「簪」の版間の差分

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*八月:「[[すすき]]」 他に「[[朝顔]]」
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*十一月:「[[紅葉]]」 他に「[[いちょう]]」
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2007年5月28日 (月) 12:59時点における版

(かんざし)は、女性が髪を結う時に使う日本の伝統的な装身具である。

簪の原材料にはを塗った木、金や銀をめっきした金属、鼈甲のような広範囲にわたる材料から、最近はプラスチックも用いられる。江戸時代初期の簪は現存しているものが品質・材質共に貴重なものであるため、稀少価値のあるコレクターズ・アイテムとも成っている。 中でも、明治初期のベークライトでできた簪は極めて珍重されている骨董品である。


装着法には多くの種類や様式が存在する。 例えば芸者がどのような簪をどのように着けるかで、「通(つう)」や「粋人(すいじん)」など精通した遊び客には彼女らの地位が判別できる。 とくに花柳界の女性の間では日本髪の結い方や簪を装着する位置は着装者の地位や立場に準じる。 舞妓は、先輩である芸妓と較べて精巧な簪を着用するが、階級が上がるにつれ立場に応じた髪型や簪へと段階的に変わっていく。

成り立ち

漢語「簪」は中国で使用された髪留めを指す。

男女ともに髪を伸ばす習慣のあった中国では、男性が地位・職種を表す冠を髪に留める為の重要な実用品でもあった。貴族は象牙、庶民は木製のものを使う。 女性が用いた髪飾りは「簪」ではなく、「釵」(髪に挿す部分が二股に分かれた髪飾)「鈿」(金属を平たく延ばして切り出した細工物、前額などに挿した)と言った。

一方、和語「かんざし」はそもそも「髪挿し」に由来するとされ、上古の人々が神を招く際に頭に飾る草花が起源であったという。 『源氏物語』「紅葉の賀」で光源氏が白菊を冠に飾った場面で、当時の「かんざし」の様子が見ることが出来る。 この習俗は現代でも葵祭の「葵のかざし」に残る。

中国の髪飾りは日本には伝来したものの、垂髪が主流である平安期の国風様式に押されて廃れる。

そのためこのころ「かんざし」と呼べば髪飾り一般を指す名称で、飾りのこともさしていた。

安土桃山時代ごろ「垂髪(たれかみ)」と呼ばれる真直で長い髪から「日本髪(にほんがみ)」と呼ばれる様々な髪形へと髪型が変遷する際に、髪飾りとしては先ず簪が用いられた。江戸時代に入るとより幅広い用途で用いられるようになり、緊急時には防禦のために用いられたとも伝えられる。

江戸時代中期以降、髪形が複雑化するにつれてとともに女子の必需品となっていったが、宮中行事などを除いて男子の衣装風俗からは消えた。

ただしこの頃においても琉球王国では金属製の簪「ジーファー」を男女ともに着用しており、身分によって材質にも規定があった。

江戸時代中期に最大の隆盛を見せ、髪飾り専門の飾り職人が技術の粋を凝らした平打簪、玉簪、花簪、びらびら簪などさまざまな種類の簪がある。

近代では洋髪の流行とともにやや衰え、神前結婚での花嫁や芸者芸妓などの女性が日本髪を結う場合に使用されるが、近年に入り簪の持つ優美な美しさを普段の洋装に加えようとする若い日本女性の間で再び脚光を浴びつつもある。

種類

簪には季節毎の花や事物の取合せのみならず、伝統に基づく複雑な約束事が存在する。舞妓や半玉が月ごとに身に着ける十二ヶ月の花簪(はなかんざし)はその顕著な例である。詳細はこの次の項で。

本体部分は金属では真鍮(明治ごろにはプラチナも)など、希少品であったガラス鼈甲伽羅白檀のような香木、庶民は鼈甲の代用として牛や馬のひづめなどを使ったが、現在はプラスチックが主流。

装飾部分には貴金属貴石準貴石琥珀珊瑚などが使われる。

  • 平打簪:武家の女性がよく身につけた銀製、或いは他の金属に銀で鍍金した簪。平たく延ばした金属から切り出したもの。武家の女性なら自家の家紋を入れていた。「簪は女の武器」と言うように先を丸めたり耳かきに加工はせず鉄製で先のとがった刺突武器としての用途をもつものもある。江戸後期の芸者の間には自分の紋ではなく、貞節を誓う想い人の家紋を入れるのが流行した。
  • 玉簪:最もポピュラーな簪でサンゴヒスイで出来た玉を通してあるもの。二分玉、三分玉、五分玉など、玉の大きさで分類されて売られていた。(規格が決まっているので玉を取り外して根付等にリメイクも出来る)先が耳かきになっていることが多いのは、贅沢品の取締りから逃れるため、装身具ではなく実用品の耳かきだとして言い逃れたためである。そのため耳への当たりが柔らかい軟質の金属などが使われた。飾り玉にはサンゴが最もよく使われたが、幕末頃にはギヤマン(硝子)、大正頃にはセルロイドなども登場している。
  • 立挿し:鬢の部分に縦に挿す簪。留め針が長い。団扇を模した夏用の団扇簪などが有名。
  • 松葉簪:主に鼈甲などを使ったシンプルな簪で、髪に挿す部分が松の葉のように二股になったもの。既婚婦人などが好んだ。
  • 両天簪:簪本体の両端に対になる飾りがついた形のもの。飾りは家紋や花などがほとんどで、かなり裕福な家庭の若い女性や少女が主に用いた。
  • 姫挿し:武家の姫君が吹輪などを結うときに使ったもの。本体はのような形状で銀製の造花が隙間無く取り付けられている。
  • びらびら簪:江戸時代(寛政年間)に登場した未婚女性向けの簪。本体から鎖が何本も下がっていて、その先になどの飾り物が下がっている派手なもの。裕福な商人の娘などが使ったもので、既婚者や婚約を済ませたものは身に付けない。
  • (おおぎ):「姫型」とも呼ばれる金属製の簪。扇子のような形状をしており、銀箔により家紋が捺されている。長い留め針を用いることで適切な状態に髷の姿を保つ。簪の中でも非常に稀少。現代の舞妓はこれも用い、前挿しにする。
  • 薬玉(くすだま):絹製の花弁で作った薬玉のような丸い形の飾りが付いた簪。十代の少女が使う。
  • 飾りかんざし:上記の特徴に当てはまらない趣向を凝らした簪。作り方は平打簪に準じるが優雅な花鳥風月に止まらず、俵や団扇など身近にある器物や野菜や小動物などもモチーフになる。
  • 現代の簪:最近の和服ブームなどに乗って市販されている簪。金属ではなくプラスチック製の物がほとんどで、和風でありながら洋服などにも合うようなデザインが多い。バラ洋ランなどの洋花の造花がついたもの、プラスチック製のジュエルパーツ(硝子やプラスチック製の宝石のイミテーション)などをあしらったものなど新趣向の商品に加えて、昔ながらのトンボ玉などの人気も高い。
  • 鹿の子留手絡(髷を抑えたり飾るための布、鹿の子絞りを施した縮緬が良く使われる)を留める為に使われる短い簪。一般的な簪とは逆に、飾り部分に対して髪に刺す部分が垂直に付いている。舞妓や芸妓が用いるもので、細かい細工の銀製かプラチナ製の台にヒスイやコハクなどの宝石をあしらったり、七宝を施すなどした非常に高価な芸術品である。舞妓が自分で購入するものと言うより贔屓客の贈り物である場合が多いが、どちらにせよ、彼女らの人気や客筋の確かさなどを表すバロメーターと見なされる。舞妓でも年少の者の髪型「割れしのぶ」で用いられ、2箇所の本体突起部が髷(まげ)を支える構造となっている。「割れしのぶ」の髷の中心に装着する。
  • 位置留:「橋の毛」と呼ばれるヘアピースを固定するためのごく短い簪。
  • (こうがい):髷を固定する道具で箸(はし)のような形状のものは「箸簪」とも呼ばれる。髪飾りとして使うものは中央が分かれており、髪への挿入が容易になる工夫が成されている。かつては女性同様に男性も髪を纏めるためにこれを用いた。芸者が2本以上の笄の着用を許されなかったのに対し、遊女は多くの笄を髮へ装着していくことで見分けることができる。舞妓から芸妓になるときの舞妓最後の髪型のことを「先笄」と呼び、非常に年少の舞妓が装着するのも笄である。
  • (くし):呼称の通り、の形状。結った髮にそのまま挿せる。通常は簪とは区別されるが櫛は「くし」と呼び「苦死」とも解釈されることから贈り物とする際には目録上は簪、もしくは髪飾りと呼ぶ建前が珍しくなかった。多くは鼈甲(べっこう)製の丸い櫛であるか、木に膠や漆を塗り制作された。装飾に真珠や螺鈿(らでん)、金箔が用いられたものもある。本体(脊柱)部分は装飾を施すため広い幅が設けられることが殆どである。更に、装飾は櫛の本体のみならず歯部分に及ぶことも多いが、これらは美術度が高く素材も稀少価値がある骨董品である。

花簪

やや特殊な簪としては、京都の舞妓や東京の半玉が身につける花簪がある。 花は絹の羽二重水引細工で作られた色鮮やかなもので、舞妓が付ける花簪は月ごとに決まっており、四季の移り変わりを表現し、その舞妓の芸歴・趣味を反映させる。 舞妓になって一年未満は花の一つ一つが小さく、簪の下に垂れ下がる「ぶら」が付いているが、二年目以降はぶらが取れる。年長になる程花が大振りのものになっていく傾向がある。

十一月・紅葉の花簪


  • 一月:「松竹梅」正月は「稲穂」を舞妓は髷の右、芸妓は左につける。鶴亀などを添えることも
  • 二月:「」 他に節分のおばけに付ける「くす玉」「かざぐるま」などもある。
  • 三月:「菜の花」 他に「水仙」「」「牡丹
  • 四月:「」 他に「五郎蝶
  • 五月:「」 他に「あやめ
  • 六月:「」 他に「紫陽花
  • 七月:「団扇祇園祭の期間に付ける「お祭り」
  • 八月:「すすき」 他に「朝顔
  • 九月:「桔梗」 他に「
  • 十月:「
  • 十一月:「紅葉」 他に「いちょう
  • 十二月:「まねき」(歌舞伎役者などの名前を記す木の看板)、顔見世公演の際に楽屋を訪ね贔屓の役者に簪の「まねき」に名前を入れてもらうという慣わしがある。

髪の各部に挿す簪の名称

  • 前挿し:前髪の両脇(左右のこめかみ辺り)に挿す簪をこう呼ぶ。びら簪、小ぶりな花簪など趣味的な小型の簪を使用するが、実際に挿すのは少女や舞妓などがほとんど。割れしのぶやお福髷など少女向きの髷によく見られる。
  • 立挿し:鬢窓(びんまど:鬢の上部)に立てて装着するもの。
  • 髷挿し:髷の前面根元に挿す簪。平打簪、玉簪、姫挿し、飾り簪などを使用しもっとも一般的な簪の飾り位置。ほとんどすべての日本髪に見られる。をここに通すときは中挿しと呼ぶ。
  • 位置留:髷の上に装着する「橋の毛」(細長いヘアピース)を留めるもの。
  • 根挿し:髷の後方根元に挿す簪。や平打簪などを使用し現在最も見る機会がない位置。銀杏返し先笄などに見られる。

武器

武器としての簪は、琉球古武術で使用されているジーファーと呼ばれる簪である。琉球では男も女も簪をしており、女性が唯一使うことのできる武器である。使い方としては、襲われた時にジーファーを相手に突き刺して、相手がひるんだ隙に逃げ出すというものがほとんどであるが、見えにくいので暗殺用としても使われた。

本土でも、上方では真鍮などで制作されていた簪が、江戸の武家階級ではより固い金属にとって変わったのも、護身武器としての効果を狙ったためである。

古川柳に曰く:「かんざしも逆手に持てばおそろしい」

風俗・文学上の簪

  • 平安時代の『源氏物語』には「かざし」「かんざし」と言う言葉が何度か登場するが、これは「挿頭」(儀式などの際に参加者が髪にかざす植物のこと)「髪ざし」(髪の様子)のこと、また髪飾りの「髪挿し」は髪上げの儀などで前額に挿す櫛を指しているので混同してはいけない。「簪」は冠の巾子(こじ)の根元から差し入れて冠を止めるもので当然男性用。
  • 中国語本来の「簪」は杜甫白頭掻けば更に短く、渾べて簪に勝えざらんと欲すの詩句に見られるように男性官人が冠を止めるために使ったもので、白楽天長恨歌のラストシーンで登場する楊貴妃の金の「かんざし」は「釵」である。叉と言う字を含むことから分かるように留め針は二本あり、霊となった楊貴妃は思い出の髪飾りを真っ二つにして、現世に残された皇帝に送り永遠の愛を誓う。
  • 江戸時代将軍大名の寝所では女性は普通髪を下ろしている。別に古風に則っているわけではなくて暗殺防止のための方策であった。簪も立派な武器であり、当然身につけたまま寝所に入ることは許されない。
  • なら3枚、簪、なら12~13本もの鼈甲製の髪飾りは最高級の太夫の証。「首から上の価値は家一軒」と言われる絢爛豪華な髪飾りは贔屓客からの贈り物であった。髷の周りにぐるりと指す簪は江戸吉原なら斜めに、京都の島原なら垂直に挿す。鼈甲でも斑点のないものが最も高価で、斑点のない部分だけをで貼り付けていく細工師もいた。庶民向けにはの爪などを加工した模造品が安価で売られている。(余談だが、江戸の力士の中には話題性を狙って遊女のように二枚の櫛を身につけていた変り種もいる。)

関連項目