飛翔

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飛翔(ひしょう)とは、動物における飛行行動。比喩的に使われる場合もある。

飛翔は、を羽ばたかせることで推進力を生み出す羽ばたき飛行と、羽ばたきを行なわない滑空(グライディング)や帆翔(ソアリング、上昇気流を利用した飛行)とに大きく分けられる。 また、向かい風を受けるか羽ばたくかして、前後に移動することなく、ヘリコプターのように空中の一点に浮かぶ行動はホバリング(停止飛翔)と呼ばれる。

飛翔の仕方

飛翔の仕方を表にまとめる。

羽ばたき飛行 鳥類の多く、昆虫類コウモリ
羽ばたきによるホバリング ごく小型の鳥類や、昆虫の一部
帆翔 大型の鳥類の多く
滑空 モモンガムササビフクロモモンガヒヨケザルトビトカゲトビウオトビイカなど

大型の渡り鳥がV字型や斜め一直線に編隊を組んで飛翔しているのが見られるが、前を飛ぶ鳥の翼端渦による吹き上げによって後続する鳥のエネルギーの節約になっている、などと言われる。

体重の軽い脊椎動物の飛翔

ユリカモメ

体重が1kgより軽い脊椎動物では、飛翔は羽ばたきによって行なわれる。ずっと羽ばたいて直線的に飛ぶものと、羽ばたきと翼を閉じての(ほぼ)自由落下とを繰り返して波状に飛ぶ(波状飛行、バウンディングフライト)をするものとがある。直接空気を後ろへ掻いて推進力を得ていると思われがちだが、小型の鳥においては空気中で翼を傾けながら上または下に打ち下ろし、翼を前方に滑らすことによって推力を得ている。

もっと軽いアナホリフクロウハチドリでは、ホバリングが行なわれる。スズメヒタキなどでも瞬間的にホバリングが行われることもある。すべての飛翔をホバリングでこなすためには、体重が10g以下であり常に栄養を取っていなければならない。ハチドリが花の多い熱帯から生息地を広げられないのはこのためである。

体重の重い脊椎動物の飛翔

トビの帆翔

体重が重い脊椎動物では、離陸するときに飛行機のように滑走してから飛び立ったり、高いところから飛び降りたりするものが多い。平常時も羽ばたくことはほとんどなく、滑空(滑翔)したり、グライダーハンググライダーのように上昇気流を利用したりするものがある。これは、体重が重いほど羽ばたきづらくなるためである。

ワシタカ科の大型の鳥では太陽の熱で暖まった地面から発生する上昇気流を翼で受けて飛翔する。そのため、翼は単位面積あたりで発生する空気力(翼面荷重)が小さい。羽ばたきによる飛翔は数秒から数十秒しか持続できない。

カモメなどの海鳥は長時間の滑空を行うが、こうした鳥はアスペクト比(縦横比)の大きな翼をもつとともに、翼と胴体の継ぎ目などが滑らかであり、揚抗比が大きく滑空比が高い(1 m 下降する間に何メートル進めるか、が滑空比)。また、海からの風が船べりや防波堤、崖などにあたってできる上昇気流で空中にとどまる(斜面滑翔)こともある。餌をあげなくても観光フェリーなどにカモメが集まるのは、海上が障害物に乏しく、地熱による上昇気流もないためである。このほか、アホウドリなどの大型の海鳥は、ダイナミックソアリングと呼ばれるウィンドシアを利用した滑空を行なう。

ノスリ

タカ科の鳥はアスペクト比がそれほど大きくないが、初列風切羽を広げることによって翼端渦を効果的に整形ないし抑制し、揚抗比を高めているとも言われている。単純に翼幅が大きくならなかった理由としては、開けた場所での飛行が多い海鳥と違い、林間など障害物の多い所での飛行に適応したためなどと推測されている。

プテラノドンなどの大型翼竜は体重と羽の大きさから滑空しかできなかったと考えられている。

昆虫の飛翔

en:Cetonia aurata

脊椎動物以外で飛翔するものの代表は昆虫である。昆虫の翅は基本的に四枚で構成されており、飛び方も多様である。

チョウでは、4枚の翅を同時に上下させ、上昇と滑空を繰り返して移動する。これによって激しく上下するのでチョウの飛翔はしばしば「ひらひら」という擬態語で表される。翼面荷重がとても小さく、落ちる速度が遅いので直接下向きの気流を発生させている。

ネジレバネハエの仲間では、前翅または後翅が平均棍に変化している。そのため、速く正確に飛翔する。

また、コウチュウ目の昆虫は飛行時に鞘翅と呼ばれる固化した前翅を広げる。おもに揚力を増やす役割を担っているが、左右の迎え角を変えることにより体勢を整えたり、風を受けてエアブレーキの役割を果たしたりするので、飛翔能力に長けていない甲虫にとってなくてはならないものとなっている。体重が軽く、後翅だけで十分飛翔できるカナブンなどでは、飛行時には抗力が大きすぎて邪魔なので鞘翅をたたんでいる。

鳥類といった動物が体を水平にして飛翔するのに対し、カブトムシは体を垂直にして飛翔する特徴がある(樹木のとまり方の差による)。

関連項目