除染


除染(じょせん)とは、放射能汚染が生じた際、放射性物質あるいは放射性物質が付着した物を除去し、もしくは遮蔽物で覆うなどして、人間の生活空間の線量を下げることである[1]。広義には、有毒な化学物質などの除去も含み[2]、特に軍事関連では生物兵器への対応も含まれる[3]。ここでは特に断らない限り、放射性物質の除染について説明する。
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人体を除染する場合、放射性物質が付着した衣類を脱ぐことで汚染の90%以上が除去される。汚染された衣類や頭髪は洗濯・洗髪によって除染する。皮膚(開放創が無い場合)は拭きとりのほか、汚染の程度によっては界面活性剤や油脂を使って拭き取る[4]。
土壌の除染方法には、表土削り取り、水による土壌撹拌・除去、表土と深層土の反転耕などがある[5][6]。
- 表土の削り取り
- 除染効果が高い一方で、発生した廃棄土の処理問題や肥沃な土壌が失われるといった課題がある[6]。汚染濃度が高い場合には、固化剤などにより飛散防止措置を取ることが推奨される[5][6]。
- 芝生の刈り取り
- 芝生地においては、放射性物質は地上部のおよそ10mmにあるサッチ(芝の刈りカス)に大半が残留し、その下の土壌層にはほとんど移行しないため、サッチの回収のみで線量が大きく下がるという調査結果もある[7]。
- 水による攪拌
- 水を用いる場合、土壌中のセシウムは粘土質に吸着されているため、粘土含量の少ない土壌では効果的に(粘土を巻き上げて)除去できない。通常水は固液分離後に排出されるが、水に放射性物質が溶出した場合、フィルターや吸着物で処理する。
- 反転耕
- もしくは天地返し等も検討される。汚染物質を持ち出さない簡便な手段だが、放射性物質は除去されないので、高濃度汚染地域で行うには不向きである。また地下水の汚染が懸念される場合もある。
- バイオレメディエーション
- 高吸収植物による除染も考案されている。日本では2011年の福島第一原子力発電所事故を受けてヒマワリによる除染の実証実験が行われたが、除染効率が低く実用的でないと結論された[8][9]。
- 多孔質粘土類を用いる方法
- 愛媛大学農学部の逸見彰男によるゼオライトを用いる方法の研究などがあるが、実用化には課題が残っている[10][11]。
2023年9月1日、環境省が、東京電力福島第一原発の事故後の除染で出た「除去土壌」を全国で再生利用する事業について、国際原子力機関(IAEA)がとりまとめた報告書の内容を公表した。報告書は再生利用には前向きな理由があり、推進すべきものであるとした。最終処分量を減らすために「福島県外での実証事業は非常に重要」と位置づけ、再生利用の受け入れを拡大するための広報活動の重要性を強調し、放射線量の測定データを提供することで国民の理解を醸成しうるとした[12]。
2024年9月10日、東京電力福島第一原発の事故後の除染で出た「除染土」を全国で再生利用する事業について、国際原子力機関(IAEA)は環境省によるこれまでの取り組み内容や手法がIAEAの安全基準に合致しているとの報告書をまとめた。除染土の受け入れ先とされた東京都の新宿御苑や埼玉県所沢市などでは除染土の利用に反対する声が上がっていたため、政府の依頼でIAEAが2023年度から事業の評価を進めていた[13]。
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住宅の庭や公園にある樹木等の除染については、汚染された樹木を全て伐採することは、廃棄量が膨大となるうえ、砂漠地を生み出す恐れもあるため、別の手段を模索すべきとされる[7]。
別の手段の例として、剪定や間伐を応用し、間引きや強度の透かし剪定を行う等で枝葉を半分程度にすれば、除染の効果が現れるとする説がある[7]。
また、雨に当たる部分の線量は特に高いため、落葉樹では幹の高圧洗浄により、線量の低下を期待できる[7]。また、表土および表層の落葉の除去も効果的である[7]。
針葉樹においては、スギなどでは3、4年で葉が更新されるため、先に枝打ちして丁寧に落葉を回収することで、放射線量の自然減衰以上の効果が期待できる[7]。
以上のように、緑地の保全という観点からは、植物の新陳代謝を考慮した除染を行うことが望ましいとされる[7]。
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森林については、もともと放射性物質の流出が少なく、むしろ除染の作業により放射性物質の流出が増大するリスクが高いため、除染を行うよりも、入林を規制して放射線量が自然に低下するのを待つ方がよいとされる[14]。
だが、日本では、人口密度が高く、農地や住宅が森林と隣接することが多いうえに、山林に出入りする生活スタイルも古くからみられるため、2011年の福島第一原子力発電所事故の際に、森林の除染についても慎重に検討する必要があるとされた[14]。
森林において、飛散した放射性物質はまず林冠を汚染し、その後落葉等により徐々に土壌に移っていくが、汚染された後に森林の土壌を除染することは、作業により土壌が森林の外に流出して周辺を汚染するリスクが高いため、非常に難しいとされる[14]。
森林総合研究所の調査で、除染として落葉を除去することが、落葉広葉樹林では効果が高く、常緑樹林では効果が低いとわかった[14]。だが、森林の除染については、汚染の実態も含めて、依然として研究の事例が少なく、課題が多いのが実情である[14]。

平成23年8月26日に原子力災害対策本部から「市町村による除染実施ガイドライン」が発表された[15]。
その後、放射性物質汚染対処特別措置法の施行により、除染は環境省の所管になり、「除染関係ガイドライン」が定められた[16]。
平成24年4月27日、林野庁は「森林における放射性物質の除去及び拡散抑制等に関する技術的な指針」を公表し、森林の除染についての技術指針を定めた[17]。
この技術指針では、住居等近隣や住民等が日常的に入る森林以外についても、拡散防止の観点から、間伐や、表土流出防止工の実施を重視している。
これは、放射性物質の影響により林業としての間伐が行われなくても、除染としての間伐を実施しないと、森林の荒廃による土砂等の流出が懸念されること、また、落葉等の除去は効果的だが地表を撹乱するデメリットがあること、などを考慮したものである[18]。
林野庁の調査では、間伐は、「空間線量率の低減」、「放射性物質の除去」、「拡散防止」の3つの効果を持っており、森林の公益的機能を維持しつつ除染を行える手段として、非常に有効であるという[18]。
- ↑ “除染とは何か?|除染の進め方と必要性について|除染についての基礎情報”. 除染情報サイト. 環境省. 2020年2月22日閲覧。
- ↑ 【除染】 - デジタル大辞泉(kotobank 内)
- ↑ “3 核・生物・化学(NBC)兵器への対応”. 防衛省. 2026年5月24日閲覧。
- ↑ 体に付着した放射性物質の除去(除染) - 広島大学放射線災害医療総合支援センター
- 1 2 “農地除染対策の技術書概要”. 農林水産省 (2013年2月). 2026年5月24日閲覧。
- 1 2 3 “土壌攪拌(代かき)による放射性物質低減技術の実施作業の手引き”. 農研機構 (2015年7月1日). 2026年5月24日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 水庭千鶴子「公園の植物と放射性物質 緑地の保全と除染」(『グリーン・エージ』2012年7月号、財団法人日本緑化センター)より。
- ↑ ヒマワリ除染、効果ありませんでした… - ウェイバックマシン(2011年9月23日アーカイブ分) - YOMIURI ONLINE(読売新聞 2011年9月15日)
- ↑ 「ヒマワリは除染効果なし 農水省が実験結果公表」『アサヒ・コム』2011年9月14日。
- ↑ “放射能汚染土壌の除染実用化技術の開発”. 環境省 (2013年). 2026年5月24日閲覧。
- ↑ 「夢の扉+」6月9日 #106「人工ゼオライトで郷土を再生」. YouTube. TBS. 2013年6月2日. 2020年2月22日閲覧.
- ↑ “除染土の再利用「推進すべき」、IAEA報告 各地で反対の声も:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞. 2024年9月11日閲覧。
- ↑ “除染土の再生利用「安全基準に合致」 IAEAが報告書:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞. 2024年9月11日閲覧。
- 1 2 3 4 5 高橋正通「森林と放射性物質」(『グリーン・エージ』2012年7月号、財団法人日本緑化センター)より。
- ↑ “市町村による除染実施ガイドライン”. 原子力災害対策本部 (2011年8月26日). 2026年5月24日閲覧。
- ↑ “政策資料・ガイドライン”. 除染情報サイト. 環境省. 2026年5月24日閲覧。
- ↑ “森林における放射性物質の除去及び拡散抑制等に関する技術的な指針”. 林野庁 (2012年4月27日). 2026年5月24日閲覧。
- 1 2 中村道人(林野庁研究・保全課技術開発推進室長)「森林の除染について」(『グリーン・エージ』2012年7月号、財団法人日本緑化センター)より。
- 中村道人(林野庁研究・保全課技術開発推進室長)「森林の除染について」(『グリーン・エージ』2012年7月号、財団法人日本緑化センター)
- 除染情報サイト - 環境省