オンコセルカ症
オンコセルカ症 | |
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![]() ブユ科の昆虫Simulium yahense成体と触角から出てきた寄生虫「回旋糸状虫」(100倍拡大写真) | |
分類および外部参照情報 | |
診療科・ 学術分野 | 感染症内科学, 熱帯医学 |
ICD-10 | B73 |
ICD-9-CM | 125.3 |
DiseasesDB | 9218 |
eMedicine | med/1667 oph/709 |
MeSH | D009855 |
オンコセルカ症 (英:Onchocerciasis) は、河川盲目症あるいはローブルズ病としても知られ、フィラリア科寄生虫である回旋糸状虫が病因の感染症(フィラリア症)[1][2]。中南米やアフリカのナイジェリアやエチオピアで感染者が多く[3]、症状には激しい痒み、皮膚の腫れ、および失明がある[1][2]。これはトラコーマに次いで、2番目に多い感染性失明である[4]。
病因と診断[編集]
この寄生虫症はシムリウム属のブユに咬まれることにより感染する[1]。通常は何度も咬まれ続ける環境でなければ感染しない[5]。このブユが河川の近くに生息することが「河川盲目症」という病名の由来となっている[4]。幼生が人体に入り成熟すると産卵し、孵化後ミクロフィラリアとなって皮膚の表面に移動する[1]。これを別のブユが咬み、そのブユが他の人間を咬むことでライフサイクルを成す[1]。
診断には「生理的食塩水の中に皮膚の生体組織を浸して幼生が出てくるか観察する」「目の中の腫れた個所を見る、皮下の腫れた個所の成虫を探す」方法がある[6]。
ライフサイクル[編集]
- メスのブユが餌として感染者の血液を吸い、同時にミクロフィラリアを体内に摂取する
- ミクロフィラリアはブユの腸や胸部飛翔筋に入り、第1幼虫期に進む
- ブユの体内で第2幼虫期に成熟し、第3幼虫期になると口吻から唾液腺に移動する(ここまで7日ほどかかる)
- このブユが次の宿主となるヒトの血液を吸った際に、幼虫がヒトの体内に入る
- 幼虫は皮下組織に入り、6~12ヶ月をかけて2度の脱皮を経て成虫となり、結節を作る
- 成虫となったオスとメスが交尾して産卵を始め、一日あたり700~1500匹のミクロフィラリアを産む
- 日中しか餌を取らないブユのために、ミクロフィラリアは日中になると皮膚表面に移動する
- このミクロフィラリアを別のブユが血液とともに吸うことでライフサイクルを成す
予防と治療[編集]
この病気に対するワクチンはなく[1]、唯一の予防方法はブユに咬まれるのを避けることである[7]。回避方法は虫よけ剤の使用と、長袖・長ズボン衣服の着用、蚊帳の使用がある[7]。殺虫剤の噴霧によりブユを減少させることもある[1]。年2回すべての罹病者を治療することにより、この病気を撲滅する努力が世界各地で行われている[1]。
罹病者に対する処置としては、6か月から12ヵ月間のイベルメクチン投与がある[1][8](ヒト用製剤メクチザンが、世界保健機関を通じて1987年よりMSDと北里研究所から無償供与され、2019年にはナイジェリアで回旋糸状虫が殆ど見られなくなる成果を挙げている[9])。イベルメクチン投与によりオンコセルカの幼生は麻痺し、好酸球やマクロファージにより排除される。成虫を直接排除することはないが[10]、メスの生殖管を麻痺させてミクロフィラリアの排出を抑制するとされる[11]。
ドキシサイクリンは、ボルバキアと呼ばれる随伴バクテリアを殺し、この寄生虫を弱体化するとされ、一部ではこれも推奨されている[10]。皮下の腫れた部分は、手術による除去も行うことができる[8]。
疫学と由来[編集]
河川盲目症には約1700万人から2500万人が罹病しており、このうち約80万人が一定の視力を喪失している[5][10]。ほとんどの感染は サハラ以南で発生するが、イエメン、中央および南アメリカの離れた地域での事例も報告されている[1]。1915年にロドルフォ・ロブレス医師が初めてこの寄生虫を眼病に関連付けた[12]。世界保健機構はこれを 顧みられない病気に含めている[13]。
脚注[編集]
- ^ a b c d e f g h i j “Onchocerciasis Fact sheet N°374”. World Health Oragnization (2014年3月). 2014年3月20日閲覧。
- ^ a b オンコセルカ症について (ファクトシート)(厚生労働省検疫所FORTH)2017年3月8日参照
- ^ 多田功、エチオピアにおける寄生虫病とその背景 アフリカ研究 1972年 1972巻 12号 p.15-20 , doi:10.11619/africa1964.1972.15
- ^ a b “Onchocerciasis (also known as River Blindness)”. Parasites. CDC (2013年5月21日). 2014年3月20日閲覧。
- ^ a b “Parasites – Onchocerciasis (also known as River Blindness) Epidemiology & Risk Factors”. CDC (2013年5月21日). 2014年3月20日閲覧。
- ^ “Onchocerciasis (also known as River Blindness) Diagnosis”. Parasites. CDC (2013年5月21日). 2014年3月20日閲覧。
- ^ a b “Onchocerciasis (also known as River Blindness) Prevention & Control”. Parasites. CDC (2013年5月21日). 2014年3月20日閲覧。
- ^ a b Murray, Patrick (2013). Medical microbiology (7th ed.). Philadelphia: Elsevier Saunders. p. 792. ISBN 9780323086929
- ^ “研究成果/大村 智 博士 ノーベル賞受賞記念”. www.kitasato-u.ac.jp. 学校法人北里研究所. 2020年4月23日閲覧。
- ^ a b c Brunette, Gary W. (2011). CDC Health Information for International Travel 2012 : The Yellow Book. Oxford University Press. p. 258. ISBN 9780199830367
- ^ “Ivermectin and River Blindness”. American Scientist 98 (4): 294–303. (2010). オリジナルの2010-07-05時点におけるアーカイブ。 2010年6月20日閲覧。.
- ^ Lok, James B.; Walker, Edward D.; Scoles, Glen A. (2004). “9. Filariasis”. Medical entomology (Revised ed.). Dordrecht: Kluwer Academic. p. 301. ISBN 9781402017940
- ^ Reddy M, Gill SS, Kalkar SR, Wu W, Anderson PJ, Rochon PA (October 2007). “Oral drug therapy for multiple neglected tropical diseases: a systematic review”. JAMA 298 (16): 1911–24. doi:10.1001/jama.298.16.1911. PMID 17954542 .
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- BERTRAM E. B. NWOKE、塩飽邦憲、高橋弘、ナイジェリアにおけるオンコセルカ症の疫学 Japanese Journal of Tropical Medicine and Hygiene. Vol.19 (1991) No.2 P.191-201, doi:10.2149/tmh1973.19.191