ニュークリア・シェアリング

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核兵器拡散状況
     核保有国      ニュークリア・シェアリング      NPTのみ      非核地帯

ニュークリア・シェアリング(Nuclear Sharing)とは、「核兵器の共有」という北大西洋条約機構(NATO)の核抑止における政策上の概念である。

NATOが核兵器を行使する際、独自の核兵器をもたない加盟国が計画に参加すること、および、特に、加盟国が自国内において核兵器を使用するために自国の軍隊を提供することが含まれている。ニュークリア・シェアリングの参加国は、核兵器に関する政策に対して決定力をもち、核兵器搭載可能な軍用機などの技術・装備を保持し、核兵器を自国領土内に備蓄するもの。ソ連やその衛星国に配備された核兵器に対応するためにドイツ、イタリア、ベルギー、オランダは自国内にアメリカが所有する核を置いている。4カ国共各国の政府がそれぞれ使用権限を持っている[1]


加盟国[編集]

NATO内の核保有国である三カ国(フランスイギリスアメリカ)のなかで唯一アメリカだけがニュークリア・シェアリングのための核兵器を提供している。現在ニュークリアシェアリングを受けている国は、ベルギードイツイタリアオランダである。イギリスは自ら核兵器保有国で原子力潜水艦にミサイルを積んで自国を防衛した上に、1992年までアメリカの戦術核兵器の提供をうけており、提供された核兵器は主に西ドイツ国内に配備されていた[2]

核兵器の管理方法[編集]

平時においては、核兵器非保有国内に備蓄された核兵器は、アメリカ軍により防衛され、核兵器を起動する暗号コードはアメリカの管理下にある。有事にあっては、核兵器は参加国の軍用機に搭載され、核兵器自体の管理・監督はアメリカ空軍弾薬支援戦隊(USAF Munitions Support Squadrons)により行われることになっている(この部隊は、NATOの主作戦基地内で、ホスト国の軍隊と一緒に行動・勤務する)。戦時に於いて核戦力の行使はNATOの総意とされるが、敵地領土への最終的な判断はあくまで核兵器提供国にある。そのため、たとえ他のNATO加盟国全てが同意しても、アメリカかが拒否すれば敵領土へは核兵器は使用できない。侵略されて領土が敵軍に占領されている場合は逆に、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダで侵略された領土の政府の許可が必要である[3]

目的[編集]

NATOと東側諸国との間でヨーロッパを戦場とする全面戦争が勃発し、通常兵器では阻止できない規模の敵軍がNATO加盟国の領土に侵攻した場合、敵軍を排除するために核兵器が使用されることになる。しかし、これはNATO内の核保有国であるフランス、イギリス、アメリカが同盟国の領土であった土地(当然、逃げ遅れたNATO加盟国の国民が数多く取り残されていることが予想される)を核兵器で攻撃するということを意味する。同盟国の領土を核兵器で攻撃するという重大な決断を、核保有国が単独で攻撃対象国の意思を踏まえずに下せば将来的に大きな恨みを残しかねない。そこで、東側諸国との全面戦争時、領土内でNATOによる核攻撃が行われる可能性が高いNATO加盟国に自国内で核兵器を使用するかどうかの決定権を持たせ、自らの手で核攻撃を行わせるのがニュークリア・シェアリングの目的である。よって、ニュークリア・シェアリングの対象となる核兵器は敵軍を直接攻撃し侵攻を阻止するための戦術核兵器に限定されており、戦略核兵器は対象となっていない。

歴史[編集]

2005年までに、480基の核兵器がヨーロッパに展開していたと思われる。また180発のB61戦術核爆弾が、ニュークリア・シェアリングのために提供されたといわれる。

これらの核兵器は、アメリカ空軍が採用している航空機用掩蔽シェルター(WS3システム USAF WS3 Weapon Storage and Security System)の中に備蓄されていた。また投下に用いられる軍用機として当初はF-104Gのような高速戦闘機が、のちにはマルチロール化したF-16パナビア・トーネードが採用されていた。

シェアされた核兵器は、爆弾に限定されたわけではない。たとえばギリシャはナイキ・ハーキュリーズ地対空ミサイルA-7攻撃機を保有し、カナダは対空核ミサイルやオネスト・ジョン地対地核ロケット弾やAIR-2空対空核ロケットおよびCF-104とCF-104用戦術核兵器を保有していた。

ソ連崩壊以後、NATOでシェアされていた核兵器は削減されており、現在では旧式化した戦術核爆弾だけが残っている。

ドイツ国内唯一の核基地がルクセンブルク近郊にあるブューヒェル(Büchel)に存在する。基地内には、WS3で装備された11個の航空機用掩蔽シェルターがあり、核兵器備蓄用に使われている(最大備蓄数は、44発)20発のB61核爆弾が備蓄され、ドイツ空軍トーネードIDSを装備する第33戦闘爆撃戦航空団(JaBoG 33 =Jagd Bomben Geschwader 33)が投下任務にあたっている。

NPTをめぐる考察[編集]

非加盟国とNATO内の批判として、NATOのニュークリアシェアリングは、「核兵器国」と「非核兵器国」相互での核兵器の直接および間接的な移転、および受け入れの双方を禁じている核拡散防止条約(NPT)第一条と第二条に違反しているとする見解がある(ちなみにNATO加盟国のうちドイツとイタリアが「非核兵器国」)。

これに対してアメリカ政府は、以下のような解釈を取っている。

  • 核爆弾および核コントロールの移転は許されない、
  • ただし許されないのは「戦争勃発の時点までであり、戦時にはNPT条約の規制は及ばない」
  • したがって、NPTに違反はしない

とする。しかしながら、核兵器を「保有していない」NATO各国のパイロットおよび人員はアメリカの核爆弾を投下するために配備されており、技術的な核兵器に関する情報の移転が含まれている。

仮にアメリカの主張が法的に正しいものとしても、平時におけるそのような作戦は、NPTの精神と目的に反するように思われるとする議論がある。実質的に、核戦争のための準備が非核兵器保有国によって行われていると主張している。

NPT条約の交渉中、NATOのニュークリア・シェアリング合意は秘密事項であった。これらの議論はいくつかの国には開示され、ソビエト連邦も含まれていた。開示された国との間では、NATOの合意が違反でない扱いを受けることが交渉されていたが、1968年に締結されたNPTにサインしたほとんどの国が、その時点では、合意の存在とその解釈を知ることはなかった。

日本とアメリカ[編集]

1950年代、自衛隊と米軍の間で、アメリカから核弾頭を提供する形での米日間の核共同保有が一時検討されていた。背景にはアメリカが西側防衛のため核兵器への依存を深めていた事情があったとされる。第五福竜丸事件などで日本の反核世論が盛んになっていなかった場合、日本は「核保有国」になっていた可能性も指摘される[4]

なお、日本とアメリカの間でニュークリア・シェアリングを行うことで日本独自の核抑止力を手に入れようという議論が見られることがある。しかし、ニュークリア・シェアリングは参加国の領土が敵軍に侵略され、排除のために核兵器を使用することを想定している。この想定は領土を海に囲まれ、核兵器でなければ阻止できないほど大規模な敵軍の上陸を受ける可能性が極めて低い日本の現状とは適合しない。

さらに、日本の核兵器保有による核抑止構想は「弾道ミサイルをはじめとする戦略核兵器に対し、自らも敵国中枢を攻撃できる戦略核兵器を保有することで牽制を行う」というものであり、この構想を実現するためには長射程の戦略核兵器が必要となる。しかし、ニュークリア・シェアリングの対象となる核兵器は陸上戦力を阻止するための戦術核兵器であり、戦略核兵器は対象とならない(かつて米日間での核共同保有が検討された際も、共同保有の対象として想定されていたのは短射程の戦術核兵器であった)。この点からも今のところ、アメリカと日本との間でニュークリア・シェアリングが行われることは無いと考えられる。

脚注[編集]

  1. ^ [PRESIDENT 2017年10/16号,p15
  2. ^ [PRESIDENT 2017年10/16号,p15
  3. ^ [PRESIDENT 2017年10/16号,p15
  4. ^ 「米「自衛隊は核武装を」50年代公文書 共同図上演習で原爆」神戸新聞2015年1月18日

関連項目[編集]