前世療法

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前世療法(ぜんせいりょうほう : Past Life Therapy )とは、催眠療法の一種であり、退行催眠により患者の記憶を本人の出産以前まで誘導(= 過去生退行[1])し、心的外傷等を取り除くと主張されている。

事例

ブライアン・L・ワイス
アメリカ合衆国精神科医であるブライアン・L・ワイス博士によって催眠療法中に「前世記憶」が発見され、1986年に出版された"Life Between Life"[2]という本で世に知られるようになった。退行催眠療法により出産以前に遡った記憶前世記憶)を思い出すことにより現在抱えている病気が治ったりと治療に役立つともされ、、多くのケースで施行された。
ジョエル・ホイットン
トロント大学医学部のジョエル・ホイットンは、約30人の被験者を集め、退行催眠を用い彼らの記憶を探った。その結果、全員に複数の前世と思しき記憶が見られ、原始時代まで遡る事が出来たという。被験者の全員が「魂には男女の性別がない」と語り、多くの被験者が現在とは違う性に生まれた経験があった。そして全員が「人生の目的は進化し学んでいくことであり、何度も生まれ変わりを繰り返すことによってその機会が与えられている」と語ったという。ホイットンの実験では、被験者が前世記憶を蘇らせると心理的・肉体的に深く癒されたという。またホイットンの実験では、被験者が生と生の「中間領域」も語り始めた。被験者たちによると、この領域は「次の人生」を計画するためにあるという。ホイットンはまた、被験者の前世記憶が、実在した人物のものであったことを強く示唆する状況証拠も発見している。[3](→#退行催眠への批判と応答)
キャロル・ボーマン(en:Carol Bowman
キャロル・ボーマンが挙げた例によれば、5歳の白人の子供がかつて黒人の兵士であったという「前世記憶」を持っていた、というケースがあり、そうした記憶は空想とは明らかに質が違うという。この例の場合、子供が語る戦争についての記憶はかなり詳しく、当時の大砲、武器の特徴まで詳細に描写したという。注意したいのは、これらの記憶をたどることは、あくまで精神的な心的外傷などを治療する事を目的に行われていることである(歴史的な事実との検証に貢献するというメリットもあるかもしれない。)またキャロルの著書では、前世の記憶が、現在の生で身体的特徴として現れた例も紹介されている。[4]
ドリーン・バーチュー(en:Dreen Virtue
キャロル・ボーマンと似た見解を示しているのが、ドリーン・バーチューである。彼女は専門的な研究家ではないが、セラピストとして接した実例から前世記憶について証言している。ドリーンによれば、過去の事故や戦争により受けた傷が、生まれつき現在の体に備わっていることがあるという。いずれも実例からの研究結果によるものであり、治療の手段として知られている。
モンロー研究所
超心理学ロバート・モンローが開設したモンロー研究所ではによるヘミシンクによって、その領域の記憶の開発、あるいは体外離脱などの様々な領域を開拓している。『光の剣』の著者、クリスチアン・タル シャラーも在籍していたことがある。
ヘレン・ウォンバック
サンフランシスコ在住の心理学者ヘレン・ウォンバックは、ワークショップで参加者をグループごとに催眠にかけ、特定の時代に退行させた後、性別や衣服・生活スタイルなどについて質問する、という調査を行った。ヘレンの調査の被験者は数千人に及び、多くの者が過去の時代について詳細な描写を行った。またヘレンは被験者は催眠の種類により未来世に進む事も発見した。ヘレンが他界した後に、その調査は心理学者のチェット・スノウが受け継いでいる。(→#退行催眠への批判と応答)

日本での事例

平成22年8月5日、フジテレビ系列の「奇跡体験!アンビリバボー」で「前世の記憶を語る主婦」というタイトルの番組が放映され、日本人女性が退行催眠治療中に、未知の場所や出来事について未学習のネパール語で話し、ネパール人とも会話するという映像が流された。女性はネパールへは行った事がないし、ネパール語も知らないし、ネパール人の知り合いもいないと言う。催眠は催眠療法士稲垣勝巳によるもので、同番組で放映された現象の映像は、中部大学国際関係学部の大門正幸教授立ち会いのもと録画された

なお、上記に挙げた以外に、飯田史彦著の『生きがいの創造』(PHP研究所)に、実際にあったとされる多くの事例が紹介されている。

  • 被験者の発言内容が歴史的事象と一致していた。
  • 「前世の記憶」を語った子供たちの事例を集め、その真偽を詳しく調査した結果、証言内容の人物が実在し、証言通りの死に方をしていた。

など。

退行催眠への批判と応答

前世の記憶は虚偽記憶の一種であるという批判があり、かつて催眠によりありもしない記憶が作られた例が多くあった。多くの前世療法家は「過去性の記憶」と実際の歴史との符号を調査していない。そのため、前世療法を利用する人には批判的な観点も必要であるともされている[5]

また「前世」を想起することで、被験者の現在の心理的疾患が治癒されるケースがあり、それを前世の根拠とする主張がある。しかし心理的原因の疾患では、原因そのものに触れなくても症状が消えることは多いので、疾患の治癒だけで前世の記憶が正しいと考えるには不十分であるという主張もある。

しかし、中には史実と一致して、かつ本人の知るはずの無い正確な記憶を話す事例も存在する。1990年にはシカゴ在住の女性が、16世紀のスペイン女性の生涯を詳細に物語るというケースがあった。後のスペインの公文書館に所蔵されている資料による調査が行われ、彼女の記憶は正確なものであることが判った。またイアン・スティーヴンソンによる生まれ変わり現象の研究では、被験者が知らない言語を、前世退行による真性異言により話し始めるケースが2例紹介されている。2人の被験者が生後にその言葉を学んでいた可能性はほぼ棄却されている。(しかし、スティーヴンソンは退行催眠によって本当の前世の記憶が蘇ることは稀にしかない、とも語っている。)[6][7]

ジョエル・ホイットンの実験によれば、退行催眠により現れた記憶を「前世」のものと仮定することで、子供が生まれながらに持つ言語的なまりや恐怖症、癖や異様な性癖などの特徴が発生した原因を矛盾なく説明できるという。(イアン・スティーヴンソンも同様の見解を示している。)ホイットンの事件では、被験者が過去の時代の歴史的背景について、不気味なほど正確な描写をし、被験者自身が全く知らないとする言語を話す者も現れたという。例として、ある35歳の科学者が無意識に発した言語は古代スカンジナビア語であったことが言語学的に確認された。この被験者は既に絶滅した言語となった紀元前メソポタミアのササニド・パーラディ語を無意識下で書くこともできた。[8]

前世記憶について、それを思い出す人の前世は大抵、国王や貴族など高貴な身分であり、召使などの低い身分のものであることはない、といった批判がある。そうしたケースでは、前世記憶は願望が投影された虚偽記憶である事になる。ジョン・レナードは「中でも最も人気の高いのはクレオパトラで、男性の場合は大抵、古代エジプトのファラオという形を取る」と批判している。[9]霊媒であったダニエル・ダングラス・ホームは「私は12人のマリー・アントワネット、20人のアレキサンダーに拝謁を賜っているが、過去生で街角の只のおじさんだったという人には一度もお目にかかったことがない」と揶揄している。[10]

しかし、ヘレン・ウォンバックが行った実験では、被験者の90%が小作人や労働者、農民や狩猟採集民である過去生を思い起こしていた。貴族である前世は10%にすぎず、有名人である前世は(数千件のデータのうち)一例もなかった。また被験者は歴史上の詳細について驚くほど正確であり、例として1700年代の記憶を呼び起こした人々は、歴史上の家具の形の変遷や衣服・食べ物の変化などについて正確な描写をした。[11]こうしたケースでは少なくとも上記の批判は当てはまらない。

催眠状態がもたらす「記憶の歪み」はしばしば批判の対象となってきた。この現象についてブライアン・ワイスは以下の見解を示している。「ゆがみについては、例えば、ある人を子供時代まで退行させて、幼稚園のことを思い出すよう指示すれば、当時の先生の名前や自分の服装や壁に貼ってあった地図、友達のこと、教室のみどり色の壁紙などを思い出すかもしれない。そして、そのあとでいろいろ調べてみると、幼稚園の壁紙は本当は黄色だったこと、緑色の壁紙は小学校一年生の時のことだとわかった。」「しかし、だからといって、その記憶は間違ったソースから来ている記憶とは言えない。同じように、過去世の記憶は一種の歴史小説といった性格をもっており、お話はファンタジーや創作、ゆがみ等が一杯あるかもしれないが、その核心はしっかりした正確な記憶であり、それらの記憶はみんな役に立つもの」であるとしている[12]

フィクション

  • 滝清流 著、大和真紀 原案 『チャネリング体験記(全3巻)』1992-1993年、朝日ソノラマ:現在の悩みは前世が原因であり、前世をチャネリングで思い出し悩みを解決するという連作。
  • 草凪みずほ 著 『NGライフ(全9巻)』2006年-2009年、白泉社:前世が古代ローマ人だった現代日本の高校生たちの青春物語で、同級生による前世療法の催眠のまねごとで前世の記憶がよみがえるエピソードがある。

脚注

  1. ^ : Past Life Regression
  2. ^ 1988年の日本語訳『前世療法』、1989年 片桐すみ子訳『輪廻転生』人文書院
  3. ^ マイケル・タルボット『投影された宇宙』春秋社
  4. ^ Carol Bowman『'Children's past lives』社
  5. ^ 批判に関しては下記の石川勇一の資料が参照可
  6. ^ http://www.02.246.ne.jp/~kasahara/parapsy/therapycriticism.html
  7. ^ イアン・スティーヴンソン『前世を語る子供たち』
  8. ^ マイケル・タルボット『投影された宇宙』春秋社
  9. ^ ジョン・レナード『世界心霊宝典〈第3巻〉スピリチュアリズムの真髄』国書刊行会
  10. ^ 葦原瑞穂『黎明(上)』太陽出版
  11. ^ マイケル・タルボット『投影された宇宙』春秋社
  12. ^ 「前世療法2」邦訳、山川絋矢、亜希子、PHP出版の69ページを参照

参考文献

  • 『光の剣―遙かなる過去世への旅』クリスチアン・タル シャラー, ハート出版, 2004年, ISBN 978-4892955020
  • 『前世療法―米国精神科医が体験した輪廻転生の神秘』ブライアン・L. ワイス, PHP研究所, 1996年, ISBN 978-4569569321
  • 『前世療法―米国精神科医が挑んだ、時を越えたいやし〈2〉』ブライアン・L. ワイス, PHP研究所, 1997年, ISBN 978-4569570013
  • 『魂の伴侶―ソウルメイト 傷ついた人生をいやす生まれ変わりの旅』ブライアン・L. ワイス, PHP研究所, 1999年 ISBN 978-4569573090
  • Children's Past Lives: How Past Life Memories Affect Your Child, Carol Bowman, Bantam, 1998年, ISBN 978-0553574852
  • 『「魂」の未完のドラマ』ロジャー・J・ウルガー, 中央アート出版社, 2006年 ISBN 4-8136-0371-8

関連項目

外部リンク