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「東トルキスタン独立運動」の版間の差分

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==== 世界ウイグル会議 ====
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ウイグル人の民族運動は、[[ダライ・ラマ14世|ダライ・ラマ]]に指導された[[チベット独立運動]]のケースと比較して、カリスマ性のある指導者を欠くと批判される場合が多い。こうした批判を受けて、1990年代には、各国でそれぞれ設立されていた運動組織を統合する機運が高まった。[[1992年]]には、[[イスタンブル]]で「東トルキスタン民族会議」が開催され、世界各国の民族運動組織や個人が集まった。[[2004年]]には、[[1996年]]にドイツで設立された[[世界ウイグル青年会議]]が「民族会議」と合流し、'''[[世界ウイグル会議]]'''に再編された。世界ウイグル会議の初代議長にはエイサ・ユスプ・アルプテキンの子、[[エルキン・アルプテキン]]が選出された。[[2006年]]に、世界ウイグル会議は、[[ノーベル平和賞]]候補にも選ばれた[[ラビア・カーディル]]を第2代議長に選出し、国際社会に対してウイグル人問題のアピールを強めている。
ウイグル人の民族運動は、[[ダライ・ラマ14世|ダライ・ラマ]]に指導された[[チベット独立運動]]のケースと比較して、カリスマ性のある指導者を欠くと批判される場合が多い。こうした批判を受けて、1990年代には、各国でそれぞれ設立されていた運動組織を統合する機運が高まった。[[1992年]]には、[[イスタンブル]]で「東トルキスタン民族会議」が開催され、世界各国の民族運動組織や個人が集まった。[[2004年]]には、[[1996年]]にドイツで設立された[[世界ウイグル青年会議]]が「民族会議」と合流し、'''[[世界ウイグル会議]]'''に再編された。世界ウイグル会議の初代議長には中華民国議員だったエイサ・ユスプ・アルプテキンの子、[[エルキン・アルプテキン]]が選出された。[[2006年]]に、世界ウイグル会議は、[[ノーベル平和賞]]候補にも選ばれた[[ラビア・カーディル]](中共人民代表になった幹部)を第2代議長に選出し、国際社会に対してウイグル人問題のアピールを強めている。高度自治を目指し、中国の民主化に力を入れ、独立を目指す東トルキスタン共和国国民の意志を歪曲し、NEDから資金をもらっている。独立を放棄し、活動する商人


==== 東トルキスタン亡命政府 ====
==== 東トルキスタン亡命政府 ====
世界ウイグル会議の結成に対して、アルプテキン派以外の諸団体は、[[2004年]]に[[ワシントンD.C.]]に'''「東トルキスタン亡命政府」'''を設立している<small><ref>水谷, pp.65-88.</ref></small>(詳細は「[[東トルキスタン亡命政府]]」の項を参照)。
世界ウイグル会議の結成に対して、アルプテキン派以外の独立を目指す諸団体は、[[2004年]]に[[ワシントンD.C.]]に'''「東トルキスタン亡命政府」'''を設立している<small><ref>水谷, pp.65-88.</ref></small>(詳細は「[[東トルキスタン亡命政府]]」の項を参照)。


=== 中国国内の活動 ===
=== 中国国内の活動 ===
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[[2001年]]の同時多発テロ事件以降、中国政府は、こうした事件と[[国際テロ組織]]の活動との関連性を強調している。中国政府は、中央アジアに拠点を置く「[[東トルキスタン・イスラム運動]]」が、中国国内にテロ拠点を建設し、テロリストを養成しているとして批判をしており、同組織が[[アルカーイダ]]と結びつきのあるテロ組織であると断定している。[[2002年]]9月には、中国、米国等の働きかけにより、同団体は[[国際連合|国連]]からテロ組織認定を受けることとなった<small><ref>[http://www.un.org/News/Press/docs/2002/sc7502.doc.htm Security Council Committee adds Name of an Individual and an Entity to Its List, Press Release SC/7502, 11 September 2002]</ref></small><small><ref>[http://www.un.org/sc/committees/1267/consolidatedlist.htm The Consolidated List of the United Nations Security Council's al-Qaida and Taliban Sanctions Committee] </ref></small>。
[[2001年]]の同時多発テロ事件以降、中国政府は、こうした事件と[[国際テロ組織]]の活動との関連性を強調している。中国政府は、中央アジアに拠点を置く「[[東トルキスタン・イスラム運動]]」が、中国国内にテロ拠点を建設し、テロリストを養成しているとして批判をしており、同組織が[[アルカーイダ]]と結びつきのあるテロ組織であると断定している。[[2002年]]9月には、中国、米国等の働きかけにより、同団体は[[国際連合|国連]]からテロ組織認定を受けることとなった<small><ref>[http://www.un.org/News/Press/docs/2002/sc7502.doc.htm Security Council Committee adds Name of an Individual and an Entity to Its List, Press Release SC/7502, 11 September 2002]</ref></small><small><ref>[http://www.un.org/sc/committees/1267/consolidatedlist.htm The Consolidated List of the United Nations Security Council's al-Qaida and Taliban Sanctions Committee] </ref></small>。

中国政府は、[[2003年]][[12月15日]]に、中国内外で「東トルキスタン独立運動」を展開する「テロリスト」のリストを公表し、「東トルキスタン・イスラム運動」のほか、「[[東トルキスタン解放組織]]」、「世界ウイグル青年会議」、「東トルキスタン情報センター」をテロ組織として認定し、非難を強めている<small><ref> [http://www.xinjiang.gov.cn/10013/10031/10003/2003/11077.htm 「{{lang|zh|我国公布首批“东突”恐怖分子名单}}」]({{lang|zh|新疆政府门户网站}})</ref><ref> [http://www.fmprc.gov.cn/ce/ceee/chn/dtxw/t107716.htm 「{{lang|zh|公安部公布首批认定的"东突"恐怖组织及成员名单}}」]({{lang|zh|中华人民共和国驻爱沙尼亚共和国大使馆}})</ref><ref>「[http://j.peopledaily.com.cn/2003/12/16/jp20031216_35006.html 東トルキスタン運動の活動報告 各テロ組織の概要]」(人民網日文版 [[2003年]][[12月16日]])</ref></small>。一方、テロ組織とされた各組織はテロ活動への関与を否定している。


[[北京オリンピック]] 開催直前の[[2008年]]7月には、[[雲南省]][[昆明市]]で起きたバス連続爆破事件に対して「トルキスタン・イスラム党」を名乗る組織が犯行声明を出した<small><ref>[http://sankei.jp.msn.com/world/america/080726/amr0807261102008-n1.htm 中国のバス爆破、ウイグル独立組織が犯行声明 五輪施設攻撃も予告] (MSN産経ニュース 2008年7月26日)</ref></small>ほか、8月には、[[カシュガル市]]、[[クチャ県]]で、警察施設を狙った爆破事件が相次いだ<small><ref> [http://sankei.jp.msn.com/world/china/080804/chn0808041301010-n1.htm ウイグル国境警備隊施設襲撃、警官ら32人死傷 五輪妨害テロか] (MSN産経ニュース 2008年8月4日) </ref></small><small><ref>[http://sankei.jp.msn.com/world/china/080810/chn0808100907003-n1.htm 五輪妨害テロか? 中国新疆で爆発、2人死亡] (MSN産経ニュース 2008年8月10日)</ref></small>。
[[北京オリンピック]] 開催直前の[[2008年]]7月には、[[雲南省]][[昆明市]]で起きたバス連続爆破事件に対して「トルキスタン・イスラム党」を名乗る組織が犯行声明を出した<small><ref>[http://sankei.jp.msn.com/world/america/080726/amr0807261102008-n1.htm 中国のバス爆破、ウイグル独立組織が犯行声明 五輪施設攻撃も予告] (MSN産経ニュース 2008年7月26日)</ref></small>ほか、8月には、[[カシュガル市]]、[[クチャ県]]で、警察施設を狙った爆破事件が相次いだ<small><ref> [http://sankei.jp.msn.com/world/china/080804/chn0808041301010-n1.htm ウイグル国境警備隊施設襲撃、警官ら32人死傷 五輪妨害テロか] (MSN産経ニュース 2008年8月4日) </ref></small><small><ref>[http://sankei.jp.msn.com/world/china/080810/chn0808100907003-n1.htm 五輪妨害テロか? 中国新疆で爆発、2人死亡] (MSN産経ニュース 2008年8月10日)</ref></small>。
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [http://www.eastturkistan-gov.org/ East Turkistan Government in Exile(東トルキスタン共和国亡命政府)]{{Ug icon}}{{Tr icon}}{{En icon}}{{Zh icon}}{{Ja icon}}
* [http://www.eastturkistan.net/ East Turkistan Information(東トルキスタン情報研究所)]{{En icon}}
* [http://www.uyghurcongress.org/ World Uyghur Congress(世界ウイグル会議)]{{Ug icon}}{{En icon}}{{De icon}}{{Zh icon}}{{Ja icon}}
* [http://www.uyghurcongress.org/ World Uyghur Congress(世界ウイグル会議)]{{Ug icon}}{{En icon}}{{De icon}}{{Zh icon}}{{Ja icon}}
* [http://www.uyghuramerican.org/ Uyghur American Association(在米ウイグル人協会)]{{En icon}}
* [http://www.uyghuramerican.org/ Uyghur American Association(在米ウイグル人協会)]{{En icon}}
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* [http://www.uyghurinfo.com/ The Uyghur Information Agency(ウイグル情報局)]{{En icon}}
* [http://www.uyghurinfo.com/ The Uyghur Information Agency(ウイグル情報局)]{{En icon}}
* [http://www.uygur.org/ East Turkistan Information Center(東トルキスタン情報センター)]{{Ug icon}}{{En icon}}{{De icon}}{{Tr icon}}{{Zh icon}}{{Ar icon}}{{Ja icon}}
* [http://www.uygur.org/ East Turkistan Information Center(東トルキスタン情報センター)]{{Ug icon}}{{En icon}}{{De icon}}{{Tr icon}}{{Zh icon}}{{Ar icon}}{{Ja icon}}
* [http://www.eastturkistangovernmentinexile.us/ The Government-in-Exile of East Turkistan Republic(東トルキスタン亡命政府)]{{Ug icon}}{{En icon}}
* [http://www.http://www.eastturkistan-gov.org/ The Government-in-Exile of East Turkistan Republic(東トルキスタン共和国亡命政府)]{{Ug icon}}{{Tr icon}}{{En icon}}{{Ja icon}}
* [http://www.uygurie.com/ Swedish Uygur Committe(スウェーデンウイグル委員会)]{{Ug icon}}{{En icon}}{{Sv icon}}{{No icon}}{{Ru icon}}{{Zh icon}}{{Tr icon}}
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* [http://www.turkistanim.org/japan.htm East Turkistan Information(東トルキスタン情報)]{{Ug icon}}{{En icon}}{{Tr icon}}{{Zh icon}}{{Ja icon}}
* [http://www.eastturkistan.net/japanese/ East Turkistan Information(東トルキスタン情報)]{{Ug icon}}{{En icon}}{{Tr icon}}{{Zh icon}}{{Ja icon}}
* [http://saveeastturk.org/ 東トルキスタンに平和と自由を]{{Ja icon}}{{En icon}}{{Ms icon}}
* [http://saveeastturk.org/ 東トルキスタンに平和と自由を]{{Ja icon}}{{En icon}}{{Ms icon}}



2009年8月21日 (金) 03:57時点における版

東トルキスタン独立運動(ひがしとるきすたんどくりつうんどう)は、中華人民共和国新疆ウイグル自治区における、ウイグル人カザフ人キルギス人等のテュルク系住民の独立運動。

東トルキスタン亡命政府の旗

東トルキスタン(現在の新疆ウイグル自治区)は、1949年中国共産党による「和平解放」を受け、1955年には民族区域自治の適用を受けて新疆ウイグル自治区となった。この過程で起きた漢族の大量移住や、文化大革命中の政治的、文化的迫害は、新疆のテュルク系住民の間に中国政府の統治に対する潜在的不信感を醸成した。現在でも、中国政府による人権侵害や、天然資源の収奪、環境破壊を批判する声は根強い。

こうした不満を背景に、中国内外の運動組織が、テュルク系住民の中国からの分離独立を主張しており、中国統治の枠内での民族自治の拡大や、人権状況の改善を目指す活動と合わせて広義の独立運動として言及されることが多い。

これに対して、中国政府は、 西部大開発に象徴される大規模な経済的梃入れを新疆に実施し、住民の生活水準を向上させることで独立機運の沈静化を図る一方、分離主義に結びつくものとして、民族主義を鼓吹する動向に対しては過剰ともとれる厳しい取締りを実施している。


歴史

新疆ウイグル自治区成立以前については、

1955年に成立した新疆ウイグル自治区では、1957年反右派闘争により、少数民族出身の党幹部の多くが粛清された。1958年から開始された大躍進政策の失敗は、住民から多くの餓死者を出すこととなった。1966年には、新疆にも文化大革命が波及し、中国内地から派遣された紅衛兵により、旧文化の象徴と目されたモスクや、宗教指導者に対する迫害が行われた。1967年には、紅衛兵同士の武装闘争に少数民族が動員され、多くの死傷者を出すなど、新疆の社会情勢は大混乱に陥った。

文化大革命終結後の1982年4月に、中国政府は新疆における宗教問題と民族主義の問題を集中的に議論し、民族政策の転換を図った。1980年代には、言論統制が緩和され、中国政府により、文革中に破壊されたモスクの修復や、アラビア文字を使ったウイグル語正書法の策定などの民族文化の振興が行われた。また、イスラームに対する禁圧も解除され、文革中に迫害された宗教指導者が復権した。こうした状況を受け、ウイグル人住民の中からも、民族文化の振興だけでなく、民族自治の拡大や、中華人民共和国からの独立を主張する動きが現れた。また、1991年ソ連邦の崩壊による中央アジア諸国の独立は、ウイグル人の政治的な独立を求める機運を高めた[1]

天安門事件が起きる直前の1989年5月には、ウルムチ市内でウイグル人、回族のデモ隊が政府庁舎に乱入する事件が発生したほか、1990年 4月には、新疆西部のクズルス・キルギス自治州アクト県バリン郷にて、ウイグル人住民が郷政府庁舎を襲撃して、当局と衝突する事件が発生した。1997年にはイリ・カザフ自治州グルジャ市内にて、大規模なデモが発生し、鎮圧に出動した軍隊と衝突して、多くの死傷者を出した[2]2008年3月には、新疆南部のホータン市で、600名を超える当局への抗議デモが発生した[3]2009年6月には、広東省韶関市の玩具工場で漢族従業員とウイグル人従業員の間で衝突が起き、死者2名、負傷者120名を出したと報じられ[4][5]、翌7月には、事件に抗議する約3,000名のウイグル人と武装警察が、ウルムチ市内で衝突し、140名が死亡、800名以上が負傷した[6]

中国当局は、こうした民族運動の高揚を分離主義に繋がるものとして警戒し、「厳打」と呼ばれる厳しい取締りを実施している。アムネスティ・インターナショナルが「非公式の情報源」として伝えるところによれば、グルジャ事件では事件後1,000名以上が逮捕され、30名が処刑されたとされる[7]。また、知識人や民族エリートに対する引き締めも強化されており、1991年にはウイグル人作家トルグン・アルマスの著作『ウイグル人』が、「大ウイグル主義的」であると公的に批判され、著作が発禁処分となったほか、著者も軟禁状態に置かれた。また、全国政治協商会議の場で中国政府の民族政策を批判した実業家のラビア・カーディル1999年に逮捕された。2003年には、これまで少数民族の固有言語の使用が公認されてきた高等教育で、漢語の使用が義務付けられた。

一方で、中国政府は、中央アジア諸国の在外ウイグル人社会が、ウイグル民族運動の拠点となっていることを警戒しており、1996年には上海ファイブ2001年には上海協力機構を設立し、国内のイスラーム原理主義勢力の伸張を警戒するロシアや中央アジア諸国と共に、分離主義、イスラーム過激主義に対する国際協力の枠組みを構築した。また、2001年9月11日の米国での同時多発テロ事件以降、中国政府はブッシュ政権の唱える「対テロ戦争」への支持を表明し、ウイグル民族運動と新疆におけるテロを結びつけて、その脅威を強調している。米国のアフガニスタン侵攻では、アフガニスタンで拘束され、グアンタナモ米軍基地に収監されたウイグル人捕虜の中国への送還を米国に要請している。

運動組織

中国国外の活動

東トルキスタンにおけるテュルク系住民の運動組織は、初期の抵抗運動を除き、中国国外に運動拠点を置くものが多い。1949年に行われた人民解放軍の新疆進駐直後には、アルタイゲリラ活動を続けたカザフ人軍人のオスマンや、クムルで武装闘争を続けたウイグル人の国民党幹部ヨルバルスらの活動がみられたが、オスマンは1951年に処刑され、ヨルバルスは台湾に亡命するなど、いずれも早期に鎮圧された[8]

中国国外における初期の運動組織は、人民解放軍の新疆進駐直後に新疆を脱出した亡命者によって組織された。初期の亡命者が集中したトルコでは、元新疆省政府幹部のエイサ・ユスプ・アルプテキン東トルキスタン難民協会を組織した他、サウジアラビア台湾に亡命する者も少なくなかった。

大躍進政策の失敗により、多くの餓死者が出た1962年4月から6月には、当時中国と対立していたソ連の工作により、約6万人のイリ・カザフ自治州ウイグル人カザフ人らがソ連側に亡命する事件が発生した(カザフの新疆脱出を参照)。彼らの子孫は、現在でもカザフスタンキルギスウズベキスタン等の中央アジア諸国にコミュニティを形成しており、中国からの亡命者の受け皿となっている。特に中央アジア諸国で最大のウイグル人コミュニティを抱えるカザフスタンでは、1991年のソ連邦の解体以降、ウイグル民族主義の機運が高まり、武装闘争も辞さない過激派組織も組織された。

近年では、在外亡命者社会でも、中国統治下で教育を受けた若い世代の亡命者が増えつつあり、トルコ中央アジア諸国だけでなく、ドイツスウェーデン米国カナダ等の欧米諸国に亡命後の生活拠点を置く者も多い。ヨーロッパにおけるウイグル人社会の中心地となったドイツでは、各国のウイグル人亡命者組織の上部機関である世界ウイグル会議や、東トルキスタンに関する広報活動を行っている東トルキスタン情報センターミュンヘンに本部を置いて活動している。また、米国では、ワシントンD.C.に本部を置く在米ウイグル人協会が、ウイグル人の人権状況改善のための広報活動を積極的に実施しているほか、米国議会の支援で運営されているRFA(自由アジア放送)がウイグル語短波放送を行っている[9]

中国国外で活動するこうした団体は、アムネスティ・インターナショナルや、ヒューマン・ライツ・ウォッチに代表される国際的な人権団体と連携を取り、中国国内における人権侵害の状況を国際世論に訴えている。

中国政府は、こうした中国国外における運動団体の動向を注視しており、2009年6月4日、亡命ウイグル人に対する違法なスパイ活動にかかわったとして、スウェーデン政府が駐在の中国外交官を追放する事件も起きた[10]

世界ウイグル会議

ウイグル人の民族運動は、ダライ・ラマに指導されたチベット独立運動のケースと比較して、カリスマ性のある指導者を欠くと批判される場合が多い。こうした批判を受けて、1990年代には、各国でそれぞれ設立されていた運動組織を統合する機運が高まった。1992年には、イスタンブルで「東トルキスタン民族会議」が開催され、世界各国の民族運動組織や個人が集まった。2004年には、1996年にドイツで設立された世界ウイグル青年会議が「民族会議」と合流し、世界ウイグル会議に再編された。世界ウイグル会議の初代議長には中華民国議員だったエイサ・ユスプ・アルプテキンの子、エルキン・アルプテキンが選出された。2006年に、世界ウイグル会議は、ノーベル平和賞候補にも選ばれたラビア・カーディル(中共人民代表になった幹部)を第2代議長に選出し、国際社会に対してウイグル人問題のアピールを強めている。高度自治を目指し、中国の民主化に力を入れ、独立を目指す東トルキスタン共和国国民の意志を歪曲し、NEDから資金をもらっている。独立を放棄し、活動する商人。

東トルキスタン亡命政府

世界ウイグル会議の結成に対して、アルプテキン派以外の独立を目指す諸団体は、2004年ワシントンD.C.「東トルキスタン亡命政府」を設立している[11](詳細は「東トルキスタン亡命政府」の項を参照)。

中国国内の活動

近年、国際世論へのアピールを強めている在外運動組織の活動と比較して、中国国内における民族運動の動向については、信頼できる情報源が限られているため、その実態は明確でないといわれる。

1968年ごろに「東トルキスタン人民革命党」の活動があったとされる[12]が、中国国内における民族運動が顕在化するようになるのは、1990年代以降である。2002年1月12日に中国国務院新聞弁公室が発表した文書によれば、1990年から2001年までに、国内外の「東トルキスタン・テロ勢力」が、新疆で爆弾テロ、要人暗殺、暴動煽動など200件余りのテロ事件を起こし、162人を殺害、440人以上を負傷させたとしている[13]。しかし、文書で指摘されている「テロ事件」がいずれも小規模なものであることから、中国政府の指定する「テロ事件」には一般刑法犯が大幅に含まれるのではないかとの指摘もある[14]

2001年の同時多発テロ事件以降、中国政府は、こうした事件と国際テロ組織の活動との関連性を強調している。中国政府は、中央アジアに拠点を置く「東トルキスタン・イスラム運動」が、中国国内にテロ拠点を建設し、テロリストを養成しているとして批判をしており、同組織がアルカーイダと結びつきのあるテロ組織であると断定している。2002年9月には、中国、米国等の働きかけにより、同団体は国連からテロ組織認定を受けることとなった[15][16]

北京オリンピック 開催直前の2008年7月には、雲南省昆明市で起きたバス連続爆破事件に対して「トルキスタン・イスラム党」を名乗る組織が犯行声明を出した[17]ほか、8月には、カシュガル市クチャ県で、警察施設を狙った爆破事件が相次いだ[18][19]

参考文献

  • 小松久男編 『中央ユーラシア史』 山川出版社 2000年 (ISBN 978-4634413405
  • 王柯「中央アジアと中国の民族・宗教・経済発展」木村汎、石井明編『中央アジアの行方:米ロ中の綱引き』勉誠出版 2003年 (ISBN 978-4585050797)
  • 新免康「ウイグル民族運動」『中央ユーラシアを知る事典』平凡社 2005年 (ISBN 978-4582126365)
  • 新免康「新疆ウイグルと中国政治」『アジア研究』 JAASアジア政経学会 第49巻第1号 2003年1月 [6]
  • 水谷尚子『中国を追われたウイグル人:亡命者が語る政治弾圧』文藝春秋 2007年 (ISBN 978-4166605996)
  • James Millward, Violent Separatism in Xinjiang, (Policy Studies, No. 6), East-West Center Washington, 2004 (ISBN 1-932728-10-4)[7]

脚注

  1. ^ 小松編, pp.381-385. pp.432-437.
  2. ^ Millward, pp.14-22.
  3. ^ Uyghurs Protest in China's Remote Xinjiang Region (RFA 2008年4月1日)
  4. ^ 广东汉族维族工人械斗百多伤二亡 (VOA 2009年6月27日)
  5. ^ 汪洋要求依法公正处理旭日玩具厂群体斗殴事件 (新華網 2009年6月28日)
  6. ^ 【ウイグル暴動】ウイグル族が漢族襲撃、140人死亡 ( MSN産経ニュース 2009年7月6日)
  7. ^ Xinjiang: Trials after recent ethnic unrest(Amnesty International, 21 March 1997)
  8. ^ 小松編, p.381.
  9. ^ 水谷, pp.207-215.
  10. ^ スウェーデン、亡命ウイグル人へのスパイ活動で中国外交官を追放 (MSN産経ニュース 2009年6月25日)
  11. ^ 水谷, pp.65-88.
  12. ^ Millward, p.7.
  13. ^ 国务院新闻办发文《“东突”恐怖势力难脱罪责》」(人民網 2002年1月21日) [1](中国語) [2](英語) [3] [4] [5] (日本語)
  14. ^ Millward, pp.11-14.
  15. ^ Security Council Committee adds Name of an Individual and an Entity to Its List, Press Release SC/7502, 11 September 2002
  16. ^ The Consolidated List of the United Nations Security Council's al-Qaida and Taliban Sanctions Committee
  17. ^ 中国のバス爆破、ウイグル独立組織が犯行声明 五輪施設攻撃も予告 (MSN産経ニュース 2008年7月26日)
  18. ^ ウイグル国境警備隊施設襲撃、警官ら32人死傷 五輪妨害テロか (MSN産経ニュース 2008年8月4日)
  19. ^ 五輪妨害テロか? 中国新疆で爆発、2人死亡 (MSN産経ニュース 2008年8月10日)

関連項目

外部リンク