ヒキオコシ

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ヒキオコシ
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : キク亜綱 Asteridae
: シソ目 Lamiales
: シソ科 Lamiaceae
: ヤマハッカ属 Isodon
: ヒキオコシ
学名
Isodon japonicus (Burm.f.) H.Hara (1949)[1]
シノニム
和名
ヒキオコシ(引越し)

ヒキオコシ(引起し、学名Isodon japonicus)は、シソ科ヤマハッカ属多年草

名称[編集]

和名ヒキオコシ(引起し)の名の由来は、昔、弘法大師が諸国行脚の道中で、道端で病で苦しんで倒れ込んでいる旅人に出会い、旅人は今にも死にそうで、近くに生えていたこの草を噛むように教えた(あるいは飲ませた)ところ、病が治ってその病人が起き上がって元気になり、旅を続けたという故事からくる[5][6][7]。日本では別名で、エンメイソウ(延命草)とも呼ばれ、この弘法大師の伝説から名付けられている[5][6]。また、葉は口に含むと苦く、起死回生の力があるといわれたことに由来するという説もある[8]

中国植物名は、毛葉香茶菜(もうようこうちゃさい)という[6]

分布と生育環境[編集]

北海道南西部から本州四国九州に分布し、日当たりの良い丘陵山野に自生する[5][8]

特徴[編集]

多年草[5]。高さは50 - 100センチメートルほどになり、の断面は四角く、下向きに毛が密生している[5][8]は茎に対生し、葉身は広卵形で先が尖り、葉縁鋸歯がある[5][8]

花期は秋(9 - 10月)[5]。茎の上部や葉腋から円錐花序を出して、花穂に淡紫色の多数の小さな唇形花をまばらにつける[5][8]は5裂し、雄蕊は4個あり、うち2個は長く、ともに花外に突き出る。雌蕊は1個つく。萼筒の底部に、4分果をつける[8]

シソ科植物であるが、シソ(紫蘇)のような芳香はなく、葉を噛むと大変苦く、青臭い臭いかする[5]

利用[編集]

薬草として利用され、9 - 10月の開花期に地上部の茎葉を刈り取って、長さ2 - 3 cmに刻んで日干し乾燥したものを延命草(えんめいそう)と称して生薬にする[5]。干し上げたときに、鮮やかな緑色で、苦味の強いものが良品とされている[5]。強い苦味成分はプレクトランチンで、この成分は40万倍に水で薄めても苦味は残ると言われていて、胃酸を中和する重曹と混ぜると、全く苦味が消えて、苦味健胃薬の効果がなくなる性質がある[5]。薬として使用するときは、他のものと混ぜずに単独で用いることによって、胃液の分泌を盛んにし、消化を促進させる[5]

民間療法で、胃弱、胃下垂、胃筋無力症、胃炎、食欲不振などに、延命草1日量5 - 10グラムを、水600 ccで半量になるまで煎じて、かすを取り除いて食後に3回に分けて服用する用法が知られている[5][6]。粉末の場合は、1日量2グラムを水か湯で服用する[5]。やや胃腸を冷やす働きをする薬草であることから、胃腸が冷えやすい人は慎重に使用する[6]。また、妊婦に対する服用は禁忌とされている[6]

近縁種[編集]

  • カメバヒキオコシ Isodon umbrosus var. leucanthus f. kameba[9] - ヒキオコシ同様に薬草とされる[6]
  • クロバナヒキオコシ Isodon trichocarpus[10] - 北海道、奥羽地方、北陸地方、山陰地方のやや乾いた山地に自生する。花が暗紫色。同様に薬用にされる。[5]

脚注[編集]

参考文献[編集]

  • 大嶋敏昭監修『花色でひける山野草・高山植物』成美堂出版〈ポケット図鑑〉、2002年5月20日、342頁。ISBN 4-415-01906-4 
  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、61頁。ISBN 4-09-208016-6 
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、107頁。ISBN 4-06-195372-9 

外部リンク[編集]