二重スリット実験

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量子力学
不確定性原理
紹介英語版 · 数学的基礎

二重スリット実験(にじゅうスリットじっけん)は、粒子と波動の二重性を典型的に示す実験リチャード・P・ファインマンはこれを「量子力学の精髄」と呼んだ。ヤングの実験で使われたの代わりに1個の電子を使ったものである。

この実験は古典的な思考実験であった。実際の実験は1961年にテュービンゲン大学のクラウス・イェンソンが複数の電子で行ったのが最初であり[1][2]、1回に1個の電子を用いての実験は1974年になってピエール・ジョルジョ・メルリらがミラノ大学で行った。1989年に技術の進歩を反映した追試外村彰らが行なっている。

2002年に、この実験はフィジックス・ワールド英語版の読者による投票で「最も美しい実験」に選ばれた[3]

実験[編集]

実験

電子銃から電子を発射して、向こう側の写真乾板に到達させる。その途中は真空になっている。電子の通り道にあたる位置に衝立となる板を置く。その板には2本のスリットがあり、電子はここを通らなければならない。すると写真乾板には電子による感光で濃淡の縞模様が像として描かれる。その縞模様は波の干渉縞と同じであり、電子の波動性を示している。

この実験では電子を1個ずつ発射させても、同じ結果が得られる。すなわち電子を1度に1個ずつ発射させることを何度も繰り返してから その合計にあたるものを写真乾板で見ると、やはり同じような干渉縞が生じている。

1999年にはアントン・ツァイリンガーが、電子や光子のような極微の粒子の替わりに、フラーレンという大きな分子を使って同様に実験した場合にも、同じような干渉縞が生じるのを確認している[4][5]。ツァイリンガーは次にウイルスによって干渉縞を生み出すことを目標としている[6]

二重スリット実験の結果

解説[編集]

量子は空間の1点に局在する粒子性と空間に広がる波動性を示すが、確率解釈では波の振幅の大きさが粒子の存在確率を示すと解釈される[7]。 実験以前は複数の粒子が波を構成する考えがあったが、空間上の光子数から複数の粒子が波を構成することは困難であるとも予想されていた[8]。 二重スリット実験では単位量子であっても粒子性と波動性の二重性を示すことを実証した。

尚、この実験結果は、ルイ・ド・ブロイのパイロット波理論やデヴィッド・ボーム量子ポテンシャル理論、エドワード・ネルソンの確率力学等の確定した粒子軌道を想定した理論とも矛盾しない[9][10][11]。 このうち、パイロット波理論や量子ポテンシャル理論で計算すると、初期の位置と運動量が決まれば粒子の軌道は確定し、お互いの軌道が交叉することはなく、右側スリットを通過した粒子はスクリーン右側に到達し、左側スリットを通過した粒子はスクリーン左側に到達する[9][10][11]。これらの理論においても、粒子の通過しない方のスリットを塞いだり、通過スリットを特定する検出装置を置くと、量子ポテンシャルに影響を与えるために干渉縞は消失する[9][10]。  

出典[編集]

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  1. ^ Jönsson C, Zeitschrift für Physik, 161:454
  2. ^ Jönsson C (1974). Electron diffraction at multiple slits. American Journal of Physics, 4:4-11.
  3. ^ Physics Web
  4. ^ Arndt, Markus, Olaf Nairz, Julian Vos-Andreae, Claudia Keller, Gerbrand van der Zouw and Anton Zeilinger, 1999. "Wave-Particle Duality of C60 molecules." Nature, v. 401, pp. 680-682. オンライン・コピー
  5. ^ Nairz O, Arndt M, and Zeilenger A. "Quantum interference experiments with large molecules." American Journal of Physics, 2003; 71:319-325. オンライン・コピー
  6. ^ ハンス・クリスチャン・フォン・バイヤー著、水谷淳訳『量子が変える情報の宇宙』 ISBN 9784822282653 「第25章 ザイリンガーの原理‐実在の根底にある情報」p.303"....ザイリンガーは。六十個や七十個の炭素原子からなる巨大分子、バッキーボールが波動性を示すことを明らかにしている。次の目標はウイルスだ。"
  7. ^ 金谷和至初めて学ぶ物理学 量子論筑波大学物理学系素粒子理論研究室
  8. ^ コリン・ブルース(著)和田 純夫(訳)『量子力学の解釈問題―実験が示唆する「多世界」の実在』 講談社ブルーバックス ISBN 978-4062576000 p.35
  9. ^ a b c 白井仁人, 東克明,森田邦久,渡部鉄兵『量子という謎 = Quantum Enigma : 量子力学の哲学入門』 勁草書房 2012年 ISBN 978-4326700752 p.107-129
  10. ^ a b c 大崎敏郎量子ポテンシャル理論と確率力学核データニュース,No.76(2003)
  11. ^ a b 林久史波動関数のわかりやすい説明日本女子大学紀要 理学部 第24号(2016)

関連書籍[編集]

古典力学とは大きく異なる量子力学的な系の振る舞いを読者に理解させるために、二重スリット実験を中心に解説を始めている教科書。量子力学の理解と、そして二重スリット実験の理解に、大いに助けとなるであろう一冊。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]