子宮移植
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概要
2002年にサウジアラビアで世界初の生体子宮移植手術が行われた[1]。26歳の女性に対し閉経後の46歳の女性から子宮の提供を受け移植、移植後2度の生理が確認されたが施術後99日目に子宮内に血栓が発生し[2]、失敗した[3]。
2007年1月15日にはアメリカでもニューヨーク・ダウンタウン病院 (New York Downtown Hospital) で2007年度後半に実施を計画していたことが判明し、物議を醸した[1]。この計画は「病気や事故で子宮を失ったが子どもを望む女性に、脳死体などから子宮を移植する手術」を目的として計画され[1]、拒絶反応の問題から出産後の摘出を目標としており、成功した[4]。
子宮移植は子宮を失った女性に自ら出産する可能性をもたらすが、同時に移植された子宮がうまく機能しなかった場合、胎児および母体を危険に晒すおそれがあり、専門家からの非難の声が上がっている[3]。
動物実験
2002年8月22日にスウェーデンのイエーテボリ大学でマウスの子宮移植・妊娠に成功し、イギリスの「内分泌学誌」8月号に発表した[5]。子宮移植の成功例は初の事例で[5]、グループは「2、3年後には人への臨床応用へ進みたい」と語った[5]。
2006年に上海交通大学で行われたラットでの同種異系子宮移植実験では、同種異系子宮移植群で拒否反応が発生し日ごとに悪化したが、同系子宮移植群では拒否反応の徴候がないことを示した[6]。
また、同じく2006年に中華顕微外科雑誌に掲載されたビーグル犬を使った実験では実験に使われた8匹中6匹が手術に成功、6匹のうち2匹が腹腔内出血および失血により死亡したが、生存した4匹は血栓がないことが確認された。このうち2匹が328日間生存し、残り2匹は長期的に生存、移植7カ月後に自然妊娠と自然分娩を行った。この実験の結果、ビーグル犬の自体子宮卵巣移植の動物モデルは可能であり、生存子宮は自分で妊娠や分娩することができ、ヒト子宮移植に関連的な実験証拠を提供できると結論づけた[7]。
日本での研究
日本でも筑波大学で動物実験による基礎検討研究が行われている[8]ほか、2009年2月には東京大学形成外科三原研究チームの「小児血液癌患者・卵巣凍結に関する研究」第26回ワークショップにて、ブタの子宮移植の実験結果報告が公開され、子宮移植手術自体は可能であると結論づけた[9]。
2010年に東京大学や慶應義塾などの研究チームが行ったカニクイザルでの自家子宮移植実験では、実験に使われた2匹中1匹が手術に成功した。1匹は移植の翌日死亡したが、1匹は移植後すでに2回月経があり、子宮が機能していることが確認されている[10]。
男性の妊娠可能性
前述の東京大学形成外科三原研究チームによる卵巣凍結実験に関連して、ブタの子宮移植実験の結果から、将来的に女性から男性へ性別適合手術 (SRS) を行った人の子宮を凍結保存し、男性から女性への性別適合手術の際に移植することの可能性を語っている[9]。
脚注・参考文献
- ^ a b c “米国初の子宮移植実施へ 専門家からは異論も”. 共同通信. (2007年1月16日) 2009年6月30日閲覧。
- ^ 『20代の女性へ子宮移植・サウジで世界初』 日経新聞(2002年3月7日)
- ^ a b “米で初の子宮移植計画…米紙報道”. 読売新聞. (2007年1月16日) 2009年6月30日閲覧。
- ^ “Downtown Hospital Residents Recognized by the American Society for Reproductive Medicine”. New York Downtown Hospital. 2009年6月30日閲覧。
- ^ a b c 『マウスの子宮移植・妊娠に成功 人への臨床応用に道』 朝日新聞、2002年8月22日。
- ^ “ラットでの同種異系子宮移植におけるサイトカインの発現”. 科学技術振興機構 (2006年). 2009年6月30日閲覧。
- ^ “Beagle犬の自体子宮卵巣移植の動物モデルの樹立”. 中華顕微外科雑誌 (2006年). 2009年6月30日閲覧。
- ^ “動物実験による子宮移植の基礎的検討”. CiNii. 2009年6月30日閲覧。
- ^ a b 三原誠 (2009年3月20日). “第26回ワークショップ(3月3日開催)のまとめ”. 東京大学. 2009年7月6日閲覧。
- ^ “子宮移植、サルで成功 人への応用視野 東大・慶大など”. 朝日新聞. (2010年7月28日) 2010年9月13日閲覧。
- 三原誠 (2009年7月3日) (blog). 女性器癌患者における卵巣凍結と妊孕性再建研究. 東京大学 2009年7月6日閲覧。.