子宮移植

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

子宮移植(しきゅういしょく)は、子宮生体または死体から移植することである。先天性の子宮欠損や病気・事故等により子宮を失った女性が自ら妊娠出産できるようにすることを目的とする。

概要[編集]

2002年サウジアラビアで世界初の生体子宮移植手術が行われた[1]。26歳の女性に対し血縁関係にない[2]閉経後の46歳の女性から子宮の提供を受け移植、移植後2度の生理が確認されたが施術後99日目に子宮内に血栓が発生し[3]、失敗した[4]

2007年1月15日にはアメリカでもニューヨーク・ダウンタウン病院英語版(New York Downtown Hospital) で2007年度後半に実施を計画していたことが判明し、物議を醸した[1]。この計画は「病気や事故で子宮を失ったが子どもを望む女性に、脳死体などから子宮を移植する手術」を目的として計画され[1]拒絶反応の問題から出産後の摘出を目標としており、成功した[5]

2011年8月にトルコアクデニズ大学英語版病院で先天性子宮欠損症の女性(卵巣は存在し卵子の生産能力を有する)への死体からの子宮移植に成功した[6]。この女性は2013年4月、体外受精したにより妊娠に成功した[7]

2012年にはスウェーデンヨーテボリ大学において2組、いずれも母から娘への生体子宮移植に成功した[8]。同研究チームは、引き続き8組の生体子宮移植を予定している。その目的はあくまで子宮を欠く出産適齢の女性への支援であり、出産可能年齢を超えた女性を助けるためではないと強調している。 2014年1月には、同グループは、生体間での子宮移植を9組行ったと発表し、一時的な拒絶反応や感染が見られた例もあったが、経過は順調で全員が数日内に退院し、子宮の状態も良好としている。[9]


動物実験[編集]

2002年8月22日スウェーデンイエーテボリ大学でマウスの子宮移植・妊娠に成功し、イギリスの「内分泌学誌」8月号[10]に発表した[11]。子宮移植の成功例は初の事例で[11]、グループは「2、3年後には人への臨床応用へ進みたい」と語った[11]

2006年上海交通大学で行われたラットでの同種異系子宮移植実験では、同種異系子宮移植群で拒否反応が発生し日ごとに悪化したが、同系子宮移植群では拒否反応の徴候がないことを示した[12]

また、同じく2006年に中華顕微外科雑誌に掲載されたビーグル犬を使った実験では実験に使われた8匹中6匹が手術に成功、6匹のうち2匹が腹腔内出血および失血により死亡したが、生存した4匹は血栓がないことが確認された。このうち2匹が328日間生存し、残り2匹は長期的に生存、移植7カ月後に自然妊娠と自然分娩を行った。この実験の結果、ビーグル犬の自体子宮卵巣移植の動物モデルは可能であり、生存子宮は自分で妊娠や分娩することができ、ヒト子宮移植に関連的な実験証拠を提供できると結論づけた[13]

日本での研究[編集]

日本でも筑波大学で動物実験による基礎検討研究が行われている[14]ほか、2009年2月には東京大学形成外科三原研究チームの「小児血液癌患者・卵巣凍結に関する研究」第26回ワークショップにて、ブタの子宮移植の実験結果報告が公開され、子宮移植手術自体は可能であると結論づけた[15][16]

2010年に東京大学や慶應義塾などの研究チームが行ったカニクイザルでの自家子宮移植実験では、実験に使われた2匹中1匹が手術に成功した。1匹は移植の翌日死亡したが、1匹は移植後すでに2回月経があり、子宮が機能していることが確認されている[17]。 東京大学形成外科三原研究チームより、2011年11月に新しい子宮移植方法に関し[18]、2012年8月に霊長類を用いた自家子宮移植後の世界初の自然妊娠・出産が海外医学誌に発表され[19]、子宮移植の基礎研究が大幅に進んだ。2013年5月には、日本産科婦人科学会学術講演会にて慶應大学産婦人科木須伊織助教らがカニクイザルでの自家移植後の妊娠出産を発表し、世界で初めて霊長類での子宮移植後の妊娠出産に成功したことを報告した。[20]

男性の妊娠可能性[編集]

前述の東京大学形成外科三原研究チームによる卵巣凍結実験に関連して、ブタの子宮移植実験の結果から、将来的に女性から男性へ性別適合手術 (SRS) を行った人の子宮を凍結保存し、男性から女性への性別適合手術の際に移植することの可能性を語っている[15]

脚注・参考文献[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ a b c “米国初の子宮移植実施へ 専門家からは異論も”. 共同通信. (2007年1月16日). http://www.47news.jp/CN/200701/CN2007011601000096.html 2009年6月30日閲覧。 
  2. ^ 世界初、母から娘への子宮移植手術 来年実施へ スウェーデン AFPBB 2011年06月15日
  3. ^ 『20代の女性へ子宮移植・サウジで世界初』 日経新聞(2002年3月7日)
  4. ^ 増満浩志 (2007年1月16日). “米で初の子宮移植計画…米紙報道”. 読売新聞. http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070116ik0a.htm 2009年6月30日閲覧。 
  5. ^ Downtown Hospital Residents Recognized by the American Society for Reproductive Medicine”. New York Downtown Hospital. 2009年6月30日閲覧。
  6. ^ Safak Timur (2011年10月03). “トルコで子宮の死体移植に成功、世界初”. AFPBB. http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2832379/7857631 2013年4月27日閲覧。 
  7. ^ “世界初の子宮移植女性が妊娠、トルコ”. AFPBB. (2013年4月13日). http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2938526/10576152 2013年4月27日閲覧。 
  8. ^ Pia Ohlin (2012年9月19日). “スウェーデンで母から娘への子宮移植手術に成功、世界初”. AFPBB. http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2901955/9540746 2013年4月27日閲覧。 
  9. ^ http://sankei.jp.msn.com/world/news/140114/erp14011408200002-n1.htm
  10. ^ Racho El-Akouri R 2002.
  11. ^ a b c 『マウスの子宮移植・妊娠に成功 人への臨床応用に道』 朝日新聞、2002年8月22日。
  12. ^ 上海交通大学学報 医学版 (2006年). “ラットでの同種異系子宮移植におけるサイトカインの発現”. 科学技術振興機構. 2009年6月30日閲覧。
  13. ^ SHEN Yunほか (2006年). “Beagle犬の自体子宮卵巣移植の動物モデルの樹立”. 中華顕微外科雑誌. 2009年6月30日閲覧。
  14. ^ 岡本一、西田正人・ほか「動物実験による子宮移植の基礎的検討」、『日本産科婦人科學會雜誌』第52巻第2号、日本産科婦人科学会2000年2月1日、 435(S-359)、 NAID 1100021752322009年6月30日閲覧。
  15. ^ a b 三原誠 (2009年3月20日). “第26回ワークショップ(3月3日開催)のまとめ”. 東京大学. 2009年7月6日閲覧。
  16. ^ Halim Ahmad Sukari、中川毅史・三原誠・ほか「女性器癌患者における卵巣凍結と妊孕性再建研究 : コラボレーション: 再建外科*移植外科」、『Academic Collaborations for Sick Children』第1巻第1号、日本学術連携医学会、2009年、 20-23頁、 NAID 130000248692
  17. ^ 大岩ゆり (2010年7月28日). “子宮移植、サルで成功 人への応用視野 東大・慶大など”. 朝日新聞. http://www.asahi.com/science/update/0728/TKY201007280464.html 2010年9月13日閲覧。 
  18. ^ Uterus autotransplantation in cynomolgus macaques: intraoperative evaluation of uterine blood flow using indocyanine green.Hum Reprod. 2011 Nov;26(11):3019-27.
  19. ^ Uterine autotransplantation in cynomolgus macaques: the first case of pregnancy and delivery.Hum Reprod. 2012 Aug;27(8):2332-40.
  20. ^ http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130510060730370

参考文献[編集]

関連項目[編集]