ドウクツヌマエビ

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ドウクツヌマエビ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 甲殻亜門 Crustacea
: 軟甲綱 Malacostraca
: 十脚目(エビ目) Decapoda
亜目 : 抱卵亜目(エビ亜目) Pleocyemata
下目 : コエビ下目 Caridea
: ヌマエビ科 Atyidae
亜科 : ムカシヌマエビ亜科 Typhlatyinae Holthuis, 1986
: ムカシヌマエビ属(ドウクツヌマエビ属)
Antecaridina Edmondson, 1954
: ドウクツヌマエビ A. lauensis
学名
Antecaridina lauensis (Edmondson, 1935)

ドウクツヌマエビ(洞窟沼蝦)、学名 Antecaridina lauensis は、十脚目ヌマエビ科に分類されるエビの一種。インド太平洋熱帯域の島嶼に広く分布し、海岸の「陸封潮溜まり」を生息地とする特異な生態をもつエビである。本種のみでムカシヌマエビ属(ドウクツヌマエビ属) Antecaridina を構成する[1][2]

特徴[編集]

成体は体長15mm程度で、日本産ヌマエビ類としては小型である。額角は短くて鋸歯もない。複眼は小さく退化しているが触角が長い。顎脚と歩脚全てに外肢がある。頭胸甲は丸みを帯び、眼上棘は無いが、眼より外側に触角上棘と前側角棘がある。成体の体色はく、黄色の斑模様が出るものもある。ヌマエビ科の中でも最も原始的な形態を残す種類とされている。

生息地は南西諸島南大東島宮古島伊良部島竹富町黒島徳之島(鹿児島県天城町)、沖永良部島小笠原諸島西之島(東京都)、ハワイ諸島フィジーソロモン諸島フィリピンマクタン島マダガスカル北西のEuropa Islands、紅海のEntedebir Islandの記録がある。インド太平洋熱帯域の島嶼に広く分布するが、その割りに知られている生息地は少ない。タイプ産地はフィジーのラウ諸島で、学名の種名"lauensis"もここに由来する。

島嶼部の海岸にある洞窟井戸、岩礁の窪み等の地下水系に生息する。長い触角と退化した眼は暗い環境に適応したものである。またヌマエビ科ではあるが、海水の影響がある小規模な汽水域、いわゆる「陸封潮溜まり」と呼ばれる環境に棲むのが特徴である。これは生息範囲としては制約が大きいが、魚類などの天敵もいない。日本の南西諸島では同様の環境にチカヌマエビ Halocaridinides trigonophthalmaアシナガヌマエビ Caridina rubella 等も見られるが、本種は顎脚と歩脚に外肢がある点で区別できる。

人目に付きにくい環境に生息するうえに利用もされず、生態の詳細は不明である。飼育下で6年以上生存した記録があり、これはヌマエビ科としては長寿だが、その期間中にも抱卵せず、繁殖・発生・生活史等のデータは得られなかった[2][3]

レッドリスト掲載状況[編集]

他の洞窟性水生生物と同様に、洞窟や井戸の埋め立て、地下水の汲み上げ、農薬等による地下水汚染が脅威となる。日本の既知の生息地も埋め立てられた等の報告があり、絶滅の危険性が高まったとされている。但し分布域が広い上に生息状況が人目に付きにくいため、未知の生息地がある可能性も高い。

日本の環境省が作成した『その他無脊椎動物レッドリスト』2007年版では「絶滅危惧II類(VU)」として掲載されたが、沖縄県レッドリスト2005年版ではそれより1段階上の「絶滅危惧IB類(EN)」として掲載されている[3][4]

また、国や自治体の天然記念物指定を受けた生息地もある。特に本種に絞った指定ではないが、指定区域内での無許可の採集は処罰対象となる。

参考文献[編集]

  1. ^ 三宅貞祥『原色日本大型甲殻類図鑑 I』ISBN 4586300620 1982年 保育社
  2. ^ a b 林健一『日本産エビ類の分類と生態』 II. コエビ下目(1) ISBN 9784915342509 2007年 生物研究社
  3. ^ a b 沖縄県文化環境部自然保護課『改訂版 レッドデータおきなわ-動物編- (6)甲殻類』(解説 : 諸喜田茂充)2005年
  4. ^ 環境省レッドリスト(その他無脊椎動物)2007年修正版