エアボート

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フロリダ州エバーグレーズ国立公園におけるエアボートを用いた自然観光
エアボート

エアボート: airboat)は平底で比較的小型の船舶であり[1]、航空機用または自動車用のエンジンで船尾に備えた推進式プロペラを駆動し前進する。プロペラボートまたはファンボートとも呼ばれる。

概要[編集]

標準的な構造としては、平底の船体後部に大出力エンジンをマウントし、後方のやや高い位置に巨大なプロペラが取り付けられる。プロペラは鳥カゴ状の金属枠で前方を保護され、障害物の吸い込みによる破損や巻き込みによる人的被害を防ぐ。 操舵は航空機と同様にプロペラ後方に設けた方向舵を操縦桿で操作して行う。ブレーキは無いので減速や停止は操船技術に依存するが、中にはプロペラピッチの逆転による後進機能を備えたものもある。クラムシェル式の逆進機構を備えた船もあるが一般的ではない。 温暖な湿地帯を航行するタイプでは、覆い茂る水辺の植物によって視界を遮られないよう操縦席がプロペラ直前の高所に剥き出しで設けられることが多いが、寒冷地や救助を目的としたタイプには、操縦室や救助者保護用の船室を備え、外観がホバークラフトに似たハーフキャビンやキャビンタイプもある。出力は最大500馬力を超えるものも多い。

用途[編集]

カトリーナによる水害発生後、エアボートで移送される住民
アメリカ合衆国税関・国境警備局によるエアボートを用いたリオ・グランデ川上の国境哨戒

特にアメリカではポピュラーな乗り物として認知されており、エバーグレーズ国立公園など湿地帯での観光用レジャーボートが有名である。専門メーカーも多くあるがキットなどで制作から楽しむ人も多い。また、洪水など水害における理想的な救助艇としてもポピュラーである。2005年8月29日にハリケーン・カトリーナによってニューオーリンズで引き起こされた大規模な洪水被害に際しては、全米からエアボートが集められて救助活動に当った。

日本においては、洪水や津波冠水時の水田地帯の環境が湿地帯の環境に類似しているため、救助艇として行政によるエアボート導入の動きが活発化しつつある。その他に米軍やタイ軍などは、湿地帯や水田地帯などにおけるエアボートの行動力を早くから認め、軍用のエアボートを所有しており、ベトナム戦争では通常の船舶が使用できない地域で米軍が哨戒艇として使用した例がある[2]

利点[編集]

平底であることに加えて、水面下にスクリューや舵などの突起物が一切ない。そのため、水面下の岩や瓦礫でスクリューや舵を損傷したり、ビニールや海草を巻き込むなどの懸念がなく、浅い水路や河川・池はもちろん、湿地沼地、凍った湖等でも操船が容易である上に、スクリューで漂流者を傷つける事がない。高出力のエンジンを積んだ物では陸上に横たえられた直径1メートル程度の丸太も乗り越えることが可能である。これらの利点により、欧米特にアメリカでは氷上や河川氾濫による冠水地域救助活動で理想的乗り物として利用される。また、日本では津波災害における大量の瓦礫漂流海域での救助活動において特に漂流瓦礫に船体を乗り上げて行くといった、一般船舶やゴムボート、ホバークラフトなどでは救助活動が困難な状況での利用が注目されつつある。 2015年(平成27年)9月10日の鬼怒川の堤防決壊による常総市の冠水被害地域において、翌9月11日に国内初のエアボートによる救助活動が行われ、その有効性が実証された。その他土砂災害時の泥流域においても迅速な救助活動が期待される。

欠点[編集]

プロペラ推進のため騒音が大きく燃費が悪い。このため近年ではプロペラの翅(はね)の枚数を増やす多翅化(たしか)や軽量高強度のカーボン素材の採用、エンジンマフラーの取り付けといった騒音対策が取り入れられている。日本の沿岸は人口稠密な地域が多く、導入の際にはより徹底した騒音対策が求められる。救助活動の際にはサイレントタイムの導入などの運用上の工夫が必要である。また、推進力が航空力学に基づくものであることから、エアボートの能力の維持・向上において、船舶知識だけでは対応しきれない難点を有する。故に、海外のようにホームビルドで楽しみたくても、自動車で言う車検に該当する船舶検査(船検)を通過させることが至難である。また、操縦技術においても日本ではインストラクター資格保有者がほとんど存在しない。

日本での普及[編集]

日本ではまだほとんど知られておらず、1953年(昭和28年)6月に発生した九州筑後川流域の集中豪雨による洪水被害の救助活動に米空軍所有のプロペラボート(エアボート)の出動記録があるくらいで過去の存在記録もほとんどない。「くまとマーク少年」「マイアミバイス」など、日本で放送されたアメリカのテレビドラマに登場した乗り物として認識している人がわずかにいる程度という現状である。

その理由はGHQによる日本の航空機産業の禁止が大きく影響したと考えられている。推進力が航空力学に基づくものであるがゆえにエアボートの普及は愚か、研究すら存在しえず、1957年(昭和32年)に航空機開発が解禁されたが時代はすでにジェットなどへの転換期にあり、プロペラ動力の研究開発にもどる余地がなかったためであると考えられている。

2017年に高知県警が津波災害対策として、更に茨城県境町が自治体として初めて導入した。

国内メーカー[編集]

輸入代行を行うことは、現時点では容易であり業者は存在しているが、エアボートという非常に特殊な艇を維持する専門的知識と技術まで提供することはできていない。特に人命にかわる場面での使用をうたう場合には言うまでもない。

日本国内での製造メーカーはフレッシュエアー社のみ。

脚注[編集]

  1. ^ 初期の航空史で「エアボート」という英語は水上機飛行艇を指した時期があるが、本項では無関係。
  2. ^ Rottman, Gordon L., Mobile Strike Forces in Vietnam 1966-70, Osprey Publlishing, p. 51 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]