ロシア宇宙主義

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ロシア宇宙主義ロシア語:Русский космизм: Russian cosmism)とは、20世紀初頭のロシアで発生した宇宙を中心とした哲学的・文化的運動である。ロシア宇宙論とも呼ばれるが、いわゆる宇宙論とは直接の関係はない。ロシアでは単にкосмизм(宇宙主義)と呼ばれることもある。

概要[編集]

ロシア宇宙主義は自然哲学キリスト教ロシア正教)の考え方を基盤としており、宇宙人間の起源・進化・未来の歴史と哲学を扱う。ロシア宇宙主義の多くの考え方は後にトランスヒューマニズムへと発展した。

草分けとされるのは「モスクワソクラテス」との異名を持つルミャンツェフ図書館司書ニコライ・フョードロフで、生前彼は表立つことを潔しとせずまとまった形での著書を残していないが、死後弟子により編纂された主著に『共同事業の哲学』(露:Философия общего дела、1906-1913)がある。彼の基本的な思想は、自然を制御することによる重力の克服と、全ての父祖の文字通りの復活、そして人間の不死である。フョードロフはこの人間の復活と不死に向けた全人類的なプロジェクトを「共同事業」(obshchee delo)と呼び、全人類が一体となってこの「事業」に取り組むことによって血縁性(rodstvo)を取り戻し、人間の不幸の根本的原因であるこの世界の非血縁性から自らを解放せよと呼びかける。

のちにロシア宇宙主義が、ロシアにおいて文学・哲学、政治、科学など多方面に影響を及ぼしたことは特筆に値する。文学・哲学では、レフ・トルストイドストエフスキー、哲学者ウラジーミル・ソロヴィヨフが彼の思想に大きな影響を受けたことが知られる[1]。またロシア革命の前後に活躍したブリューソフロシア象徴主義の詩人・作家、イワン・フィリプチェンコやアレクセイ・ガースチェフといったプロレタリア詩人、アンドレイ・プラトーノフボリス・パステルナークなど幅広い層の詩人・作家たちに影響が認められる。自然の制御・改造と新しい人間の創出、「共同事業」といったロシア宇宙主義の考え方は、のちにボリシェヴィキの一部に受け入れられた。例えばアレクサンドル・ボグダーノフは自身が主導したいわゆる「プロレトクリト」運動のなかで身体の改造を唱え、輸血実験の最中に事故死した[2]。また、ソ連の宇宙開発に先鞭をつけたコンスタンチン・ツィオルコフスキーはフョードロフとも面識があり、彼に強く影響を受けている。

代表的なロシア宇宙主義者[編集]

ニコライ・フョードロフ英語版(1828年-1903年)
科学的技法による急進的な延命、人間の不死、死者の復活などを提唱した。主著『共同事業の哲学』(Философия общего дела、第1巻1906、第2巻1913)。
ウラジーミル・ソロヴィヨフ (1853年-1900年)
コンスタンチン・ツィオルコフスキー (1857年-1935年)
宇宙開発宇宙工学の理論面での先駆者。1903年に出版した『Исследование мировых пространств реактивными приборами』 (反応機器を使った宇宙空間の探検)は、宇宙旅行を真面目に科学的に扱った世界初の書籍であった。彼は宇宙移民によって人類が種として完成し、不死性を獲得すると信じていた。また、"animated atom"(生きている原子、汎神論)や "radiant mankind"(輝ける人類)といった考えを生み出した。
ウラジーミル・ヴェルナツキー (1863年-1945年)
ノウアスフィア(ノオスフェーラноосфераとも。「叡智圏」「精神圏」)の提唱者。
セルゲイ・ブルガーコフ (1871年-1944年)
パーヴェル・フロレンスキイ (1882年-1937年)
アレクサンドル・チジェフスキー英語版(1897年-1964年)
Heliobiology(太陽生物学?)
その他
ウラジーミル・オドエフスキー英語版(1804-1869)、アレクサンドル・スーホヴォ=コブィリン英語版(1817-1903)、ニコライ・ウーモフ英語版(1846-1915)、ニコライ・ベルジャーエフ(1874-1948)、ワレリアン・ムラヴィヨーフ(1885-1932)、アレクサンドル・ゴールスキー英語版(1871-1924)、ニコライ・セトニーツキー(1888-1937)、ニコライ・ホロードヌィ英語版(1882-1953)、ワシーリー・クプレーヴィチ(1897-1969)、アレクセイ・マネーエフ(1921-)など。

引用[編集]

コンスタンチン・ツィオルコフスキー: 「地球は人類のゆりかごだが、人類が永遠にゆりかごに留まることはないだろう」

脚注[編集]

  1. ^ セミョーノヴァ『フョードロフ伝』安岡治子・亀山郁夫訳、水声社、1998年、8頁。
  2. ^ 佐藤正則『ボリシェヴィズムと〈新しい人間〉』水声社、2000年。

参考文献[編集]

外部リンク[編集]