子供の領分

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『子供の領分』自筆譜表紙(1906~1908)

子供の領分』(こどものりょうぶん、原題:Children's Corner)は、フランスの作曲家クロード・ドビュッシー1908年に完成させたピアノのための組曲である。

この作品は当時3歳だったドビュッシーの娘クロード・エマ(愛称 “シュシュ” Chouchou)のために作曲された。この作品は子供に演奏されることを意図したものではなく、あくまでも大人が子供らしい気分に浸ることを目的とした作品である[1]。この点において、シューマンの『子供の情景』とも通じる精神がある。

概要[編集]

『子供の領分』は、6つの小品からなる組曲であり、英語のタイトルが付されている。1905年、ドビュッシーは前妻リリー・テクシエと離婚し、銀行家夫人だったエマ・バルダックと駆け落ち同然に再婚する。そしてその年、一人娘のクロード・エマが誕生した。43歳にして初めて授かったこの子を、ドビュッシーは溺愛した。この作品は、彼女に捧げられている。題名が英語表記なのは、エマ夫人の英国趣味に影響されたものと言われている。

1908年、デュラン社から出版され、同年12月18日パリにてハロルド・バウアーによって初演された。1911年アンドレ・カプレによってオーケストレーションがなされ、同年3月25日にその初演が行われた。

曲の構成[編集]

音楽・音声外部リンク
全曲を試聴する
Debussy:Children's Corner - アラン・プラネス(P)による演奏。France Musique公式YouTube。《Piano(Original)》
Debussy:Petite Suite - 菊正憲指揮オーケストラ・アンサンブル・フォルツァによる演奏。オーケストラ・アンサンブル・フォルツァ公式YouTube。《Orch
  • 第1曲 「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」 (Doctor Gradus ad Parnassum)
    クレメンティの練習曲集『グラドゥス・アド・パルナッスム』(パルナッスム山への階梯)のパロディであり、練習曲に挑戦する子供(シュシュ)の姿を生き生きと描いたものとされる[2]。退屈な練習に閉口する子供の心理を表現した曲[2]。ドビュッシーは、モデラートで始まりスピリトーゾで終わるこの曲を「毎朝朝食前に弾くべき曲」としている[2]
  • 第2曲 「象の子守歌」 (Jumbo's Lullaby)
    五音音階による旋律と2度の和音が異国情緒を掻き立てる。ドビュッシー自身の命名は“Jumbo's Lullaby”であったが、フランス語では Jumbo と Jimbo の発音が同じようになることから、出版社によるミススペル(Jimbo's Lullaby)が広く定着することとなった(現在のデュラン社による新校訂版では、元来の綴りに戻されている)。
  • 第3曲 「人形へのセレナード」 (Serenade of the Doll)
    「人形のセレナード」とも。この曲集で最も早く作曲され、1906年には単曲の楽譜も出版されている。「象の子守歌」と同様、五音音階の主題に基づいている。アルフレッド・コルトーは、フランス人であるドビュッシーが、表題の英語表記を “Serenade for the Doll” とするべき所を、of と誤って表記したのではないかと指摘している[3]
  • 第4曲 「雪は踊っている」 (The Snow is Dancing)
    静かに降る雪を、窓辺で飽きることなくじっと眺めている子供たち。ゆっくり舞いながら降りてきた雪の妖精が、地表を白いビロードで覆う様を表現したトッカータ[2]。ドビュッシーは、イギリスの妖精を題材としたアーサー・ラッカムのイラストレーションから、インスピレーションを得たという[4]
  • 第5曲 「小さな羊飼い」 (The Little Shepherd)
    三部形式で、付点リズムの単旋律が静かに歌われる。
第6曲「ゴリウォーグのケークウォーク」…主題部分
第6曲「ゴリウォーグのケークウォーク」…中間部分
第6曲「ゴリウォーグのケークウォーク」譜例。【上】主題部分。【下】中間部分。
  • 第6曲 「ゴリウォーグのケークウォーク」 (Golliwogg's Cakewalk)
    本曲集の中で一番有名な曲であり、ゴリウォーグ[5]とは、フローレンス・アップトン(Florence Upton)[6]の絵本(1895など)に出てくる黒人の男の子人形のキャラクターの名前で、ケークウォークは黒人のダンスの一種である。この曲は、西洋音楽とアフリカの黒人音楽の接触の初期の例としてしばしば挙げられる[4]。ケークウォークの中間部では、ワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』の冒頭部分が引用されている。

関連する楽曲[編集]

  • ガブリエル・フォーレ:組曲『ドリー』(エマと先夫との娘の誕生日祝いに書かれた曲を中心に編まれた)
  • ウジェーヌ・ボザ:『夏山の一夜』(第2楽章「急流のほとりで」に「雪は踊っている」の中間部のメロディが引用されている)

「子供の領分」が使用された作品など[編集]

楽曲[編集]

テレビ[編集]

  • ルパン三世 (TV第2シリーズ) - 第130話「ルパン対奇人二面相」にて『ゴリウォーグのケークウォーク』をオーケストラ編曲したものが登場。作中の悪役である《ムッシュ・ダレ》のテーマソングのような使われ方をしていた。
  • ウルトラQ dark fantasy - 第24話「ヒトガタ」にて第2曲『象の子守歌』、第3曲『人形へのセレナード』、第4曲『雪は踊っている』、第5曲『小さな羊飼い』がBGMとして使用されている(ただし、エンディングでは『子供の情景』と表記されていた)他、第25話「闇」でも第2曲『象の子守歌』と第5曲『小さな羊飼い』が使用されている(ただし、エンディングでの記述は無い)。
  • YKK AP - 2005年に放送したテレビCMにて第1曲『グラドゥス・アド・パルナッスム博士』が使用されていた。
  • 日本和装 - テレビCMにて第6曲『ゴリウォーグのケークウォーク』が使用されていた。

ゲーム[編集]

注釈[編集]

  1. ^ Maurice (2007), 2p.
  2. ^ a b c d Maurice (2007), 3p.
  3. ^ Cortot (1922), 15p.
  4. ^ a b Maurice (2007), 4p.
  5. ^ ゴリウォーグ(英語版ウィキペディア)
  6. ^ フローレンス・アップトン(英語版ウィキペディア)

参考文献[編集]

  • Cortot, Alfred (1922). The piano music of Claude Debussy. Kessinger Pub Co.
  • Hinson, Maurice (2007). Children's corner: for the piano. Alfred Pub Co.

外部リンク[編集]