北方ジャーナル事件

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最高裁判所判例
事件名 損害賠償事件
事件番号 昭和56(オ)609
1986年(昭和61年)6月11日
判例集 民集40巻4号872頁
裁判要旨
  1.  雑誌その他の出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めは、憲法21条2項前段にいう検閲に当たらない。
  2.  名誉侵害の被害者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対して、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる。
  3.  人格権としての名誉権に基づく出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めは、右出版物が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合には、原則として許されず、その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り、例外的に許される。
  4.  公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によつて命ずる場合には、原則として口頭弁論又は債務者の審尋を経ることを要するが、債権者の提出した資料によつて、表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であり、かつ、債権者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があると認められるときは、口頭弁論又は債務者の審尋を経なくても憲法21条の趣旨に反するものとはいえない。
大法廷
裁判長 矢口洪一
陪席裁判官 伊藤正己 谷口正孝 大橋進 牧圭次 安岡滿彦 角田禮次郎 島谷六郎 長島敦 高島益郎 藤島昭 大内恒夫 香川保一 坂上壽夫
意見
多数意見 矢口洪一 伊藤正己 大橋進 牧圭次 安岡滿彦 角田禮次郎 島谷六郎 長島敦 高島益郎 藤島昭 大内恒夫 香川保一 坂上壽夫
意見 谷口正孝(3. - 4.について)
反対意見 なし
参照法条
憲法13条 憲法21条 民事訴訟法757条2項 民事訴訟法760条 民法1条ノ2 民法198条 民法199条 民法709条 民法710条 刑法230条ノ2
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北方ジャーナル事件(ほっぽうジャーナルじけん)は、日本公職選挙候補者名誉毀損に当たる出版物出版の事前差し止めを求め、これを認められた相手方の出版社が損害賠償を求めた事件の通称。人格権に基づく差止請求権が認められるか、事前差し止めが検閲に当たるかが問われ、表現の自由に関する判例として知られている。

概要[編集]

被告・五十嵐広三(元旭川市長)は、1979年北海道知事選挙に立候補を予定していたが、原告(出版社)の発行する雑誌『北方ジャーナル』が2月23日に発売を予定していた4月号に、「ある権力主義者の誘惑」というタイトルの記事があり、記事の全体にわたって被告の名誉を毀損する記載があることを知った。具体的には、被告について「嘘と、ハッタリと、カンニングの巧みな少年」「言葉の魔術者であり、インチキ製品を叩き売っている(政治的な)大道ヤシ」「ゴキブリ共」などと書かれ、さらに被告の私事についても触れ、結論としては被告が北海道知事として相応しくないという記述がされていた。

そこで、被告は1979年2月16日、札幌地方裁判所に当該号の出版の差し止めを求める仮処分を申請し、同日認められた。原告はこの差し止めが検閲であり違法であるとして国とIに損害賠償を請求。一審は請求を棄却、二審も控訴を棄却したので、原告側が上告

1986年6月11日最高裁判所大法廷は、出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差し止めは憲法第21条にいう検閲にあたらないとして、上告を棄却した。また、名誉を侵害された者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対して侵害行為の差し止めを求めることができる(差止請求権が認められる)とした。その上で、裁判所が出版等の事前差し止めを行うことができる要件を示した。

関連項目[編集]