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ホスゲン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ホスゲン[1]
物質名
識別情報
3D model (JSmol)
ECHA InfoCard 100.000.792 ウィキデータを編集
EC番号
  • 200-870-3
RTECS number
  • SY5600000
国連/北米番号 1076
性質
CCl2O
モル質量 98.92 g/mol
外観 無色気体
匂い 青草臭または木材や藁の腐敗臭
密度 4.248 g/dm3 (15 ℃)
1.432 g/cm3 (0 ℃)
融点 −118 °C (−180 °F; 155 K)
沸点 8.2 °C (46.8 °F; 281.3 K)
加水分解
構造
平面、三角形
1.17 D
危険性
GHS表示:
腐食性物質急性毒性(高毒性)[2]
Danger
H314, H330[2]
P260, P280, P303+P361+P353+P315, P304+P340+P315, P305+P351+P338+P315, P403, P405[2]
NFPA 704(ファイア・ダイアモンド)
NFPA 704 four-colored diamondHealth 4: Very short exposure could cause death or major residual injury. E.g. VX gasFlammability 0: Will not burn. E.g. waterInstability 1: Normally stable, but can become unstable at elevated temperatures and pressures. E.g. calciumSpecial hazards (white): no code
4
0
1
引火点 不燃性
作業環境許容濃度 (TLV) 0.1 ppm (1 ppm = 4 mg/m3)
致死量または濃度 (LD, LC)
  • 500 ppm (ヒト, 1 分)
  • 340 ppm (ラット, 30 分)
  • 438 ppm (マウス, 30 分)
  • 243 ppm (ウサギ, 30 分)
  • 316 ppm (モルモット, 30 分)
  • 1022 ppm (イヌ, 20 分)
  • 145 ppm (サル, 1 分)
  • 1 ppmは4 mg/m3
[4]
LCLo (最低致死濃度)
  • 3 ppm (ヒト, 2.83 時間)
  • 30 ppm (ヒト, 17 分)
  • 50 ppm (哺乳類, 5 分)
  • 88 ppm (ヒト, 30 分)
  • 46 ppm (ネコ, 15 分)
  • 50 ppm (ヒト, 5 分)
  • 2.7 ppm (哺乳類, 30 分)
  • 1 ppmは4 mg/m3
[4]
NIOSH(米国の健康曝露限度):
TWA 0.1 ppm (0.4 mg/m3)[3]
TWA 0.1 ppm (0.4 mg/m3) C 0.2 ppm (0.8 mg/m3) [15-分][3]
2 ppm[3]
1 ppm = 4 mg/m3
安全データシート (SDS) [1]
関連する物質
関連物質 チオホスゲン
ホルムアルデヒド
炭酸
尿素
一酸化炭素
クロロギ酸
特記無き場合、データは標準状態 (25 °C [77 °F], 100 kPa) におけるものである。

ホスゲン (: Phosgene) とは、炭素酸素塩素化合物二塩化カルボニルなどとも呼ばれる。分子式は COCl2 で、ホルムアルデヒド水素原子2つを塩素原子で置き換えた構造を持つ。毒性の高い気体であり、毒物及び劇物取締法によって毒物に指定されている[5]1812年イギリス化学者ジョン・デービー英語版(同じく化学者であるハンフリー・デービーの弟)によって発見された[6]

用途

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化学工業分野で重要な化合物であり、1812年に初めて合成された[7]一酸化炭素塩素から多孔質の炭素触媒として合成される。ポリカーボネートポリウレタンなどの合成樹脂の原料となる。

有機合成分野でもホスゲンはアルコールと反応して炭酸エステルを、アミンと反応して尿素あるいはイソシアネートを、カルボン酸と反応して酸塩化物を与えるなど用途が広い。ただし猛毒の気体であるホスゲンは実験室レベルでは使いにくく、近年では炭酸ビス(トリクロロメチル)(通称 トリホスゲン)が代用試薬として用いられるようになった。この試薬は安定な固体だが、トリエチルアミン活性炭の作用で分解し、in situ で3当量のホスゲンを発生する。ホスゲンに比べて格段にハンドリングが容易なため、近年使用例が増えている。

また、フロン類(クロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン)が加熱される事でも発生するので、特に冬季など暖房器具を使用する時期には中毒事故が発生しやすかった。室内の空気に塩素を含む有機性のガス、あるいは塩素と有機性のガスが存在する場合に、放電式の空気清浄機を使用すると、中毒事故が起こる可能性がある。 フロン類は、エアコンの冷媒、冷蔵庫の冷媒としても用いられているので、冷媒の配管への衝撃や劣化などによる配管のひび割れにより、漏出することがあり、それもまた 危険である。また、スプレー缶の噴射剤として使われる有機溶媒も塩素やフッ素を含む場合には、それを密室で散布した後に、コンロなどの裸火による燃焼や、空気清浄機の放電、喫煙行為などによりホスゲンが生成されると、呼吸に伴い呼吸器官を冒して呼吸器の機能を劣化させてしまい、最悪死に至るリスクがある。

性質

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20 ℃ では気体である。沸点は 8 ℃ で、純粋なホスゲンは独特の青草臭であるが[7]、毒ガスに使われるような低純度なもの、希薄なものは木材や藁の腐敗臭がするといわれている。

があると加水分解を受け、二酸化炭素塩化水素を生じる。

毒性・中毒事故

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毒性

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第一次世界大戦では大量に使用され[11]、旧日本軍では「あお剤」と呼称していた[12]
現在の日本では化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律の第二種指定物質・毒性物質であり、同法の規制をうける。
(詳細は化学兵器禁止条約を参照。)
  • 高濃度のホスゲンを吸入すると早期に気道などの粘膜で加水分解によって生じた塩酸によって刺激症状が生じる。
  • 無症状の潜伏期を経て肺水腫を起こす[7]。潜伏期は数時間から、場合によっては24時間以上持続する場合もある[7]
肺水腫が進んで潜伏期が過ぎると咳、息切れ、呼吸困難、胸部絞扼感、胸痛などの自覚症状が出る。肺水腫によって肺胞毛細血管への酸素運搬が阻害され、低酸素症を引き起こす。また体液が肺胞に流出することによって血液濃縮を起こし、心不全に進行する。
低濃度のホスゲンに長期曝露した場合には肺に障害を与え、繊維症、機能障害を生じることがある。また、数日が経過してから感染症による肺炎を起す場合がある。
    • 人の粘膜を刺激する:4mg/m3 以上
    • 吸入人半数致死量:3,200mg/m3
    • 吸入人半数不能量:1,600mg/m3
    • 曝露濃度による症状
      • 3 ppm:直ちに症状を伴うことはないが、通常24時間以内に遅発性の症状が出現する
      • 3 ppm:上気道刺激、眼刺激
      • 25 ppm:30分間以上の曝露で致死的
      • 50 ppm:直ちに治療しなければ、短時間曝露でも致死的

中毒事故

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  • 2025年(令和7年)7月27日、三井化学大牟田工場(福岡県大牟田市 浅牟田町30番地)のウレタン原料を製造する ウレタン製造部イソシアネート課TDIプラントの配管から、ホスゲンを含む有毒ガスが漏洩し、事故当時近隣で開催されていた地元の大きな祭りの参加者を含む一般市民や救助に当たった消防隊員、警察官らが負傷した[13]。このうち症状の重い5名が緊急入院、17名が経過入院、延べ234名が頭痛や嘔吐・呼吸困難、体調不良を訴えるなどして医療機関を受診したが、幸いにも死者は出なかった[14]

治療法

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解毒剤は存在しない。治療は主に肺水腫への対処を行うことになる。角膜が損傷する危険がある場合は洗浄を行う。肺炎などの感染症への予防措置を取る。防護措置としては、吸入を防止するために、ガスマスクが用いられる[7]

第一次世界大戦で毒ガスとして用いられた時には、拡散して低濃度になったホスゲンに長時間曝露した兵士が20 - 80時間後に突然症状が悪化して死亡する事例が多数あった。このため、曝露した場合は低濃度であっても3日程度の経過観察を行う必要がある。

脚注

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  1. ^ Merck Index, 11th Edition, 7310.
  2. ^ a b c Record of Phosgene 労働安全衛生研究所(IFA)英語版発行のGESTIS物質データベース, accessed on 16 March 2021
  3. ^ a b c NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards 0504
  4. ^ a b Phosgene”. 生活や健康に直接的な危険性がある. アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH). 2026年2月10日閲覧。
  5. ^ 毒物及び劇物指定令 昭和四十年一月四日 政令第二号 第一条 二十六の四
  6. ^ John Davy (1812). “On a Gaseous Compound of Carbonic Oxide and Chlorine”. Philosophical Transactions of the Royal Society of London 102: 144–151. doi:10.1098/rstl.1812.0008. ISSN 0261-0523. JSTOR 107310. 
  7. ^ a b c d e 生物・化学兵器への公衆衛生対策(世界保健機関)2004年 P130-133
  8. ^ 遺棄化学兵器の安全な廃棄技術に向けて 日本学術会議 平成13年7月23日
  9. ^ 公益財団法人 日本中毒情報センター 化学テロ・化学災害対応体制(概要) P6
  10. ^ 日本中毒情報センター 「窒息剤治療法」
  11. ^ 窒息剤(Choking Agents、Pulmonary Agents) 国立医薬品食品衛生研究所
  12. ^ 遺棄化学兵器等(内閣大臣官房遺棄化学兵器処理担当室)
  13. ^ https://jp.mitsuichemicals.com/content/dam/mitsuichemicals/sites/mci/documents/release/2025/250903_1_2.pdf
  14. ^ 三井化学株式会社 2025.09/03 「弊社工場におけるガス漏洩事故の対応状況について(第8報)」

関連項目

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外部リンク

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