |pmid=18303940 |pmc=2253608 |doi=10.1371/journal.pmed.0050045 |url= http://medicine.plosjournals.org/perlserv/?request=get-document&doi=10.1371/journal.pmed.0050045&ct=1 |ref=harv}}</ref><ref>{{cite journal |author=Turner EH, Matthews AM, Linardatos E, Tell RA, Rosenthal R |title=Selective publication of antidepressant trials and its influence on apparent efficacy |journal=N. Engl. J. Med. |volume=358 |issue=3 |pages=252?60 |year=2008 |month=January |pmid=18199864 |doi=10.1056/NEJMsa065779 |ref=harv}}</ref>
とりわけ、中程度のうつには効用は非常に小さいが、非常に深刻なうつの場合臨床的有意性は上がっている。<ref name="Kirsch08">{{cite journal |author=Kirsch I, Deacon BJ, Huedo-Medina TB, Scoboria A, Moore TJ, Johnson BT |title=Initial severity and antidepressant benefits: A meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration |journal=PLoS Med. |volume=5 |issue=2 |pages=e45 |year=2008 |month=February |pmid=18303940 |pmc=2253608 |doi=10.1371/journal.pmed.0050045 |url= http://medicine.plosjournals.org/perlserv/?request=get-document&doi=10.1371/journal.pmed.0050045&ct=1 |ref=harv}}</ref><ref>{{cite journal |author=Turner EH, Matthews AM, Linardatos E, Tell RA, Rosenthal R |title=Selective publication of antidepressant trials and its influence on apparent efficacy |journal=N. Engl. J. Med. |volume=358 |issue=3 |pages=252?60 |year=2008 |month=January |pmid=18199864 |doi=10.1056/NEJMsa065779 |ref=harv}}</ref>

;シロシビン
:2018年には[[アメリカ食品医薬品局]](FDA)が第IIb相の[[シロシビン]]治験を承認し、既存の抗うつ薬による治療に失敗した治療抵抗性のうつ病を対象とし、臨床試験は北米と欧州の様々な国、およそ1年にわたって実施される<ref>{{Cite journal|last=Nutt|first=David J.|last2=Curran|first2=H. Valerie|last3=Leech|first3=Robert|last4=Murphy|first4=Kevin|last5=McGonigle|first5=John|last6=Kaelen|first6=Mendel|last7=Tanner|first7=Mark|last8=Wall|first8=Matthew B.|last9=Pannekoek|first9=J. Nienke|date=2017-10-13|title=Psilocybin for treatment-resistant depression: fMRI-measured brain mechanisms|url=https://www.nature.com/articles/s41598-017-13282-7|journal=Scientific Reports|volume=7|issue=1|pages=13187|language=en|doi=10.1038/s41598-017-13282-7|issn=2045-2322}}</ref><ref>{{Cite web|title=FDA approves magic mushrooms depression drug trial|url=https://www.newsweek.com/fda-approves-psychedelic-magic-mushrooms-ingredient-psilocybin-depression-1086759|website=Newsweek|date=2018-08-23|accessdate=2019-04-08|language=en|last=kashmiragander}}</ref>。さらに、FDAによる[[画期的治療薬]]に指定され、承認プロセスが迅速化される<ref>{{Cite web|title=COMPASS Pathways Receives FDA Breakthrough Therapy Designation for Psilocybin Therapy for Treatment-resistant Depression – COMPASS|url=https://compasspathways.com/compass-pathways-receives-fda-breakthrough-therapy-designation-for-psilocybin-therapy-for-treatment-resistant-depression/|accessdate=2019-04-08|language=en-US}}</ref>。
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=== 他の薬 ===
=== 他の薬 ===
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=== 経頭蓋磁気刺激法 ===
=== 経頭蓋磁気刺激法 ===
{{See|経頭蓋磁気刺激法}}
{{See|経頭蓋磁気刺激法}}
[[経頭蓋磁気刺激法]] (TMS)とは、頭の外側から磁気パルスを当て、脳内に局所的な電流を生じさせることで脳機能の活性化を図るもの。日本では<ref name="tms">[http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/qa/pdf/qa7.pdf TMSについて 鬼頭伸輔 杏林大学医学部]</ref>保険は未承認。6週間治療での寛解率は27%程度、続く24週間治療での寛解率は50-60%程度。副作用としては、刺激部位の痛みや不快感、頭痛など<ref name="tms" />。


=== 脳深部刺激療法 ===
=== 脳深部刺激療法 ===

2019年5月23日 (木) 12:20時点における版

うつ病 > うつ病の治療

うつ病の治療では、大うつ病性障害として知られる精神障害治療法について、現状で存在するものを列挙する。患者は、通常外来患者として評価・管理し、患者が自分自身や他人に危険をもたらすと考えられる場合のみ精神福祉部門に入院させる。

うつ病は数ヶ月以内の自然回復率が50%を超える[1][2]。もっともうつ病で共通する治療は、休養、心理療法、薬物療法[3]、電気ショック療法(重度の場合)である。

何があっても朝に起きる
就寝前はVDT作業をしない

自然治癒

アメリカ国立精神衛生研究所英語版(NIMH)は抗うつ薬の普及前、うつ病は自然回復し再発は滅多にないと公式に述べていた[4]。また、NIMHの研究者らは、抗うつ薬が回復期間の短縮に役立つ可能性はあっても、長期回復率の上昇には役立たないと考えている[4][1][2]。1964年、NIMHのジョナサン・コール(Jonathan Cole)は「うつ病は、全体的に、治療の有無にかかわらず、最終的には回復する予後が最良な精神状態の一つです。ほとんどのうつ病は治療しなくても長期的には回復します[注 1]」と述べている[4][1][5]。1974年、NIMHのうつ病部門長であるディーン・シュイラー(Dean Schuyler)は、ほとんどのうつ病は「特別な治療をしなくても事実上完治するという経過をたどります[注 2]」と説明している[4][1][2]。数ヶ月以内の自然回復率が50%を越えるため、各種治療法の有効性の判断は難しい[1][2]

日本での研究では、6か月程度の治療で回復する症例が、50パーセント程度であるとされ[6]、多くの症例が、比較的短い治療期間で回復する。しかし、一方では20パーセント程度の症例では、1年以上うつ状態が続くとも言われ、必ずしもすべての症例で、簡単に治療が成功するわけではない。また、一旦回復した後にも、再発しない症例がある一方、うつ病を繰り返す症例もある。

休養

うつ病は脳のエネルギー欠乏によるものなので、使いすぎてしまった脳をしっかり休ませるということが治療の基本といえる[7]

適切なライフスタイル患者教育する。患者は通常の睡眠時間、起床時間を維持すべきである[8]。うつ病患者は、気分やエネルギーが低いため、日中の昼寝、就寝前の飲酒、日中の大量のカフェイン摂取などといった、良質な睡眠衛生とは逆の行動パターンを取っていることが多い[9]

心理療法

認知行動療法

認知行動療法は、認知と行動の両面に働きかけることで、自責感や自己否定的思考などの認知の歪みを修正したり(「認知の歪み#改善」を参照)、日常生活において楽しみや達成感を感じる行動を増やしながら活動性を取り戻したりすること(「行動活性化」を参照)などを図る[10][11]。詳しくは、「うつ病#認知行動療法」を参照。

読書療法

対人関係療法

環境調整

患者が所属する環境(状況、対人関係)の変更や患者が所属している環境(状況、対人関係)の改善を行うことも有用である[12]。たとえば、ストレスの強い環境から離れたり、良質なソーシャルサポート(人からのサポート)を増やしたりといった、環境調整の工夫も有効である[13]

問題解決法

ある問題が患者を苦しめ、うつ病の一因となっている場合、その問題を解決し症状の緩和を図るため、患者の問題解決を治療者がサポートする問題解決法が用いられる[14]。問題解決法は、次の5段階から構成され、全ての段階で治療者がサポートを行う[14]

  1. 問題の明確化:真の問題・具体的な問題を見つける
  2. 解決方法の案出:見つけた問題への解決方法を、できるだけ多く提案する
  3. 解決方法の選択:それぞれの解決方法の長所と短所を列挙し、最も実行しやすく、かつ問題解決につながりやすい解決方法を選択する
  4. 解決方法の実行:事前に準備をし、選択した解決方法を実行する
  5. フィードバック:問題を解決できたらその解決方法を続け、解決できなければほかの解決方法を実行する

これらを通じて、直面している問題をひとつでも解決することができれば、うつ病の一因を取り除くとともに患者が無力感から立ち直るきっかけを作ることもできる[14]

ストレス管理

ストレスは、うつ病の一因であるとされている。そこで、ストレスを引き起こすもの・事柄・状況をなくすことや変化させること、受けたストレスを上手に発散させることなどをサポートする、ストレス管理も重要な技法である。ストレスの発散に関しては、治療者や支援者が患者と協働し、楽しい活動とそうでない活動を探っていき(楽しいことリストの作成も有益である)、生活の中でできるだけ楽しい活動の数を増やし楽しくない活動を減らすことをサポートしていくことが多い[14]

リラクゼーション

2008年のコクランレビューによるメタアナリシスでは、リラクゼーションのテクニックは無治療または最小限の治療よりも自己評価による抑うつ度を改善していた[15]

オープンダイアローグ

薬物治療や入院治療を極力避け、対話による回復を目指す治療法。日本への導入が進められている[16]

  「オープンダイアローグ」を参照

薬物療法

抗うつ薬

1999年のガイドラインでは、最も効果のある薬物治療を見つけるため、薬の種類と量は頻繁に調整すべきであり、違った抗うつ薬の組み合わせ、別種の薬物を試すことが求められ、最初の薬物への反応率は50%程度と低い、とされる。[17]

抗うつ薬は統計的にプラセボよりも優れているが、しかし全体的な効果は低から中程度である。多くの場合、国立健康臨床研究所による臨床有意基準を満たせない。 とりわけ、中程度のうつには効用は非常に小さいが、非常に深刻なうつの場合臨床的有意性は上がっている。[18][19]

シロシビン
2018年にはアメリカ食品医薬品局(FDA)が第IIb相のシロシビン治験を承認し、既存の抗うつ薬による治療に失敗した治療抵抗性のうつ病を対象とし、臨床試験は北米と欧州の様々な国、およそ1年にわたって実施される[20][21]。さらに、FDAによる画期的治療薬に指定され、承認プロセスが迅速化される[22]


他の薬

非定型抗精神病薬

うつ薬に非定型抗精神病薬を組み合わせて使う「増強療法」は、抗うつ薬の効果を高めることが知られており、抗うつ薬による適切な治療を行っても十分な効果が認められない場合、効果が期待できる治療法である[23]

セントジョーンズワート

St. John's Wort (セイヨウオトギリソウ)

日本ではサプリメントとして市販されている。副作用があり、日本での治療エビデンスは希薄である。[24] セント・ジョーンズ・ワートにおいてもセロトニン症候群の可能性があるので、注意が必要である[25]

SAMe

S-アデノシルメチオニン(SAMe)は、アメリカとカナダではサプリメントとして販売されており、イタリアおよびドイツでは処方薬として認可されている。うつ病、関節炎、肝臓疾患への有効性が知られている。大うつ病の治療に標準的な抗うつ薬と同等であることが示唆されている[26][27]選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に無反応の大うつ病性障害の患者に、投与し偽薬に比較して有意差が得られた[28]

運動療法

WHOガイドラインでは、可能な限り体を動かすようにすべきと勧告されている[8]

治療エビデンスは様々であり、運動はうつ病の症状を改善させない、通常の治療と比較して抗うつ剤の使用を減少させない、身体活動を増加させることは、うつ病からの回復の機会を増加させないとの報告がある[29]。一方で、1999年にデューク大学のジェームス・ブルメンタールが行った研究(Standars Medical Intervention and Long term Excercise/標準的な医学的介入と長期運動)によると運動には抗うつ薬であるジェイゾロフトと同等の効果があるとされた。

その他

電気けいれん療法

経頭蓋磁気刺激法

経頭蓋磁気刺激法 (TMS)とは、頭の外側から磁気パルスを当て、脳内に局所的な電流を生じさせることで脳機能の活性化を図るもの。日本では[30]保険は未承認。6週間治療での寛解率は27%程度、続く24週間治療での寛解率は50-60%程度。副作用としては、刺激部位の痛みや不快感、頭痛など[30]

脳深部刺激療法

睡眠衛生

うつ病は一般的に睡眠不足(入眠困難、早朝覚醒、日中の一般的な倦怠感)に関連付けられている。 抑うつと睡眠不足の2つの相互作用により症状を悪化させる。良い睡眠衛生によってこの悪循環を断ち切ることが重要な助けとなる。[31] それには標準就寝時間の確保、カフェイン等の覚醒物質を絶つ、睡眠時無呼吸のような外乱要素の治療などがある。皮肉にも、睡眠短縮(断眠療法など)はうつ病の一時的な治療である[32]。断眠療法は効果が持続しにくく、その場合、薬物療法光療法を併用する[33]

高照度光照射療法

光療法は時折抑うつ治療に用いられ、特に季節性情動障害に多い

全米精神科医協会による高照度光照射療法についてのメタアナリシス調査では、季節性情動障害非季節性情動障害の両方においてプラセボよりも効果が確認され、効果は標準の抗うつ薬治療と類似であった。非季節性情動障害では、標準の抗うつ薬治療に追加で光療法を行うことは効果的でなかった[34]

代替医療

鍼治療

2004年のコクランレビューでは、低い品質のエビデンスベースだが、鍼治療がうつ病の治療に効果があるかどうかのエビデンスは不十分と結論付けている。[35]

臨床試験では、鍼灸の効果はアミトリプチリンと同等の効果が示されている。加えて、とりわけ電気鍼では更に効果があり、うつ病患者の 3-methyl-4-hydroxy-phenylglycol (中央神経伝達物質ノルアドレナリンの主な代謝物) の減少をもたらす。一方で、デキサメタゾン抑制試験では、アミトリプチリンはその抑制では更に効果があった。[36] 鍼は体内のエンドルフィン生産レベルを引き上げることが証明されている。[37]

冷水治療

Nikolai Shevchukによる研究では、冷たいシャワーを浴びることはうつの治療を助ける効果があると主張している。氏は冷たいシャワーは脳の主要なノルアドレナリン元である locus ceruleus や blue spot を刺激するという生物学的説を主張している。またβ-エンドルフィンのレベルに影響するとしている。[38]

漢方薬

漢方薬では、柴胡加竜骨牡蛎湯半夏厚朴湯加味帰脾湯(焦燥感の強い場合は悪化の恐れあり注意)・加味逍遙散が主に用いられる[39]

治療有効例では約2週間ほどで効果を示すことが多いが、効果のない場合でも4-6週間の経過を見た方がよい場合もある[39]。西洋薬から漢方薬への切り替えは困難なことが多く、少なくとも急激な断薬はしてはならない[39]

エビデンスレベルは高くない。[24]

アロマテラピー

うつ病に対するアロマテラピーについて、12のランダム化比較試験があり、香りの吸入あるいはアロママッサージであり、証拠の質が低いものも含まれるが概して抑うつ症状の緩和に有効である可能性が示されており、吸入よりマッサージの方が効果が高そうである[40]

トリプトファン

アミノ酸であるトリプトファンは、セロトニンメラトニンといったモノアミン神経伝達物質などの前駆体として重要である。

コクラン共同計画メタアナリシスではトリプトファンについての108の臨床試験のうち2つの試験しか十分な精度を有していないことを明らかにした。その結果、トリプトファンの十分な効果の証拠が認められないのでうつ病治療に推奨できないと結論付けた[41]

米国ではトリプトファンを含むサプリメントは販売禁止である。

低フルクトース食

食事療法の日本でのエビデンスは希薄である[24]

オメガ3脂肪酸

日本ではサプリメントとして市販されている。日本での治療エビデンスは希薄である[24]

その他

食事療法の日本でのエビデンスは希薄である[24]

脚注

注釈

  1. ^ 原文: “depression is, on the whole, one of the psychiatric conditions with the best prognosis for eventual recovery with or without treatment.[4] Most depressions are self-limited” [1][5]
  2. ^ 原文: “will run their course and teminate with virtually complete recovery without specific intervention.” [4][1][2]

出典

  1. ^ a b c d e f g Robert Whitaker (January 1, 2009), Anatomy of an Epidemic: Magic Bullets, Psychiatric Drugs, and the Astonishing Rise of Mental Illness in America, New York: Crown Publishing Group, pp. 152-153, ASIN B004RU7U5C (翻訳書は ロバート・ウィタカー『心の病の「流行」と精神科治療薬の真実』小野善郎監訳、門脇陽子・森田由美訳、福村出版、2010年9月19日、224-225頁。ISBN ISBN 978-4571500091{{ISBN2}}のパラメータエラー: 無効なISBNです。 
  2. ^ a b c d e Dean Schuyler, The Depressive Spectrum, New York: Jason Aronson, 1974, p. 47. ISBN 978-0876681879.
  3. ^ うつ病の治療 厚生労働省
  4. ^ a b c d e f Robert Whitaker, "Antidepressants/Depression," Anatomy of an Epidemic Documents. Retrieved June 11 2013.
  5. ^ a b Cole, Jonathan O. (1964). “Therapeutic Efficacy of Antidepressant Drugs”. JAMA 190 (5). doi:10.1001/jama.1964.03070180046007. ISSN 0098-7484. 
  6. ^ 疫学・保健医療統計学獨協医科大学名誉教授 中江公裕
  7. ^ うつ病とは”. 厚生労働省. 2015年9月6日閲覧。
  8. ^ a b 世界保健機関 2016, DEP.
  9. ^ Doghramji K (2003). “Treatment strategies for sleep disturbance in patients with depression”. Journal of Clinical Psychiatry 64: 24–9. PMID 14658932. 
  10. ^ 新宮 尚人 (2011). うつとリハビリテーション バイオメカニズム学会誌, 35, 9-14.
  11. ^ うつ病の認知療法・認知行動療法患者さんのための資料(厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業) (PDF) (Report). 日本認知療法学会. 2010-01. {{cite report}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  12. ^ 新宮 尚人 (2011). 「うつとリハビリテーション」 バイオメカニズム学会誌2011年 35巻 1号 p.9-14, doi:10.3951/sobim.35.9
  13. ^ 伊藤 絵美 (2008). 事例で学ぶ認知行動療法 誠信書房, 33頁.
  14. ^ a b c d 大野 裕(監修) (2003).「うつ」を直す事典:自分と家族の心を守るために 法研, 294-295頁.
  15. ^ Jorm, Anthony F; Morgan, Amy J; Hetrick, Sarah E; Morgan, Amy J (2008). Relaxation for depression. doi:10.1002/14651858.CD007142.pub2. http://summaries.cochrane.org/CD007142/relaxation-for-depression. 
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  19. ^ Turner EH, Matthews AM, Linardatos E, Tell RA, Rosenthal R (January 2008). “Selective publication of antidepressant trials and its influence on apparent efficacy”. N. Engl. J. Med. 358 (3): 252?60. doi:10.1056/NEJMsa065779. PMID 18199864. 
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参考文献