「反スターリン主義」の版間の差分

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これは「ソ連 = [[国家資本主義]]」論に立つ点ではイギリスのトニー・クリフなどの[[左翼共産主義]]と共通するが、黒田寛一は既成の在野の共産党も含めて「労働者階級の敵」と規定する点が異なる。革マル派および中核派は、このような理論と運動は世界の革命運動においても日本にしか存在しないとし、それをもって「反スターリン主義の党派が存在するゆえに日本の革命運動は最も先進的である」とする。革マル派は「世界に冠たる反スタ主義(もしくは黒田思想)」、中核派は「日本革命を世界革命の突破口に」という表現を、各派の機関紙などで使われている。また、革マル派および中核派は「世界革命」を最終目標に掲げているが、[[第四インターナショナル]]のような国際革命組織に加盟したり、あるいはあらかじめ自らの国際組織を形成するのではなく、自派主導の「日本革命」を成功させ、その権威で国際組織を形成して革命を世界広げる、という方針を掲げる。
これは「ソ連 = [[国家資本主義]]」論に立つ点ではイギリスのトニー・クリフなどの[[左翼共産主義]]と共通するが、黒田寛一は既成の在野の共産党も含めて「労働者階級の敵」と規定する点が異なる。革マル派および中核派は、このような理論と運動は世界の革命運動においても日本にしか存在しないとし、それをもって「反スターリン主義の党派が存在するゆえに日本の革命運動は最も先進的である」とする。革マル派は「世界に冠たる反スタ主義(もしくは黒田思想)」、中核派は「日本革命を世界革命の突破口に」という表現を、各派の機関紙などで使われている。また、革マル派および中核派は「世界革命」を最終目標に掲げているが、[[第四インターナショナル]]のような国際革命組織に加盟したり、あるいはあらかじめ自らの国際組織を形成するのではなく、自派主導の「日本革命」を成功させ、その権威で国際組織を形成して革命を世界広げる、という方針を掲げる。


日本の[[新左翼]]は一部の[[構造改革]]派を除き、総じて「スターリン主義」を批判する立場にある。[[共産主義者同盟]]は、[[スターリニズム|スターリン主義]]の本質は帝国主義の補完物であると捉えており、[[帝国主義]]が倒れたならばスターリン主義も崩壊するとする。スターリン主義を帝国主義と同等の打倒対象として明確に「反スターリン主義」を掲げているのは、[[日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派]](革マル派)と、[[革命的共産主義者同盟全国委員会]](中核派)である。そこでは、ソ連や中国、北朝鮮、[[ベトナム]]、[[キューバ]]などの既存の[[社会主義]]を[[労働者国家]]とは認めず、[[党官僚]][[専制]]支配国家として打倒対象とする。革マル派のように反帝国主義よりも、反スターリン主義を優先させる傾向もある。「反スターリン主義者」からすれば、[[コミンテルン]]の系譜に属する[[日本共産党]]は、スターリン主義政党であり打倒対象にされる。
日本の[[新左翼]]は一部の[[構造改革]]派を除き、総じて「スターリン主義」を批判する立場にある。[[共産主義者同盟]]は、[[スターリニズム|スターリン主義]]の本質は帝国主義の補完物であると捉えており、[[帝国主義]]が倒れたならばスターリン主義も崩壊するとする。スターリン主義を帝国主義と同等の打倒対象として明確に「反スターリン主義」を掲げているのは、[[日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派]](革マル派)と、[[革命的共産主義者同盟全国委員会]](中核派)である。そこでは、ソ連や中国、北朝鮮、[[ベトナム]]、[[キューバ]]などの既存の[[社会主義]]を[[労働者国家]]とは認めず、[[党官僚]][[専制]]支配国家として打倒対象とする。革マル派のように反帝国主義よりも、反スターリン主義を優先させる傾向もある。「反スターリン主義者」からすれば、[[コミンテルン]]の系譜に属する[[日本共産党]]は、スターリン主義政党であり打倒対象にされる。

2011年2月5日 (土) 10:08時点における版

反スターリン主義(はんスターリンしゅぎ、反スターリニズム、英:Anti-Stalinism)とは、スターリン主義に反対する政治思想や運動である。

広義には共産主義の外部からも含めた、スターリン主義への批判・否定の総称である。しかし狭義には社会主義共産主義の内部の思想の1つで、既存の社会主義国コミンテルンを系譜とする各国の共産党を「スターリン主義」として批判・否定し、乗り越えようとする。多数の潮流や立場がある。

概要

社会主義や共産主義の内部の「反スターリン主義」は、歴史的・思想的には多数の立場・潮流がある。まずマルクス主義の革命主義やプロレタリア独裁を批判する改良主義社会民主主義修正主義、マルクス主義の権威主義を批判するバクーニンなどのアナキズムがある。次にマルクス主義の立場からレーニン主義一党独裁民族自決を批判するローザ・ルクセンブルクや、ソ連型社会主義を「国家資本主義」と否定する左翼共産主義などがある(反レーニン主義)。そしてレーニン主義の立場からスターリン一国社会主義論を批判してソ連を「堕落した労働者国家」と批判するトロツキズム、更には1956年以降のスターリン批判などがある。

日本新左翼では黒田寛一が「反スターリン主義」を掲げ、「反帝国主義・反スターリン主義(反帝・反スタ)」として、現在でも革共同系である革マル派および中核派の基本理論となっている。

アナキズムの極左的反共主義

スターリン主義の粛清や圧制を徹底的に批判したのはアナキズム(無政府主義)であろう。ただしアナキズムは、単にスターリン主義だけを独裁や圧政の張本人としたのではなく、トロツキズムも同類であり、ボリシェヴィズムそのものを独裁と圧制の元凶として激しく批判し、更にはマルクスエンゲルスが『共産党宣言』でいうところのプロレタリア独裁を、バクーニンが先駆的に批判(『国家と無政府』)したように、後にスターリン主義として展開される独裁と圧制のルーツとして、それを激しく批判する。アナキズムは、しばしば、極左的な反共主義ともいわれ、アナキズムの反スターリン主義は革命的反共主義とも呼ばれる。

ローザ・ルクセンブルクのレーニン主義批判

ローザ・ルクセンブルクは、ボリシェヴィズムの独裁を批判したが、その後継者である左翼共産主義反レーニン主義の立場からスターリン主義を批判している。

トロツキズムのスターリン主義批判

トロツキズム(トロツキー主義)の場合は、スターリン主義のソ連は「官僚的に歪められ、堕落した労働者国家であり、官僚を打倒して堕落を是正する労働者による政治革命が必要とされたが、堕落していてもまだ、「ブルジョアジーによる生産手段の所有を廃した労働者国家である」という視点から、帝国主義からの破壊策動に対しては無条件擁護を唱えた。同様に、非政権共産党についても、反スターリン主義的な「国家権力と同等な打倒の対象」とはみなさず、「誤った綱領・路線で指導されているとしても、労働者階級内部の革命をめざす一潮流」と認知し、批判しつつも必要な共闘は追求するという立場を取る。

日本でも、第四インターナショナル統一書記局派の日本革命的共産主義者同盟(第四インターナショナル日本支部)及びそこから派生した諸党派は、歴史的に独自候補を擁立できない場合は、「プロレタリア統一戦線戦術の一環」として「社共へ投票せよ」と呼びかけてきた。これは他の新左翼党派が「反議会主義」を掲げ棄権を呼びかけたり、中核派・革マル派ら反スターリン主義派が社会民主党民主党(以前は日本社会党)などへの投票を呼びかけることはあっても、共産党候補への投票を呼びかけることはあり得なかったこととは著しく異なる行動である。このような立場は国際組織第四インターナショナル統一書記局の共通の立場であるようだ。

ソ連とは一時期「中ソ対立」として敵対した中国の毛沢東主義もまたスターリン主義の一つであり、スターリン主義のアジア的専制形態とされる。中ソ対立でソ連のスターリン主義と対立したことから、一部の反スタ派の中には毛沢東主義を支持する動きもあったが(南米を基盤とするポサダス派第四インターなど)、反スターリン主義全体からすればエピソードの域を越えることはなかった。

黒田寛一の「反スターリン主義」

黒田寛一が提唱した反スターリン主義は、「真のマルクス・レーニン主義」の立場から、スターリンによる「マルクス主義の歪曲」や「世界革命への裏切り」、日本共産党による1955年の武装闘争路線の放棄である「六全協」などを批判し、更に「トロツキズムの乗り越え」として「スターリン主義と帝国主義は同時に打倒されなければならない」とする。

この立場では、ソ連などの既存の社会主義国家は「社会主義体制」ではなく、また、レフ・トロツキーが定式化した「官僚的に歪められ、堕落した労働者国家」でもない「赤色帝国主義」(社会帝国主義)あるいは「国家資本主義」であり、労働者は被支配階級であるとの認識に立つ。そして、資本主義国家での支配階級は独占資本であり、「スターリニストが支配する自称"社会主義国家"」での支配階級は「党官僚」と主張する。それゆえ反スターリン主義は、ソビエト連邦(ソ連)や東欧中華人民共和国中国)、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)等の既存の社会主義を全否定する。あるいは、共産党が権力に就いていない国においても、「共産党が間違った理論・方針で大衆を組織しているから革命が起きない。既存共産党は革命の阻害物であり、国家権力と同等の敵」と規定し、共産党を打倒して取って代わる革命政党を建設しなければ革命は起きない、とする。

これは「ソ連 = 国家資本主義」論に立つ点ではイギリスのトニー・クリフなどの左翼共産主義と共通するが、黒田寛一は既成の在野の共産党も含めて「労働者階級の敵」と規定する点が異なる。革マル派および中核派は、このような理論と運動は世界の革命運動においても日本にしか存在しないとし、それをもって「反スターリン主義の党派が存在するゆえに日本の革命運動は最も先進的である」とする。革マル派は「世界に冠たる反スタ主義(もしくは黒田思想)」、中核派は「日本革命を世界革命の突破口に」という表現を、各派の機関紙などで使われている。また、革マル派および中核派は「世界革命」を最終目標に掲げているが、第四インターナショナルのような国際革命組織に加盟したり、あるいはあらかじめ自らの国際組織を形成するのではなく、自派主導の「日本革命」を成功させ、その権威で国際組織を形成して革命を世界に広げる、という方針を掲げる。

日本の新左翼は一部の構造改革派を除き、総じて「スターリン主義」を批判する立場にある。共産主義者同盟は、スターリン主義の本質は帝国主義の補完物であると捉えており、帝国主義が倒れたならばスターリン主義も崩壊するとする。スターリン主義を帝国主義と同等の打倒対象として明確に「反スターリン主義」を掲げているのは、日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派(革マル派)と、革命的共産主義者同盟全国委員会(中核派)である。そこでは、ソ連や中国、北朝鮮、ベトナムキューバなどの既存の社会主義労働者国家とは認めず、党官僚専制支配国家として打倒対象とする。革マル派のように反帝国主義よりも、反スターリン主義を優先させる傾向もある。「反スターリン主義者」からすれば、コミンテルンの系譜に属する日本共産党は、スターリン主義政党であり打倒対象にされる。

「反スタ主義」の提唱者である黒田寛一は著書『革命的マルクス主義とは何か?』において「一般に革命的政治運動というものは、現象的には(本質的にはではない カッコ原文ママ)極めてヨゴレタものであり誤解にみちたものであって、政治的、あまりにも政治的な“陰謀”をすら活用しないかぎり(この点ではレーニンの右にでることのできる革命家はない カッコ原文ママ)、そもそも政治そのものを止揚しえないのだという、このパラドックスが、ぜひとも自覚されなければならない。だから、赤色帝国主義論者をすら活用して、動揺と混乱の渦巻のなかにある日共指導部を瓦解させる一助たらしめるという“陰謀”をたくらむべきである」として、「共産党を打倒するためには権力をも利用する」ことを主張し、1959年に自ら日本民主青年同盟の情報を警視庁に売ろうとしている(未遂)。このような「反スタ主義」は極端な独善主義(「自らの勢力以外は間違っているから反革命」あるいは「自派主導でなければ革命は起きない」とする思想や、「自派以外を潰すためには、本来敵であるはずの勢力にも積極的に協力する」という手法など)に行き着き、日本新左翼運動に蔓延した内ゲバの根拠の一つとなったと言えよう。

ソ連邦崩壊後の「反スターリン主義」の位置付けは、それ以前とはかなり変化している。かつては、革マル派はベトナム戦争について「スターリニストに軍服を着た労働者である米兵を殺させる(ゆえにベトナム戦争反対)」という立場であり、中核派は「北部ベトナムホー・チ・ミン政府=南ベトナム民族解放戦線不支持・ベトナム人民連帯」(その立場から1975年のベトナムの最終的勝利を「サイゴン失陥」=米帝は誤ってサイゴンを陥落させた=『解放勢力』の勝利そのものは支持しない、の意)と表現したように、「反スターリン主義派」はアメリカ(帝国主義)と戦う勢力ならば無条件で支持する、というような立場からはほど遠かった。しかし、90年代に入って、「先進国労働者革命主義」の立場から第三世界での革命や反植民地運動にまったく無関心だった革マル派は、1995年のフランスの核実験の際にポリネシアにメンバーを派遣して、「核実験反対」とともに「ポリネシア独立支持」のスローガンを掲げた。また、革マル派・中核派ともに、9.11同時多発テロを全面的に支持して、かつて「CIAに支援された反共ゲリラ」と規定して否定的だったアルカーイダなどのイスラム原理主義勢力を、現在は「反米勢力」と認知して連帯を表明している。

あるいは現在、両派ともに北朝鮮に対して「排外主義扇動反対」という主張から「スターリニスト体制批判」をほとんど控えて、「米日帝国主義批判」を優先させている。とりわけ中核派は、2007年3月3日に行われた在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)が主催した「日本当局の朝鮮総聯と在日同胞に対する不当な政治弾圧と人権侵害に反対する在日朝鮮人大行進」に、「全学連」などの旗を掲げて沿道から声援を送った。「反スターリン主義派」にとって「スターリニスト組織・朝鮮労働党の出先機関」である朝鮮総聯が主催し、「スターリニスト独裁者」である金日成正日親子の肖像を壇上に掲げるような集会とデモ行進に「連帯」の意を表明するなどということは、ソ連邦崩壊以前にはありえなかったことではある。これらの変化は「ソ連スターリン主義体制」という敵対する一方の極が崩壊したことによって、両派ともに「反米主義」の傾向をより強めた、という見方も成り立つだろう。しかし、日本共産党に対する敵対的姿勢は基本的には変化はなく、両派ともに「日共スターリニスト打倒・解体」の路線を堅持しているが、90年代後半あたりから日本共産党系の大衆団体と集会で同席することが、革マル派・中核派ともに増えている。もっとも、その際に、両派ともに集会場で日本共産党(とその指導部)を批判するビラを集会でまくこともある。

書籍

  • 『日本の反スターリン主義運動』全2巻(黒田寛一)こぶし書房

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