大和物語

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大和物語』(やまとものがたり)は、平安時代に成立した中古日本の物語である。当時の貴族社会の歌語りを中心とした歌物語で、天暦5年(951年)頃までに執筆されたと推定されている。歌物語の性格上登場人物は実名・官名・女房名で登場し具体的にある固定の人物を指していることが多い。

伊勢物語』の影響のもとに成立した作品とされており、「大和」の名は「伊勢」に対する命名であると言われている。しかし、大和という名の女房の手になる物語とする説もある。

成立

平安時代前期、『伊勢物語』の成立後で、村上天皇の治世、950年ごろと推定されている。

作者

『大和物語』の実作者は古くは、在原滋春花山院が擬せられたが、現在に至るまで未詳である。宇多天皇や周辺の人物が話題になることが多く、宇多天皇の身辺に侍っていた女房が関わっているらしい。

概要

通説では、全173段に区切られている。約三百首の和歌が含まれているが、『伊勢物語』とは異なり統一的な主人公はおらず、各段ごとに和歌にまつわる説話や、当時の天皇・貴族・僧ら実在の人物による歌語りが連なった歌物語の集成となっている。

内容・構成

  • 第140段までの前半は(物語成立の)近年に詠まれた歌を核として、皇族貴族たちがその由来を語る歌語りとなっている。141段からの後半は、悲恋や離別、再会など人の出会いと歌を通した古い民間伝説が語られており、説話的要素の強い内容になっている。二人から求婚された乙女が生田川に身を投げる「生田川伝説」(147段)や、「姥捨山伝説」(156段)などである。
  • 伊勢物語』にあらわれる「筒井筒」と同じ話が『大和物語』にも出てくるなど、『伊勢物語』の影響は色濃い。
  • 後撰和歌集』や凡河内躬恒の『躬恒集』などの和歌が『大和物語』に出てくることから、これらの作品は『大和物語』を何らかの関係があるだろう。

前半と後半の分け方

主な登場人物

伝本

  • 伝本の中でも「御巫本」と「鈴鹿本」は文字の欠如・改作が多いとされる。
  • 高橋正治による分類
    • 第一類系統
      • A系統(伝為氏本系統)…小汀利得旧蔵酒井宇吉所蔵伝為氏筆本、筑波大学附属図書館所蔵大永本、東京教育大学附属図書館蔵大永本、架蔵本、三条西家旧蔵伝藤原為氏本など。
      • B系統(群書類従本系統)…群書類従本、古注本、東京大学附属図書館所蔵南葵文庫旧蔵本、古活字本など。
      • C系統(伝為家本系統)…伝為家筆本(尊経閣旧蔵伝藤原為家筆本)の1本のみ。
      • D系統(寛喜本系統)…文明十年藤原親長書写本、陽明文庫蔵本、蓬左文庫所蔵為衆本、多和文庫所蔵飛鳥井雅俊本、三条西本など。
      • E系統(天福本系統)…厳島神社宮司野坂元定所蔵天福本、大宰府神社所蔵本、無窮会文庫本(第139段まで)の3本。
      • F系統(刈谷本系統)…静嘉堂文庫所蔵刈谷棭斎旧蔵本、京都大学国語国文学研究室所蔵近衛稙家筆本、大東急記念文庫蔵本、架蔵本など。
      • G系統(首書本系統)…首書本、抄、虚静抄(、拾穂抄本)の3本。純粋度は極めて低下。
      • H系統(桂宮本系統)…宮内庁書陵部所蔵桂宮本、京都大学附属図書館所蔵中川家旧蔵本、永青文庫本など。
    • 第二類(P系統)…天理大学附属図書館所蔵御巫清勇旧蔵本、愛媛大学附属図書館所蔵鈴鹿三七旧蔵本の2本。第173段のあと、「此物語は花山院御作なりと本にあり」とあり、次に第169段が移されている。
    • 第三類(Q系統)…久曾神昇所蔵勝命本、九州大学附属図書館所蔵支子文庫旧蔵本の2本。

注釈書

研究書

近年の文献

  • 雨海博洋、岡山美樹全訳注 『大和物語』 講談社学術文庫上下、2006年
  • 尾崎左永子 『大和物語の世界』 書肆フローラ、2009年
  • 柳田忠則(日本大学教授)  『大和物語の研究』翰林書房1994年
  • 柳田忠則(日本大学教授)  『大和物語研究史』翰林書房2006年

外部リンク