ベンゾピレン

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ベンゾピレン
ベンゾピレンの球棒モデル
識別情報
CAS登録番号 50-32-8
KEGG C07535
特性
化学式 C20H12
モル質量 252.3
外観 黄色の結晶性固体
密度 1.4
相対蒸気密度 8.7
融点

179

沸点

310~312 (1.3kPa)

出典
国際化学物質安全性カード
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ベンゾピレン(benzopyrene)とは、化学式C20H12で表される、5つのベンゼン環が結合した分子。300℃から600℃の間で不完全燃焼する。コールタールや自動車の排気ガス(特にディーゼルエンジン)、タバコの煙、焦げた食べ物の一部などに含まれる。

発がん機構

ベンゾピレンジオールエポキシドは3つの酵素反応を経て発癌性を誘発させる物質となる。ベンゾピレンはまずシトクロムP4501A1により(+)-ベンゾ[a]ピレン-7,8-オキシド及び他の生成物となる。これがエポキシド加水分解酵素による代謝により(-)-ベンゾ[a]ピレン-7,8-ジヒドロジオールとなる。これがシトクロムP4501A1と反応しベンゾピレンジオールエポキシド((+)-7R,8S-ジヒドロキシ-9S,10R-エポキシ-7,8,9,10-テトラヒドロベンゾ[a]ピレン)を生成させるが、これが発癌性物質となる。

エポキシ酸素の電子を偏った状態で保持しているエポキシドの2つの炭素は求電子的である。このためこの分子がDNAにインターカレートし、求核性のグアニン塩基のN2位と共有結合を形成する。X線結晶構造解析により、結合形成がDNAを変形させていることが示されている。これが通常のDNA複製過程においてエラーを引き起こし、がんの原因となる。この機構はグアニンのN7位に結合するアフラトキシンのものと似ている。

研究

構造式 ベンゾピレンジオールエポキシド

動物実験では強い発癌性を持ち、体内で酸化されると近くのDNAを傷つけ、DNAを破壊された細胞はガン細胞へと変化するが、ヒトでは明らかではない。IARCの発がん性評価では、グループ1の「人に対して発がん性がある The agent(mixture) is carcinogenic to humans. 」に分類されている。1930年コールタールから主要発癌性物質として単離され、1977年に発がん機構が解明された。

ベンゾピレンと悪性腫瘍の関係について、長年様々なことが研究されてきた。がんの発生がベンゾピレンに由来するものだと証明するのは非常に難しい。カンザス州立大学の研究者がラットにおけるビタミンA肺気腫との関連性をみた。ビタミンAの欠乏食を与えたラットは肺気腫にかかり、ベンゾピレンがビタミンAを欠乏させることが、ラットを用いた実験で判明した。この事からベンゾピレンと肺気腫との関連性がある。と言う論文が提出された。

1996年10月18日、ベンゾピレンを含んでいる、タバコ及びマリファナの煙を吸うことが肺癌の原因となる可能性がある、という主旨の論文が公開された。喫煙によりベンゾピレンは肺の細胞に対して遺伝子に対する損傷を与える。そして悪性の肺腫瘍にかかっている肺の細胞内のDNAに対しても同様の損傷が観察できる。論文において大麻の方がタバコよりもベンゾピレンを含む可能性がある、と指摘している。

2001年、アメリカ国立癌研究所は十分に焼いたバーベキュー、特にステーキ、鶏肉の皮、そしてハンバーガー等の食べ物にも一定量のベンゾピレンが含まれているという報告を出した。日本の研究者は、焼いた牛肉に変異原が含まれており、DNAの化学構造を変化させる可能性があるとの報告を出した。

その他

  • 東京都江東区豊洲において、土壌地下水汚染調査の分析対象にベンゾピレンが加えられた[要出典]
  • 日本国におけるベンゾ[a]ピレンの環境調査(平成14年度)[1]によると、水質調査では38か所中7か所(0.00063~0.0021μg/L)、底質からは62か所中57か所(0.00034~1.2μg/g-dry)検出された。水生生物(魚類)は10か所のいずれでも検出されなかった。平成元年の大気試料39検体中31検体(0.31~6.37ng/m3)から検出された。
  • 日本国におけるベンゾ[e]ピレンの環境調査(平成14年度)[1]によると底質からは13か所中すべてで(0.0041~0.35μg/g-dry)検出された。同じ調査場所(13か所)の水質調査および水生生物(魚類)からはいずれも検出されなかった。平成元年の大気試料39検体中29検体(0.30~5.43ng/m3)、平成11年の大気試料32検体中30検体(0.074~3.7ng/m3)から検出された。

出典

  1. ^ a b 環境調査実施化学物質一覧等 (昭和49年度~平成16年度)」、『化学物質環境実態調査-化学物質と環境(平成17年度版)』、環境省

参考文献

関連項目