エリスロマイシン

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エリスロマイシン
Erythromycin A.svg
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
胎児危険度分類
  • AU: A
  • US: B
法的規制
投与方法 経口, 点滴静脈注射, 筋肉注射, 局所
薬物動態データ
生物学的利用能 100%
血漿タンパク結合 90%
代謝 肝臓(under 5% excreted unchanged)
半減期 1.5 時間
排泄 胆汁
識別
CAS番号
114-07-8
ATCコード D10AF02 (WHO) J01FA01 (WHO)S01AA17 (WHO)
PubChem CID: 3255
DrugBank APRD00953
ChemSpider 12041
KEGG D00140
化学的データ
化学式 C37H67NO13
分子量 733.93 g/mol

エリスロマイシン (erythromycin) はマクロライド系抗生物質の1つである。製品名は「エリスロシン®」(マイランEPD合同会社製造販売)。抗菌スペクトルペニシリンと類似するが若干幅広く、ペニシリンにアレルギーを持つ人に対してしばしば使用される。呼吸器系への感染症に関しては、マイコプラズマクラミドフィラなどの非定型微生物に対しても高い効果を持つが、市中肺炎の原因菌の一つであるインフルエンザ菌には抗菌活性を示さない。クラミジア梅毒淋病の流行に対処する場合にも用いられる。14員環ラクトン環に2つのL-クラジノースとD-デソアミン)が付いた構造を持つ。10か所の不斉中心があるなど構造が複雑なため合成するのは難しいとされる化合物である。

放線菌属の Saccaropolyspora erythraea (旧名 Streptomyces erythraeus)によって作り出される。

歴史[編集]

1949年、フィリピンの科学者アベラルド・アギュイラー (Abelardo Aguilar) は彼を雇用していたイーライリリーに、ある土のサンプルを送った。マクガイア (J. M. McGuire) が率いるイーライリリーの研究チームは、そのサンプルに含まれていた菌株 Streptomyces erythraeus の代謝産物からエリスロマイシンを単離することに成功した。サンプルが採取されたフィリピンの地名イロイロをとって商品名はイロソン Ilosone® と名付られ、1952年に上市された。イロチシン Ilotycin® とも呼ばれた。1981年、ハーバード大学の化学教授でノーベル化学賞受賞者のロバート・バーンズ・ウッドワードとその研究チームがエリスロマイシンAの最初の立体選択的不斉合成を報告した。

剤形[編集]

腸溶コーティング錠剤、徐放性カプセル、ドライシロップ、経口懸濁液、点眼液、軟膏、ゼリー、注射剤の形で入手可能である。(日本においては一部剤形のみ)

商品名として エリスロシン, Robimycin, E-Mycin, E.E.S. Granules, E.E.S.-200, E.E.S.-400, E.E.S.-400 Filmtab, Erymax, Ery-Tab, Eryc, Erypar, EryPed, Eryped 200, Eryped 400, Erythrocin Stearate Filmtab, Erythrocot, E-Base, Ilosone, MY-E, Pediamycin, PCE Dispertab などが知られる。

作用機序[編集]

バクテリアタンパク質合成を阻害することによって増殖を抑える。エリスロマイシンはバクテリアのリボソーム中で 50S サブユニットの 23s rRNA に結合し、伸張するペプチドの出口をふさぐことにより、ペプチドの転位を阻害する。

薬物動態[編集]

胃酸によって容易に失活するため、経口で投与する場合にはコーティングを施すか、より安定な塩やエステル体を処方する必要がある。吸収される速度は高く、ほとんどの組織や食細胞に拡散する。食細胞中での濃度が高くなりやすいためすぐに感染部位に到達し、食細胞が活動している間に高濃度のエリスロマイシンが放出される。髄液への移行はない。 バイオアベイラビリティは50%程度である。

代謝[編集]

大部分が肝臓脱メチル化を受けて代謝される。主な排出経路は胆汁で、少量が尿に排出される。半減期は1.5時間である。

副作用[編集]

下痢吐き気腹痛嘔吐などの消化器系障害がよく見られる。これらの症状はエリスロマイシンが胃で分解される際に生じるヘミケタルという物質が消化管の蠕動運動を亢進するため発生するとされる。そのため第一選択薬として処方されることはあまり無い。しかしながら、このような運動性を誘発する効果をもつことから胃不全麻痺 (gastroparesis) を処置する際には有効であるとされる。エリスロマイシンの静脈内投与が食道胃十二指腸鏡検査の際に胃の内容物を排出させるために用いられることもある。

聴覚障害などのより重大な副作用はまれである。アレルギー反応は一般的ではないが、蕁麻疹アナフィラキシーが起こることがある。胆汁鬱帯スティーブンス・ジョンソン症候群中毒性表皮壊死症などもまれに見られる。

妊娠後期に母親がエリスロマイシンを摂取すると、子供の幽門狭窄症の可能性を増加させることが示されている。

禁忌[編集]

初期に突然死の例が報告されたことから大規模なコホート研究が行われ、シトクロムP450 の1つである CYP3A4 を阻害してエリスロマイシンの代謝を遅らせるベラパミルジルチアゼムなどを同時に投与した患者におけるエリスロマイシンと頻脈や心臓性突然死の関連が明らかにされた[1]。すなわち、エリスロマイシンはそれらの薬剤やQT時間を延ばすような薬剤を使用している患者に対しての投与は避けるべきであると結論付けられた。他の例としてテルフェナジン (Seldane®, Seldane-D®)、アステミゾール (Hismanal®)、シサプリド(Propulsid®, 多くの国でQT時間を延長させる効果のため認可が取り消されている)、ピモジド (Orap®) が挙げられる。

参考文献[編集]

  1. ^ Ray, W.A.; Murray, K. T.; Meredith, S.; Narasimhulu, S. S.; Hall, K.; Stein, C. M. (2004). "Oral Erythromycin and the risk of sudden death from cardiac causes". NEJM. 351: 1089–1096. PMID 15356306