ピアノソナタ第25番 (ベートーヴェン)
ピアノソナタ第25番 ト長調 作品79は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1809年に作曲したピアノソナタ。
概要
ひとつ前の第24番とこのピアノソナタが作曲された1809年は、『運命交響曲』(1808年)、『田園交響曲』(1808年)、『皇帝協奏曲』(1809年)などの大作が生み出されていた時期にあたる。一方、ピアノ曲の分野では小品が量産されており、前作同様この曲も小さな規模にまとめられている。ベートーヴェンは1810年7月21日に楽譜出版社のブライトコプフ・ウント・ヘルテルに宛てて「ト長調のソナタには『やさしいソナタ』もしくは『ソナチネ』と名付けて下さい」と書簡で希望を伝えており、初版譜ではそれに従って「ソナチネ」と題された[1]。その名の示す通り、ベートーヴェンのピアノソナタとしては演奏も容易である[2]。
第1楽章にカッコウの鳴き声に似た箇所があることから、このソナタは「かっこう」と呼ばれることがある[1][2]。楽譜は1810年9月にブライトコプフ社から出版された[1]。曲は誰にも献呈されていない。
演奏時間
約9分半[3]。
楽曲構成
第1楽章
ソナタ形式。「ドイツ風に」と指定されており、レントラーが意識されている[1][2]。序奏を置かず、曲は第1主題の提示に始まる(譜例1)。
譜例1
第2主題はニ長調に出される経過的な走句である(譜例2)。
譜例2
提示部の反復後、展開部となる。展開部は専ら第1主題の要素が扱われており、手の交差によるパッセージでカッコウの声が繰り返される[4]。再現部は基本に忠実に進められる。なお、再現部の後にもう1度展開部から反復するように指示されている[5]。コーダも短く簡素であり、前打音による主題の装飾が彩りを添え、上昇するアルペッジョで楽章を終える。
第2楽章
三部形式[4]。メンデルスゾーンによる無言歌集の舟歌を思わせる[4]。ゴンドラの上で二重唱を歌うような譜例3の主題に始まる[2]。
譜例3
譜例3の歌が終わると1小節の経過を挟んでただちに中間部となる。中間部ではアルペッジョの伴奏の上に譜例4が歌われる[5]。
譜例4
譜例3の再現を経てコーダとなる。コーダでは中間部の伴奏音形の上に譜例3の主題が奏でられ、最後は優しく閉じられる。
第3楽章
- Vivace 2/4拍子 ト長調
ロンド形式[4]。冒頭から軽快な主題が提示される(譜例5)。この主題はピアノソナタ第30番の冒頭主題と密接に関連している[2]。ロンド主題は譜例5を含む8小節とその後に続く8小節から構成される[4]。
譜例5
譜例5を基にした第2主題はホ短調で出される。
譜例6
ロンド主題が三連符の伴奏に乗って出された後、ハ長調の主題が勢いよく現れる(譜例7)。
譜例7
その後、再度姿を現すロンド主題の伴奏は16分音符に細分化される[6]。ロンド主題を素材としたコーダは最後に向かってクレッシェンドしていくが、突如音量を落として弱音で全曲の幕を閉じる。
出典
参考文献
- 大木, 正興『最新名曲解説全集 第14巻 独奏曲I』音楽之友社、1980年。ISBN 978-4276010147。
- 楽譜 Beethoven: Piano Sonata No.25, Breitkopf & Härtel, Leiptig
外部リンク
- A lecture by András Schiff on Beethoven's piano sonata op. 79, The Guardian
- ピアノソナタ第25番の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
- 32のピアノソナタに関するアルフレート・ブレンデルの考察
- ピアノソナタ第25番 - オールミュージック
- ピアノソナタ第25番 - ピティナ・ピアノ曲事典