「ニホンマムシ」の版間の差分
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全長45 - 60センチメートル<ref name="isogawa"/><ref name="toriba"/>。まれに体長が1メートル近くになる。北海道産の個体は大型で、60センチメートルを超える個体が多い。伊豆大島には「'''赤まむし'''」の別名を持つ体色が赤い個体が多いと言われる。 |
全長45 - 60センチメートル<ref name="isogawa"/><ref name="toriba"/>。まれに体長が1メートル近くになる。北海道産の個体は大型で、60センチメートルを超える個体が多い。伊豆大島には「'''赤まむし'''」の別名を持つ体色が赤い個体が多いと言われる。 |
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全長に比して胴が太く、体形は太短い。赤外線感知器官(頬窩、ピット器官)は明瞭<ref name="isogawa_et_al">五十川清, 守屋明, 三井貞明 「長崎県対馬のマムシの新種としての記載」『爬虫両棲類学雑誌』第15巻 3号、日本爬虫両棲類学会、1994年、101-111頁。</ref>。舌は暗褐色や黒<ref name="isogawa_et_al"/>。20対前後の中央に黒い斑点のある俗に銭型とも呼ばれる楕円形の斑紋が入る。胴体中央部の斜めに列になった背面の鱗の数(体列鱗数)は21列<ref name="toriba_ota">鳥羽通久 |
全長に比して胴が太く、体形は太短い。赤外線感知器官(頬窩、ピット器官)は明瞭<ref name="isogawa_et_al">五十川清, 守屋明, 三井貞明 「長崎県対馬のマムシの新種としての記載」『爬虫両棲類学雑誌』第15巻 3号、日本爬虫両棲類学会、1994年、101-111頁。</ref>。舌は暗褐色や黒<ref name="isogawa_et_al"/>。20対前後の中央に黒い斑点のある俗に銭型とも呼ばれる楕円形の斑紋が入る。胴体中央部の斜めに列になった背面の鱗の数(体列鱗数)は21列<ref name="toriba_ota">鳥羽通久, 太田英利 「[https://doi.org/10.14880/hrghsj1999.2006.145 アジアのマムシ亜科の分類:特に邦産種の学名の変更を中心に]」『爬虫両棲類学会報』2006年 2006巻 2号 p.145-151, {{doi|10.14880/hrghsj1999.2006.145}}。</ref>。尾は短い。 |
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出産直後の幼蛇は全長20センチメートル、体重5グラム<ref name="isogawa"/>。幼蛇は尾の先端が橙色<ref name="toriba"/>。 |
出産直後の幼蛇は全長20センチメートル、体重5グラム<ref name="isogawa"/>。幼蛇は尾の先端が橙色<ref name="toriba"/>。 |
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=== 毒 === |
=== 毒 === |
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毒性は[[ハブ (動物)|ハブ]]よりも強いが、体が小さいため毒量は少ない<ref name="sakai_et_al">堺淳、森口一、鳥羽通久「[https://doi.org/10.14880/hrghsj1999.2002.75 フィールドワーカーのための毒蛇咬症ガイド]」『爬虫両棲類学会報』 |
毒性は[[ハブ (動物)|ハブ]]よりも強いが、体が小さいため毒量は少ない<ref name="sakai_et_al">堺淳、森口一、鳥羽通久「[https://doi.org/10.14880/hrghsj1999.2002.75 フィールドワーカーのための毒蛇咬症ガイド]」『爬虫両棲類学会報』2002年 2002巻 2号 p.75-92, {{doi|10.14880/hrghsj1999.2002.75}}。</ref><ref group="注釈">ただしマムシ毒は、一説には捕食対象である小動物に特異的に効き、対人効果は数値に現れる程ではないともされる。イヌ・ネコはマムシ毒に対する耐性が強く、成体であれば咬まれても死ぬことはほとんどない。</ref>。 |
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; 半数致死量 |
; 半数致死量 |
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: 20グラムのマウスに対する[[半数致死量]](LD50/20g mouse)は静脈注射で19.5 - 23.7マイクログラム、(日本産の他種では[[セグロウミヘビ]]1.7 - 2.2マイクログラム、ハブ沖縄島個体34.8マイクログラム・奄美大島個体47.8マイクログラムなど)<ref name="sakai_et_al"/>。腹腔内投与では27 - 31マイクログラム<ref name="sakai_et_al"/>。[[神経毒]]も含まれ斜視・複視などの症状が出現することもある<ref name="sakai_et_al"/>。 |
: 20グラムのマウスに対する[[半数致死量]](LD50/20g mouse)は静脈注射で19.5 - 23.7マイクログラム、(日本産の他種では[[セグロウミヘビ]]1.7 - 2.2マイクログラム、ハブ沖縄島個体34.8マイクログラム・奄美大島個体47.8マイクログラムなど)<ref name="sakai_et_al"/>。腹腔内投与では27 - 31マイクログラム<ref name="sakai_et_al"/>。[[神経毒]]も含まれ斜視・複視などの症状が出現することもある<ref name="sakai_et_al"/>。 |
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* アリルアシダーゼ、エンドペプチダーゼ:タンパク質分解酵素で、咬傷部の骨格筋変性に作用する。 |
* アリルアシダーゼ、エンドペプチダーゼ:タンパク質分解酵素で、咬傷部の骨格筋変性に作用する。 |
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* 出血因子:毛細血管に作用し、強力に体内出血を誘発する。 |
* 出血因子:毛細血管に作用し、強力に体内出血を誘発する。 |
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* 希に、眼瞼下垂、外斜視、四肢の筋力低下、換気障害などの筋無力症状を呈する<ref name="jjaam1990">高桑徹也、広井悟、井上義博 ほか、[https://doi.org/10.3893/jjaam.4.350 筋無力症状を呈したマムシ咬傷の1例] 日本救急医学会雑誌 |
* 希に、眼瞼下垂、外斜視、四肢の筋力低下、換気障害などの筋無力症状を呈する<ref name="jjaam1990">高桑徹也、広井悟、井上義博 ほか、[https://doi.org/10.3893/jjaam.4.350 筋無力症状を呈したマムシ咬傷の1例] 『日本救急医学会雑誌』 1993年 4巻 4号 p.350-353 , {{DOI|10.3893/jjaam.4.350}}</ref>。 |
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などである。 |
などである。 |
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咬傷を受けると局所の疼痛、腫脹がおきる<ref name="sakai_et_al"/>。局所の疼痛はしばらくすると収まるが、腫脹により神経が圧迫されることで腫脹部全体の疼痛が発生する<ref name="sakai_et_al"/>。腫脹の進行は症例によって異なり手を噛まれた場合でも肩に達するのが数時間の例もあれば、2日かかった例もある<ref name="sakai_et_al"/>。出血作用は強くないものの、血小板が凝集することで血中の血小板が減少し止血作用を失う<ref name="sakai_et_al"/>。これに出血作用が加わることで皮下や消化管などの全身で持続性の出血が起こる<ref name="sakai_et_al"/>。骨格筋が溶解し筋肉中の[[ミオグロビン]]が血液中に流出し、ミオグロビン血症・褐色尿を引き起こす<ref name="sakai_et_al"/>。全身の腫脹によって循環血液量が減少することで腎機能障害を引き起こす原因になったり、ミオグロビンの流出量が多いと腎臓の糸状体で詰まることで腎組織が壊死する<ref name="sakai_et_al"/>。出血と末梢血管の膨張により血圧が下がり、ショック状態になることもある<ref name="sakai_et_al"/>。重症化した例は大きく分けると腫脹が強く急性腎不全を起こす例か、腫脹は顕著でないものの咬傷後数時間で[[播種性血管内凝固症候群]](血小板が激減し全身性の出血・血圧低下)を引き起こす例に分かれる<ref name="sakai_et_al"/>。死亡例の多くは受傷後、3 - 4日後に集中する。重篤な場合は、呼吸不全<ref>中村賢二、井手野昇、村上光彦 ほか、[https://doi.org/10.3893/jjaam.21.843 マムシ咬傷により急性腎不全および呼吸不全を呈したが救命しえた1例] 日本救急医学会雑誌 |
咬傷を受けると局所の疼痛、腫脹がおきる<ref name="sakai_et_al"/>。局所の疼痛はしばらくすると収まるが、腫脹により神経が圧迫されることで腫脹部全体の疼痛が発生する<ref name="sakai_et_al"/>。腫脹の進行は症例によって異なり手を噛まれた場合でも肩に達するのが数時間の例もあれば、2日かかった例もある<ref name="sakai_et_al"/>。出血作用は強くないものの、血小板が凝集することで血中の血小板が減少し止血作用を失う<ref name="sakai_et_al"/>。これに出血作用が加わることで皮下や消化管などの全身で持続性の出血が起こる<ref name="sakai_et_al"/>。骨格筋が溶解し筋肉中の[[ミオグロビン]]が血液中に流出し、ミオグロビン血症・[[血尿|褐色尿]]を引き起こす<ref name="sakai_et_al"/>。全身の腫脹によって循環血液量が減少することで腎機能障害を引き起こす原因になったり、ミオグロビンの流出量が多いと腎臓の糸状体で詰まることで腎組織が壊死する<ref name="sakai_et_al"/>。出血と末梢血管の膨張により血圧が下がり、ショック状態になることもある<ref name="sakai_et_al"/>。重症化した例は大きく分けると腫脹が強く急性腎不全を起こす例か、腫脹は顕著でないものの咬傷後数時間で[[播種性血管内凝固症候群]](血小板が激減し全身性の出血・血圧低下)を引き起こす例に分かれる<ref name="sakai_et_al"/>。死亡例の多くは受傷後、3 - 4日後に集中する。重篤な場合は、呼吸不全<ref>中村賢二、井手野昇、村上光彦 ほか、[https://doi.org/10.3893/jjaam.21.843 マムシ咬傷により急性腎不全および呼吸不全を呈したが救命しえた1例] 『日本救急医学会雑誌』 2010年 21巻 10号 p.843-848, {{DOI|10.3893/jjaam.21.843}}</ref>。 |
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3 - 9日後、急性腎不全による乏尿、無尿、蛋白尿、血尿。 |
3 - 9日後、急性腎不全による乏尿、無尿、蛋白尿、血尿。 |
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咬まれた時の時間や状況は説明出来るように必ず覚えておく必要がある。 |
咬まれた時の時間や状況は説明出来るように必ず覚えておく必要がある。 |
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速やかに処置可能な医療機関でマムシ抗毒素[[血清]]投与などの治療を受ける。6時間以内の血清投与が推奨されており、少なくとも24時間は経過観察が必要。血清投与に際しては、[[アナフィラキシー・ショック]]に十分注意<ref>正田哲雄、畠山淳司、磯崎淳 ほか、[https://doi.org/10.3388/jspaci.22.357 【原著】まむしウマ抗毒素によるアナフィラキシーの1例] 日本小児アレルギー学会誌 |
速やかに処置可能な医療機関でマムシ抗毒素[[血清]]投与などの治療を受ける。6時間以内の血清投与が推奨されており、少なくとも24時間は経過観察が必要。血清投与に際しては、[[アナフィラキシー・ショック]]に十分注意<ref>正田哲雄、畠山淳司、磯崎淳 ほか、[https://doi.org/10.3388/jspaci.22.357 【原著】まむしウマ抗毒素によるアナフィラキシーの1例] 『日本小児アレルギー学会誌』 2008年 22巻 3号 p.357-362, {{DOI|10.3388/jspaci.22.357}}</ref>し投与する(また、医療機関における乱切や吸引も問題視されつつある)。血清投与後、7日から10日して2 - 10パーセントで遅延型アレルギーを起こした場合は、[[ステロイド剤]]や[[抗ヒスタミン剤]]を投与する。 |
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血清投与に関わる諸問題を回避するため、台湾に自生する[[タマサキツヅラフジ]]({{Snamei|Stephania cepharantha}})から抽出されたアルカロイド系の[[セファランチン]](''Cepharanthin'')が使用される場合がある<ref>{{Cite journal |和書 |author =阿部岳, 稲村伸二, 赤須通範|url=https://doi.org/10.1254/fpj.98.5_327 |title=ニホンマムシ毒(''Agkistyodon halys blomhoffii'')毒による致死および循環器系障害に対するCepharanthinの作用 |journal=日本薬理学雑誌 |volume=98 |issue=5 |date=1991 |pages=327-336 |doi=10.1254/fpj.98.5_327}}なお、標題中の ''Agkistyodon halys blomhoffii'' は本種の古いシノニム ''Agkistrodon halys blomhoffii'' の誤りと思われる。</ref>。 |
血清投与に関わる諸問題を回避するため、台湾に自生する[[タマサキツヅラフジ]]({{Snamei|Stephania cepharantha}})から抽出されたアルカロイド系の[[セファランチン]](''Cepharanthin'')が使用される場合がある<ref>{{Cite journal |和書 |author =阿部岳, 稲村伸二, 赤須通範|url=https://doi.org/10.1254/fpj.98.5_327 |title=ニホンマムシ毒(''Agkistyodon halys blomhoffii'')毒による致死および循環器系障害に対するCepharanthinの作用 |journal=日本薬理学雑誌 |volume=98 |issue=5 |date=1991 |pages=327-336 |doi=10.1254/fpj.98.5_327}}なお、標題中の ''Agkistyodon halys blomhoffii'' は本種の古いシノニム ''Agkistrodon halys blomhoffii'' の誤りと思われる。</ref>。 |
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=== 薬用 === |
=== 薬用 === |
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マムシの皮を取り去り乾燥させたものを、'''反鼻'''(はんぴ)と呼び、[[漢方薬]]として滋養強壮などの目的で用いる。また、[[胆嚢]]を乾燥したものは'''蛇胆'''(じゃたん(通称じゃったん))と呼ばれ、反鼻よりも滋養強壮効果が高いとされる<ref group="注釈">蛇胆は、ハブやコブラの場合もある。</ref>。反鼻や蛇胆は、[[栄養ドリンク]]などによく使用されている。「マムシドリンク」・「赤まむし」といえば、動物生薬を使った栄養ドリンクの代表格でもある。 |
マムシの皮を取り去り乾燥させたものを、'''反鼻'''(はんぴ)と呼び、[[漢方薬]]として滋養強壮などの目的で用いる。また、[[胆嚢]]を乾燥したものは'''蛇胆'''(じゃたん(通称じゃったん))と呼ばれ、反鼻よりも滋養強壮効果が高いとされる<ref group="注釈">蛇胆は、ハブやコブラの場合もある。</ref>。反鼻や蛇胆は、[[栄養ドリンク]]などによく使用されている。「マムシドリンク」・「赤まむし」といえば、動物生薬を使った栄養ドリンクの代表格でもある。 |
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== 参考文献 == |
== 参考文献 == |
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* {{Cite journal|author=鮫島正道, 中村正二, 中村麻理子|title=鹿児島の陸生ヘビ類の分布と生態|url=http://hdl.handle.net/10232/21208 |accessdate=2017-08-24|journal= 鹿児島県自然愛護協会 |
* {{Cite journal|author=鮫島正道, 中村正二, 中村麻理子|title=鹿児島の陸生ヘビ類の分布と生態|url=http://hdl.handle.net/10232/21208 |accessdate=2017-08-24|journal= 鹿児島県自然愛護協会 Nature of Kagoshima. |volume=40|pages=247-256|year=2014|hdl=10232/21208|naid=120005447116|ref="鮫島他2014"}} |
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== 関連項目 == |
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== 外部リンク == |
== 外部リンク == |
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* {{PDFlink|[http://www.j-poison-ic.or.jp/ippan/M70266.pdf マムシ(咬傷)]}} - 財団法人 [[日本中毒情報センター]] |
* {{PDFlink|[http://www.j-poison-ic.or.jp/ippan/M70266.pdf マムシ(咬傷)]}} - 財団法人 [[日本中毒情報センター]] |
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* 重田匡利、久我貴之、工藤淳一 ほか、[https://doi.org/10.2185/jjrm.56.61 マムシ咬傷35例の検討] 日本農村医学会雑誌 2007年 56巻 2号 p.61-67、{{Doi|10.2185/jjrm.56.61}} |
* 重田匡利、久我貴之、工藤淳一 ほか、[https://doi.org/10.2185/jjrm.56.61 マムシ咬傷35例の検討] 『日本農村医学会雑誌』 2007年 56巻 2号 p.61-67、{{Doi|10.2185/jjrm.56.61}} |
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2019年5月13日 (月) 05:11時点における版
ニホンマムシ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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ニホンマムシ Gloydius blomhoffii
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Gloydius blomhoffii (Boie, 1826)[1] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Trigonocephalus Blomhoffii Boie, 1826[1] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
ニホンマムシ[2][3] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Mamushi[1] |
ニホンマムシ(Gloydius blomhoffii)は、有鱗目クサリヘビ科マムシ属に分類されるヘビ。「蝮」と書く。単にマムシとも呼ばれる。有毒。
分布
形態
全長45 - 60センチメートル[2][3]。まれに体長が1メートル近くになる。北海道産の個体は大型で、60センチメートルを超える個体が多い。伊豆大島には「赤まむし」の別名を持つ体色が赤い個体が多いと言われる。
全長に比して胴が太く、体形は太短い。赤外線感知器官(頬窩、ピット器官)は明瞭[4]。舌は暗褐色や黒[4]。20対前後の中央に黒い斑点のある俗に銭型とも呼ばれる楕円形の斑紋が入る。胴体中央部の斜めに列になった背面の鱗の数(体列鱗数)は21列[5]。尾は短い。
出産直後の幼蛇は全長20センチメートル、体重5グラム[2]。幼蛇は尾の先端が橙色[3]。
毒
毒性はハブよりも強いが、体が小さいため毒量は少ない[6][注釈 1]。
- 半数致死量
- 20グラムのマウスに対する半数致死量(LD50/20g mouse)は静脈注射で19.5 - 23.7マイクログラム、(日本産の他種ではセグロウミヘビ1.7 - 2.2マイクログラム、ハブ沖縄島個体34.8マイクログラム・奄美大島個体47.8マイクログラムなど)[6]。腹腔内投与では27 - 31マイクログラム[6]。神経毒も含まれ斜視・複視などの症状が出現することもある[6]。
毒には様々な因子が含まれることに加え、注入された毒量・噛まれた部位によっても症状が異なる[6]。
- ブラジキニンを遊離する酵素:末梢血管の血管拡張を行い血圧を降下させる。
- ホスホリパーゼA2:溶血作用に関与する。
- トロンビン様酵素:細胞膜を溶解する酵素や血液凝固系に作用する。
- アリルアシダーゼ、エンドペプチダーゼ:タンパク質分解酵素で、咬傷部の骨格筋変性に作用する。
- 出血因子:毛細血管に作用し、強力に体内出血を誘発する。
- 希に、眼瞼下垂、外斜視、四肢の筋力低下、換気障害などの筋無力症状を呈する[7]。
などである。
咬傷を受けると局所の疼痛、腫脹がおきる[6]。局所の疼痛はしばらくすると収まるが、腫脹により神経が圧迫されることで腫脹部全体の疼痛が発生する[6]。腫脹の進行は症例によって異なり手を噛まれた場合でも肩に達するのが数時間の例もあれば、2日かかった例もある[6]。出血作用は強くないものの、血小板が凝集することで血中の血小板が減少し止血作用を失う[6]。これに出血作用が加わることで皮下や消化管などの全身で持続性の出血が起こる[6]。骨格筋が溶解し筋肉中のミオグロビンが血液中に流出し、ミオグロビン血症・褐色尿を引き起こす[6]。全身の腫脹によって循環血液量が減少することで腎機能障害を引き起こす原因になったり、ミオグロビンの流出量が多いと腎臓の糸状体で詰まることで腎組織が壊死する[6]。出血と末梢血管の膨張により血圧が下がり、ショック状態になることもある[6]。重症化した例は大きく分けると腫脹が強く急性腎不全を起こす例か、腫脹は顕著でないものの咬傷後数時間で播種性血管内凝固症候群(血小板が激減し全身性の出血・血圧低下)を引き起こす例に分かれる[6]。死亡例の多くは受傷後、3 - 4日後に集中する。重篤な場合は、呼吸不全[8]。
3 - 9日後、急性腎不全による乏尿、無尿、蛋白尿、血尿。
分類
以前は旧マムシ属Agkistrodonに分類され、北アメリカ大陸に分布する種と同属とされていた[5]。ミトコンドリアDNAの分子系統解析から、北アメリカ大陸に分布する種は単系統群で東アジアに分布する種よりも同所的に分布するヤジリハブ属やガラガラヘビ属などに近縁であると推定された[5]。そのためAgkistrodon属に北アメリカ大陸に分布する種を残して(アメリカマムシ属)、本種を含めた東アジアに分布する種はマムシ属Gloydiusとして分割された[5]。
1994年に対馬の個体群とされていたものは独立種ツシママムシG. tsusimaensisとして分割された[4]。ニホンマムシと違い模様が銭形模様ではないこと、そしてニホンマムシと比べて気性が荒いなどの特徴がある[9]。
生態
平地から山地の森林、藪に棲む。水場周辺に多く出現し、山間部の水田や小さな川周辺で見かけることも多い。時に田畑にも現れる。日周活動は季節や地理変異があり、例として九州の個体群は4 - 5月・10月は昼行性傾向が強く、6 - 9月は夜行性傾向が強い[2]。危険を感じると頸部をもたげ舌を出し入れする、尾を細かく振るわせて威嚇音を出す、肛門腺から臭いを出すなどの行動を行う[2]。樹皮が粗ければ木に登ることもあり、幼蛇は壁面を登ることもある[2]。11 - 翌3月は冬眠し、冬眠前後の温暖な日には日光浴を行い体温を上げる[2]。
野生下ではアカネズミ・ヒミズなどの哺乳類、キビタキなどの鳥類、ニホンカナヘビ・ヒバカリなどの爬虫類、カエル類・アカハライモリなどの両生類、ウキゴリ・ニホンウナギ・ドジョウなどの魚類、ムカデ類などの節足動物を食べた例がある[2]。共食いも行う[2]。
繁殖様式は胎生。8月下旬から9月に交尾し、メスは卵管にある腺組織(精子嚢)に精子を貯蔵する[2]。翌年の6月にこの精子を用いて授精する(遅延授精)[2]。妊娠期間は約90日[2]。8 - 10月に、1回に2 - 13匹の幼蛇を[3]総排泄孔から産む。出産間隔は2 - 3年[3]。生後3 - 4年で成熟する[2]。
言い伝えに、「マムシは口から子供を産む。だから、子が生まれる際に牙で子が傷つかぬよう、妊娠中のマムシは牙を折るために積極的に噛みつく」といったものがある。しかし、毒蛇にとって牙は重要なもので、定期的に生え換わるようになっており、常にマムシは牙をもっている。もちろん、子が口から生まれてくるわけではないものの[注釈 2]、他の動物全般に言えることだが、実際に妊娠中の個体は神経質になる傾向があり、「積極的に噛みつく」ということはあながちデマではない[10]。
人間との関係
1961 - 1962年の調査では咬傷被害数は19県で年平均2,182人で、全国では約3,000人以上が咬傷被害にあったと推定されている[6]。咬傷被害は手への被害が多く農作業や山菜採り・キノコ狩り・草刈りなどの際の被害例が多いが、捕獲時の咬傷被害例もある[6]。足への咬傷被害ではぞうりなどを履いていた例が多い[6]。咬傷を受けた場合119番通報の上、救急車の出動を要請し、安静にする。身体を激しく動かすと体液の循環が促進され、その分毒のまわりが早くなる。ただし、救命救急医らのグループによる全国調査によれば、結果的には走ってでもいち早く医療機関を受診する方が軽症で済むことが分かったという。牙跡は通常2ヶ所(1 - 4ヶ所である場合もある)で、現場で可能な処置は、咬傷部より心臓側で軽く緊縛(緊縛も後述の乱切や吸引同様、問題視されつつあり、するのであれば軽く緊縛するのが無難である)。毒蛇に咬まれた時の応急措置として「口で毒を吸い出す」と言われているが、『素人による切開・毒素の吸引は行わない』こと。口腔内に傷がない場合は効果的である。
咬まれた時の時間や状況は説明出来るように必ず覚えておく必要がある。
速やかに処置可能な医療機関でマムシ抗毒素血清投与などの治療を受ける。6時間以内の血清投与が推奨されており、少なくとも24時間は経過観察が必要。血清投与に際しては、アナフィラキシー・ショックに十分注意[11]し投与する(また、医療機関における乱切や吸引も問題視されつつある)。血清投与後、7日から10日して2 - 10パーセントで遅延型アレルギーを起こした場合は、ステロイド剤や抗ヒスタミン剤を投与する。
血清投与に関わる諸問題を回避するため、台湾に自生するタマサキツヅラフジ(Stephania cepharantha)から抽出されたアルカロイド系のセファランチン(Cepharanthin)が使用される場合がある[12]。
薬用
マムシの皮を取り去り乾燥させたものを、反鼻(はんぴ)と呼び、漢方薬として滋養強壮などの目的で用いる。また、胆嚢を乾燥したものは蛇胆(じゃたん(通称じゃったん))と呼ばれ、反鼻よりも滋養強壮効果が高いとされる[注釈 3]。反鼻や蛇胆は、栄養ドリンクなどによく使用されている。「マムシドリンク」・「赤まむし」といえば、動物生薬を使った栄養ドリンクの代表格でもある。
民間療法では強精効果を目的に乾燥させた身や生の身を焼酎漬けにして飲用する場合があり、マムシ酒(まむしざけ)と呼ばれる。また、目玉は生で飲用することもある。生の身をマムシ酒にする際は、1か月ほど餌を与えずに飼ってその間に体内の排泄物を全て出させるのだが、その状態でもまだ生きている。そのため、一般にはかなり生命力のある生物と思われる事が多いが、1か月の絶食でも生きているのは変温動物であるがゆえにエネルギー消費が小さいのが原因である。ただし、この方法でマムシ酒を造る場合、アルコール濃度が低いと腐敗してしまう可能性が高い。特に体色が赤めのものは赤マムシと呼ばれ薬効が高いとされるが、成分は他の個体と変わらない。マムシ酒は薬用酒として飲用されるだけでなく打撲傷に使用される。科学的な根拠は確認されていない。
渾名
日本人にとって最も身近な毒蛇であることから、渾名(あだな)に使われる場合がある。毒蛇としての印象から、クセのある、どちらかといえば粗暴もしくは陰険な人物の渾名とされることも多い(例:斎藤道三・鳥居耀蔵・栃錦清隆・杉原輝雄など)。また、たとえば毒蝮三太夫のように奇抜な芸名として用いられる場合もある。
植物の名にはマムシグサがある。これは茎のまだら模様がマムシに似ていることが由来である。
また、関西では料理において鰻丼のことを「まむし」、あるいはウナギの釜飯をまむし釜飯と言うことがあるが、呼び名の由来は本種とは無関係である(「鰻飯(まんめし)」のなまりという説や、飯の間に挟んで蒸すため「間蒸し(まむし)」という説などがある)。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d e Gloydius blomhoffii. Uetz, P. & Jiri Hošek (eds.), The Reptile Database, http://www.reptile-database.org, accessed April 17, 2016
- ^ a b c d e f g h i j k l m 五十川清 「冬眠後に繁殖 マムシ」『動物たちの地球 両生類・爬虫類 10 コブラ・マムシほか』第5巻 106号、朝日新聞社、1993年、306-308頁。
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- ^ 両生類・爬虫類のふしぎ ソフトバンククリエイティブ出版、著 星野一三雄 160-163頁
- ^ 正田哲雄、畠山淳司、磯崎淳 ほか、【原著】まむしウマ抗毒素によるアナフィラキシーの1例 『日本小児アレルギー学会誌』 2008年 22巻 3号 p.357-362, doi:10.3388/jspaci.22.357
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参考文献
- 鮫島正道, 中村正二, 中村麻理子 (2014). “鹿児島の陸生ヘビ類の分布と生態”. 鹿児島県自然愛護協会 Nature of Kagoshima. 40: 247-256. hdl:10232/21208. NAID 120005447116 2017年8月24日閲覧。.
関連項目
- アオダイショウ - 幼蛇は本種に擬態していると考えられている(鮫島他 2014)。
外部リンク
- マムシ(咬傷) (PDF) - 財団法人 日本中毒情報センター
- 重田匡利、久我貴之、工藤淳一 ほか、マムシ咬傷35例の検討 『日本農村医学会雑誌』 2007年 56巻 2号 p.61-67、doi:10.2185/jjrm.56.61