マヌルネコ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
マヌルネコ
マヌルネコ
マヌルネコ Otocolobus manul
保全状況評価[1][2][3]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
: ネコ科 Felidae
亜科 : ネコ亜科 Felinae
: Otocolobus Brantz, 1842[4]
: マヌルネコ O. manul
学名
Otocolobus manulPallas, 1776)[5][4][6]
シノニム

Felis manul Pallas, 1776[7]

和名
マヌルネコ[7]
英名
Manul[3][4][6]
Pallas's cat[3][4][5][7]

マヌルネコ(Otocolobus manul)は、哺乳綱食肉目ネコ科Otocolobus属に分類される食肉類。本種のみでOtocolobus属を構成する。別名モウコヤマネコ[8][9]

分布[編集]

アフガニスタンイランインド(ヒマラヤ山脈)、カザフスタンキルギス中華人民共和国ネパールパキスタンブータンモンゴル国ロシア南部[3]。1960年代以前にはウズベキスタンタジキスタンでも報告例があり、分布している可能性もある[3]アゼルバイジャンアルメニアでは、絶滅したと考えられている[3]

形態[編集]

頭胴長(体長)50 - 65センチメートル[7]。尾長21 - 31センチメートル[7]。体重オス3.3 - 5.3キログラム、メス2.5 - 5キログラム[5]。体毛が長く密集して生えているので、丸々と太った立派な体型に見える。この厚い毛のおかげで、雪の上や凍った地面の上に腹ばいになったとき体を冷やさずにすむ[8][6]。体は橙みを帯びた灰色、腹面は白っぽい灰色、四肢は黄土色、腰に茶色の横縞が走る[8]。個体によってはこの横縞が厚い毛のせいで判別できないこともある。尾には5 - 6本の黒い縞模様が入り、先端は黒い[7][8]。頬は白色で長い毛がある[8]。目の端から頬に黒色の縞が走る。顎から喉にかけても白色で、体下面では密集した灰色がかった毛になる。季節が移ると毛は生え変わる。冬毛は夏毛より灰色みが強く、模様が不鮮明である[6]

左右の耳介は離れ、低い位置にある[6][7]。特徴的な顔つきで、目の位置が高いところにあるので、額は高く、丸い耳が低く離れた位置に付いているように見える[8]。眼は顔の前方に位置する[6][7]。目の位置が高いのは、身を隠せる場所の少ない平坦な砂漠ステップで、岩陰に臥せて岩の上から目だけを出して獲物を狙うのに適しているからだと考えられている[8]。虹彩は黄色で、瞳孔は丸く収縮する[7][8]。歯列は門歯が上下6本、犬歯が上下2本、小臼歯が上下4本、大臼歯が上下2本と計28本[7]。爪は非常に短い[6]。他のネコ科の動物と比べると足や爪が短く、臀部がやや大きい。

分類[編集]

ヒョウ亜科

Pardofelis属(アジアゴールデンキャットなど)

Caracal属(アフリカゴールデンキャット+カラカル+サーバル)

オセロット属Leopardus

オオヤマネコ属Lynx

チーターAcinonyx jubatus

ピューマ属Puma

ネコ属Felis

マヌルネコ Otocolobus manul

サビイロネコPrionailurus rubiginosus

マライヤマネコP. planiceps

ベンガルヤマネコP. bengalensis

スネドリネコP. viverrinus

Johnson et al.(2006)より、現生種の系統図を簡略化したもの[10]

以前は、イエネコの長毛種ペルシャの原種と考えられていた[6]。後にイエネコの含まれる系統のうちクロアシネコやジャングルキャット・スナネコなどよりも、初期に分岐した種とみなされるようになった[6]。 2006年に発表された分子系統解析では、ベンガルヤマネコ属とLeopard cat linegeを形成するという説が提唱されている[3]。ベンガルヤマネコ属の共通祖先とは、5,900,000年前に分岐したと推定されている[3]

英名Pallas's catは、本種を発見したPeter Simon Pallasに由来する[6][7]

以下の亜種の分類・分布は、IUCN SSC Cat Specialist Group (2017) に従う[4]

Otocolobus manul manul (Pallas, 1776)
カザフスタン、中華人民共和国(甘粛省)、モンゴル国、シベリア南部
Otocolobus manul ferrugineus Ognev, 1928
アフガニスタン、イラン北部、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、バルチスタン
Otocolobus manul nigripectus (Hodgson, 1842)
チベットカシミール地方 

以下の亜種の分類・分布も、IUCN SSC Cat Specialist Group (2017) に従う[4]

Otocolobus manul manul (Pallas, 1776)
アフガニスタン、イラン、カザフスタン、中華人民共和国(甘粛省)、パキスタン、モンゴル国、中央アジア、シベリア南部
亜種O. m. ferrugineusはシノニムとされる。
Otocolobus manul nigripectus (Hodgson, 1842)
ネパール、ブータン、チベット、カシミール地方

生態[編集]

標高450 - 5,073メートルにある、岩場の多い草原やステップ・半砂漠などに生息する[5]。昼夜を問わず活動するが、捕食者などを避けるため狩りは主に薄明薄暮時に行う[5]。危険を感じると動かずに身をかがめて、地面に腹這いになる[5]

主にナキウサギ類・アレチネズミ類やハタネズミ類などの齧歯類・イワシャコ類などの鳥類などを食べるが、ノウサギ類やマーモット類の若獣を食べることもある[6]。トランスバイカル地方西部の502個の糞の内容物調査では、89 %にナキウサギ類、44 %に小型齧歯類、3 %にジリス類、2 %にノウサギ類や鳥類が含まれていたという報告例もある[6]。獲物に音を立てずゆっくり忍び寄る、草本の中を移動して飛び出した獲物を捕食する(主に春季や夏季)、獲物の巣穴の入り口で待ち伏せを行う(主に冬季)といった方法で狩りを行う[5]

妊娠期間は66 - 67日や74 - 75日という報告例がある[6]。主に4 - 5月に出産する[6]。主に2 - 4頭の幼獣を産むが、8頭の幼獣を産んだ例もある[6]

マヌルネコは独特な威嚇行動をとる。片方の上唇を釣り上げ震わせて、大きな犬歯をむき出しにするのである[6]

人間との関係[編集]

名前のマヌル(manul)はモンゴル語に由来し[6]、「小さい野生ネコ」の意[7]。属名Otocolobusは「耳が短い」の意[9]

毛皮が利用されることもある[3]。モンゴルやロシアでは、脂肪や内臓が薬用になると信じられている[3]

農地開発や牧草地への転換・過放牧・採掘などによる生息地の破壊および分断化、違法な狩猟やマーモット類と誤って狩猟や罠による混獲、過放牧によって増加した牧羊犬や野犬による捕食などにより、生息数は減少している[3]。本種の獲物および巣穴を提供するナキウサギ類・齧歯類は、家畜との競合や感染症の防止などの理由から駆除が進められており、これらの減少による影響も懸念されている[3]。多くの生息地で法的に狩猟は規制され毛皮の国際的な商取引も1980年代には規制されているが、多くの生息地で密猟が行われていると考えられている[3]。モンゴルのみ一部の狩猟者に狩猟が許可され、毛皮が中華人民共和国へ密輸されている[3]。1977年に、ネコ科単位でワシントン条約附属書IIに掲載されている[2]

飼育下では、特に幼獣がトキソプラズマ症に感染してしまうことが多いとされる[5]

法によって保護される前は、中華人民共和国、モンゴル国、アフガニスタン、ソビエト連邦で毛皮をとるために狩猟の対象とされた。齧歯類を捕食するため、殺鼠剤の使用が本種の生存に影響を与えているかもしれない。

感染症による死亡率が高く、飼育下での繁殖は困難である。生息地が高地のため病原菌が少なく、免疫力が低いためと考えられている。現在では動物園での繁殖が試みられており、近親交配を避けて繁殖を目指す為、世界的に動物園が連携している。

繁殖に力を入れているのは主にロシアであり、2014年に同国のノボシビルスク動物園から同園で生まれた雄雌各1匹が米国の動物園へ移送されている。日本では2016年に2歳の雄のマヌルネコ1匹が埼玉県こども動物自然公園(東松山市岩殿)へ送られている[11]

出典[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ Appendices I, II and III (valid from 28 August 2020)<https://cites.org/eng> (downroad 09/07/2020)
  2. ^ a b UNEP (2020). Otocolobus manul. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. (download 09/07/2020)
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n Ross, S., Barashkova, A., Dhendup, T., Munkhtsog, B., Smelansky, I., Barclay, D. & Moqanaki, E. 2020. Otocolobus manul. The IUCN Red List of Threatened Species 2020: e.T15640A162537635. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2020-2.RLTS.T15640A162537635.en. Downloaded on 07 September 2020.
  4. ^ a b c d e f IUCN SSC Cat Specialist Group, "Genus Otocolobus," Cat News, Spacial Issue 11, 2017, Pages 21-22.
  5. ^ a b c d e f g h Luke Hunter 「マヌルネコ」山上圭子訳『野生ネコの教科書』今泉忠明監修、エクスナレッジ、2018年、40-43頁。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q Mel Sunquist and Fiona Sunquist, "Manul Otocolobus manul (Pallas, 1776)," Wild Cats of the World, University of Chicago Press, 2002, Pages 219-224.
  7. ^ a b c d e f g h i j k l 成島悦雄 「ネコ科の分類」『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』今泉吉典監修、東京動物園協会、1991年、150-171頁。
  8. ^ a b c d e f g h 今泉忠明 「マヌルネコ」『野生ネコの百科[最新版]』 データハウス、2004年、46-47頁、ISBN 978-4-88718-772-6
  9. ^ a b 増井光子「マヌルネコ」『標準原色図鑑全集 20 動物 II』林壽郎著、保育社、1968年、60頁。
  10. ^ Warren E. Johnson, Eduardo Eizirik, Jill Pecon-Slattery, William J. Murphy, Agostinho Antunes, Emma Teeling, Stephen J. O'Brien, "The Late Miocene Radiation of Modern Felidae: A Genetic Assessment," Science, Volume 311, Number 5757, 2006, Pages 73-77.
  11. ^ 中山信 (2016年9月4日). “希少動物 マヌルネコ ロシアから“婿入り””. 毎日新聞社. 2016年9月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年9月4日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]