教科書採択

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教科書採択(きょうかしょさいたく)は、小学校中学校高等学校中等教育学校特別支援学校において、学校授業で使用する教科用図書教科書)を選定することである。

概要

現行制度は、小学校・中学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校では「文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教育用図書を使用しなければならない」[1]としている。教科書検定制度のもとで、同じ教科・科目でも複数社・複数種類の教科書が発行されているため、その中から1種類の教科書を選定する必要が生じる。

なお、大学などの高等教育機関に対しては教科書に関する規定はなく、授業で使用する教科書・使用教材の有無や内容については各学校・教員の裁量の範囲に属している。

義務教育

教科書採択の権限

教科書採択の権限は、公立(市区町村立または都道府県立)の小学校中学校中等教育学校前期課程、特別支援学校(初等部・中等部)といった義務教育諸学校の場合、当該学校を設置する市区町村または都道府県の教育委員会にあるとされる[2]。なお、国立・私立の義務教育諸学校については、当該学校の校長に権限があると行政は解している[3]

採択地区

教科書の採択区域については、都道府県教育委員会が「市若しくは郡の区域又はこれらの区域をあわせた地域に、教科用図書採択地区を設定しなければならない」とされている[4]。実際には、市・郡を単位として採択区域が定められている場合もあるが、地理的条件や文化圏経済圏などが同一の地域をひとまとめにして、複数の市や郡からなる採択区域が定められている場合もある(共同採択)[5]。また政令指定都市では、市内をいくつかの採択地区に分けて地区ごとに採択をおこなっている場合もある[6]

教育委員会

都道府県教育委員会は、検定済教科書の中から各教科・分野ごとにそれぞれ1種類ずつ、都道府県立学校で使用する教科書を採択する。このほか都道府県教育委員会は、市区町村教育委員会への採択のアドバイスをおこなう。都道府県教育委員会では、市区町村教育委員会へのアドバイスの目的で、学識経験者や教育委員会関係者・教職員などからなる教科用図書選定審議会を設置することができる。

市区町村教育委員会はその設置する学校について、各教科・分野ごとにそれぞれ教科書を採択する。市区町村教育委員会の教科書採択の際には、都道府県教育委員会からのアドバイスや、各社の教科書についての教員からの感想・意見なども参考にする。

教員

教員には、現行制度上、直接の採択権はない。 自治体によっては、教育委員会に対して教科書に関する意見を述べることのできるような仕組みが整えられている場合もある。具体的には、所属学校を通じての意見文書提出や、教科書展示会で各社教科書の見本本を展示して会場に意見投書箱を設置するなどの方法がとられている[要出典]

国の関与

国に採択の権限はない。また、教育の政治的中立性確保の要請、地方公共団体の自主性、自立性、および地方公共団体の事務処理に関する国の関与の法定主義に鑑み、教科書採択に国が介入することは原則として避けるべきであり、関与しなければならない場合も、必要最小限度に留め、自主性及び自立性に配慮しなければならない[7]

もっとも、文部科学大臣は、事務の適正な処理を図るため、必要な指導、助言又は援助を行うことができる[8]。また、教育委員会に法令違反や任務懈怠がある場合には、是正を要求[9]し、または指示[10]することができる。

採択の期間

義務教育諸学校では現行では4年ごとに採択がおこなわれる。一度採択された教科書は4年間同じ種類のものを使用することとなる。

高等学校

高等学校における教科書採択では、義務教育諸学校と異なり、広域採択制に類するシステムはない。各学校ごとに教科書を採択している。また各年度ごとに採択がおこなわれる。

高等学校での法令上の教科書採択権者の定めは明記されていないが、文部科学省の解釈によると公立学校の場合は所管教育委員会に採択権があるとしている。

問題

上述のように、義務教育諸学校において教科書採択の権限・責任の所在と採択地区の範囲がズレているため、採択地区内の教育委員会委同士の間で協議が調わなかった場合に問題を生じることとなった。[11]

平成25年度までは、共同採択の「ときは、当該採択地区内の市町村の教育委員会は、協議して種目ごとに同一の教科用図書を採択しなければならない」[12]とのみ規定されていた。、協議を行う組織についての規定がなかった。

そこで、2014年4月9日、国は、採択地区協議会の設置を義務づける法改正を行った[13][14]。これは平成26年度の採択から適用される。

もっとも、協議や共同採択の手続・方法などは規定されていない。また、概要に書かれた通り、依然としてそれぞれの教育委員会が教科書採択の権限を有することに変わりはない。したがって、一つの教育委員会が共同採択の規定に違反して協議と異なる教科書を採択した場合でも、当該公立学校では当該教育委員会が採択した教科書が使用され、教科書無償措置法との関係で違法の問題が残るにすぎない。

実際の教育現場において、教諭が、生徒を前にして、選定され、現に使用している教科書について、その使用感に不満や苦言を呈することが見受けられることがあり、選定されなかった教科書の利点を言うこともある。また、教科書のカリキュラムの段階性に意を払わず、例えば国語科などでは、冗漫な鑑賞会のような授業になり、全体の半分の量さえも授業せずに単位認定することも少なくない。教科書検定制度のもと、いずれの教科書も等しく認められたものである。このため、各教諭ごとに教科書を選択させ、その得意とするところと教科書ごとに異なる説明の導き方を連携させ、教諭のモチベーションアップおよび教育内容の充実と教育結果に対する責任の自覚が導き出される。この派生効果として、微視的には、教育の受け手である生徒各人の多様性と生徒同士の議論の機会「自分と異なる他者への寛容と協力関係の醸成,多様な方法論への関心の視点など」を与える可能性が導き出される。また、巨視的には、教育内容の画一化による形式性と序列化の抑止が図られることになる。なお、教育成果を測るための小考査および定期考査に関しては、各教科書編集者との一定の連携は、現場の各教諭の現実的な負担から避けられないものと考えられている。

歴史

明治時代中期までの義務教育の教科書は、認可制の時代を経て検定制となっていた。検定制の時代は道府県単位での採択がおこなわれていた。当時の政府・文部省が教科書国定化を企図していたことに加えて、1902年教科書疑獄事件が発覚したことなどが背景となり、1903年から1945年までは教科書が国定化された。国定教科書の時代は、文部省が発行する国定教科書1種類以外には選択肢がないために、教科書採択の余地はなかった。

第二次世界大戦終戦後の改革を機に国定教科書制度は廃止され、1949年に教科書検定制度へと転換した。1962年までは各学校に教科書の採択権があり、各学校の教師が各教科書を調査研究・比較した上で使用教科書を選択していた。

しかし1963年教科書無償制度の実現により、教科書無償措置法の規定にしたがって、教科書採択の権限は教育委員会へと移ることになった。その一方で、現場の教師が教科書採択の権限を持つべきだという考え方も根強くある。例えば1996年12月16日に発表された行政改革委員会の「規制緩和の推進に関する意見(第2次)」では、教科書採択への改善意見について、将来的には学校単位での採択をおこなえるようにすること・採択区域を縮小すること・採択方法を改善することなどが提案されている。  

脚注

  1. ^ 小学校での規定につき学校教育法第34条。他校種については第49条・第62条・第70条・第82条でこの規定を準用している。
  2. ^ 根拠法令は地方教育行政法第23条6号とされる(文部科学省「教科書制度の概要」6.教科書採択の方法)(教科書の発行に関する臨時措置法第7条第1項参照)。もっとも、学説の中には、これらの条文は事務手続きについて定めたものにすぎないとし、「教育委員会の採択権」を主張する法的根拠はないとする意見もみられる[要出典]
  3. ^ 文部科学省「教科書制度の概要」6.教科書採択の方法
  4. ^ 教科書無償措置法第12条1項
  5. ^ 例えば滋賀県では、草津市守山市など6市でひとつの採択区(滋賀県第2採択区)を構成している。また三重県では、津市など2市2郡でひとつの採択区(三重県中勢採択区)を構成している。(2005年時点)
  6. ^ 例えば大阪市では、市内を8採択地区に分けて採択をおこなっている(2010年時点)。また横浜市では2009年度まで18行政区各区ごとに採択をおこなっていた(2010年度以降は全市1採択区域へと変更)。
  7. ^ 教育基本法14条2項、16条1項、地方自治法1条、245条の2
  8. ^ 地方自治法第245条の4第1項、地方教育行政法48条
  9. ^ 地方自治法第245条の5第1項第4項、地方教育行政法49条
  10. ^ 地方教育行政法50条
  11. ^ 文部科学省「沖縄県八重山採択地区における教科書採択の経緯について」
  12. ^ 教科書無償措置法第13条4項
  13. ^ 参議院 議案情報
  14. ^ 日本経済新聞「改正教科書無償措置法が成立 地区内で同一採択義務付け」(2014/4/9 10:39)

関連項目

外部リンク