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1966年(昭和41年)7月1日発売の35円[[日本の普通切手|普通切手]]の意匠になった。
1966年(昭和41年)7月1日発売の35円[[日本の普通切手|普通切手]]の意匠になった。

滑川沖で行われてきた「ほたるいか海上観光」が[[1987年]]に開始して[[2016年]]までに外国人を含め、約6万人が訪れたとされる。幻想的な光を放つホタルイカ漁を間近で見学でき、毎年ほぼ予約で満席になる人気行事である。[[2015年]]には観光船が故障して中断した。この年の8月に3500万円をかけて定員40人の中古の船を購入した。ところが、[[2016年]]の利用者は889人で、運航率は、悪天候の影響で46%にとどまった。[[2017年]]には天候での運行率、新しい船が漁場まで近づけないことなど、多くの理由から観光を中止することに決めた。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==

2017年3月3日 (金) 02:43時点における版

ホタルイカ
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
: 頭足綱 Cephalopoda
上目 : 十腕形上目 Decapodiformes
: 開眼目 Oegopsida
: ホタルイカモドキ科
Enoploteuthidae
: ホタルイカ属 Watasenia
: ホタルイカ W. scintillans
学名
Watasenia scintillans
(Berry, 1911)
和名
ホタルイカ
英名
firefly squid
toyama squid
Luminescent dwarf squid
Sparkling Enope Squid

ホタルイカ螢烏賊/蛍烏賊、学名Watasenia scintillans (Berry, 1911)[1])は、ツツイカ目 ホタルイカモドキ科に属するイカの一種である。

名称について

ホタルイカの属名Watasenia は1905年に和名を「ホタルイカ」と命名した明治期の生物学者渡瀬庄三郎にちなんで1913年に石川千代松によりつけられている[2]。富山の方言では「マツイカ」と呼ばれることが多かった。これはホタルイカが松の肥料として利用されることが多かったからとされる。

英名の1つであるfirefly squidは和名と同じく「ホタルのようなイカ」の意味で、toyama squidは日本の代表的な産地である富山湾に因む。米ウェブスター辞典firefly squidの項目には"a brilliantly luminescent squid (Watseonia scintillans) caught in great quantities off the western coast of Japan where it is used for fertilizer"と記載されているが、冷蔵・運送が近代化される前は流通前に肥料として多く利用されたためである。

“ほたるいか”は「晩春」を表す季語の1つである。

分布と生態

世界にはホタルイカの仲間が40種類ほど生息している。

日本近海では日本海全域と太平洋側の一部に分布しており、特に滑川市を中心とする富山県兵庫県で多く水揚げされている。普段は200m - 700mの深海に生息している。晩春から初夏までが産卵期で、1回あたり数千個から1万個の卵を産む。交尾と産卵は同時ではない。

触手の先にはそれぞれ3個の発光器が付いており、何かに触れると発光するため、敵を脅すものではないかと考えられているが、光によって敵を誘導し、ただちに消灯してその場から逃げるという、いわばデコイとしての機能があるともされている[3]。体表の海底側(腹側)には細かい発光器があり、これは海底側にいる敵が海面側にいるホタルイカを見ると、海面からの光に溶け込み姿が見えなくなるカウンターシェイディング効果の役割を果たしている。海面側から海底に向かって見た場合はこの効果が働かないため、体表の海面側(背中側)には発光器はほとんど存在しない。

発光物質

発光反応の全容は未解明である。しかし、「セレンテラジンジサルファイト化合物(coelenterazine disulfate、二硫化セレンテラジン化合物、ルシフェリンの一種)によると考えられており、アデノシン三リン酸(ATP)とマグネシウム(Mg)が大きく関与している」。また、「発光反応の最適温度は、5℃でホタルイカの生息適温と対応している」などが判明している[4]

利用

東京のスーパーで売られるホタルイカ
ホタルイカの辛子酢味噌和え

主に食用となるが、養殖マグロの飼料用途への研究がされている[5]

漁法

漁期は2月から5月頃、主な産地は日本海側の兵庫県、富山県、鳥取県、福井県などである。

  • 富山県では、定置網漁により夜間に浮上してくる個体を捕獲する。また、この夜間の漁を見学するための観光船が漁期のみの期間限定で運航されている。
  • 兵庫県(山陰沖)での底引き網漁は昭和60年頃に開始され、深さ200m程度を回遊している個体を捕獲する[6]。年間2000tから3000t程度[7]を捕獲しており捕獲量は、富山県より多い[8]

食用

富山県では古くから食用とされ、佃煮酢味噌和え沖漬け素干し、天ぷら、唐揚げ、足だけを刺身にした竜宮そうめんなどがある。古くより食されてきた食材だが、地元では決して生では食べなかった。また腐敗が非常に早く進むため、冷蔵技術と高速の輸送手段が発達するまでは産地以外への輸送は困難だった。平成になってから、生食用として春先の店頭に並ぶことが多くなっている。

生食

まんが『美味しんぼ』第37巻収録の「生きた宝石」[9]で、ホタルイカについて生きたまま食べる描写(ホタルイカの踊り食い)がなされている[10][11]。作中では肝のおいしさが絶賛されているが、ホタルイカには旋尾線虫亜目に属する旋尾線虫( Crassicauda giliakiana )[12][13]が寄生しているため、生食の際は厚生労働省が指定した方法で処理を行う必要がある。未処理品の「踊り食い」や処理が不完全な物を食用とした場合、後述の寄生虫症を発症することがある[14]

厚生労働省による通知、(衛食第110号 衛乳第125号 平成12年6月21日)
  1. 生食を行う場合には、次の方法によること。
    -30℃で4日間以上、もしくはそれと同等の殺虫能力を有する条件で凍結すること。(同等の殺虫能力例:-35℃(中心温度)で15時間以上、または-40℃で40分以上)
    なお、凍結処理を行った場合、製品にその旨表示を行うこと。
    内臓を除去すること、または、内臓除去が必要である旨を表示すること。
  2. 生食用以外の場合には、加熱処理(沸騰水に投入後30秒以上保持、もしくは中心温度で60℃以上の加熱)を行うこと。
  3. 販売者、飲食店等関係営業者に対し、生食用としてホタルイカを販売等を行う場合には、1.にある方法により処理したものを販売するよう指導すること。
  4. 一般消費者に対し、ホタルイカを生食する場合の寄生虫感染の可能性について情報提供を行うとともに、生食する場合には1.にある方法による旨を啓発すること。

寄生虫症

生食により寄生虫症を発症し、急性腹症として腸閉塞、皮膚爬行症、眼球移行症などを起こすことがある[15]。国立感染症研究所によれば、最初の症例報告は1974年の秋田県での腸閉塞の疑い例とされている。その後、報告は1987年まで途絶えるが以降1994年までに約50例が報告され注目された。診断は摘出虫体の病理組織学的同定(とり出して調べる)。治療法は今のところ外科的摘出(広い目にメスを入れて引っ張りだす)のみ。

症状
  • 急性腹症 - 潜伏期間:1 - 3日程度。嘔気、嘔吐、下痢、腹痛、腸閉塞[16][17]
  • 皮膚爬行症 - 潜伏期間:2週間程度。皮膚にミミズバレなど、眼球移行も報告されている[18]

その他

身投げしたホタルイカ(富山市浜黒崎海岸にて)

ホタルイカが水揚げされる富山県の富山市から魚津市にかけての富山湾沿岸は、ホタルイカの群遊海面として有名であり、ホタルイカは春の風物詩として知られている。富山湾の常願寺川の河口左岸から魚津港までの約15km、満潮時の沖合1,260mまでの海域は1922年(大正11年)に国の天然記念物に指定され、1952年(昭和27年)3月29日には「ホタルイカ群遊海面」の名称で特別天然記念物に格上げされている[19]。指定を「ホタルイカ」とすると食用にはできないために、「群遊海面」としたのである。

4-5月の富山湾沿岸では、「ホタルイカの身投げ」と呼ばれる、大量のホタルイカが波によって浜に打ち寄せられる現象が、夜明け前の暗がりの中で幻想的に見られることがある[20]

富山県滑川市には、ホタルイカの様子を観察できる「ほたるいかミュージアム」がある。

1966年(昭和41年)7月1日発売の35円普通切手の意匠になった。

滑川沖で行われてきた「ほたるいか海上観光」が1987年に開始して2016年までに外国人を含め、約6万人が訪れたとされる。幻想的な光を放つホタルイカ漁を間近で見学でき、毎年ほぼ予約で満席になる人気行事である。2015年には観光船が故障して中断した。この年の8月に3500万円をかけて定員40人の中古の船を購入した。ところが、2016年の利用者は889人で、運航率は、悪天候の影響で46%にとどまった。2017年には天候での運行率、新しい船が漁場まで近づけないことなど、多くの理由から観光を中止することに決めた。

参考文献

  • 雁屋哲 作、花咲アキラ 画「第6話/生きた化石(ホタルイカ)」『美味しんぼ』 第37巻、小学館〈ビッグコミックス〉、1993年1月。ISBN 4-09-182637-7http://www.shogakukan.co.jp/comics/detail/_isbn_4091826377 
  • 窪寺恒己 著「第1章 ホタルイカの素姓」、奥谷喬司編 編『ホタルイカの素顔』東海大学出版会、2000年、1-34頁。ISBN 4-486-01502-9 
  • 林清志 著「第3章 ホタルイカの資源」、奥谷喬司編 編『ホタルイカの素顔』東海大学出版会、2000年、59-84頁。ISBN 4-486-01502-9 

出典

脚注

  1. ^ 窪寺 (2000)、p.3
  2. ^ 窪寺 (2000)、pp.2-3
  3. ^ "富山湾 ホタルイカ~海の宝石 青い光の真実~". Canon Presents 奇跡の地球物語〜近未来創造サイエンス. 6 April 2014. テレビ朝日. 2014年4月6日閲覧 {{cite episode}}: 不明な引数|city=が空白で指定されています。 (説明)
  4. ^ 寺西克倫ホタルイカ生物発光の発光発現機構の化学的解明 三重大学大学院生物資源学研究科
  5. ^ 瀬岡学、ほか:クロマグロ稚魚用配合飼料のタンパク源としてのホタルイカミールの有用性 水産増殖 = The aquiculture 58(1), 143-144, 2010-03-20
  6. ^ 山陰沖のホタルイカ 兵庫県立農林水産技術総合センター 但馬水産技術センター
  7. ^ 水産業の概況 兵庫県 (PDF)
  8. ^ ホタルイカ 富山県
  9. ^ 雁屋 & 花咲 (1993, 第6話)
  10. ^ 第37巻 6話 生きた宝石”. 美味しんぼ塾ストーリーブログ. 2013年2月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年1月19日閲覧。
  11. ^ 料理名:ホタルイカの踊り食い”. oishimbo.jp. 2012年4月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年4月18日閲覧。
  12. ^ 杉山広、森嶋康之、荒川京子、木白俊哉、川中正憲.旋尾線虫をめぐる新しい展開.寄生虫分類形態談話会報,25, 4-7 (2007)
  13. ^ 杉山広 食品媒介寄生虫による食中毒 日本食品微生物学会雑誌 Vol.27 (2010) No.1 P1-7
  14. ^ 杉山広 「食品と寄生虫感染症」、食品衛生学雑誌 Vol.51 (2010) No.6 P285-291
  15. ^ 影井昇:新顔の寄生虫病--ホタルイカ寄生の旋尾線虫幼虫による急性腹症と皮膚爬行症 医学のあゆみ 174(11), p852-853, 1995-09-09
  16. ^ 守田万寿夫、中村浩、浦出雅昭、廣沢久史 ホタルイカ生食が原因と思われる腸閉塞様症状を呈した症例の検討 日本消化器病学会雑誌 Vol.92 (1995) No.1 P26-31
  17. ^ 青山庄、ほか 旋尾線虫幼虫type Xの関与が強く示唆されたホタルイカ生食による急性腹症10例の臨床的検討 日本消化器病学会雑誌 Vol.93 (1996) No.5 P312-321
  18. ^ 大前あゆみ、ほか ホタルイカ生食で発症したcreepingdisease 皮膚 Vol. 43 (2001) No. 1 P 1-2
  19. ^ ホタルイカ群遊海面-社団法人農林水産技術情報協会 2012年5月13日閲覧。
  20. ^ 林 (2000)、p.60

関連項目

外部リンク