ロビー活動

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ロビー活動(ロビーかつどう、lobbying)とは、特定の主張を有する個人または団体が政府政策に影響を及ぼすことを目的として行う私的な政治活動である。議会議員、政府の構成員、公務員などが対象となる。ロビー活動を行う私的人物・集団はロビイスト(lobbyist)と称される。また、政府と民間企業の出入りを繰り返すことを回転ドア(revolving door)と呼ぶ。

概要

多くの企業および企業団体、利益団体あるいは国家や政府は、自身の利益に沿った主張を広めるためにロビイストを雇っている。ロビイストの活動の重点は、政策の提言やリサーチ、アドバイスだけにとどまらず、実際に行動に移し、実現化することにある。ロビイストは、政治家とは異なりら民間の立場からあらゆる利益を代弁することができるため、様々な形で柔軟に活動することができる。シンクタンクは政治課題に関する研究成果をメディアに対し定期的に発表することで、その主張を普及させる。

ロビー活動は政府の政体に関わらず、多くの国において存在している。政治腐敗を防止するため、一定の規制をもうけている国も多い。アメリカ合衆国においては、選挙において選出された公務員以外がロビー活動を行うには1946年に制定された連邦ロビイング統制法に基づき、ロビイストとしての登録をする必要がある。

ロビイストを雇用する団体は、多くの場合政治家への政治献金も同時に行っている。このため、ロビー活動が政治の腐敗と関係づけられることも多い。政治家が国民の主義主張ではなく、特定の後援者の利益に沿った政策を唱えることに批判がなされている。

ロビー活動のシステムの支持者は、「政治家が利益団体や選挙区の利益に沿った政策を唱えるのは理にかなっている。民主主義とはそのようなものである。ロビイストはその手助けをしているにすぎない」と主張している。また「議員や官僚は、当該案件について充分な知識を持っていないことが多い。専門知識を豊富に持つ業界側が、接点となるロビイストを通じて情報提供を行うことは当然であり、国家にとっても必要不可欠である」と主張している。また「議員や官僚は、当該案件の反対派のロビーストからも情報提供を受けるので、裁判所の対審構造と同じように機能している」と主張している。

上にあげたロビー活動の対象者に直接接触せず、世論を変化させることで政策を変更させようとする運動はアウトサイド・ロビー活動(outside lobbying)または草の根ロビー活動(grassroots lobbying)と言われる。一方で、政治家草の根運動を装う自作自演行為は、アストロターフィング(人工芝運動)と称される。ただし、アストロターフ・ロビイング(人工芝ロビー活動)は、有権者が政治家に対して手紙やメールなどを大量に送りつけることを意味する。

各国の事例

日本

日本において、ロビー活動は利権団体と政治家との癒着・買収の一形態というイメージが強く、快く見られないことから、表立って行われることはない。このため他国と比べてどの程度影響力があるか定かでない。日本ではこれまでロビー活動に対する認知はきわめて低くかったが、2007年の参議院議員選挙の結果生じた与野党のねじれ現象を契機に、ロビー活動に対する関心が次第に高まるにつれ、GR Japan[1]、APCO[2]、Weber Shandwick[3]、Burson-Marstellar[4]、永田町フォーラム、ユーロリンク・ジャパン、アジア・ストラテジー、新日本パブリック・アフェアーズ、VOX Globalなどのロビー活動を専門としている会社が現れる。断片的には、2008年の韓国通貨危機の際に、李明博韓国大統領から直接指示を受け権哲賢元駐日大使が、日本の政治家や政府高官などにロビー活動を展開し、スワップ協定韓国に有利な形で締結させることに成功した旨が報道されたことがある[5]。なお、天下り先の利益代表として出身官公庁に出入りし、影響力を発揮する官公庁OBこそが、従来よりある日本式のロビイストだと指摘する向きもある。[要出典]

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国のロビイストはアメリカ合衆国上院下院、行政府を対象として行動し、政府、州政府、地方政府、裁判所に影響を与えることを目的としている。ロビイストの中には法案の起草を行う者も存在する。およそ3万人のロビイストが存在すると言われ、法律でロビイストとしての登録を行うことが義務付けられている。

オックスフォード英語辞典では、ロビー(lobby)およびロビイスト(lobbyist)という単語の用法としてアメリカ合衆国が建国された時代における政治家の政治的影響力をあげている。ロビー活動は1869年から1877年の期間に政府を率いたユリシーズ・S・グラント大統領の時代に本格化した。ヘビースモーカーであったがホワイトハウスでの喫煙を妻に禁止されていたグラントは、付近に存在するウィラード・ホテルロビー葉巻を楽しんでいた。彼がしばしばこの場所に出没することを知った関係者は、ニコチンの助けを借りて上機嫌な大統領への陳情をこのロビーで行うようになった。ロビー活動の語源はこれにあるとされる。

2005年7月に市民団体パブリック・シチズンは『議会からK街への旅路』("The Journey from Congress to K Street")と題するレポートを発表した(K街はワシントンD.C. にある、シンクタンクやロビイストのオフィスが集まる通り)。ロビー活動公開法、外国代理人登録法の規制の下で提出されたロビイスト登録文書を分析したこの報告書は、1998年以後に退職した議員198名のうち 43% がロビイストに登録していることを明らかにした。ワシントン・ポスト紙はこのレポートに関して、ロビー活動に対する議員たちの態度が変化している事実を反映していると述べている。同紙によると、議員がロビイストになることは多くの議員自身にとって20年前には考えられなかったことであり、またそうした情勢の中でもロビイストに転化した元議員は怠惰であることが多く敬遠されていたと述べている。

レポートではロビイストの代表例として、1999年に下院議長の有力候補となりながら、セックス・スキャンダルに見舞われ議員を辞任したボブ・リヴィングストンをあげている。辞任後に彼が設立したロビー会社は創業から6年間で年間4000万ドルもの売り上げを上げる企業に成長した。彼が妻とともに政治活動委員会(PAC; Political Action Committee)を通じて行った献金は50万ドルにも上るとされる。

2005年には共和党系のロビイストであるジャック・エイブラモフを巡るスキャンダルが発生し、ジョージ・W・ブッシュ大統領の弾劾まで口にされるほどの騒ぎに発展している。エイブラモフはネイティブ・アメリカン補助金横領アフリカの複数の国家元首とブッシュ大統領の会談をセットした謝礼として、数百万ドルを要求したことなど複数の疑惑が取りざたされている。

議員とロビイストの関係に批判があつまる事態を受けて民主党ラス・ファインゴールド議員は上院、下院のフロア、ジムなどへの立ち入りを認めていた前議員の特権を廃止することを提案している。

イスラエル・ロビー

イスラエルは、政界・財界を始めとしたアメリカ合衆国社会にユダヤ系アメリカ人が多い事もあって、イスラエル・ロビーがアメリカ合衆国の政策決定に多大な影響力を有する。特に、国際連合安全保障理事会におけるイスラエルに不利な決議案を、アメリカ合衆国が拒否権を発動させ葬る例が多い。

なお、“ユダヤ・ロビー”では陰謀論になってしまうので注意を要する。

欧州連合

1999年の時点で欧州委員会は次のような数字をあげている。

  • 約3000の利益団体がブリュッセルに存在し、そこで雇用されている人数は10,000名ほどになる。それに対しアメリカ合衆国においては2005年時点で議会へのロビー活動に限ると 35000 名のロビイストが登録されている。
  • 50の団体は国または地域を代表したロビー活動を行っている。

参考文献

  • ジョン・J・ミアシャイマー、スティーヴン・M・ウォルト『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策1』、副島隆彦訳、講談社、2007年9月、ISBN 978-4062140096
  • ジョン・J・ミアシャイマー、スティーヴン・M・ウォルト『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策2』、副島隆彦訳、講談社、2007年10月、ISBN 978-4062142588
  • マリオン・ネスル 『フード・ポリティクス-肥満社会と食品産業』 三宅真季子・鈴木眞理子訳、新曜社、2005年。ISBN 978-4788509313
  • クレメンス・ヨース、フランツ・ヴァルデンベルガー『EUにおけるロビー活動』 平島健司監訳、日本経済評論社、2005年5月。ISBN 978-4818817463

ロビー活動・ロビイストを扱った作品

映画


書籍

  • 『ロビイストからの警告―アメリカの野望の中の日本』(岸田治子著、2008年4月集英社刊)

ドラマ

脚注

関連項目

外部リンク

一般
アメリカ合衆国のロビー活動
ヨーロッパのロビー活動
カナダのロビー活動
イギリスのロビー活動
日本のロビー活動