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ラグビー・フットボール・ユニオン

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ラグビー・フットボール・ユニオン
Rugby Football Union
競技 ラグビーユニオン
創設 1871年 (154年前) (1871)
WR加盟 1890
ラグビーヨーロッパ加盟 1999[1]
パトロン キャサリン (プリンセス・オブ・ウェールズ)
チェアマン トム・イルーブ
会長 Rob Briers
男子コーチ スティーブ・ボーズウィック
女子コーチ ジョン・ミッチェル
公式ウェブサイト englandrugby.com

ラグビー・フットボール・ユニオン (Rugby Football Union) は、イングランドラグビーユニオンを統括する競技運営団体。略称はRUまたはRFUイングランドラグビー協会と称されることもある。

協会概要

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1886年に国際ラグビーフットボール評議会(International Rugby Football Board; 略称IRFB、現在のワールドラグビー)が設立される前は、ラグビーユニオンの国際統括団体でもあった。このため、設立当初から「イングランド」の名称を組織名に使ってこなかった[2][3]

イングランド国内のラグビーユニオンの管理と運営、イングランド代表チームの国際試合の開催のほか、選手と審判・役員の育成を行う[3]

ロンドンのトゥイッケナム・スタジアムを本拠地としている。加盟クラブ数は2,000以上、登録者は250万人以上いる[4]

歴史

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1863年に設立されたフットボール・アソシエーション (Football Association; FA) を脱退したクラブにより、1871年に設立された[2]

1890年、国際ラグビーフットボール評議会(現: ワールドラグビー)に加盟[5]

1895年、北部でラグビー・フットボール・ユニオンからの分裂が起き、ノーザン・ラグビー・フットボール・ユニオン(現: ラグビー・フットボール・リーグ)が発足された。

イングランド代表応援歌に関する議論

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イングランド代表応援歌として、『Swing Low, Sweet Chariot』がある。ワールドカップや様々な国際試合において、観客が試合会場で歌う[6][7][8][9]。また、ハーフタイムで運営側が企画して歌われることもある[10]

しかし2020年6月、ジョージ・フロイドの死をきっかけに始まったブラック・ライブズ・マター運動(Black Lives Matter)の高まりに対応して、イングランド代表応援歌として試合会場などで歌われていた『Swing Low, Sweet Chariot』[11]に対し、応援歌としての使用を禁止することを検討していると、RFUは発表した[12]。この発表に対して、後述のような議論を呼んだが、2024年10月現在でも禁止にはなっていない[13]

歌われてきた経緯

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曲自体は20世紀はじめからよく知られたもので、応援歌となる前にも多くのミュージシャンによってリリースされている[13]

1981年公開の映画『炎のランナー(原題:Chariots of Fire)』にちなみ、俊足で活躍する黒人ウィング選手マーティン・オファイア(Martin Offiah)に、「Chariots(チャリオッツ)」というニックネームがついた[14]チャリオットとは、馬で引く古代の戦車のこと。 後に、マーティン・オフィアは元バーバリアンズラグビーリーグ殿堂入りした[15]

1987年、トゥイッケナム・スタジアムで行われた13人制ラグビーリーグの試合で、オフィアが出場する試合中に、『Swing Low, Sweet Chariot』が歌われた。オフィアのニックネーム「Chariots」にちなんだ出来事だと、イギリス公共放送BBCは推察している[13]

ラグビーユニオン(15人制ラグビー)の国際試合においては、1988年3月19日にトゥイッケナム・スタジアムで行われたアイルランド戦において、イングランドサポーターたちが『Swing Low, Sweet Chariot』を試合中に歌いだした。試合は、イングランド代表が劇的逆転勝利[16][17]。以後、イングランド代表応援歌として定着し、イングランド代表のテストマッチなどで歌われている[18]

ワールドカップ1991では、イングランド代表のテーマ曲となり、「Union featuring the England World Cup Squad」が歌唱し、イギリスのシングルチャートで16位となった[19][20][21]

ワールドカップ2015イングランド大会にちなみ、歌手Ella Eyreは、トゥイッケナム・スタジアムを舞台にして、イングランド代表選手たちも出演したミュージックビデオを発表している[11]

曲の由来

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この曲は、1860年代後半に当時アメリカの黒人奴隷だったウォレス・ウィリス(Wallace Willis)と妻のミネルバ(Minerva Willis)によって作られた、同じ黒人奴隷への鎮魂歌であった[22][13][18]アメリカ奴隷制度下の当時、歌詞の中に即興で「奴隷たちがカナダへ逃亡する際に使っていた暗号」を含ませていたとする説もある[23][24]

アメリカ奴隷制度の廃止後、1894年に黒人グループ、スタンダード・カルテット(Standard Quartette)がこの曲を蝋管でリリース[25]。1909年には黒人アカペラグループのフィスク・ジュビリー・シンガーズによってレコード化され、現代でもB.B.キングエリック・クラプトンジョニー・キャッシュビヨンセなど多くのミュージシャンによりカバーされている有名な曲である[13]

応援歌としての賛否

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2020年、RFUによる禁止検討の発表を受け、元ラグビー選手のブライアン・ムーア(Brian Moore)とヘンリー王子も、この曲はラグビー場で歌われるべきではないと主張した[26][12][27][28]

これに対し、前述のマーティン・オフィア(Martin Offiah)は、「イングランドと他国のラグビーファンに、人種差別と黒人の歴史について教育する機会」としてこの曲は残すべきだと述べた[15]。イギリスのボリス・ジョンソン首相も、使用禁止に反対意思を表明した[29]

かつて女子イングランド代表選手だった黒人のマギー・アルフォンシ(Maggie Alphonsi)は、「RFUが検討しているのは良いことだと思うが、禁止されるのには賛成できない」と述べた[30]

ワールドカップ2023(フランス大会)でも、イングランド代表が出場する試合会場で『Swing Low, Sweet Chariot』を観客たちが歌っている[31]

2024年10月、現役イングランド代表で黒人のマロ・イトジェは、以前は気楽に歌っていたが、この歌の起源の背景を理解したことにより、気持ちが変わったと述べ、「人々に何をすべきか、何をすべきでないかを言うつもりはないが、個人的にはもうこの歌は歌わない」と表明した[18]

主な大会

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脚注

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  1. ^ Official Site of FIRA Archived January 5, 2008, at the Wayback Machine.
  2. ^ a b Rugby Football History”. www.rugbyfootballhistory.com. 2024年10月29日閲覧。
  3. ^ a b Who are we? | Rugby Football Union”. www.englandrugby.com. 2024年10月29日閲覧。
  4. ^ Careers & Vacancies at the RFU”. web.archive.org (2011年1月9日). 2024年10月29日閲覧。
  5. ^ Rugby Football History”. www.rugbyfootballhistory.com. 2024年10月29日閲覧。
  6. ^ Paulo Moustachio (2011-02-27), Swing low, Sweet Chariot - Twickenham - England v. France 2011, https://www.youtube.com/watch?v=ToJIY1PjhM8 2025年3月1日閲覧。 
  7. ^ garthorn (2012-12-02), NZ Haka drowned out by Swing Low at Twickenham, https://www.youtube.com/watch?v=MBQH3UWZTm0 2025年3月1日閲覧。 
  8. ^ 味スタの風景チャンネル (2019-10-05), Swing Low Sweet Chariot Rugby World Cup 2019 in Tokyo Stadium, https://www.youtube.com/watch?v=E2HXnVlilVE 2025年3月1日閲覧。 
  9. ^ Giles Lincoln (2024-11-14), Twickenham the Haka Vs swing Low, Sweet Chariot., https://www.youtube.com/watch?v=eJYh_W-A-Dg 2025年3月1日閲覧。 
  10. ^ FishermansFriendsTV (2018-12-03), 'Swing Low, Sweet Chariot' - Fisherman's Friends @ Twickenham, https://www.youtube.com/watch?v=3vST3p3pizA 2025年3月1日閲覧。 
  11. ^ a b Ella Eyre - Swing Low, Sweet Chariot”. Ella Eyre. 2024年10月29日閲覧。
  12. ^ a b (2020年6月21日). “Prince Harry backs move to ban Swing Low Sweet Chariot from England rugby matches over slavery link” (英語). The Sun. 2024年10月29日閲覧。
  13. ^ a b c d e “Why is Swing Low, Sweet Chariot the England rugby song?” (英語). (2020年3月7日). https://www.bbc.com/news/uk-england-51646140 2024年10月29日閲覧。 
  14. ^ “Why is Swing Low, Sweet Chariot the England rugby song?” (英語). (2020年3月7日). https://www.bbc.com/news/uk-england-51646140 2025年3月1日閲覧。 
  15. ^ a b “Swing Low, Sweet Chariot: Boris Johnson says song should not be banned” (英語). BBC Sport. (2020年6月18日). https://www.bbc.com/sport/rugby-union/53096584 2024年10月29日閲覧。 
  16. ^ England v Ireland 1988: The Nigel Melville Story” (英語). World Rugby Museum. 2025年2月28日閲覧。
  17. ^ The Glasgow Herald - Google News Archive Search”. news.google.com. 2025年2月28日閲覧。
  18. ^ a b c Maro Itoje won't sing iconic England anthem during the Autum...” (英語). www.rugby-addict.com (2024年10月28日). 2024年10月29日閲覧。
  19. ^ SWING LOW (RUN WITH THE BALL) FT ENGLAND WORLD CUP RUGBY SQUAD” (英語). Official Charts (1991年10月12日). 2024年10月29日閲覧。
  20. ^ Union Featuring The England Rugby World Cup Squad Swing Low Run With The Ball”. iDENT Channel. 2024年10月29日閲覧。
  21. ^ Union: Swing Low (Run With The Ball) Featuring England Rugby World Cup Squad”. P O L T E R G E I S T. 2024年10月29日閲覧。
  22. ^ What are the lyrics to 'Swing Low, Sweet Chariot'?” (英語). www.classical-music.com. 2024年10月29日閲覧。
  23. ^ Story behind spiritual 'Sweet Chariot' emerges - USATODAY.com”. usatoday30.usatoday.com. 2024年10月29日閲覧。
  24. ^ Underground Railroad Terminology, Underground Railroad: The William Still Story : PBS”. web.archive.org (2013年10月4日). 2024年10月29日閲覧。
  25. ^ hennessey. “Earliest Recording Of 'Swing Low, Sweet Chariot' Discovered On Wax Cylinder” (英語). Archeophone Records. 2024年10月29日閲覧。
  26. ^ Simcox, Georgia (2020年6月20日). “Prince Harry backs move to ban Swing Low, Sweet Chariot”. Mail Online. 2024年10月29日閲覧。
  27. ^ Das, Roya Nikkhah Royal Correspondent and Shanti (2020年6月20日). “Prince Harry backs rugby move to kick out slavery song Swing Low, Sweet Chariot” (英語). www.thetimes.com. 2024年10月29日閲覧。
  28. ^ ラグビー試合でイングランド代表応援歌『Swing Low, Sweet Chariot』の歌唱の禁止を要請、ヘンリー王子が支持
  29. ^ “Swing Low, Sweet Chariot: Boris Johnson says song should not be banned” (英語). BBC Sport. (2020年6月18日). https://www.bbc.com/sport/rugby-union/53096584 2024年10月29日閲覧。 
  30. ^ 'Swing Low debate a chance to educate' - Will Greenwood, Maggie Alphonsi, Topsy Ojo discuss | Rugby Union News | Sky Sports”. web.archive.org (2020年6月22日). 2024年10月29日閲覧。
  31. ^ England rugby fans sing 'Swing Low Sweet Chariot' at Rugby World Cup 2023 v Samoa in Lille”. Giles Bearder. 2024年10月29日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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