槍騎兵

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。114.185.198.63 (会話) による 2012年5月12日 (土) 19:23個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎関連項目)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

槍騎兵(そうきへい、やりきへい)はランス(騎槍)を装備した騎兵

概要

槍を装備する騎兵は世界中に存在するが一般にヨーロッパの槍騎兵をさす事が多い。英語ではLancer(ランサー)、フランス語ではLancier(ランシエ)、イタリア語ではLanciere(ランチエーレ)、ドイツ語ではLanzierer(ランツィーラー)やUhlan または Ulanウーラン)、ポーランド語ではUłan(ウワン)と呼ばれる兵科が槍騎兵にあたる。

歴史

ヨーロッパでは、古代から中世にかけて槍は騎兵の主装備として使用されてきた。ランスを装備した騎兵の突撃は、歩兵にとって大きな脅威であった。中世中期から中世後半のヨーロッパではランスを主要な武器とする騎兵は大抵の場合は重装備の騎士だったが、より軽装の騎兵を区別して槍騎兵と呼んだ。封建領主の減少や騎士身分の没落などで十分に騎士を確保できなかった国では騎士の代わりに槍騎兵がその役割を担った。15世紀から16世紀にかけて、歩兵が火器と槍を組み合わせたテルシオのような密集方陣を編み出すと、騎兵の突撃はその効力を低下させた。さらに槍より射程の長いピストルを騎兵が持つようになると、騎兵の主装備もピストルと刀へ移行していった。この時点で槍騎兵は西欧の戦場から姿を消していき、主に儀礼的な場にのみ現れるようになった。騎兵の突撃力が減退したため、歩兵は槍に頼る必要が無くなり、部隊の中に占める火器の割合が増加していった。銃兵に近接戦闘能力を付与する銃剣が普及すると、ますます槍の意味合いは薄れた。こうした武装の変化に合わせ、歩兵隊形も密集方陣から火力を発揮しやすい横列隊形へと変化していった。しかし、このような歩兵隊形の変化は、方陣によって獲得できていた防御力の低下を招き、再び騎兵の突撃が威力を発揮するようになった。18世紀ごろから、ランスを装備した槍騎兵が再び諸国の軍隊で編成された。多くの国家は、当時最も著名だったポーランド槍騎兵(ウワン)を参考にしたため、特徴的な軍装や戦術も模倣された。こうして槍騎兵は、重騎兵軽騎兵と並び、一つの兵科として位置づけられるようになった。

中国にもランスに相当する兵器として槊(さく)もしくは馬矟と呼ばれるものがあり、末の単雄信がその使い手として知られる。

1939年のポズナン第15ウーラン連隊の再現

18世紀から19世紀半ばまで、槍騎兵は他の騎兵とともに各地の戦場で活躍した。しかし、機関銃の発明やライフル銃の標準化による火器の威力の増大、突撃を阻む塹壕戦の一般化など、歩兵の防御力が大きく強化されるに及んで突撃は自殺行為となり、槍騎兵のみならず騎兵自体がその存在意義を失っていった。20世紀に入ると、軍隊の機械化が進み、騎兵は車両が踏破できない不整地でのみ使用されるようになった。その役割も突撃ではなく、偵察後方破壊が主になった。独ソ戦におけるコサック騎兵によるドイツ軍の輸送隊襲撃などが一例である。泥と雪に覆われたロシアでは、馬の不整地踏破能力が役に立つ場合が多かった。

各国の機械化が進むにつれて、騎兵という兵科は消滅していき、槍騎兵も存在しなくなった。ただし、イギリスのクイーンズ・ロイヤル槍騎兵連隊のように、一種の名誉称号として現在でも各国に槍騎兵連隊が残されている。これらは多くが機械化部隊空挺部隊である。

装備と戦術

槍騎兵が活躍した18世紀から19世紀の装備および戦術は以下のようなものだった。

一般的な槍騎兵の装備は、ランスサーベル胸甲ヘルメットだった。ランスの全長は2メートルから3メートル前後で、先端にはしばしば小旗がつけられた。サーベルは敵騎兵との接近戦になった場合に必要だった。ランスはサーベルに比べて小回りが効かず、懐にもぐりこまれると不利になるからである。接近戦用にピストルを携帯しているものも多かった。胸甲は装備していない場合もあり、突撃の第一列のみが装備しているという部隊も多かった。ヘルメットは重騎兵のものと同じものを使用したが、熊皮帽などで代用している場合も多かった。ポーランドのウーランは、チャプカと呼ばれる頭頂部に四角形の板を貼り付けた独特の帽子をかぶっていた。上記のようにポーランド槍騎兵は他国に模倣されたため、フランスやプロイセンの槍騎兵でもチャプカを被っていることがあった。当時の騎兵の例に漏れず、槍騎兵もモールや飾り帯(サッシュ)などで派手に着飾っていた。

槍騎兵の主任務は歩兵隊列の破砕、および敵歩兵の掃討であった。槍騎兵は数列の横列を組んで突撃した。正面突撃は自殺行為であるため、よほどのことでもない限り実行することは無かった。普通は機動力を生かし、敵歩兵の側面ないし背面に回り込んでから突撃した。また、移動や隊形変更で隊列が乱れたときも狙った。時には敵歩兵の発砲後、再装填にかかっている瞬間を狙って突撃する場合もあった(マスケット銃は再装填に20秒から30秒程度かかる)。ただし、大半の軍事指揮官は、成功しても損害の多くなる突撃をできるだけ避けようとしたため、砲兵や歩兵の火力によって敵が崩れるか、あるいは撤退を始めた頃に槍騎兵を投入することが多かった。

関連項目