ドキシサイクリン

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ドキシサイクリン塩酸塩水和物
Doxycycline Hydrochloride Hydrate
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特性
化学式 C22H25ClN2O8
モル質量 480.9 g mol−1(塩酸塩)
外観 黄色-暗黄色の結晶又は結晶性の粉末
融点

201℃

への溶解度 0.63mg/mL (25℃)
苦い
屈折率 (nD) 113.89 m3 · mol-1
薬理学
生物学的利用能 100%
投与経路 経口
代謝 肝臓
消失半減期 11-13時間
血漿タンパク結合 94.4% (0.36µg/mL)
排泄 尿(55.4%)、糞便(31.5%)
法的状況 Prescription Only (S4)(AU)


-only(US)

法的分類 処方箋医薬品
胎児危険度分類 D(AU) D(US)
危険性
EU分類 刺激性 Xi
識別情報
略称 DOXY
CAS登録番号 10118-90-8
PubChem 11256
日化辞番号 J6.511K
国連/北米番号 0020414E5U
DrugBank DB00254
KEGG C06973
ChEBI CHEBI:50845
RTECS番号 QI7630500
ATC分類 J01AA02,A01AB22 (WHO)
バイルシュタイン 4836328
Gmelin参照 3077644
出典
PubChem
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ドキシサイクリン: Doxycycline)は、メタサイクリン英語版から化学的に合成されたテトラサイクリン系抗生物質である。日本での先発品は、ファイザービブラマイシングラム陽性菌グラム陰性菌リケッチアマイコプラズマクラミジアなどへ、広い抗菌作用を示す。細菌蛋白合成を阻害し、静菌性の抗生物質に分類される。特に脂溶性が強く、経口投与での吸収が極めて良好、組織内移行も良好で長時間持続する。一般的な副作用は、消化器系(食欲不振悪心嘔吐腹痛下痢など)と皮膚障害(発疹蕁麻疹光線過敏など)である[1]。経口100mg一剤あたりの卸売価格は、0.01-0.02アメリカドルと、非常に安価である[2]。可逆的な遺伝子発現調整の実験系であるTet on/offシステムに用いられる。

特徴[編集]

蛋白合成阻害
細菌などの病原微生物の細胞質内において、リボソームの30Sに結合し、病原微生物の蛋白合成を阻害する。ヒトなど真核生物のリボソームは40Sと60Sであるため、作用しない。
最小発育阻止濃度 (MIC) の低い菌種は0.03-0.12µg/mLである[1][3][4]
PAC1受容体活性化促進
PAC1受容体へのリガンド結合をドキシサイクリンが促進させ、PAC1の活性化を増強し神経を保護した[5]。この神経保護は1ng/mLから有意に作用していた[5][注 1][1]
ミクログリア活性化阻害
ドキシサイクリンは活性化した小膠細胞を減少させる[6]
PARP-1阻害
ドキシサイクリンは強力なポリADPリボースポリメラーゼ1英語版阻害作用を有している。PARP-1阻害のEC50は70nMである。100nM濃度では類薬のミノサイクリンと同様にPARP-1を約75%阻害する[7][注 2]
中枢移行性
類薬ミノサイクリンほどではないが中枢移行性が高い。脳中濃度は血中濃度の約30%である[8]
血中濃度の11-56%が脳脊髄液中に移行する報告もある[9]
Tet on/offシステム
可逆的な遺伝子発現調整の実験系であるTet on/offシステムに用いられる。iPS細胞の研究において、生体内で山中4因子[注 3]の働きをドキシサイクリン投与で制御することができる[10]。また、ドキシサイクリン投与に反応して一時的にALSなどの難病を発症させることが可能とされる。この仕組みを利用した韓国の研究チームは、ドキシサイクリンを投与すると紫外線照射で蛍光緑の光を放つ「光る犬」を創り出した[11]

適応[編集]

適応菌種[編集]

ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌淋菌炭疽菌大腸菌赤痢菌肺炎桿菌ペスト菌コレラ菌ブルセラ属Q熱リケッチアコクシエラ/ブルネティ)、クラミジア

適応症[編集]

皮膚/骨格系感染症
表在性皮膚感染症丹毒など)、深在性皮膚感染症(蜂窩織炎など)、リンパ管炎・リンパ節炎、慢性膿皮症外傷/熱傷及び手術創等の二次感染乳腺炎骨髄炎
上気道/下気道感染症
咽頭炎、喉頭炎、扁桃炎急性気管支炎肺炎慢性呼吸器病変の二次感染
尿路感染症/生殖器感染症
膀胱炎腎盂腎炎前立腺炎尿道炎、淋菌感染症、子宮内感染、子宮付属器炎(骨盤腔内感染)
消化器感染症
感染性腸炎コレラ
感覚器感染症
眼瞼 膿瘍涙嚢炎麦粒腫角膜炎中耳炎副鼻腔炎歯冠周囲炎、唾液腺
全身性感染症
猩紅熱炭疽ブルセラ症ペストQ熱オウム病

応用[編集]

マラリア予防
マラリア原虫に対してもある程度の効果があり、予防内服あるいは他の抗マラリア剤と併用して治療に用いられることもある。海外ではメフロキンの副作用を懸念し、代替薬として使用されることが多くなった。
悪性腫瘍
ドキシサイクリンは卵巣癌子宮頸癌への抗癌作用が示された[12][13]
致死性家族性不眠症
治療法がみつかっていない致死性家族性不眠症への試験が行われている[14]。動物研究では有効性が示されている[15][16][17][18][19]
ドキシサイクリンの副作用に眠気や傾眠の報告はない[1]

用量[編集]

通常、成人は初日 200mg/日 を1x(A)または2x(MuA)で経口服用し、2日目より 100mg/日 を1x(A)を経口服用する。なお、感染症の種類や病勢および患者の体格や性別、症状により適宜増減する。

副作用の懸念から、海外では低用量製剤や放出調整剤が使用されており注意が必要。にきびに対して40mg放出調整剤の効果は100mg即時放出剤に匹敵し有害事象の発現率は顕著に少ない[20]

代謝[編集]

  • 腎不全があっても投与量を変更する必要のない唯一のテトラサイクリン系薬剤である。
  • 腎臓への移行性が最も高く、動物に対する長期試験では副腎病変が確認されている[4]
  • ミルクや食物との同時摂取により血中濃度のピークが遅れるが、吸収が妨げられることはない[1]
  • 経口投与による吸収は非常に速やかで、最高血中濃度到達時間は約3時間前後、血中濃度半減時間は12時間前後と長く、1日1回投与が可能である。
  • ヒト健常者に対する200mg経口単回投与の72時間後の血中濃度は0.07µg/mLである[4]Gタンパク質共役受容体 (GPCR) への作用濃度(0.001µg/mL)は、最小発育阻止濃度 (MIC) の0.03-0.12µg/mLよりも低い為[4]、長時間持続すると考えられる。

副作用[編集]

ドキシサイクリン100mgの副作用発現率は約11%とされる[1]

慎重投与
肝障害のある者に対しては慎重に投与するべきである[1]
小児(特に8歳未満)への投与は、歯牙の着色やエナメル質の形成不全と、一過性の骨発育不全を起こすことがあるので、他の薬剤が使用できないか無効の場合にのみ適用を考慮するべきである[1]。しかし、8歳未満がドキシサイクリンを使用した場合でも、歯牙黄染やエナメル質形成不全、色の違いなどが全く認められなかったとの調査報告もあり、添付文書の改訂が求められている[21]
食道に停留して崩壊することで、まれに[食道潰瘍を起こすことがある。多めの水で服用すること。食道通過障害のある者や、就寝直前の服用には注意するべきである[1]
皮膚障害
ドキシサイクリン対メフロキンのコホート研究では、1つ以上の有害作用が仕事を妨害したと報告があったのはドキシサイクリン群で有意(p < 0.0001)に多かった。有害事象の報告率は、メフロキン群で 109/867人(12.6%)、ドキシサイクリン群で 152/685人(22.2%)であった。メフロキン群は主に精神神経系であったのに対し、ドキシサイクリン群は主に消化器系と皮膚障害であった。有害作用のうち何%が服薬と関係しているか不明であるが、ドキシサイクリンはメフロキンと比較して有意に多い報告率であり、仕事への悪影響も大きかった。結論として、抗マラリア薬の第一選択肢はメフロキンであるべきという意見を支持している[22]

にきび治療薬として[編集]

適応外使用
ドキシサイクリンはざ瘡(にきび)の適応を有しておらず[23]公知申請55年通知に該当していないため[24]適応外使用となる。レセプト表在性皮膚感染症でなければ保険適用されない[25][26]
日本皮膚科学会の見解
2016年改定の日本皮膚科学会による尋常性ざ瘡治療ガイドライン2016[27]において、「推奨度 A」で強く推奨されている。1970年の文献[28]を根拠に、ドキシサイクリン50mgとミノサイクリン100mgの同等性が示されているとした[27]。海外 (EU) のガイドライン[29]ではミノサイクリンよりも推奨されているとした[27]。副作用は光線過敏があるが中止により軽快し、その他の腹痛や頭痛などは軽微なものであるとした[27]

基礎研究[編集]

残留農薬
ドキシサイクリンの一日摂取許容量(微生物学的ADI)は 0.0053mg/kg である[4][3]。日本国民は平均として、ADIの1.5%量を食品から摂取している[4][3]。なお、毒性学的ADIは設定されていない[4][3]
にきび治療で長期使用されている用量(50-200mg/日)は、体重50kgで計算した場合の一日摂取許容量 0.265mg/日 よりも約200-750倍多い。
健忘への影響
スコポラミン誘発健忘に対し、ドキシサイクリン1-100µg/kgは濃度依存性の傾向であった。ドキシサイクリン100µg/kgでの長期治療は顕著な影響が示された[5]
「マウス100µg/kg」をヒト等価用量 (HED) [注 4]換算すると「ヒト8µg/kg」となる。思春期]女性の平均体重34-52kg[30]では「0.28-0.42mg」が相当する。
スコポラミン誘発認知障害に対するドネペジルのED50は0.002mg/kg、ガランタミンのED50は0.7mg/kgである[31]。ドネペジルは0.5mg/kg以上から効果が減少に転じる[31]
自殺との関連
ドキシサイクリンで皮膚の治療を受けた精神疾患歴のない3人が自殺傾向を示した[32]。2人は自殺により死亡した[32]。その1人はシトクロムP450酵素の活性減少を示すCYP2C19*2 ヘテロ接合型 遺伝子を持っていた[32]。FDAのデータベース上に317件の精神状態変化を示す有害事象報告がある[32]
上記文献の著者である英国の精神科医デイビット・ヒーリー英語版は、「データに基づいた医療[33]」を提唱し、有害事象報告システム Rxisk[34]において、ドキシサイクリンが自殺との関連を明白に示していることを公表している[35]
Change.orgで、Watson Pharmaceuticals英語版、現アクタビス英語版とFDAにドキシサイクリンと自殺の関連を調査するよう要求する為の署名募集がなされている[36]
イソトレチノイン服用中に自殺した者はドキシサイクリンを服用していた報告が多く、ニュージーランドの自殺予防団体はドキシサイクリンを警告している[37]

その他[編集]

インスリン増強作用
ドキシサイクリンは経口血糖降下薬であるスルフォニルウレア系薬剤(SU薬)の効果を増強するため、SU剤との併用は注意が必要であることが能書に明記されているが、これはドキシサイクリンがSU剤の効果を増強するとされるためである。これについて最近では、ドキシサイクリンがインスリン半減期を延長させたりアドレナリンの作用を阻害することにより間接的にインスリンの効果を増強させるためと考えられており、SU薬への直接的な相互作用ではなく間接的な増強作用とされている。また、膵外作用として末梢組織でのインスリン感受性を増強し糖代謝を改善させることも推測されている。[要出典]
変形性関節症への効果
最近、ドキシサイクリンには抗生物質としての抗菌作用以外の作用も発見されている。一つは、変形性関節症に対して軟骨厚の減少抑制効果が認められている。[要出典]
尿路感染症への有効性
尿路生殖器系のクラミジアトラコマティス感染に対して、アジスロマイシンは97%に有効であり、ドキシサイクリンは100%に有効であった[38]

注釈[編集]

  1. ^ ドキシサイクリン200mg単回摂取時のCmaxは約3,000-5,000ng/mLである。反復投与5日目で約2倍に達する。
  2. ^ 70nMは約34ng/mLである。
  3. ^ iPS細胞への4つの初期化因子「Oct3/4, Sox2, c-Myc, Klf4]
  4. ^ マウス用量(mg/kg)をヒト用量(mg/kg)へヒト等価用量換算するには 12.3 で除算か 0.08 で乗算。

出典[編集]

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関連項目[編集]