肺循環

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肺循環の概念図。青色で示されたのは静脈血が流れる部分で、赤色に示されたのは動脈血が流れる部分

肺循環英語: pulmonary circulation)とは右心室から心臓を出たのち肺動脈としてに入り、肺静脈から心臓の左心房に戻る血液の循環路である。肺においてガス交換を行うので、肺循環では肺動脈に酸素の少ない静脈血が流れ、肺静脈に酸素の多い動脈血が流れる。肺循環ではいくつかの点において体循環とは異なっており、特異な病態生理を呈する。

構造

肺の横断面
青いのが肺動脈で、赤いのが肺静脈である。
肺胞

肺循環は心臓の肺動脈弁を越えたところから始まりすぐに左右2つの肺動脈に分岐し、気管支と並行して枝分かれしながら二次小葉の中心に達し毛細血管として肺胞壁を取り囲む。ここで酸素を得たのち、合流し小肺静脈として小葉間隔壁を走り左右の肺で上下2本、計4本の肺静脈になり左心房に流れ、肺循環を終了する。肺循環時間は4~6秒でこのうち赤血球が肺毛細血管を通過する時間は安静時で0.75秒で、運動時には0.25秒まで短縮する。


肺動脈は大動脈に比べて血管壁が薄く、収縮性に乏しい代りに伸展性に富んでいる。この分、肺動脈の動脈圧も低く平均の肺動脈圧は体血圧の約6分の1しかない。また、肺毛細血管の直径も5μmほどであり、他の毛細血管より細いし、好中球赤血球よりも小さい。肺毛細血管は血管内皮の腫大や周囲の浮腫、胸腔内圧や血流量の増大に応じて容易に拡張する。この毛細血管は肺胞を取り囲むような密な網目構造を作り効率的なガス交換を実現している。その面積はテニスコート一面分にも及ぶと言われる。

特徴

まず、肺循環は単一の臓器(つまり)に向って血流を流している点で体循環と異なる。すなわち、血液のほぼすべてが肺を通るのである。また安静時は全体の約4分の1の血管床が開いているだけなので予備量が大きい。そのため肺血管内圧が上昇にも柔軟に対応できるので肺血管抵抗は低く、体循環の約6分の1しかない。 このほかに、肺血管は低酸素状態(酸素分圧70mmHg以下)で血管収縮を起こし、肺動脈圧を増やして換気の少ない部分の血流を減らす。これは低酸素性肺血管収縮反応(hypoxic pulmonary vasocontrictuon:HPV)と呼ばれる。

機能

肺循環の一番重要な役割は酸素を取り込み二酸化炭素を排出するガス交換である。このほかに、血栓などは肺循環において捕捉されたのち融解されたりして除去される。この作用を血液濾過作用という。血栓が大きすぎて詰まってしまうと肺血栓塞栓症を起こす。また、肺血管内皮細胞は血管作動性の物質代謝にかかわっており、アンジオテンシンⅠからⅡへの変換やブラジキニンの不活性化やノルアドレナリンの除去を行っている。

胎児期における肺循環

胎児羊水の中にいて呼吸できないうえ、胎盤をとおして母体から酸素を獲得しているため肺でガス交換を行っていない。そのため、肺に多くの血流を流す必要がないので胎児循環においては肺動脈大動脈のあいだに短絡路がある。これは動脈管といい、出生後ブラジキニンの作用により血管が締め付けられて閉じる。成人において動脈管の遺残物は動脈管索として残っている。ここがうまく閉じないと動脈管開存症となる。

系統との関係

脊椎動物において、肺循環は両生類は虫類鳥類ほ乳類に見られる。魚類の大部分では肺は呼吸器として機能しない。実際に呼吸に用いている肺魚などにおいても、肺循環は存在せず、大まかにはほかの臓器と同じである。従って、陸上進出に際して発達した構造と見られる。なお、両生類では血管の配置としては肺循環があり、心臓の構造でも二心房であるが、心室は一つしかないため、肺循環から戻った血液は静脈血と混じってしまい、「すべての血が肺を通ってから全身に行く」という効果は十分ではない。は虫類では心室に仕切が出来ており、不十分ながらその効果がある。

参考文献