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電子カルテ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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電子カルテ(でんしカルテ)とは、従来医師歯科医師が診療の経過を記入していた、紙のカルテを電子的なシステムに置き換え、電子情報として一括してカルテを編集・管理し、データベースに記録する仕組みのことである。

日本では、2001年12月、e-Japan構想の一環として厚生労働省が策定した「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」において、「2006年度までに全国の400床以上の病院および全診療所の6割以上に電子カルテシステムの普及を図ること」が目標として掲げられた。しかし、2009年現在、いまだ達成されていない。

概念

検査オーダー、処方、画像・検査結果参照、医事会計等、比較的事務的色彩の強く定型化が可能な作業について電子化したオーダエントリシステムは、比較的早期から多くの病院で実用化されており、病院業務の効率化に貢献してきた。

一方、狭義に「電子カルテ」という場合、医師法歯科医師法で規定され、5年間の保存が義務付けられた医師の診療録自体の電子化を指す。もっとも、オーダエントリシステムと狭義の電子カルテとは、単一の端末上で操作されることがほとんどであるため、併せて「電子カルテシステム」と呼称することも多い。

紙のカルテとの比較

カルテ記載を電子化することにはいくつかの利点がある。

  • カルテの物理的な管理が不要になり、紛失の恐れが少なくなる。DVD-RUSBメモリなどにコピーすることで長期間かつ大容量での保存も容易で収納スペースも抑えられる(ただし、記録メディアの劣化、電子カルテシステムやOSのアップデートなどにより、データが解読不能になるリスクもあるので注意が必要)。
  • 診療経過をテキストや画像により保存した場合、文字が判読不能といった問題がなくなる。
  • テキストとして保存することで、データベースに含まれる任意のキーワード(医師名、患者名、病名など)による検索や、データの抽出(絞り込み)が容易になる。
  • 院内のサーバにカルテのデータベースを置き、クライアントにデータベースを参照するソフトウェアをインストールしてネットワーク化することにより、任意の場所でカルテを呼び出して参照できる。
  • 検査結果や画像とリンクさせることで、画像に直接コメントを入れたり、データをその場で様々な切り口からグラフ化するなど従来できなかった記載が可能になる。
  • 紹介状、診断書作成時や学会発表時などに、データの柔軟な再利用が可能。
  • 処方や検査オーダーと一体化することで実際の実施内容と記載内容を容易に一致させられる。

対して、紙のカルテに劣る面も存在する。

  • ディスプレイ上での一覧性は見開きの紙に比べて非常に低い。[要出典]
  • 医師や看護師などがパソコンそのものに不慣れであれば、タイピングや電子カルテへの入力など基本的な知識を一から習得する必要が出てくる。
    • 逆に、電子カルテの開発に関わるエンジニアはカルテそのものや、そこに記載された内容と意味を理解するなど、医療の専門知識を熟知する必要も出てくる[要出典]
  • ペン1本で記載できる紙と違い、操作に慣れが必要で入力時間もかかるうえ、入力内容の柔軟性も低い。[要出典]ペンタブレットを使用することで電子カルテへの手書き入力ができ、改善は可能であるが、依然として文字認識による精度の問題があるため、解決策にはなっていない。
  • 停電時、システムダウン時などに閲覧さえできなくなる危険性がある。このため、電力の供給停止や通信ネットワークの断絶が予測される災害医療などには不向きである。
    • システム管理はメーカーのアフターサービスによるところが大きくなる。エンジニアが常駐していなければ、システムの復旧に時間がかかり、業務全体に大きな支障が出る。
  • 電子カルテのバグや誤記により、病名、薬品名、用法、手術の指示などを間違えると患者の生命に関わるトラブルも引き起こす恐れがある[要出典]。。
  • データ量(特に画像のデジタルデータ)が膨大であるため、システム全体のレスポンスが悪い。そのため過去のデータの確認などに時間や手間がかかる。[要出典]
  • コンピュータウイルスによる感染や不正アクセスによる情報漏洩などを防止するため、セキュリティへ配慮する必要性が高くなる。
  • デジタルな文字は記憶をたどることが難しくなる。[要出典]
  • データを短時間かつ大量に盗難されるリスクが発生しうる。
  • 大量の盗難であっても、小さな記録媒体(USBメモリなど)で可能。
  • 認証には通常パスワード生体認証などを利用するが、万全なものとは言い難い。[要出典]
  • データの改変に際して証拠が残りづらい(ソフトウェアによっては「いつ」「誰が」「どこに」「何を」記載したのか、それを履歴として残す場合もある)。
  • 開発や構築をメーカーに依頼した場合の初期投資額は、200床の病院ならば約10億円~20億円以上を要するうえ、年間維持費も必要となる。2011年現在、診療報酬の改定で電子化加算は廃止されており、金額面での負担が大きい。

法的整備

カルテとは、医師・歯科医師が医師法第24条・歯科医師法第23条に基づいて記載し、5年間の保存が義務付けられている準公式書類である。 そのため、検査オーダや画像参照・会計などのオーダエントリシステムのように単純に効率のため電子化できるものではなく、狭義の電子カルテの実現には法的な裏づけが必要であった。

1999年厚生省(当時)は診療録の電子媒体による保存を認める通達を発表し、その際、電子カルテのガイドラインとして知られる以下の3つの条件を満たすよう求めた。

真正性
書換、消去・混同、改ざんを防止すること。作成者の責任の所在を明確にすること。
見読性
必要に応じ肉眼で見読可能な状態にできること。直ちに書面に表示できること。
保存性
法令に定める保存期間内、復元可能な状態で保存すること。

今後の展望

標準化

電子カルテを採用していても、他院に紹介状を書く際にはデータや診療画像をフィルムや紙に印刷して患者に持たせる以外にないのが、ほとんどの病院での現状である。診療情報の交換フォーマットとして、日本では診療情報をXMLで表現するMML (Medical Markup Language) [1]などの仕様が提案されている。MMLは (NPO) MedXMLコンソーシアム[2]で開発・改良が進められている仕様で、日本医師会標準レセプトソフト (ORCA) と電子カルテを接続する仕様にもMMLの部品であるCLAIM[3]が採用されている。 また、MMLを実装したEHRシステムであるiDolphin(Dolphin Project)がNPO日本医療ネットワーク協会[4]によって開発されており、すでに、宮崎(はにわネット)[5]、熊本(ひご・メド)[6]、京都(まいこネット)[7]、東京(HOTプロジェクト)[8]で実稼働している。

近年では世界的なEHRの動きを受け、各国でデータ交換の標準化・共通化が行われている。その一つに、アメリカを中心としたHL7の仕様策定、電子カルテフォーマットの標準化がある。日本でもJAHIS[9]が中心となり、アメリカのHL7をベースに日本独自のカスタマイズを加えた診療情報の標準交換規約が制定されつつある。また、各システムに役割(アクター)を割り振り、アクター間の動作をワークフローとして定義するIHEという活動も行われている。

電子カルテの入力について

カルテはその性格上、聴診や触診所見、入院後の経過等につき、自然言語や図面を使って記入されることが多い。これが年齢や処方内容等、容易に構造化できる情報とは違うカルテ保存での技術上の難題となっている。保存される情報の粒度を上げ、細かい入力欄を設けるほどに入力時間が増加し自由度は減少する。一方で、自然言語による記述は現状では、のちの情報の再利用や検索に支障を来たし、医療情報の構造化という意味では一歩譲る(しかし、構文解析エンジンや検索エンジンなどの進歩により、近い将来、自然言語による記述でも実用上大きな弊害のなくなる可能性はある)。

上記のような入力インタフェースの問題については、様々なベンダより音声認識文字認識という形で提案がなされている。しかし、現実的に大規模病院においても運用上全く問題ないレベルに達しているかは疑問が残り、さらなる検証や技術向上が望まれる。

データの2次利用

電子カルテに蓄積されるデータは、個々の患者への診療の記録であると同時に、症例データベースとしての役割も担う。類似症例の分析を通じて、医療の質の向上に役立てられる。近年では、病院経営の観点から、医療行為の効率化の一検証手段としての役割も担うようになった。医療に携わる様々なスタッフがそれぞれの見地から直接・間接的にデータの2次利用を行っている。入力の効率化を目指して発展してきた電子カルテ・アプリケーションは、このような状況下において更なる機能追加を求められてきている。現在では、これらの多様性に対応すべく、電子カルテ・データベースを中心とするデータ2次利用環境の構築が活発に行われている。

総合医療管理システム(電子カルテシステム)のさまざまな機能

電子カルテシステムは、紙カルテの電子化と位置づけられてきたが、 近年そのシステムは、電子カルテの枠組みを超えて機能は大変充実したものになりつつある。 よって最近では、総合医療管理システムを電子カルテシステムと呼ぶ現場も多く存在している。 以下は、電子カルテシステム単体とその他の関連システムの一例である。

  • 電子カルテシステム
  • レセプト管理システム
  • 手術管理システム
  • リハビリ管理システム
  • 入院管理システム
  • 病棟総合管理システム
  • 外来総合管理システム
  • 医局総合管理システム
  • 病理管理システム
  • 検査管理システム
  • 放射線科管理システム
  • 画像診断管理システム
  • クランケクレーム管理システム
  • クランケ要望管理システム
  • スタッフモチベーション管理システム
  • 業務速度改善管理システム
  • 総合病院化システム

近年浮上した電子カルテシステムの問題点

電子カルテシステムに代表される医事システムの導入には、そのシステム制作又は、導入までに平均で一床当たり100万円前後又は、導入費用総額の平均で約1億数千万円前後という予算計上が必要になる場合が多い。 だが、規模を問わず、経営難の病院は、破格を提示するシステム制作業者の営業を信じやすく、粗悪な電子カルテシステムを導入し、その導入後にはシステムダウンやシステムエラーが頻発し、業務に多大な損害を与える場合が多数存在している。電子カルテシステムのダウンやシステムエラーは病院にとっては致命的で、外来の延滞や診察の延滞、処置、指導、検査、病理、リハビリ、手術、入院手続き等、すべての業務を延滞またはストップさせる事となりうる。医療現場の医療事務や総務、ナース、医局等のスタッフは、電子カルテシステムへの期待と電子化推進の使命感とシステムへの信頼を持って、その導入に当初は協力的であるが、相次ぐシステムダウンやシステムエラーによって、医療現場で働く者の多くが、大きなストレスと精神的苦痛を味わう事となり、その結果、当初持ち合わせていた電子化推進の使命感は、不満や苛立ち、労働意欲の低下へと変貌し、また、システムへの信頼も大きな不信感へと様変わりしてしまう事が多く存在している。[要出典]患者も同様に待ち時間が長くなる事と医療現場のスタッフのストレス状態を敏感に感じ取り、患者も多くのストレスや精神的苦痛を感じる事となる場合が多く存在している。電子カルテシステムの導入により業務効率が悪化したり、医療現場で働く者の多くがストレスを感じたり、モチベーションが低下してしまったり、患者を待たせたり、怒らせたりする結果を招き、最終的には、電子カルテシステムの導入費用を安く抑えた事による経営悪化や職員の退職等の致命的な負の遺産を残す事となる場合が多々存在している。また、これらとは別に、医局や医療事務責任者等による業者との癒着や贈収賄によって、粗悪なシステムを導入する結果となった事例も存在しているが、これは現場で実際にそのシステムを使用する人間にとっては、患者も含めてだが、本末転倒で大変迷惑な話である。

粗悪な電子カルテシステム等の導入により、多くのナースや医療関係者からの悲痛な叫びや苦労が、驚くほど多く報告されているが、システム導入で一番大切な事は何なのかという事と、その目的を目先の安い見積もりを目にした時に見失わない事が大切なのではないのだろうかという専門家の声も上がっている。[誰?]

導入費用の費用対効果

高品質の電子カルテシステムを導入する事は、業務効率アップに絶大な威力を発揮し、それは、人員削減や経費削減、残業を減らす事などに大きく貢献される。そしてそれは結果的に、医療現場の環境が良くなる事で、働く者のモチベーションの向上にも絶大な効果が期待出来る。また、環境が良くなる事で病院の信頼や評価、来院患者数の増加等、病院経営の向上にも大きな効果があり、高品質の電子カルテシステムには、将来的な病院規模の拡大を物質的精神的の両面から強力にサポートする力も備わっている。

総合医療管理システム(電子カルテシステム)の実務例

あくまでも高品質な物が前提だが、例えば以下の流れが実現される。

用紙による新患申し込み(患者側)⇒電子新患登録(病院側)⇒ドクターのPCへ情報が自動転送⇒順にドクターが診察⇒診察をしながらPC上でドクターがレントゲンをオーダー⇒レントゲン室のPCへ電子カルテとオーダー情報が自動転送⇒患者はレントゲン室へ移動し、レントゲン室が空いていれば即撮影⇒電子レントゲンのデータがドクターのPCへ自動転送⇒患者は診察室へ戻る⇒患者が戻る前にドクターは画像を診断可能⇒患者が戻ると診察を再開⇒診察中にPC上でSOAP(SORP)作成⇒診察終了時、処方箋や会計、各オーダー等のあらゆるデーターがナースステーションや医療事務、総務、会計へ各種自動転送⇒患者は会計へ移動⇒速やかに会計完了

主な電子カルテベンダ

以下は大規模病院向けに比較的よく導入されているベンダである。

上記ベンダ以外にも独立系を含め多くのベンダが参入しており、さらには病院が独自にシステムを開発するケース[10]もあり、マーケットは混沌としている。

脚注

関連項目

外部リンク