戦闘員

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戦闘員(せんとういん、英語: combatantフランス語: combattantドイツ語: Kombattant)とは、武力紛争において、敵対行為(戦闘行為)に直接参加する権利のある者を指す。交戦者とも呼ばれる。

概要[編集]

武力紛争における国際法では、すべての人は「文民」か「戦闘員」の二元的なカテゴリーに分類される。戦闘員とは原則として紛争当事者の軍隊の構成員のことである。
軍隊の構成員は原則として戦闘員であるが衛生要員(軍内部の衛生機関・衛生部隊に属し、傷病者の捜索・収容・輸送・治療・疾病予防など、もっぱら医療上の任務に従事する者)と宗教要員(聖職者など、もっぱら宗教上の任務に従事する者)は戦闘員ではない。衛生要員・宗教要員が敵の権力内に陥った場合は捕虜にはならず、特別の保護を受ける。また、軍事産業の民間請負業者は軍隊に編入されている場合は軍隊の構成員なので戦闘員だが、軍隊に編入されていない場合は文民である。
なお、予備兵役については、現役の任務から離れて事実上文民としての生活を営んでいるならば軍隊の構成員とはみなされない。
戦闘員は、武力紛争の間は、国際法上合法的に敵対する戦闘員を攻撃することができ、また、敵の権力内に陥った場合は、捕虜としての待遇を受ける。戦闘員は必ず「自己と文民たる住民を区別する」義務(区別義務)があり、すなわち戦闘員は自らが戦闘員であることを外見上認識できるようにしなければならない。これは攻撃対象は戦闘員のみであり、文民を攻撃してはならないという軍事目標主義に由来するものである。軍事目標主義のためには、相手方が誰が文民で誰が戦闘員かを外見から認識できなければ成り立たないので区別義務が生じる。
その他にも戦闘員は戦闘行為を行うに当たっては国際法を遵守しなければならず、[1]無制限な戦闘が許されているわけではない。国際法に違反した戦闘が行われた場合、その行為は「戦争犯罪」となる。[2]


軍隊[編集]

部下の行動について責任を負う司令部の下に組織されたあらゆる武装行為主体(兵力・集団・部隊など)は軍隊とされる。
この定義は以下の3つの要件を含んでいる。
①紛争当事者の1つと結びついていること
②組織されていること
③責任ある指揮に基づいていること
以上の要件を満たせば軍隊であり、当該軍隊が属する政府やその敵対勢力による承認は不要である。
したがって、州兵、税関、警察隊、国境警備隊など、必ずしも国内法上は軍隊の資格を有しない武装行為主体であっても、事実上軍隊としての任務を引き受けている場合、上記の要件さえ満たせば国際法上は軍隊とみなされる。
なお、準軍事的な法執行機関を軍隊に編入した場合は敵対する紛争当事者に通告する。[3]

軍隊の種別[編集]

戦闘員の属する軍隊は以下の4つの種別に分類される。正規軍以外はすべて不正規軍である。

  1. 正規軍…主権国家が保有する正式な軍隊
  2. 民兵隊…戦時に政府が人民を招集して組織した団体
  3. 義勇隊…有志の人民が組織した団体
  4. 組織的抵抗運動団体…占領地の住民が占領軍に抵抗するために組織した武装団体。レジスタンス、パルチザンとも呼ばれる。

群民兵[編集]

群民兵とは、未だ占領されていない地域の住民が、敵の接近に当たり正規の軍隊を編成する時間的余裕がない場合に、侵入する軍隊に抵抗するために自発的に武器をとる者である。
群民兵は、自発的に行動するという定義から、必然的に軍隊に求められる十分な組織性が欠如している。したがって群民兵は厳密には軍隊の構成員ではない。
しかしながら、群民兵は一定の条件[4]を遵守すれば戦闘員資格が与えられ、文民ではなくなる。
一方、単に自発的・散発的・非組織的に敵対行為に直接参加するだけのその他の者はすべて、文民とみなされる。[5]


組織された武装集団[編集]

「国家対国家」の国際的武力紛争に国際法が適用されるのはもちろんであるが、1977年のジュネーヴ諸条約第2追加議定書は、「国家対非国家」の非国際的武力紛争(内戦内乱)の場合にも国際法を適用することとした。[6]なお、伝統的な国際法においては、反徒・反乱団体を「交戦団体承認」することで、反徒・反乱団体を国際法上の地位を有する交戦団体として認めるという制度がある。交戦団体承認を受けた反乱団体は国家に準ずる存在となり、「国家対国家」の国際的武力紛争に適用される国際法が適用され、戦闘員資格を与えられることになる。[7]
交戦団体承認を受けない反徒・反乱団体・分離独立運動団体などの戦闘部隊には戦闘員資格はない。しかしながら、「部下の行動について責任を負う司令部の下に組織された武装行為主体」という定義さえ満たせば国際法上の軍隊であって、その構成員は文民ではない。[8] このとき、反乱団体などが有する軍隊を特に「組織された武装集団」と呼ぶ。
「組織された武装集団」はさらに「反乱軍」と「その他の組織された武装集団」に分類される。

反乱軍[編集]

国の軍隊の一部が政府に敵対し、それが独立した場合、「反乱軍」となる。反乱軍はもはや国の軍隊の一部ではないが、かつての指揮系統を維持するなど十分に組織化されており、反乱軍そのものが国の軍隊とは別個の国際法上の軍隊である。

その他の組織された武装集団[編集]

政府に敵対する反乱団体などが、主に文民たる住民から構成員を採用する。 国家の軍隊に匹敵する規模・練度であることは少ないものの、紛争当事者のために敵対行為を行うに十分なほど、軍事面で組織化されている。[9]


戦闘員資格[編集]

国際法上、戦闘員資格を普遍的に定めたのは「陸戦の法規慣例に関する条約」(ハーグ陸戦条約)の条約附属書である「陸戦の法規慣例に関する規則」(ハーグ陸戦規則)第1条、第2条、第3条である。また、「捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約」(ジュネーヴ第3条約)第4条A項にもハーグ陸戦規則とほぼ同様の規定がある。これらは正規軍の構成員に無条件で戦闘員資格を与えている一方、不正規軍の構成員(民兵、義勇兵、組織的抵抗運動団体の構成員)と群民兵には条件つきで戦闘員資格を与えている。
その後、「1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書Ⅰ)」(ジュネーブ諸条約第1追加議定書)第43条、第44条では、正規軍・不正規軍を問わず、すべての軍隊の構成員に一律の条件で戦闘員資格を与えている。 現在の一般国際法において、ハーグ陸戦規則・ジュネーヴ第3条約における条件とジュネーブ諸条約第1追加議定書における条件のどちらが妥当するかは議論が続いている。[10]

以下にそれぞれの戦闘員資格を表で示す。

ハーグ陸戦規則 ジュネーヴ第3条約 ジュネーブ諸条約第1追加議定書
正規軍及びそれに編入された民兵隊・義勇隊の構成員 無条件 無条件 【1】部下の行動について責任を負う司令部の下にあること【2】攻撃又は攻撃の準備のための軍事行動を行っている間、自己と文民たる住民を区別すること。ただし、敵対行為の性質上、区別することができない戦闘員については、交戦の間と参加する攻撃に先立つ軍事展開をしているときに敵に目撃されている間は、武器を公然と携行すること。
民兵 【1】部下について責任を負う1人の者が指揮していること。【2】遠方から認識することができる固着の特殊標章を有すること【3】武器を公然と携行していること【4】戦争の法規及び慣例に従って行動していること 【1】部下について責任を負う1人の者が指揮していること。【2】遠方から認識することができる固着の特殊標章を有すること【3】武器を公然と携行していること【4】戦争の法規及び慣例に従って行動していること
義勇兵
組織的抵抗運動団体の構成員 戦闘員資格を認めない
群民兵 占領されていない地域の住民が敵の接近に当たり正規の軍隊を編成している時間的余裕がない場合に、【1】公然と武器を携行していること【2】戦争の法規及び慣例に従って行動していること 占領されていない地域の住民が敵の接近に当たり正規の軍隊を編成している時間的余裕がない場合に、【1】公然と武器を携行していること【2】戦争の法規及び慣例に従って行動していること

諜報活動[編集]

一般に軍隊の構成員であって、諜報活動(情報収集)[11]を行う者は間諜スパイ)として取り扱われ、捕虜の待遇は与えられない。ただし、以下の場合は例外である。
(ⅰ)情報収集を行っている間に、軍服を着用している場合は、その情報取集行為は諜報活動ではなく、したがって間諜とはならない。
(ⅱ)敵対する紛争当事者が占領する地域の住民は、①虚偽の口実に基づく行為による情報取集と②故意にひそかな方法での情報収集のみが諜報活動とされ、それ以外は情報収集をしても諜報活動には当てはまらない。また、例え諜報活動(虚偽の口実に基づく行為による情報取集、故意にひそかな方法での情報収集)をした場合でも、諜報活動を行っている最中に敵に捕らえられない限り、間諜とはならない。
(ⅲ)敵対する紛争当事者が占領する地域の住民でない者は、諜報活動を行っても、所属軍隊に復帰する前に敵に捕らえられない限り、間諜とはならない。

傭兵[編集]

以下の6つの条件にすべて当てはまった場合は傭兵であり、戦闘員としての権利は認められない[12] 条件に1つでも当てはまらない場合は傭兵ではない。

  • 武力紛争において戦うために現地または国外で特別に採用されていること
  • 実際に敵対行為に直接参加していること
  • 主として私的な利益を得たいという願望により敵対行為に参加しており、紛争当事者の軍隊の類似の階級に属するものや類似の任務に従事する戦闘員に対して支払われる報酬額を相当上回る額を支給されること
  • 紛争当事者の国民ではなく、紛争当事者が支配・占領している地域の住民でもないこと
  • 紛争当事者の軍隊の構成員ではないこと[13]
  • 紛争当事者でない国が自国の軍隊の構成員として公の任務で派遣した者でないこと

なお、「傭兵の募集、使用、資金供与及び訓練を禁止する条約」では締約国が傭兵を募集・使用・資金援助・訓練することを犯罪とし、さらに傭兵を犯罪者として処罰すべきとしている。

子ども兵士[編集]

ジュネーヴ諸条約第1追加議定書児童の権利に関する条約では、国が15歳未満の児童を自国の軍隊に採用したり戦闘行為に参加させることを禁止している。(少年兵の禁止)
その後、2002年に発効した「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書」(武力紛争選択議定書)では、各国は戦闘員の年齢制限を15歳未満から18歳未満に引き上げるべきとし、15歳以上18歳未満の児童を軍隊に採用する際は、⑴真に志願する児童を対象とすること、⑵児童の父母や保護者に事情を知らせ同意を得ること、⑶児童に与えられる任務について十分な情報を提供すること、⑷採用前に児童の年齢について信頼できる証拠を得ること、を確保する必要があるとした。
また、国際刑事裁判所(ICC)は、強制的なものであろうと児童自身の志願に基づくものであろうと、15歳未満の者を兵士として採用したり戦闘行為に参加させることは明確な戦争犯罪であるとしている。
15歳未満の児童が戦闘行為に参加し敵の権力内に陥った場合はジュネーヴ諸条約第1追加議定書に基づき特別の保護を受ける。

不法戦闘員[編集]

国際法上、敵対行為に直接参加するためには戦闘員資格の条件を満たしている必要がある。戦闘員資格のない者が敵対行為に直接参加し、その結果敵の権力内に陥った場合、「不法戦闘員」(unlawful combatant)もしくは「敵性戦闘員」(enemy combatant)と呼ばれる。武力紛争法においては、あらゆる人は必ず戦闘員か文民かのいずれかに属するのであり、戦闘員資格がない以上は、不法戦闘員は文民である
文民であるにもかかわらず敵対行為に直接参加したことは犯罪であり、抑留国はその点につき刑事責任を追及することができる。
ただし、不法戦闘員が敵の権力内に陥った場合はジュネーブ諸条約共通3条が適用され、人道的に処遇しなければならない。[14]

フィクション[編集]

一部のフィクション作品では、善玉と敵対する悪の組織における特別な肩書のない戦闘要員を「戦闘員」と呼んでいる場合もある。日本特撮番組では、『仮面ライダー』に登場する「ショッカー戦闘員」(その名の通りショッカーの戦闘員)などが有名である。

脚注[編集]

  1. ^ PKO(国連平和維持活動)は本来は休戦・停戦した場合に中立的な立場から停戦監視などを行うものであるので、武力紛争法は直接に適用されないが、現実的にはPKO要員が戦闘に巻き込まれることは往々にしてあることなので、「国際連合要員及び関連要員の安全に関する条約」及び「国連部隊による国際人道法の遵守」(国連事務総長の告示)によって事実上、武力紛争法の原則が適用される。
  2. ^ 戦争犯罪については刑事責任を負うが、それをもって戦闘員資格を失うわけではない
  3. ^ 法執行機関は通常、国内の治安維持等を目的としたものであり武装していても『事実上軍隊としての任務を引き受けている場合』に当たらないので、軍隊に編入しない限り、それ自体は国際法上の軍隊とはみなされない。
  4. ^ 「公然と武器を携行すること」と「戦争の法規慣例に従って行動していること」の2つが条件である。
  5. ^ 文民であるにもかかわらず敵対行為に直接参加した者は犯罪人として処罰される
  6. ^ 民族解放戦線(植民地支配及び外国による占領並びに人種差別体制に対して戦う武力紛争)は伝統的には内戦(すなわち非国際的武力紛争)に分類されると考えられてきたが1977年のジュネーブ諸条約追加議定書では国際的武力紛争に分類された。
  7. ^ 実際には、交戦団体承認の制度が用いられることはほとんどなかった。
  8. ^ 戦闘員資格はないので敵の権力内に陥っても捕虜としての待遇は与えられないず、敵対行為については刑事責任を負うが、ジュネーヴ諸条約第2追加議定書に基づいた人道的な処遇が保障される。
  9. ^ 当然ながら、暴徒、テロリスト、海賊、暴力団、人質犯などの単なる「組織的犯罪者」と「その他の組織された武装集団」は区別される。前者のような単なる組織的犯罪集団は『責任ある指揮に基づいていること』・『紛争当事者の1つと結びついていること』という軍隊に求められる要件が欠如している。
  10. ^ 、ジュネーブ諸条約第1追加議定書はジュネーヴ第3条約の規定を補足・拡充するものであるので、少なくともジュネーブ諸条約第1追加議定書の締約国はその規定に拘束される。なお、ジュネーブ諸条約第1追加議定書の締約国は2017年1月末現在、174ヵ国である。
  11. ^ 主に敵情視察と地形探知のために行われる。
  12. ^ そもそも戦闘員とは紛争当事者の軍隊の構成員であり、「紛争当事者の軍隊の構成員ではないこと」という5つ目の条件を満たす以上、傭兵に戦闘員資格がないことは当然である。にもかかわらずこのような規定があるのは、第2次世界大戦以降の民族解放戦線での政府側が雇った傭兵の残虐行為が国際社会から厳しく批判されたことを受け、傭兵に対する非難の意味を込め戦闘員資格がないことを明示的にするためである。
  13. ^ フランス軍の外人部隊はこの条件を満たさないため、傭兵には当てはまらない。
  14. ^ ジュネーヴ諸条約共通3条は条文の文言上は非国際的武力紛争のみに適用されるかのように思えるが、ニカラグア事件における国際司法裁判所(ICJ)の判決により、解釈上あらゆる武力紛争に適用されることが示された。
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関連項目[編集]

外部リンク[編集]