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カヤ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カヤ
カヤの葉
保全状況評価[1]
LOWER RISK - Least Concern
(IUCN Red List Ver.2.3 (1994))
Status iucn2.3 LC.svg
Status iucn2.3 LC.svg
分類
: 植物界 Plantae
: 裸子植物門 Gymnospermae
: マツ綱 Pinopsida
: ヒノキ目 Cupressales
: イチイ科 Taxaceae [2]
: カヤ属 Torreya
: カヤ T. nucifera
学名
Torreya nucifera (L.) Siebold et Zucc. (1846)[3]
和名
カヤ(榧)
英名
Japanese torreya
Japanese nutmeg-yew
金剛院の千年ガヤ(京都の自然200選
日本最大の万正寺の大カヤ

カヤ(榧[4]、栢、学名: Torreya nucifera) は、イチイ科カヤ属常緑針葉樹。同属のシナガヤ(学名: Torreya grandis)と同じく薬用・食用とされてきたほか[5]、別属(イヌガヤ属)のイヌガヤ(学名: Cephalotaxus harringtonia)とともに油源植物の一つである[6]

名称

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の学名 Torreyaアメリカ合衆国の植物学者John Torrey(1796〜1873年)に因む[5]種小名 nucifera は「堅果を持った」の意味である。

同属にシナガヤ Torreya grandisアメリカガヤ Torreya californica などがある。

和名のカヤについては『和名抄』巻十七に「榧子」の記述があり和名を「加倍(カヘ)」とする[6]。これに対してイヌガヤは巻二十の「柏」(和名は加閉(カヘ))とみられている[6]新井白石は『東雅』でカヘの和名が二つの漢名に当てられたことを疑問とした[6]。この点については、ここでいう「柏」はカヤとイヌガヤの総称とみる説がある[6][注釈 1]。なお、カヤはを追い払うために使われた歴史があり(『和漢三才図会』)[6]、これに基づいて語源も「蚊やり」に由来するという説もあるが、蚊やりを由来とする説には俗説という指摘がある[6]

分布・生育地

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日本本州(宮城県以西)、四国九州屋久島にかけての地域[4][7]に分布する。これらの地域で暖帯林、山地[7]に散生する。植栽されたものは純林状となるが、自生では谷の近くなど湿潤な場所に単木あるいは小集団をつくる[5]。なお、朝鮮半島南部や済州島にも植栽されたものがみられるが自生があったかは議論がある[5]。欧米でも観賞木となっており、イギリスには18世紀中頃に導入された[5]

変種のチャボガヤは主に日本海側に自生し、低木で積雪地に適応する[8]

特徴

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常緑針葉樹高木[8]雌雄異株[8]、幹は直立し樹高は25メートル(m)、周囲は2 mほどになる[9]

対生する。側枝は三叉状に伸びる[9]樹皮は灰褐色から褐色で、縦に裂けて剥がれる[10]。老木になると樹皮に浅いくぼみができる[10]。若い枝は緑色で無毛である[10]

は長さは2 - 3センチメートル (cm) 、幅は2 - 3ミリメートル (mm) の線形で、断面は扁平で表面が膨らみ、基部は広いくさび形、先端は鋭く尖って、握りしめるように触れると刺さって痛い[8][9][10]。葉の表面は黒緑色から濃緑色で、裏面は淡い緑色、光沢があり革質で硬く[8]、枝の両側に並んで互生する[4][9]。中脈ははっきり見えない[9]雄花冬芽(花芽)は一年枝の葉の基部につき、雌花の冬芽は新枝の基部につく[10]葉芽は枝先にほぼ3個ずつつく[10]

花期は春(4 - 5月)[4]雌雄異株[10]雄花は長さ1 cmほどの楕円形で、前年に出た枝の葉腋から下垂し、多くの鱗片の内側にがあり、黄色い花粉を出す[8]雌花は前年枝の先に出来る[8]

果期は翌年の9 - 10月[4]種子は緑色の厚い仮種皮に包まれている。楕円形で、はじめは緑色であるが、花の咲いた翌年秋に熟すと種衣は褐色になり、縦に裂けて種子を落下させる[8]。種子は堅く、淡赤褐色で両端が尖っている[8]

日本最大のカヤは、福島県桑折町にある万正寺の大カヤ(樹高16.5 m、幹周8.7 m、推定樹齢900年、福島県の天然記念物)である[11]

変種、品種

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カヤの変種、品種として下記ものがある[12]

  • Torreya nucifera カヤ
    • var. nucifera
      • t. igaensis コツブガヤ
      • t. macrosperma ヒダリマキガヤ
      • t. nuda ハダカガヤ
      • t. sphaerica マルミガヤ
    • var. radicans チャボガヤ

利用

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庭園樹として植栽にされる[13]。材は建築や高級碁盤将棋盤に用いられる[9]

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日向榧の将棋盤(板目

カヤ材は心材が黄褐色、辺材が黄白色である[5]。比重は約0.6[5]

カヤ材で最も知られている用途は碁盤、将棋盤[14]連珠盤である。これらは様々な材の中でカヤで作られたものが最高級品とされ、特に宮崎県日向地方の日向榧が最高級品とされる[13]。寒暖差が大きくて降雨量が多いなど、木目を鮮明に出すための気象条件が揃っていることや、成長が遅く、年輪が詰まっていることが要求され、樹齢200年から800年ものが碁盤の最高級品の条件となり[4]、木取り(板取り)にもよるが、価格は数十万円から数百万円以上のものまである。寸法が足りない場合は将棋盤にされる[4]。日本国内では良質材が採れる原木が入手困難になっているため、中国産のカヤ材を使用した盤も流通している。ただし中国産の材はシナガヤのものと思われるが、材質は日本のものとほぼ同等とされる[15]

また、古くから仏像彫刻に使用されている[15]。水や湿気に対する強さから風呂桶など浴室用具や建築材、船舶材などにも使われることもあるが、カヤ材の生産量が少なく、そうした用途に用いられることは稀である[15]

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榧の実の食用例
カヤの実のウォッカ漬け

種子は食用となり、焙煎後の芳香から「和製アーモンド」と呼ばれることもある[14]。種皮をたたき割って生で食べるか、炒って食べる[9]。生の種子も支障なく食べられるが、炒ることで香ばしくなる[9]。生の種子は松脂のような臭いがして[9]アクが強いので、数日間アク抜きしたのち煎るか、クルミのように土に埋めて果肉を腐らせて取り除いてから蒸して食べる。あるいは、灰を入れた湯で茹でるなどしてアク抜き後に乾燥させ、殻つきのまま煎るかローストしたのち殻と薄皮を取り除いて食すか、アク抜きして殻を取り除いた実を電子レンジで数分間加熱し、薄皮をこそいで実を食す方法もある。果実は油脂分が35%と多く含まれていて[4]食用油[14]や灯火用に使われる。このほか将棋盤の製作過程で塗り込まれ、メンテナンスにも使用される。また、山梨県では郷土の食品として、実を粒のままに練り込み、状に固めた「かやあめ」として、縁日などで販売される。

また、カヤの種子は榧実(ひじつ)と称して漢方に用いられていて、種子の中の堅い核を取り出して天日乾燥したものである[8]。これを使用するときは、核を打ち砕いて、胚乳を取り出す[8]。榧実は1日量10グラムを煎じて服用し、十二指腸虫の駆除に、民間では腸内寄生虫の虫下し夜尿症頻尿に用いる[8]。種子100グラムほどを一晩水に浸けてふやかし、よく突き砕いて食べたりする[8]

文化

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カヤの実には戦場のけがれを清浄なものにする力があるといわれ、武士が凱旋した際には搗栗(かちぐり)とともに膳に供えられた[16]。カヤの実は相撲土俵の鎮め物としても使われており、スルメ昆布とともに、土俵中央部の穴に埋められている。

カヤの花言葉は、「努力」である[4]

著名なカヤ

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  • 万正寺の大カヤ(福島県伊達郡桑折町万正寺大榧) - 福島県指定天然記念物。幹周8.7 m、樹高16 m、樹齢300年以上。直径30 mを誇る樹冠は、日本国内最大級[17]
  • 西平のカヤ(埼玉県比企郡ときがわ町西平) - 埼玉県指定天然記念物。幹周6.6 m、樹高16 m、樹齢1000年[18][19]
  • 大歳神社のカヤ(西京区大原野灰方町575)- 別名「栢大明神(かやだいみょうじん)」とも呼ばれ、境内は栢の杜と称される。カヤの木が多数あり、種より油を搾って御神燈として用いている。境内は京都市の史跡に登録されている。

類似する植物

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よく似た樹木にイヌガヤ属のイヌガヤ(学名: Cephalotaxus harringtonia var. harringtonia)がある[20]。しかし、イヌガヤとは葉の気孔帯の数や葉枕などが異なる[6]。また、イヌガヤは葉を握りしめても痛くはなく、種子も食べられるがカヤほどおいしくはない[9]

注釈

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  1. 「柏」の字はイチイ科やヒノキ科などの常緑樹の総称として用いられることがあった[6]

脚注

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  1. Conifer Specialist Group 1998. Torreya nucifera. In: IUCN 2010. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2010.4.
  2. Ghimire, Balkrishna; Heo, Kweon (2014), “Cladistic analysis of Taxaceae s. l.”, Plant Systematics and Evolution 300 (2): 217-223
  3. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Torreya nucifera (L.) Siebold et Zucc. カヤ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年9月19日閲覧。
  4. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 田中潔 2011, p. 45.
  5. 1 2 3 4 5 6 7 堀田満「カヤのたどった道」『林業技術』第648号、日本林業技術協会、1996年、8-9頁。
  6. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 深津正「日本人とカヤノキ」『林業技術』第648号、日本林業技術協会、1996年、14-17頁。
  7. 1 2 金田洋一郎満田新一郎『ヤマケイポケットガイド21 野菜・植物』(山と渓谷社 ISBN 4-635-06231-7 )173頁
  8. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 馬場篤 1996, p. 37.
  9. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 川原勝征 2015, p. 79.
  10. 1 2 3 4 5 6 7 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 243
  11. 渡辺典博『巨樹・巨木 日本全国674本』山と渓谷社
  12. 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  13. 1 2 田中潔 2011, p. 44.
  14. 1 2 3 厄介者カヤの実 一転 盛り上げ役 ナッツ、食用油…人気加工品に 奈良県曽爾村 伐採「待った」日本農業新聞』2021年1月22日15面(2021年1月31日閲覧)
  15. 1 2 3 廣野 2011.
  16. 樫野葉舟. 本邦飮食物概觀 (4)”. 日本醸造協会雑誌34巻 (1939) 5号. 2023年1月25日閲覧。
  17. 小山洋二 2024, p. 50.
  18. 高橋弘 2008, p. 40.
  19. 小山洋二 2024, p. 67.
  20. 歴博くらしの植物苑だより”. 国立歴史民俗博物館. 2026年4月15日閲覧。

参考文献

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  • 小山洋二『巨樹・巨木図鑑:一度は訪れたい、全国の大樹たち』日本文芸社、2024年3月1日。ISBN 978-4-537-22193-0 
  • 川原勝征『食べる野草と薬草』南方新社、2015年11月10日、79頁。ISBN 978-4-86124-327-1 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、243頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 高橋弘『巨樹・巨木をたずねて』新日本出版社、2008年10月25日。ISBN 978-4-406-05175-0 
  • 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、44 - 45頁。ISBN 978-4-07-278497-6 
  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、37頁。ISBN 4-416-49618-4 
  • 廣野郁夫「カヤの実と材のはなし 周囲を見渡してみると ・・・」(PDF)『関西の林木育種』第64号、独立行政法人 森林総合研究所 林木育種センター関西育種場内関西材木育種懇話会、2011年2月、2 - 4頁、ISSN 1882-67092023年4月30日閲覧 

関連項目

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