「エチルサリン」の版間の差分

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'''エチルサリン'''(ethylsarin)とは、[[有機リン化合物]]の一種であり、[[サリン]]の[[アナログ (化学)|アナログ]](類縁体)である。エチルサリという語は定義曖昧で、種類の物質のどちらを指す事もあるが、本稿では両方とも解説する。
'''エチルサリン'''(ethylsarin)とは、[[有機リン化合物]]の一種[[サリン]]の[[アナログ (化学)|アナログ]](類縁体)で、サリンのメチル基またはイソプロピル基のどちらかがエチル基になっている物質である。前者が'''イソプロピルエチルホスホ酸フルオリダート'''({{lang|en|isopropyl ethylphosphonofluoridate}})、後者'''エチルメチルホスホン酸フルオリダート'''({{lang|en|ethyl methylphosphonofluoridate}})で、この2種類の物質のどちらを指す事もある。

日化辞webと[[アンソニ・トゥー]]の論文ではエチルサリンをCAS 1189-87-3のイソプロピルエチルホスホン酸フルオリダートとしており、TOXNET内のChemIDplusではCAS 673-97-2のエチルメチルホスホン酸フルオリダートとしている。

サリンはメチルホスホノフルオリド酸のイソプロピルエステルであるが、エチルサリンは、サリンのメチル基またはイソプロピル基の部分がエチル基になっている物質である。

どちらも物性などがあまり公表されていない。


==イソプロピルエチルホスホン酸フルオリダート==
==イソプロピルエチルホスホン酸フルオリダート==
[[File:Isopropyl ethylphosphonofluoridate.svg|right|200px]]
こちらのエチルサリンはチルホスホノフルオリド酸のイソプロピルエステルである。[[CAS登録番号]]1189-87-3である。
日化辞webと[[アンソニ・トゥー]]の論文<ref>{{cite journal|author=Anthony T. Tu|year=1997|title=化学兵器の毒作用と治療|journal=日本救急医学会雑誌|volume=8|issue=3|pages=91-102|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjaam1990/8/3/8_3_91/_pdf|format=pdf|doi=10.3893/jjaam.8.91}}</ref>でエチルサリンとされているのは、エチルホスホノフルオリド酸のイソプロピルエステルである。[[CAS登録番号]]は1189-87-3である。


[[化学兵器]]として用いられ、化学兵器としての略号はGEである。[[第二次世界大戦]]後に開発された。ただし[[毒性]]情報はPharmacological Reviews. Vol. 11, Pg. 636, 1959.による1報しかなく、それによれば、[[マウス]]のLD50は[[腹腔]]内投与で690mg/kgほぼ無毒とされている。
[[化学兵器]]として用いられ、化学兵器としての略号はGEである。[[第二次世界大戦]]後に開発された。ただし[[毒性]]情報はBo Holmstedtによる1報しかなく、それによれば、[[マウス]]のLD50は[[腹腔]]内投与で0.69&nbsp;mg/kgサリンと同程度とされている<ref>{{cite journal|author=Bo Holmstedt|year=1959|title=PHARMACOLOGY OF ORGANOPHOSPHORUS CHOLINESTERASE INHIBITORS|journal=Pharmacol. Rev.|volume=11|issue=3|pages=567-688|url=http://pharmrev.aspetjournals.org/content/11/3/567}}</ref>


==エチルメチルホスホン酸フルオリダート==
==エチルメチルホスホン酸フルオリダート==
[[File:Ethyl methylphosphonofluoridate.svg|right|200px]]
こちらのエチルサリンはメチルホスホノフルオリド酸のエチルエステルである。CAS登録番号は673-97-2である。EMPFと略される。VX-Gという別名もある。
TOXNET内[http://chem.sis.nlm.nih.gov/chemidplus/ ChemIDplus]でエチルサリンとされているの、メチルホスホノフルオリド酸のエチルエステルである。CAS登録番号は673-97-2ある。EMPFと略される。VX-Gという別名もある。


サリンが人体内で分解されて生成する物質であり、尿中に排泄される。
サリンが人体内で分解されて生成する物質であり、尿中に排泄される。


==オウム真理教裁判==
==オウム真理教裁判==
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[[オウム真理教]]の[[松本サリン事件]]と[[地下鉄サリン事件]]に関する裁判で、[[麻原彰晃]]の[[弁護団]]と、[[土谷正実]]は、使用された毒ガスはエチルサリンである(オウムのものではない)と主張したことがある。ただし、ここでいうエチルサリンがどちらのものであるかは明確になっていない。<ref>{{cite web|url=http://www.s-a-t.org/sat/sarin/20031030b_ti.html|title=地下鉄サリン事件|work=麻原彰晃(松本智津夫)第一審公判弁論要旨|publisher=オウム裁判対策協議会|date=2003-10-30|accessdate=2015-11-24}}</ref>


また、地下鉄サリン事件の被害者の尿中からエチルサリン(CAS 673-97-2)が検出されており、これは被害者がエチルサリンを吸入したことを示すものであるとの説が、[[南正康]]や[[カナダ防衛研究所]]が発表した論文に載っている(外部リンク参照)
また、地下鉄サリン事件の被害者の尿中からエチルサリン(CAS 673-97-2)が検出されており、これは被害者がエチルサリンを吸入したことを示すものであるとの説が、[[南正康]]や[[カナダ防衛研究所]]が発表した論文([http://www.s-a-t.org/sat/sarin/siryo_syoukai/minami_2.html 東京サリン事件の戦時に使用されるガスによる中毒患者の臨床観察])に載っている。


==外部リンク==
==参考文献==
{{reflist}}
*[http://www.journalarchive.jst.go.jp/jnlpdf.php?cdjournal=jjaam1990&cdvol=8&noissue=3&startpage=91&chr=ja 化学兵器の毒作用と治療 アンソニ・トゥー]
*[http://chem.sis.nlm.nih.gov/chemidplus/ ChemIDplus]
*[http://www.s-a-t.org/sat/sarin/siryo_syoukai/minami_2.html 東京サリン事件の戦時に使用されるガスによる中毒患者の臨床観察]
*[http://www.s-a-t.org/sat/sarin/20030918b.html 「AUM13(オウム・サーティーン)オウム事件を解析するための13の公式」 土谷正実]
*[http://www.s-a-t.org/sat/sarin/20031030b_ti.html 麻原彰晃第一審公判弁論要旨]


{{Chemical warfare}}
{{Chemical warfare}}

2015年11月24日 (火) 12:22時点における版

エチルサリン(ethylsarin)とは、有機リン化合物の一種サリンアナログ(類縁体)で、サリンのメチル基またはイソプロピル基のどちらかがエチル基になっている物質である。前者がイソプロピルエチルホスホン酸フルオリダート(isopropyl ethylphosphonofluoridate)、後者がエチルメチルホスホン酸フルオリダート(ethyl methylphosphonofluoridate)で、この2種類の物質のどちらを指す事もある。

イソプロピルエチルホスホン酸フルオリダート

日化辞webとアンソニ・トゥーの論文[1]でエチルサリンとされているのは、エチルホスホノフルオリド酸のイソプロピルエステルである。CAS登録番号は1189-87-3である。

化学兵器として用いられ、化学兵器としての略号はGEである。第二次世界大戦後に開発された。ただし毒性情報はBo Holmstedtによる1報しかなく、それによれば、マウスのLD50は腹腔内投与で0.69 mg/kgで、サリンと同程度とされている[2]

エチルメチルホスホン酸フルオリダート

TOXNET内のChemIDplusでエチルサリンとされているのは、メチルホスホノフルオリド酸のエチルエステルである。CAS登録番号は673-97-2である。EMPFと略される。VX-Gという別名もある。

サリンが人体内で分解されて生成する物質であり、尿中に排泄される。

オウム真理教裁判

オウム真理教松本サリン事件地下鉄サリン事件に関する裁判で、麻原彰晃弁護団と、土谷正実は、使用された毒ガスはエチルサリンである(オウムのものではない)と主張したことがある。ただし、ここでいうエチルサリンがどちらのものであるかは明確になっていない。[3]

また、地下鉄サリン事件の被害者の尿中からエチルサリン(CAS 673-97-2)が検出されており、これは被害者がエチルサリンを吸入したことを示すものであるとの説が、南正康カナダ防衛研究所が発表した論文(東京サリン事件の戦時に使用されるガスによる中毒患者の臨床観察)に載っている。

参考文献

  1. ^ Anthony T. Tu (1997). “化学兵器の毒作用と治療” (pdf). 日本救急医学会雑誌 8 (3): 91-102. doi:10.3893/jjaam.8.91. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjaam1990/8/3/8_3_91/_pdf. 
  2. ^ Bo Holmstedt (1959). “PHARMACOLOGY OF ORGANOPHOSPHORUS CHOLINESTERASE INHIBITORS”. Pharmacol. Rev. 11 (3): 567-688. http://pharmrev.aspetjournals.org/content/11/3/567. 
  3. ^ 地下鉄サリン事件”. 麻原彰晃(松本智津夫)第一審公判弁論要旨. オウム裁判対策協議会 (2003年10月30日). 2015年11月24日閲覧。