位相空間

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数学における位相空間(いそうくうかん, 英語: topological space)とは、集合にある種の情報(位相、topology)を付け加えたもので、この情報により、連続性や収束性といった概念が定式化可能になる。

位相空間論は位相空間の諸性質を研究する数学の分野である。

集合{1,2,3}における、開集合の公理を満たす部分集合の族や満たさない族の例。上二段の例はそれぞれ開集合の公理を満たしているが、最下段の例は、左側は{2}と{3}の和集合である{2,3}が入っていないため、右側は{1,2}と{2,3}の共通部分である{2}が入っていないため、どちらも開集合の公理を満たしていない。

目次

概要[編集]

位相空間は、前述のように集合にある種の情報(位相)を付け加えたもので、この情報により、例えば以下の概念が定義可能となる

  • 部分集合の内部、外部、境界
  • 点の近傍
  • 点列の収束
  • 連結性
  • 位相空間から位相空間への写像の連続性
  • 開集合、閉集合、閉包

これらの概念の多くは元々距離空間のような幾何学的な対象に対して定義されたものだが、位相空間としての性質を満たしさえすれば、解析学や代数学の研究対象に対してもこれらの概念を定義できることに位相空間の概念の利点の一つがある。

これにより、位相空間の概念は、幾何学はもちろん解析学や代数学でも応用されており、位相空間論はこうした数学の諸分野の研究の基礎を与える。

別の言い方をすると、位相空間の概念の利点の一つは、解析学や代数学などの研究対象に幾何学的な直観を与えることにある。

このような観点からみたとき、位相空間論の目標の一つは、ユークリッド空間など幾何学の対象に対して成り立つ諸性質を解析学などにも一般化することにある。

従って特に学部レベルにおいては、位相空間論で考える性質の多くは、ユークリッド空間などの幾何学的な対象では自明に成り立つ(例えば各種分離公理や可算公理)。

こうした幾何学的な性質をいかに抽象化してより一般の空間へと拡張するかが位相空間論では問われる。

位相空間の概念自身は非常に弱く、かつ抽象的に定義されているため、数学の様々な分野で広く応用可能である。

しかしその分個別の用途では必要な性質が満たされないこともあり、例えば位相空間では必ずしも点列の収束の一意性は保証されない。そこで必要に応じて、位相空間にプラスアルファの性質を付け加えたものが研究対象になることも多い。前述した収束の一意性は、位相空間に「ハウスドルフ性」という性質を加えると成立する。学部レベルの位相空間論の目標の一つは、こうしたプラスアルファの性質の代表的なものを学ぶ事にある。

位相空間と距離空間[編集]

位相空間となる代表的な空間としては、ユークリッド空間をはじめとした距離空間がある。(なお、距離空間は必ず位相空間になるが、逆は必ず正しくない)。

しかしユークリッド空間など多くの空間では、位相空間としての構造は距離空間としての構造よりも遙かに弱いものになっており、距離空間としては異なっても位相空間としては同一の空間になることもある。

例えばユークリッド空間をゴム膜のように連続変形したものは、元のユークリッド空間とは距離空間としては異なるが、位相空間としては同一である。実際、点列が収束するか否かという位相空間の代表的な性質は、ユークリッド空間をゴム膜のように連続変形しても不変である。

この例でもわかるように、連続性や収束性といった概念を考えるときには、距離空間の概念は柔軟性に欠けるところがあり、位相空間というより弱い概念を考える積極的動機の一つとなる。

他にも例えば多様体を定義する際には複数の距離空間(ユークリッド空間の開集合)を連続写像で「張り合わせる」(商空間)が、張り合わせに際して元の空間の距離構造を壊してしまうので、元の空間を距離空間とみなすより、位相空間とみなす方が自然である。

応用分野[編集]

位相空間の概念の代表的な応用分野に位相幾何学がある。これは曲面をはじめとした幾何学的な空間(主に有限次元の多様体単体的複体)の位相空間としての性質を探る分野である。前述のようにゴム膜のように連続変形しても位相空間としての構造は変わらないので、球面楕球は同じ空間であるが、トーラス球面とは異なる位相空間である事が知られている。位相幾何学では、位相空間としての構造に着目して空間を分類したり、分類に必要な不変量(位相不変量)を定義したりする。

コーヒーカップからドーナツ(トーラス)への連続変形(同相写像の一種)とその逆

位相空間の概念は代数学や解析学でも有益である。例えば無限次元ベクトル空間を扱う関数解析学の理論を見通しよく展開するにはベクトル空間に位相を入れて位相空間の一般論を用いることが必須であるし(位相線型空間)、代数幾何学で用いられるザリスキ位相は、通常、距離から定めることのできないような位相である。

また、位相空間としての構造はその上で定義された様々な概念の制約条件として登場することがある。例えばリーマン面上の有理型関数のなす空間の次元は、リーマン面の位相構造によって制限を受ける(リーマン・ロッホの定理)。また三次元以上の二つの閉じた双曲多様体が距離空間として同型である必要十分条件は、位相空間として同型な事である(モストウの剛性定理)。

定義[編集]

位相空間にはいくつかの同値な定義があるが、本項ではまず、開集合を使った定義を述べる。

開集合を使った特徴づけ[編集]

位相空間を定式化する為に必要となる「開集合」という概念は、直観的には位相空間の「縁を含まない」、「開いた」部分集合である。

ただし上ではわかりやすさを優先して「縁を含まない」、「開いた」という言葉を使ったが、これらの言葉を厳密に定義しようとすると位相空間の概念が必要になるので、これらを使って開集合を定義するのは循環論法になってしまう。また、ここでいう「縁」(=境界)は通常の直観と乖離している場合もあり、例えば実数直線上の有理数の集合の境界は実数全体である。

そこで位相空間の定義では、「縁を含まない」とか「開いた」といった概念に頼ることなく、非常に抽象的な方法で開集合の概念を定式化する。

位相空間を定式化するのに必要なのは、どれが開集合であるのかを弁別するために開集合全体の集合\mathcal{O}を指定する事と、\mathcal{O}が定められた性質を満たすことだけである。

位相空間の厳密な定義は以下のようになる。

Xを集合とし、\mathcal{O}べき集合\mathfrak{P}(X)の部分集合とする。

\mathcal{O}が以下の性質を満たすとき、組 (X,\mathcal{O})X を台集合とし\mathcal{O}開集合系とする位相空間と呼び、\mathcal{O}の元を X開集合と呼ぶ。

  1. \emptyset,X\in\mathcal{O}
  2. \forall O_1,O_2\in\mathcal{O}~~:~~ O_1\cap O_2\in\mathcal{O}
  3. \forall \{O_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}\subset\mathcal{O}~~:~~ \bigcup_{\lambda\in\Lambda}O_{\lambda}\in\mathcal{O}

これらの性質の直観的意味は下記の通りである

  1. 空集合と全体集合は開集合である。
  2. 2つの開集合の共通部分は開集合である。(よって有限個の開集合の共通部分は開集合 となるが、無限個の合併は開集合とは限らない)
  3. 任意の個数(有限でも無限でもよい)の開集合の和集合は開集合である。

開集合系\mathcal{O}を一つ定める事で、集合X が位相空間になるので、\mathcal{O}X 上の位相(構造)と呼ぶ。

紛れがなければ開集合系\mathcal{O}を省略し、X の事を位相空間 と呼ぶ。

また位相空間X の元をと呼ぶ。

なお、上記条件 1. の代わりに「(集合算に関する)空積および空和を認める」という規約を置くこともできる。即ちこのような規約に則れば、残りの条件 2.,3. より 1. が導かれる(cf. 交叉 (数学)#空なる交叉)。松坂は前者、Bourbaki は後者の立場である。

閉集合を使った特徴づけ[編集]

開集合のX における補集合の事を閉集合と呼ぶ。開集合が直観的には「縁を含まない」、「開いた」集合だったのに対し、閉集合は直観的には「縁を含んだ」、「閉じた」集合である。

閉集合全体の集合

\mathcal{F}=\{F\subset X\mid F^c\in\mathcal{O}\}

の事を位相空間X閉集合系と呼ぶ。

前述した開集合系の定める公理にド・モルガンの法則を適用することにより、\mathcal{F}が以下の性質を満たす事がわかる:

  1. \emptyset,X\in\mathcal{F}
  2. \forall F_1,F_2\in\mathcal{F}~~:~~ F_1\cup F_2\in\mathcal{F}
  3. \forall \{F_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}\subset\mathcal{F}~~:~~ \bigcap_{\lambda\in\Lambda}F_{\lambda}\in\mathcal{F}

本項ではこれまで、開集合系を使って位相空間を定義し、開集合の補集合として閉集合を定義した。

しかし逆に上述の性質を満たたす閉集合系\mathcal{F}を使って位相空間を定義し、閉集合の補集合を開集合と定義してもよい。

X の開集合でも閉集合でもあるような部分集合は X開かつ閉集合と呼ばれる(定義から明らかに \emptyset および X は必ず開かつ閉である)。X には、開でも閉でもないような部分集合が存在しうることに留意せよ。

その他の特徴づけ[編集]

具体例[編集]

距離空間の位相構造[編集]

距離空間(X ,d )は、以下のようにして位相空間とみなせる。実数 r > 0 と xX に対し、

B_r(x) := \{y\in X \mid d(x,y) < r\}

とし、

OX が以下の性質を満たすとき、OX開集合であるという

\forall x\in O \exists r>0 ~~:~~B_r(x)\subset O

以上のように定義された開集合全体の集合を\mathcal{O}とすると、(X,\mathcal{O})が位相空間の公理を満たすことを証明できる。

以下、単に「距離空間の位相構造」と言ったら、上述の位相構造を指すものとする。

密着位相、離散位相、補有限位相、補可算位相[編集]

X を集合とするとき、空集合\emptysetと全体集合 X のみを開集合とする開集合系\mathcal{O}=\{\emptyset,X\}が、位相空間の公理を満たすことを簡単に確認できる。X 上のこの位相構造をX密着位相という。

また、X の任意の部分集合を開集合とする開集合系\mathcal{O}=\mathfrak{P}(X)も、位相空間の公理を満たすことを簡単に確認できる。X 上のこの位相構造をX離散位相という。

密着位相と離散位相はいわば「両極端」の人工的な位相構造に過ぎないが、これらの位相構造は、位相に関する命題の反例として用いられる事がある。

またこれらの位相構造は、任意の集合上に位相構造を定義できる事を意味している。

任意の無限集合 X には、さらに補有限位相という位相も入れることができる。これはXの有限集合部分全体の集合を閉集合系とみなす位相である。なおX が有限集合である場合も原理的には補有限位相を定義できるが、この場合は離散位相と一致する。

同様に任意の非可算集合 Xには補可算位相英語版を入れることができ、これはXの可算集合部分全体の集合を閉集合系とみなす位相である。

ザリスキ位相[編集]

分離性を満たさない位相空間で代数学数論的に重要なものとして素スペクトルや極大スペクトルが挙げられる。これは単位的な可換環に対して自然に定義されるもので、環 R のスペクトル \operatorname{Spec} \mathbf{R} は点集合としては R素イデアルの集合として与えられ、その閉集合系は V(S) = \{p \in \operatorname{Spec} \mathbf{R}|\mathbf{S} \subseteq p\} (\mathbf{S} \subseteq \mathbf{R}) と書ける \operatorname{Spec} \mathbf{R} の部分集合全体によって与えられる。極大スペクトルは極大イデアル(スペクトルにおける閉点)全体からなるスペクトルの部分空間として与えられる。

特に整数のなす環 Z の極大スペクトルは素数全体の集合 P = {2, 3, 5, 7, ...} と同一視でき、その閉集合は P の任意の有限部分集合および P 全体としてあたえられる。

位相空間に関する諸概念[編集]

近傍[編集]

(X,\mathcal{O})を位相空間とする。 X の部分集合A が以下を満たすとき、Ax近傍(きんぼう, : neighborhood)であるという

ある開集合OX が存在し、xOA

x の近傍でしかも開集合であるものを開近傍といい、x の近傍でしかも閉集合であるものを閉近傍という。

開集合Ox の開近傍である必要十分条件は、xO となることである。

内部、外部、境界[編集]

内部[編集]

(X,\mathcal{O})を位相空間とし、AX の部分集合とする。

このとき、xXA内点であるとは、Ax の近傍である事を指し、A の内点全体の集合をA内部(ないぶ, : interior)または開核という。

定義から明らかなように、xXA の内点である必要十分条件は、以下が満たされることである

ある開集合OX が存在し、xOA

A の内部を

A^{\circ}, \ 
 \operatorname{Int} A

などで表す。

外部[編集]

一方、A c の内点をA外点と呼び、A の外点全体の集合をA外部(がいぶ, : exterior)という。

定義から明らかなように、xXA の外点である必要十分条件は、以下が満たされることである

ある開集合OX が存在し、xOA c

A の外部を以下のように表す

A^e,\ \ \operatorname{Ext}A

境界[編集]

A の内点でも外点でもない 点xXA境界点といい、境界点全体の集合をA境界(きょうかい, : frontier)という。

定義から明らかなように、xXA の境界点である必要十分条件は、以下が満たされることである

x の任意の開近傍OX に対し、A\cup O \neq \emptyset かつ A^c\cup O \neq \emptyset

A の境界を

\operatorname{Fr} A,\ \operatorname{Bd} A,\ \partial A

などで表す。なお、「\partial A」は多様体の縁(ふち, : boundary)を表す記号としても使われるが、両者は似て非なる概念なので注意が必要である。

閉包、稠密[編集]

\overline{A}:=A^{\circ}\cup\operatorname{Fr}(A)

A閉包(へいほう, : closure)と呼び、A の閉包に属する点を A触点と呼ぶ。

A の閉包は、

\operatorname{Cl}(A),\ \ A^-

といった記号で表される事もある。

定義から明らかなように、xA の触点である事は、xA の外点ではない事と同値である。よって xA の触点である事は、以下のように言い換えられる

xの任意の開近傍O に対し、A\cap O\neq \emptyset

閉包の概念は、以下の性質を満たす(クラトフスキーの公理)。

  1. A\subset \overline{A}
  2.  \overline{\overline{A}}=\overline{A}
  3. \overline{A\cup B} =\overline{A}\cup\overline{B}
  4. \overline{\emptyset}=\emptyset

本項ではこれまで、開集合系を使って位相空間を定義し、これをベースに閉包を定義した。

しかし逆に上述の性質を満たたす閉包作用素を使って位相空間を定義し、これを使って開集合と定義する事も可能である。

AX稠密な部分集合であるとは、A の閉包が X に一致することである。つまり、X の任意の点の任意の近傍が、A と交わることである。可算な稠密部分集合をもつ位相空間は可分であるという。

性質[編集]

以上の概念について次が成立する。

  • 内部、境界、外部は、全空間X を排他的に分割する
A^{\circ}\sqcup\operatorname{Fr}(A)\sqcup A^e=X
  • 外部、内部は開集合で、境界は閉集合である。
  • 閉包 \overline{A}A を含む最小の閉集合である。
  • 内部 A^{\circ}A に含まれる最大の開集合である。
  • A^{\circ} \subset A \subset \overline{A},\  A^{\circ} \ = (\overline{A^c})^c,\ \operatorname{Fr} A = \overline{A} \cap \overline{A^c}.

連続写像[編集]

位相空間の概念を考える利点の一つに、連続性の概念が非常に簡潔に定式化できる事が挙げられる。 (X,\mathcal{O}_X)(Y,\mathcal{O}_Y)を位相空間とし、f : XY を写像とする。f が以下を満たすとき、f連続であるという。

\forall O\in \mathcal{O}_Y~~:~~f^{-1}(O)\in\mathcal{O}_X

すなわち、Y の開集合のf による逆像が必ず開集合になるとき、f は連続であるという。

以下が成立する

XY が距離空間である場合、前述した連続性の定義はイプシロン・デルタ論法による連続性の定義と同値である。

一点での連続性[編集]

(X,\mathcal{O}_X)(Y,\mathcal{O}_Y)を位相空間とし、f : XY を写像とし、xX とする。f が以下を満たすとき、fx連続であるという。

VX : Vf(x) の近傍⇒ f-1(V ) はx の近傍

以下が成立する

  • 全ての点xXf が連続⇔f は連続
  • XY が距離空間のとき、f がイプシロン・デルタ論法による定義において点x で連続⇔f は上述の意味で点xX で連続

近傍の定義より、写像 f が点x で連続であることは次のように言い換えられる。

  • f(x) の任意の近傍 V に対して、x の近傍 U が存在して、f(U) \subset V となる

よって位相空間における一点での連続性の概念は、イプシロン・デルタ論法による一点での連続性の定義を自然に拡張したものになっている。

基本的性質[編集]

XYZ を位相空間として、f : XYg : YZ を連続写像とするとき、以下が成立する

  • Y の任意の閉集合 F に対して、逆像 f^{-1}(F)X の閉集合である。
  • 合成関数 g \circ f : XZ は連続である。

同相写像、位相不変性[編集]

(X,\mathcal{O}_X)(Y,\mathcal{O}_Y)を位相空間とし、f : XY を写像とするとき、f同相写像であるとは、f全単射で、しかもff-1 が両方とも連続であることをいう。

また、XY 間に同相写像が存在するとき、(X,\mathcal{O}_X)(Y,\mathcal{O}_Y)位相同型もしくは同相であるという。

位相同型性は、位相空間のクラスにおける同値関係であることを簡単に確認できる。

位相空間論や、その応用分野である位相幾何学では、「位相同型で不変」(位相不変性)な性質(位相的性質)を探ったり、そうした性質により、空間を分類する。

位相不変量[編集]

位相不変な性質の中には位相不変量と呼ばれる、位相空間の性質によって決まる「量」がある。 χが「位相不変量」であるとは、以下の性質を満たすことを言う

XY が位相同型⇒χ(X )=χ(Y )

これの対偶をとると、

χ(X )≠χ(Y )⇒ XY が位相同型でない

したがって位相不変量に着目することで、二つの空間を位相的に分類することができる。

簡単な位相不変量として、位相空間の「連結成分数」がある。本項では、連結成分数の厳密な定義は割愛するが、直観的にはその名の通り、「繋がっている部分の数」である。以下のX では連結成分数が1なのに対し、Y では連結成分数が2である。従ってXY は位相同型ではない。

X = [0,1]
Y = [0,1]∪[2,3]

位相不変量は、位相空間論の応用分野である位相幾何学で主要な役割を果たし、特にホモロジー群ホモトピー群のような代数的な不変量は代数的位相幾何学の研究対象である。

収束[編集]

点列の収束[編集]

(X,\mathcal{O})を位相空間とし、\scriptstyle \{x_n\}_{n=1}^\inftyX 上の点列とし、xX の元とする。

以下が満たされるとき、\scriptstyle \{x_n\}_{n=1}^\inftyx収束するという

U (x の近傍) \exists n_0 \forall n>n_0~~:~~x_n\in U

この収束の定義は、実数列の収束の自然な拡張となっている。

一般の位相空間では収束の一意性が成り立たないが、収束の一意性が成り立つ十分条件として、ハウスドルフ性がある。

連続性との関係[編集]

収束の概念は、連続性の概念で言い換えることができる。

自然数と無限大の集合\mathbb{N}\cup\{\infty\}

(a,\infty]=\{x\in \mathbb{N} \mid x>a\}\cup\{\infty\}

の形をした集合を開集合とみなす位相(右順序位相英語版)入れることで、\mathbb{N}\cup\{\infty\}を位相空間であるとみなすことができる。

このとき、位相空間(X,\mathcal{O})上の点列\scriptstyle \{x_n\}_{n=1}^\inftyXx に収束する必要十分条件は、関数

\mathbb{N}\cup\{\infty\}\to X,~~n\mapsto 
\begin{cases} 
x_n & \text{ if } n\in \mathbb{N}\\
x & \text{ if } n=\infty
\end{cases}

が∞で連続になる事である。

距離空間における収束性と位相構造[編集]

距離空間の位相的な性質を点列の収束で特徴づけることができる。

例えば、

  • F が閉集合⇔\forall n~~:~~x_n\in Fを満たす任意の収束点列の収束先は必ず F に属する
  • 距離空間から距離空間への関数 f が点 x で連続⇔x_n\to xとなる点列は必ずf(x_n)\to f(x)を満たす

一般化[編集]

距離空間の場合、点列の収束の概念を用いることで連続性や閉集合といった基礎的概念を特徴づけることができたが、一般の位相空間ではそのような事はできない。(これが可能な空間を列型空間という)。

これは点列という概念が、自然数という限定的な添え字しか許さないことや、点の列だけで集合の列を考慮していない事などが原因である。

しかし、そうした側面に対して点列の概念を一般化したものである有向点族フィルターの概念を用いれば、前述した基礎的概念をこれらの収束性で特徴づけることができる。

これらの収束性を考える利点はもうひとつあり、点列の収束性では必要性しかいえない命題が、これらの収束性を用いれば、必要十分性が言えるときがある。

例えば点列の収束の一意性は、前述したハウスドルフ性の必要条件に過ぎないが、有向点族の収束の一意性はハウスドルフ性の必要十分条件となる。

一様連続と一様収束[編集]

これまで説明してきたように、連続性と収束性は、位相空間で定義可能な代表的な性質である。

しかしこれらを強めた概念である一様連続性一様収束性は、位相のみをベースにして定義する事はできない。

これらの概念は、距離空間と位相空間の中間の強さを持つ概念である一様空間で定義可能である。

位相同士の比較[編集]

集合X 上で定義された2つの位相空間(X,\mathcal{O}_1)(X,\mathcal{O}_2)を考える。

以下が満たされるとき、\mathcal{O}_1\mathcal{O}_2よりも粗い(coarse)という

\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2

これはすなわち、(X,\mathcal{O}_1)の開集合は必ず(X,\mathcal{O}_2)の開集合である事を意味する。

\mathcal{O}_1\mathcal{O}_2よりも粗いとき、\mathcal{O}_2\mathcal{O}_1よりも細かい(fine)という。粗い/細かいのかわりに弱い/強い(weak/strong)、小さい/大きい(small/large)という言葉を使うこともある。

\mathcal{O}_1\mathcal{O}_2よりも粗い必要十分条件は、恒等写像

\operatorname{id}~:~ (X,\mathcal{O}_2)\to(X,\mathcal{O}_1),\ \ x\mapsto x

が連続な事である。

粗い/細かいを位相の間の順序関係とみなすと、X 上の位相の集合

\{\mathcal{O}\mid(X,\mathcal{O})は位相空間\}

順序集合になる。この順序集合は完備束であり、最も粗い位相は密着位相、最も細かい位相は離散位相である。

位相空間の導出[編集]

すでにある位相空間を加工して、別の位相空間を作る方法を述べる。

位相空間を加工する上で基本となるのは、「逆像位相」と「像位相」の概念、おそびそれらの拡張概念である「始位相」と「終位相」である。

本節で紹介する残りの加工方法は、これらの特殊ケースである。

逆像位相と像位相、始位相と終位相は互いに双対の関係にあり、写像の向きを逆にすることでもう片方の概念を定式化できる。

逆像位相、部分位相、始位相、直積位相[編集]

逆像位相[編集]

(X,\mathcal{O})を位相空間とし、Zを集合とし、

f~:~Z\to X

を写像とする。このとき、

f^*(\mathcal{O}):=\{f^{-1}(O)\mid O\in\mathcal{O}\}

とすると、(Z,f^*(\mathcal{O}))は位相空間になる。f^*(\mathcal{O})f によるZ 上の逆像位相という。

次の事実が知られている

逆像位相は、写像f~:~Z\to Xを連続とする最弱の位相である

部分位相[編集]

(X,\mathcal{O})を位相空間とし、AX部分集合とする。

このとき、包含写像

\iota~:~A \hookrightarrow X,\ x\mapsto x

による逆像位相をX によるA部分位相といい、A に部分位相を入れたものを(X,\mathcal{O})部分空間という。

部分位相の開集合系は、以下のように書くことができる

\{O\cap A\mid O\in \mathcal{O}\}

始位相[編集]

逆像位相の概念は、以下のように一般化できる。

Zを集合とし、\{(X_{\lambda},\mathcal{O}_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}を位相空間の族とし、写像の族

f_{\lambda}~:~Z\to X_{\lambda}

を考える。

このとき、全ての\{f_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}を連続にする最弱の位相をZ始位相英語版という。

始位相は、

\bigcup_{\lambda\in\Lambda}f_{\lambda}{}^*(\mathcal{O}_{\lambda})

から生成される位相と一致する。

直積位相[編集]

\{(X_{\lambda},\mathcal{O}_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}を位相空間の族とし、集合族 \{X_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}直積からX_{\lambda}への射影

\pi_{\lambda}~:~\prod_{\tau\in\Lambda}X_{\tau}\to X_{\lambda}

の族\{\pi_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}によって直積\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}に定義される始位相を直積位相もしくはチコノフ位相といい、直積\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}に直積位相を入れた位相空間を直積空間という。

直積位相は

\Bigg\{\prod_{\lambda\in\Lambda}O_{\lambda}\ \Bigg|\ O_{\lambda}\in \mathcal{O}_{\lambda}, 有限個のλを除いてO_{\lambda}= X_{\lambda}\Bigg\}

によって生成される位相と一致する。

Λが有限集合のときは、「有限個のλを除いて…」という条件がいらなくなるので簡単であるが、Λが無限集合のときは注意が必要である。

\mathbb{R}_1,\mathbb{R}_2,\ldots\mathbb{R}の(可算)無限個のコピーとし、U_1,U_2,\ldotsU=(0,1)の無限個のコピーとするとき、直積

\prod_{i\in\mathbb{N}}U_i

は直積位相に関して

\prod_{i\in\mathbb{N}}\mathbb{R}_i

の開集合ではない。実際、前述の「有限個を除いて…」という条件を満たしておらず、条件をみたすものの和集合としても書けないからである。

一方、直積位相よりも強い位相であるBox topology英語版では、上述の集合は開集合となる。

像位相、商位相、終位相、直和位相[編集]

逆像位相、部分位相、始位相、直積位相と双対的に像位相、商位相、終位相、直和位相が定義できる。

像位相[編集]

(X,\mathcal{O}) を位相空間とし、Y を集合とし、

f \colon X\to Y

を写像とする。このとき、

f_*(\mathcal{O}):=\{U\subset Y\mid f^{-1}(U)\in\mathcal{O}\}

とすると、(Y,f_*(\mathcal{O})) は位相空間になる。f_*(\mathcal{O})f による Y 上の像位相という。

次の事実が知られている

像位相は、写像 f: XY を連続とする最強の位相である

商位相[編集]

(X,\mathcal{O}) を位相空間とし、「\sim」を X 上の同値関係とし、[x] でこの同値関係における xX の同値類を表す。

商写像

\pi \colon X \to X/{\sim}, \; x \mapsto [x]

が商集合 X/{\sim} に定義する像位相を、X/{\sim} 上の商位相という。

終位相[編集]

像位相は以下のように一般化できる。

Y を集合とし、\{(X_{\lambda},\mathcal{O}_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda} を位相空間の族とし、写像の族

f_{\lambda}\colon X_{\lambda}\to Y

を考える。

このとき、全ての \{f_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda} を連続にする最強の位相をY終位相英語版という。

終位相の開集合系は

\bigcap_{\lambda\in\Lambda}(f_{\lambda})_*(\mathcal{O}_{\lambda})

と一致する。

直和位相[編集]

\{(X_{\lambda},\mathcal{O}_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda} を位相空間の族する。X_{\lambda} から、集合族 \{X_{\tau}\}_{\tau\in\Lambda}直和への包含写像

\iota_{\lambda} \colon X_{\lambda} \hookrightarrow \coprod_{\tau\in\Lambda}X_{\tau}

の族 \{\iota_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda} によって直和 \coprod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda} に定義される終位相を直和位相という。

直和位相の開集合系は

\left\{\bigcup_{\lambda\in\Lambda}O_{\lambda} : O_{\lambda}\in\mathcal{O}_{\lambda}\right\}

に一致する。

基本近傍系[編集]

ユークリッド平面 R2 を位相空間と考え、その上に任意に固定した点 p を考える。p の近傍であるような R2 の部分集合は多種多様であるが、どのような近傍 V についても、十分に大きな正の整数 n を選べば、p を中心とする半径 1/n の開円板 B(p, 1/n) が V に含まれる。もちろんこの開円板は p の近傍である。以上から、開円板の族 \{B(p,1/n)\ |\ n\in\mathbf{N}\} がある意味で p の近傍たちを代表していると考えられるが、このような近傍の族を基本近傍系あるいは局所近傍基と呼ぶ。

正確な定義は以下の通り。p が位相空間 X の点であるとき、p の近傍からなる族 \scriptstyle\mathcal{U}p の基本近傍系であるとは、p の任意の近傍 V に対して、\scriptstyle\mathcal{U} の要素 U が存在して、U \subset V が成立することである。

もちろん、p が決まってもその基本近傍系は一通りには決まらない。たとえば上の例では、「p を中心として軸に平行な辺をもった一辺 1/n の開正方形全体」も基本近傍系である。また、p の近傍すべてからなる族も基本近傍系である。

位相の生成、開基、準開基[編集]

準開基[編集]

X を集合とし、\mathcal{S}\subset\mathfrak{P}(X)X被覆しているとする。すなわち、

\textstyle\bigcup\mathcal{S}=X

このとき、

\mathcal{S}\subset\mathcal{O}

を満たす最弱な開集合系 \mathcal{O} を、\mathcal{S}によって生成される開集合系といい、\mathcal{S}\mathcal{O}準開基(じゅんかいき, : open subbase, open subbasis)であるという。

なお、必要なら\textstyle \mathcal{S}X を添加しておけば\textstyle\bigcup\mathcal{S}=Xは自動的に満たされるので、この条件は本質的なものではない。

以上で我々は、準開基の抽象的な定義を与えたが、準開基の概念をより具体的な形で与えることもできる。

そのための準備として、まず準開基の関連概念である開基について学ぶ。

開基[編集]

(X,\mathcal{O})を位相空間とし、\mathcal{B}\subset\mathcal{O}とする。

以下が満たされるとき、\mathcal{B}\mathcal{O}開基(かいき, : open baseopen basis)であるという

\mathcal{O}に属する任意の開集合(≠\emptyset)は\mathcal{B}の元の(有限個または無限個の)和集合として書き表せる。

\mathcal{B}\mathcal{O}の開基になる必要十分条件として、以下のものがある。

\mathcal{O}に属する任意の開集合 O (≠\emptyset)と任意の点 xO に対し、x \in B_x \subset O を満たす \mathcal{B} の要素 B_x が存在する。

実際、この条件が満たされれば、

O=\bigcup_{x\in O} B_x

O\mathcal{B}の元の和集合で書き表せる。 必要性の証明は省略。

開基の具体例[編集]

(X , d )を距離空間とし、\mathcal{O}を距離から定まる位相構造の開集合系とすると、

\mathcal{B}=\{B_r(x) \mid x\in X, r>0\}

\mathcal{O}の開基となる。

実際、距離空間における開集合の定義より、OX が開集合なら、

\forall x\in O\exists r_x>0~~:~~ B_{r_x}(x)\subset O

なので、

O=\bigcup_{x\in O}B_{r_x}(x)

O\mathcal{B}の元の和集合で書き表せる。

開基の特徴づけ[編集]

X を集合とし、\mathcal{B}\subset\mathfrak{P}(X)とし、\mathcal{O}\mathcal{B}の元を全て開集合とする最弱な開集合系とする。

このとき、\mathcal{B}\mathcal{O}の開基である必要十分条件は、以下の2条件を両方満たすことである

  1. \bigcup\mathcal{B}=X
  2. \forall B_1, B_2 \in \mathcal{B},\exists \mathcal{B}'\subset \mathcal{B} : B_1 \cap B_2=\bigcup \mathcal{B}'

準開基の特徴づけ[編集]

(X,\mathcal{O})を位相空間とし、\mathcal{S}\subset\mathcal{O}とする。前と同様

\textstyle\bigcup\mathcal{S}=X

を仮定する。

このとき、\mathcal{S}(X,\mathcal{O})の準開基である必要十分条件は、\mathcal{S} の元の有限個の共通部分の全体の集合

\mathcal{B}=\left\{\bigcap_{i=1}^n S_i\,\bigg|\,n\in\mathbb{N},\,S_i\in \mathcal{S}\right\}

が、(X,\mathcal{O})の開基をなすことである。

位相的性質[編集]

位相空間の定義それ自身は可能な限り一般的に定義されているため、個々の応用では位相空間にプラスアルファの性質を付け加えたものを考えることが多い。

本節では、そうしたプラスアルファの性質のうち代表的なものを紹介する。

分離公理[編集]

分離公理とは、位相空間 X 上の2つの対象(点や閉集合)を開集合により「分離」(separate)する事を示す一連の公理、もしくはそこから派生した公理である。

代表的な分離公理としてハウスドルフの分離公理があり、これは以下のような公理である:

X 上の相異なる2点 xy に対し、xy の開近傍 UV があり、U\cap V=\emptysetである。
相異なる2点を分離するそれぞれの開近傍

ハウスドルフの分離公理は、点 xy が開近傍という位相的な性質を利用して「区別」(separate)できる事を意味している。すなわちX の位相は点の区別が可能なほど細かい事をこの公理は要請している。

全ての位相空間がハウスドルフの分離公理を満たすわけではなく、例えば密着位相の入った空間には開集合は全体集合と空集合しかないのでこのような区別は不可能である。

一方、距離空間は必ずハウスドルフの分離公理を満たし、ハウスドルフの分離公理を満たす空間(ハウスドルフ空間)では点列の収束の一意性が成り立つことが知られている。

ハウスドルフ空間で点列の収束の一意性が成り立つのは、点列の収束先がxなのかy なのかが開集合により区別可能だからである。

このように分離公理は、位相空間上の対象を区別する上で重要な役割を担う。

位相空間 名前
T_0 コルモゴロフ空間
T_1 フレシェ空間(到達可能空間)
T_2 ハウスドルフ空間
T_{2\frac{1}{2}} 完備ハウスドルフ空間、ウリゾーン空間
T_3 正則空間、正則ハウスドルフ空間
T_{3\frac{1}{2}} チコノフ空間、完全正則空間
T_4 正規ハウスドルフ空間
T_5 全部分正規ハウスドルフ空間
T_6 完全正規ハウスドルフ空間

連結性[編集]

連結性とは、直観的には位相空間が「ひとつながりである」 という性質である。閉区間 [0,1] は連結性をもつ(連結である)が、二つの交わらない閉区間を合併した [0,1] \cup [2, 3] という位相空間は連結ではない。

コンパクト性[編集]

位相空間 X のコンパクト性の概念はそれ自身は非常に抽象的で、X が「ハイネ・ボレルの被覆定理の結論部分」を満たすこととして定義される。

しかし X が(有限次元の)ユークリッド空間の部分空間であれば、コンパクト性は有界閉集合である事と同値である。

一般の距離空間の場合は、有界性より強い条件である「全有界性」という条件と「完備」とを両方満たすことと同値である。

有限次元のリーマン多様体の場合、有界性と全有界性に差はないが、無限次元の場合は両者に差がある。 ヒルベルト空間の(縁を含んだ)単位球は、有界かつ完備であるが全有界ではなく、従ってコンパクトでもない例となっている。

コンパクトな位相空間 X の最も重要な性質の一つは、以下の点列コンパクト性である

X 上の任意の点列は収束部分列を持つ

X が距離空間の場合は、コンパクト性と点列コンパクト性は同値である。

X が距離空間でない場合、両者は必ずしも同値でないが、「点列」の部分を「有向点族」に変えたものとは同値となる。

コンパクトでない空間、例えば\mathbb{R}^2を考えると、点x が無限遠に近づいたときの振る舞いが複雑になる為解析が難しくなる事があるが、コンパクトな空間だとそもそも「無限遠」に相当するものが無いので解析が簡単になる場合がある。

例えば、コンパクトな距離空間上の実数値連続関数は必ず一様連続であるが、\mathbb{R}^2のようなコンパクトでない空間の場合は x が無限遠に近づいたときの振る舞いが原因で一様連続性が必ずしも成り立たない。

また、コンパクトな曲面は穴の数が有限であり、これを利用して曲面か位相的に分類されているが、コンパクトではない曲面は穴の数が無限に発散することもあり、より複雑である。

これらの例のように、コンパクトな空間は無限に関する複雑さを回避できるという利点がある。

可算公理と可分[編集]

位相空間X において可算公理は、X の位相的な対象(近傍系、開集合)が可算なものから生成されることを意味し、可算公理が成立する空間では、非可算特有の難しさを回避できる場合がある。 可分もこれと類似したモチベーションのもと定義される。

厳密な定義は以下の通りである

  • 第一可算公理X の任意の点 x に対し、x の近傍系は可算な基本近傍系を持つ
  • 第二可算公理X の開集合系は可算な開基を持つ
  • 可分X は稠密な可算部分集合を持つ

性質と例[編集]

以下が成立する:

  • 第二可算公理を満たす⇒ 第一可算公理を満たし、かつ可分
  • 距離空間⇒ 第一可算公理を満たす

しかし距離空間は第二可算公理を満たすとは限らない。 距離空間においては第二可算公理を満たす事と可分な事は同値である。

有限次元のユークリッド空間(あるいはより一般に多様体)は第二可算公理を満たす。(距離化可能なので可分でもある)。

一方、ユークリッド空間の「無限次元版」であるヒルベルト空間は距離空間であるが第二可算公理を満たすとは限らない。

しかし通常は第二可算公理を満たすヒルベルト空間のみを考えることが多く、そのようなヒルベルト空間は全て同型で、しかもそのようなヒルベルト空間にはベクトル空間としての可算基底が存在する事が知られている。

距離化可能性[編集]

距離空間は自然に位相空間になるが、では逆に位相空間がどのような条件を満たせば距離空間になるであろうか。

すなわち、位相空間 (X,\mathcal{O})距離化可能であるとは、X 上の距離 d が(少なくとも一つ)存在し、dX 上に定める位相が\mathcal{O}と一致する事を言う。

学部レベルの教科書には距離化可能性の十分条件であるウリゾーンの距離化可能定理が載っていることが多いが、現在は距離化可能性の必要十分条件である長田=スミルノフの距離化定理ビングの距離化定理が知られている。

この他の諸性質[編集]

一般の位相空間についても、連続性や収束を大枠において論じることができる。しかし、当然のことながら、ユークリッド空間がもつような「都合のよい」性質がすべての位相空間で成り立つ訳ではない。個々の位相空間を取り扱うには、その位相空間がどのような点でユークリッド空間に類似し、どのような点が違うのかを明確に知っておくことが重要である。

位相空間についての性質は、上に挙げたコンパクト性、連結性などの他にも色々考えられるが、よく用いられるものの多くはユークリッド空間について成り立つ性質の一つを取り出してきたものである。このような性質の有無を知ることにより、どのような議論がユークリッド空間と並行してできるのかを識別できる。例えば局所コンパクト性とは、各点がコンパクトな近傍をもつという性質であるが、これはユークリッド空間について成り立つ性質の一つである。しかし、この性質は整数論で用いられるp-進数体 Qp についても成立する。一方、有理数全体 Q は局所コンパクトではない。

ユークリッド空間については成立しない性質の中にも注目に値するものがあり、時として利用される。たとえば、連結な部分空間が一点に限られる空間を完全不連結というが、これはユークリッド空間にはない性質である。Q はこの性質を満たすし、また p-進数体 Qp もこの性質を満たす。

発展的なトピック[編集]

連続体論[編集]

連続体(れんぞくたい、: continuum)とは、空でないコンパクト連結距離空間、あるいはより一般にコンパクト連結ハウスドルフ空間のことを言う。

ユークリッド空間上の閉曲面は連続体となるが、連続体論ではこのような「常識的な」空間に留まらず幅広く連続体一般を研究する。

具体的にはヒルベルト空間の無限次元部分集合であるにも関わらずコンパクトな ヒルベルト立方体

\prod_{n\in\mathbb{N}}[0,1/n]

フラクタル図形シェルピンスキーのカーペットホモトピー群は自明となるが可縮空間ではないワルシャワの円などが研究対象となる。

ワルシャワの円

完全不連結性とカントール空間[編集]

学部レベルの位相空間論で登場する概念の多くは、曲面のような「常識的な」空間における性質を抽象したものである。

しかし完全不連結性はこうした範疇から外れた性質で、位相空間 X 上の連結部分集合は空集合、全体集合、および一点集合に限られる事を意味する。

完全不連結な空間の例としては有理数の集合\mathbb{Q}がある。

しかし完全不連結な空間は\mathbb{Q}のように距離空間として完備ではないものに限らない。

カントール集合(に実数体から誘導される距離をいれたもの)は、完備距離空間でありながら完全不連結な空間の例となっている。

実はカントール集合はこのような空間の典型例の一つであり、以下の性質を満たす空間(カントール空間)は必ずカントール集合と位相同型になることが知られている(ブラウワーの定理):

孤立点を持たない非空の完全不連結コンパクト距離化可能空間

ベール空間[編集]

位相空間Xベール空間であるとは、X 上の稠密開集合の可算個の共通部分が必ず稠密になることを言う。

完備疑距離空間の開集合はベール空間になる(ベールの第一範疇定理)。 また局所コンパクトハウスドルフ空間もベール空間になる(ベールの第二範疇定理)。

ベールの範疇定理は関数解析学において、開写像定理閉グラフ定理を証明するのに用いられる。

集合論的位相空間論[編集]

集合論的位相空間論英語版とは、位相空間上の性質がZFCと独立かどうかを主題する分野である。

位相ゲーム[編集]

位相ゲーム英語版とは、2人のプレイヤーにより位相空間上で行われるゲームで、プレイヤー達が自分の手番のとき、何らかの位相的な対象(開集合や閉集合など)を指定する事でゲームが進んでいく。

位相空間上の様々な性質、例えばベールの性質が位相ゲームのゲーム理論的な性質と関連する(バナッハ・マズール・ゲーム)。他にも完備性、収束性、分離公理といったものもゲーム理論的な性質と関連する。

位相代数的構造[編集]

代数的な演算が定義された位相空間X は、その演算の作用がX 上連続になるとき、演算と位相は両立するという。

そのような例として代表的なものには位相群位相環および位相体位相線型空間などがある。

位相順序構造[編集]

歴史[編集]

集合論の創始者ゲオルク・カントールはユークリッド空間の開集合や閉集合などについても研究したが、これが位相空間の研究のはじまりである。カントールの行ったような位相空間の古典的な研究は、点集合論と呼ばれる。その後、モーリス・フレシェはユークリッド空間から離れて距離空間において極限の概念を考察し、さらにその後フェーリクス・ハウスドルフカジミェシュ・クラトフスキらによって、次第に現代のような一般の位相空間の形に整えられていった。

参考文献[編集]

脚注[編集]


関連項目[編集]

外部リンク[編集]