ニセアカシア

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ニセアカシア
ニセアカシア
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : マメ類 fabids
: マメ目 Fabales
: マメ科 Fabaceae
亜科 : マメ亜科 Faboideae
: ハリエンジュ属 Robinia
: ハリエンジュ R. pseudoacacia
学名
Robinia pseudoacacia
和名
ハリエンジュ
英名
Locust tree

ニセアカシア (Robinia pseudoacacia) は北米原産のマメ科ハリエンジュ属の落葉高木。和名はハリエンジュ(針槐)。日本には1873年に渡来した。用途は街路樹、公園樹、砂防・土止めに植栽、材は器具用等に用いられる。季語は夏である。

一般的に使われる名称であるニセアカシアは、種小名pseudoacacia(「pseudo=よく似た acacia=アカシア」)をラテン語から直訳したものである。

分布

北アメリカ原産で、ヨーロッパや日本など世界各地に移植され、野生化している[1]

特徴

樹高は20-25mになる。は、初夏、白色の総状花序で蝶形花を下垂する。奇数羽状複葉で小葉は薄く5-9対。基部に1対のトゲ(托葉に由来)がある。小葉は楕円形で3-9対。5-6月頃、強い芳香のある白い蝶形のを10-15cmほどの房状に大量に咲かせる[2]。花の後に平たい5cmほどの鞘に包まれた4-5個の豆ができる。

きれいな花が咲き、観賞用として価値が高いことからもともとは街路樹や公園用として植栽された[3]。しかし、繁殖力が強く、根から根萌芽が多数出ることや、切り株からの萌芽力が極めて高いことなどで嫌われている。さらに、風で倒れやすい[4]ことなどの課題もある。棘のない園芸用の品種もある。

材の年輪は明瞭[5]で、気乾比重が0.77とミズナラと同程度に重く[6]、日本に産する広葉樹材の中でも強度が高い[3]。こうした特性を利用した床材も利用されている[3]。耐久性が高いためかつては線路の枕木、木釘、木炭、船材、スキー板などに使われた。

葉、果実、樹皮には毒性があり、樹皮を食べた馬が中毒症状を起こした例がある[7]

有用植物としてのニセアカシア

食用

  • 花を花穂ごと天ぷらにして食べるほか、新芽は和え物や油炒めで食べることができる[8]
  • 花をホワイトリカー等につけ込んでつくるアカシア酒は強い甘い花の香りがする。精神をリラックスさせる効果があると言われる。
  • 花から上質な蜂蜜が採れ、有用な蜜源植物である。ニセアカシアを蜜源として利用する地域は東日本に多く、2005年のはちみつ生産量の44%がニセアカシアによる[3]。特に長野県でははちみつの74%がニセアカシアの花を「みつ源」としている[3]

緑化資材

緑化資材として、ハゲシバリの別名で知られる。マメ科植物特有の根粒菌との共生のおかげで成長が早く、他の木本類が生育できない痩せた土地や海岸付近の砂地でもよく育つ特徴がある。このため、古くから治山砂防など現場で活用されており、日本のはげ山、荒廃地、鉱山周辺の煙害地などの復旧に大きく貢献してきた[4]北海道では、耕作放棄地炭鉱跡の空き地などの管理放棄された土地がニセアカシアの分布拡大の一因となっている[9]

近年、本来の植生を乱すなどの理由で、緑化資材に外来種を用いることが問題視され、環境省の特別要注意外来植物[10]に指定され、近年はあまり使われていない。 根系支持力が高く[11]山地砂防緑化資材として使われたことはあるが、30年を超えると地表近くを這うロープ状の根系が枯死し、根系支持力が衰えるため倒れやすくなる問題がある[4]

繁殖力が強いため、ニセアカシアの除去は簡単にはできず、除草剤の適切な処理が最適と考えられている[3]

薪炭材

生育がきわめて早く痩せ地でも育つこと、材が固くゆっくり燃焼するので火持ちが良いこと、そしてある程度湿っていても燃えることなどの利点があるため、薪炭材としても用いられていた。1950年代まで、一般家庭の暖房や炊事、風呂の焚きつけなどに使う火力は、ほとんどが薪(まき・たきぎ)や炭に依存していたため、ニセアカシアは大変有用な植物であった。北海道に多く植えられたのも、寒冷地の暖房用燃料としての需要が多かったためである。

土木資材

成長が早く、硬度があったことから、大量の坑木[12]を必要とする炭鉱鉱山が存在した地域では重宝された。

外来種問題

国交省千曲川河川事務所が千曲川(信濃川)河川敷のニセアカシア伐採実施時に設置した告知看板。

日本には1873年に導入された[13]。日本やヨーロッパの自然環境に定着したニセアカシアは、外来種として多くの問題を発生させている。ニセアカシアが侵入したことで、アカマツクロマツなどのマツ林、ヤナギ林が減少し、海岸域や渓畔域の景観構造を大きく改変させていることが確認されている[14]。ニセアカシアは単独で木本の生物多様性を低下させるだけでなく、好窒素性草本やつる植物をともなって優占し、植生を独自の構成に変えてしまう[14]。また、カワラノギクケショウヤナギなどの希少種の生育を妨害する[15]

これらの悪影響を危惧し、日本生態学会は本種を日本の侵略的外来種ワースト100に選定した。日本では外来生物法の「要注意外来生物リスト」において、「別途総合的な検討を進める緑化植物」の一つに指定されている。「要注意外来生物リスト」は「生態系被害防止外来種リスト」の作成に伴い平成27年3月に廃止された為、現在は後者のリストに記載されている。各地の河川敷などに猛烈な勢いで野生化しており、2007年秋には天竜川千曲川流域の河川敷で伐採作業が行われた[16]。一方で、要注意外来生物に指定された根拠については科学的に証明できないとして反論している報告もある[17]

ニセアカシアとアカシア

明治期に日本に輸入された当初は、このニセアカシアをアカシアと呼んでいた。後に本来のアカシア(ネムノキ亜科アカシア属)の仲間が日本に輸入されるようになり、区別するためにニセアカシアと呼ぶようになった。しかし、今でも混同されることが多い。本来のアカシアの花は放射相称の形状で黄色く、ニセアカシアの白い蝶形花とは全く異なる。

下記はすべてニセアカシアとされる。

画像

脚注

  1. ^ ハリエンジュ 国立環境研究所 侵入生物DB
  2. ^ 「たそがれの並木をゆけば/アカシアのアカシアの白き花房」松坂真美『アカシアの花」。
  3. ^ a b c d e f 崎尾均編 ニセアカシアの生態学(2009)
  4. ^ a b c 長野県林業総合センター ミニ技術情報 (PDF)
  5. ^ 木材図鑑 ハリエンジュ(ニセアカシア) - ウェイバックマシン(2017年3月23日アーカイブ分)
  6. ^ 橋爪丈夫「ニセアカシア材の利用」長野県林業総合センター技術情報52(1984)
  7. ^ ニセアカシア 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 安全性研究チーム]
  8. ^ 水野千代 横倉利江 旬の味覚 山菜料理 ほおずき書籍(1999)
  9. ^ 北海道の旧産炭地における侵略的外来種ニセアカシアの分布現況とその歴史的背景』 保全生態学研究 12(2), 94-102, 2007-11-30, NAID 110006474145
  10. ^ No.186:ハリエンジュ(Robinia pseudoacacia)に関する情報(案) (PDF)
  11. ^ 苅住曻 最新樹木根系図説 誠文堂新光社 (2010)
  12. ^ ニセアカシヤ(針槐:はりえんじゅ)”. 北海道庁 (2018年10月19日). 2020年6月12日閲覧。
  13. ^ 村上興正・鷲谷いづみ(監修) 日本生態学会(編著)『外来種ハンドブック』地人書館、2002年9月30日。ISBN 4-8052-0706-X 
  14. ^ a b 前河正昭・中越信和「海岸砂地においてニセアカシア林の分布拡大がもたらす成帯構造と種多様性への影響」『日本生態学会誌』第47巻第2号、1997年、131-143頁。 
  15. ^ 多紀保彦(監修) 財団法人自然環境研究センター(編著)『決定版 日本の外来生物』平凡社、2008年4月21日。ISBN 978-4-582-54241-7 
  16. ^ 千曲川河川事務所の取り組み 国土交通省 千曲川河川事務所
  17. ^ 真坂一彦 外来種ニセアカシアを取りまく言説とその科学的根拠、日本森林学会誌95,332-341(2013)
  18. ^ 作中では、この樹木がニセアカシアであることにも触れられている。

関連項目

外部リンク