トキポナ

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トキポナ
toki pona
トキポナのロゴタイプ。sitelen ponaのtokiとponaから構成されている。
トキポナのロゴタイプ。sitelen ponaのtokiとponaから構成されている。
トキポナのロゴタイプ。sitelen ponaのtokiとponaから構成されている。
発音 IPA: [ˈtoki ˈpona]
創案者 ソニャ・ラング
創案時期 2001年8月8日
設定と使用 最小の努力で最大の意味を表現する
話者数 500 ~ 5000
目的による分類
人工言語
  • トキポナ
表記体系 ラテン文字、sitelen pona、sitelen sitelen
参考言語による分類 英語、トク・ピシン、フィンランド語、グルジア語、オランダ語、アカディア・フランス語、エスペラント、セルボ・クロアチア語、中国語
言語コード
ISO 639-3 tok
Glottolog toki1239[1]
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トキポナ(toki ponaLL-Q36846-Lepticed7-toki pona.wav 発音[ヘルプ/ファイル])は、人工言語の一つである。カナダの言語学者・翻訳家ソニャ・ラング (Sonja Lang[注釈 1]) によって作られ、2001年8月8日インターネット上で草稿が発表され[2][3]、完全な形としては2014年に『Toki Pona: The Language of Good』という書籍にまとめ上げられた[4]。また、2021年にはトキポナ辞典が発刊された。

トキポナは、道教の思想から構想され最小の努力で最大の意味を表現することを目指している。14の音素と120の単語[注釈 2]が定義された。国際補助語として使われることを目的としてつくられてはいない。

トキポナは、人間の思考過程をそのまま表現することを目指している。サピア・ウォーフの仮説に基づく考え方であり、これはジョージ・オーウェルが小説『1984年』に登場させた言語ニュースピークと同種の思想による人工言語である。

名称[編集]

tokiは「言語」という意味であり、トク・ピシンtok[注釈 3]に由来している。toki自体で言語という意味を表すので、トキポナ語 (toki pona language) のような言い方は重言である。ponaは良い/単純などの意味であり、エスペラントbona[注釈 4]に由来する。このことから、toki ponaは「良い言語」とか「単純な言語」という意味になる。

文字[編集]

sitelen pona
sitelen sitelen
リガチャを含めたsitelen ponaの表

文字はラテン文字(ローマ字)を用いる。ただし、a, e, i, o, u, p, t, k, s, m, n, l, w, j の14文字のみである。文頭であっても小文字で表記するが、人名や国名などの固有名詞の大文字で表記する。また、Sonja Langの著書『Toki Pona: The Language of Good』では、sitelen ponasitelen sitelenと呼ばれる文字が紹介されている[5]。sitelen ponaは、良い絵という意味であり、象形文字のような文字である。トキポナのロゴマークもsitelen ponaのtokiとponaを組み合わせたものである。また、2021年8月に、sitelen ponaをConScript Unicode Registry英語版に含め、U+F1900...U+F1AFFの場所に割り当てることが提案された。sitelen sitelenはsitelen suwiという別名があり、Jonathan Gabelによって考案された[6]

音韻[編集]

トキポナの発音日本語のそれに似ている。ただし、弁別される有声音二重子音長母音口蓋化連続子音はない。

母音a, e, i, o, u の5つで、それぞれ日本語のア、エ、イ、オ、ウとほぼ同じである。

子音p, t, k, s, m, n, l, w, j の9つがある。有声音と無声音の区別はない。例えば pu はプともブとも読める。j硬口蓋接近音を表す(英語でのyにあたる)。つまり ja はヤと発音する。

また、閉音節はn で終わる場合、つまり日本語のンと同じ場合のもののみ存在する。表にすると以下のようになる。

音節表
a e i o u
ka ke ki ko ku
sa se si so su
ta te to tu ti は si を用いる
na ne ni no nu
pa pe pi po pu
ma me mi mo mu
ja je jo ju ji は i を用いる
la le li lo lu
wa we wi wo と wu はそれぞれ o と u を用いる
n
子音
唇音 舌頂音 舌背音
鼻音 m n
破裂音 p t k
摩擦音 s
接近音 w l j
母音
前舌母音 後舌母音
狭母音 i u
中央母音 e o
広母音 a

一般的に、アクセント単語の先頭の音節に置かれる。

音素の分布[編集]

統計的な母音の分布は、他の言語と比較するとかなり典型的である。単語を1回ずつ数えると、母音の32%が/a/、25%が/i/、15%強が/e/と/o/、10%が/u/である。10kBのテクストでの使用頻度はわずかに偏っており、/a/が34%、/i/が30%、/e/と/o/がそれぞれ15%、/u/が6%であった。 音節頭の子音のうち、/l/が最も一般的で、合計20%を占める。/k、s、p/が10%を超え、鼻音/m、n/(音節末のnは含まず)が続き、/t、w、j/が最も少なくそれぞれ5%強であった。/l/の頻度が高く、/t/の頻度が低いのは、世界の言語の中でもやや珍しい特徴である。[独自研究?]

文法[編集]

品詞[編集]

文脈によって単語の品詞が決定されるものが多く、あいまいさが大きい。

名詞[編集]

地名や言語名は修飾語と固有名詞の組み合わせで表現される。例えば日本は Nijon と表記されるが、日本国は ma Nijon、日本語は toki Nijon、日本人は jan Nijon(トキポナ話者の間では jan pi ma Nijon と表現するのが一般的である)sitelen ponaで表記する際は、各音素を一音素ずつその音素から始まる単語に置き換えて全体を囲むことで表現する。

形容詞[編集]

トキポナの名詞句は先頭に来る。すなわち、修飾される語は修飾語の前に現れ、後置修飾の形になる。

トキポナにおける修飾の順序はロジバンと正反対である。トキポナにおいて "N A1 A2"(Nは名詞、A1,A2は修飾語)は ((N A1) A2) と解析される。すなわち、英語であれば "A1 N that is A2" のようになる。この順番は、英語の "of" に当たる pi で変えることができる。すなわちN pi A1 A2は、(N (A1 A2))と解釈される。sitelen ponaで表記する際はpiの下部が修飾語全体にかかるように延長して表現されることがある。

前置詞 [編集]

前置詞は(動詞を含む文の場合)動詞の後に置かれる。

動詞[編集]

主語 述語 目的語 (SVO) の順である。主語のあとにはliを挿入し、目的語の前にはeを挿入する。コピュラ(英語の be 動詞や日本語の「です」)にあたる単語は存在しない。この場合動詞は省略されるが、主語と目的語を分離するために li という単語を挿入する。ただし主語が一人称 mi または二人称 sina である場合は li を用いない。

いくつかの動詞(例えば tawa(行く))は前置詞として扱われ、直接目的語の前に e をとらない。

否定文では動詞の後にalaを置く。諾否疑問文は動詞 ala 動詞として表現する。疑問詞疑問文は尋ねたい箇所をsemeで置き換える。命令文はliをoにする。

定型文では主語が省略されることがある。(例:kama pona!「ようこそ」)

助動詞[編集]

ムードを表し、述語の前に付いて新しい述語を作る。

接続詞[編集]

文の構成要素同士を繋ぐ。

語彙[編集]

単語の由来の言語毎の割合

118の単語は、複雑な現代文明の登場する以前の単純な生活の原理に基づいて設計されている。単語は、英語トク・ピシンフィンランド語グルジア語オランダ語、アカディア(ノバスコシア)のフランス語エスペラントクロアチア語中国語北京語広東語)などから取られている。日本語からも、擬態語「モグモグ」が、食べる・食事などを意味する moku語源として採用されている。

潜在的な混乱の元となる最小対立(ミニマル・ペア)を回避するために、いくつかの単語は変更されている。例えば、"he, she, it" を意味する単語はかつては iki であったが、「悪い」を意味する ike に発音がよく似ていることから ona に変更された。

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トキポナにおける色

公式に定義されている色は、白 walo、黒 pimeja と色の三原色である、赤 loje、黄色 jelo、青 laso のみである。

それ以外の色は、これらの単語を重ねることによって表す(紫 loje laso 灰色 walo pimeja 等)

いくつかの自然言語のように、トキポナには、青および黄色とは異なる色としてのを表す言葉がない。青 laso は青緑の意味を、黄色 jelo は黄緑の意味を含んでいるが、それらと明確に区別する必要がある場合は、jelo laso と表現される。

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トキポナにおいて数を表す単語は wan(1), tu(2), luka(5、「手」の意味でもある)およびmute(たくさん)しかない。これらを組み合わせて数を表現する。例えば13は muteluka luka tu wan(5と5と2と1)となる。話者によってはale(本来の意味は「全て」)を100とすることもある。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 作成当時はSonja Elen Kisaとして知られた
  2. ^ 前述の『Toki Pona: The Language of Good』では120 語だが、トキポナ辞典では37 の「必須」単語と、あまり使用されない単語が定義されている。他にもトキポナ辞典に載っていないが、トキポナ話者の間で使用される単語を含めると200以上の単語が存在する。
  3. ^ この単語自体も英語talkに由来する
  4. ^ この単語自体もラテン語bonusに由来する

出典[編集]

  1. ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Glottologにおける参照名”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/toki1239 
  2. ^ Morin, Roc (2015年7月15日). “How to Say (Almost) Everything in a Hundred-Word Language”. The Atlantic. オリジナルの2022年7月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220712222757/https://www.theatlantic.com/technology/archive/2015/07/toki-pona-smallest-language/398363/ 2019年8月1日閲覧。 
  3. ^ Blahuš, Marek (November 2011). Fiedler, Sabine. ed. “Toki Pona: eine minimalistische Plansprache [Toki Pona: A Minimalistic Planned Language]” (ドイツ語). Interlinguistische Informationen (Berlin) 18: 51–55. ISSN 1432-3567. オリジナルの2021-06-27時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210627181940/http://www.interlinguistik-gil.de/wb/media/beihefte/18/beiheft18.pdf#page=51 2019年1月8日閲覧。. 
  4. ^ Thomas, Simon (2018年3月27日). “Exploring Toki Pona: do we need more than 120 words?”. Oxford Dictionaries. 2019年5月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年2月3日閲覧。
  5. ^ Lang, Sonja (2014). Toki Pona: The Language of Good. Tawhid. ISBN 978-0978292300. OCLC 921253340 
  6. ^ Gabel, Jonathan (2019年10月20日). “Lesson 1: Welcome”. Jonathan Gabel. 2019年10月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年10月20日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]