ジエチル亜鉛

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ジエチル亜鉛
Diethylzinc
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識別情報
CAS登録番号 557-20-0 チェック
特性
化学式 (C2H5)2Zn
モル質量 123.50 g/mol
外観 無色の液体
密度 1.205 g/mL
融点

-28℃

沸点

117℃

への溶解度 激しく反応する
溶解度 芳香族炭化水素脂肪族飽和炭化水素に任意の割合で溶解。
危険性
主な危険性 可燃性 (F); 腐食性 (C); 環境に対する危険性 (N)
発火点 常温で自然発火
関連する物質
関連物質 ジメチル亜鉛
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ジエチル亜鉛(ジエチルあえん、: diethylzinc)は化学式(C2H5)2Znで表される有機亜鉛化合物亜鉛エチル基が2つ付いた構造で、自然発火性がある。

合成

1848年に、イギリスの科学者エドワード・フランクランドが世界初の有機亜鉛化合物として、亜鉛とヨウ化エチルからの合成に成功した[1]。その後彼はジエチル水銀を出発点とした合成法に改良した[2]。現代では、ヨウ化エチルと臭化エチルを1:1で混合したものと亜鉛-銅カップル (Zinc-copper coupleの反応により製造される[3]

反応

ジエチル亜鉛は有機合成化学において、カルボニル基付加反応の際のC2H5シントンとして用いられる。グリニャール試薬が発見されるまでは求核剤として使用された。ベンズアルデヒド[4]イミン[5]を非対称に加え、ジヨードメタンを使うとシモンズ・スミス試薬を生成する[6][7]

用途

空気に触れると自然発火することから、ロケットの燃料点火剤として使用され、点火プラグを不要とした。アメリカ議会図書館では、を真空中でジエチル亜鉛蒸気に曝すことにより酸性紙の劣化防止の試みがなされたが、安全性や、本に不快臭が残るなどの理由により実用化には至らなかった[8]

安全性

との接触により爆発的に反応し、メタン等の可燃性炭化水素金属の水素化物を生じることから日本の消防法では危険物第3類に分類される。空気に触れると自然発火するが不活性気体中では安定しており、市販のものはヘキサンヘプタントルエンなどの溶液で販売されている。衝撃に対しても安定している[9]

脚注

  1. ^ E. Frankland (1850). “On the isolation of the organic radicals”. Quarterly Journal of the Chemical Society 2: 263. doi:10.1039/QJ8500200263. 
  2. ^ E. Frankland, B. F. Duppa (1864). “On a new reaction for the production of the zinc-compounds of the alkyl-radical”. Journal of the Chemical Society 17: 29–36. doi:10.1039/JS8641700029. 
  3. ^ C. R. Noller (1943). "Diethyl Zinc". Organic Syntheses (英語).; Collective Volume, vol. 2, p. 184
  4. ^ Masato Kitamura, Hiromasa Oka, Seiji Suga, and Ryoji Noyori (2004). "Catalytic Enantioselective Addition of Dialkylzincs to Aldehydes Using (2S)-(−)-3-exo-(Dimethylamino)isoborneol [(2S)-DAIB]: (S)-1-Phenyl-1-propanol". Organic Syntheses (英語).; Collective Volume, vol. 10, p. 635
  5. ^ Jean-Nicolas Desrosiers, Alexandre Côté, Alessandro A. Boezio, and André B. Charette (2005). "Preparation of Enantiomerically Enriched (1S)-1-Phenylpropan-1-amine Hydrochloride by a Catalytic Addition of Diorganozinc Reagents to Imines". Organic Syntheses (英語). 83: 5.
  6. ^ André B. Charette and Hélène Lebel (2004). "(2S,3S)-(+)-(3-Phenylcyclopropyl)methanol". Organic Syntheses (英語).; Collective Volume, vol. 10, p. 613
  7. ^ Yoshihiko Ito, Shotaro Fujii, Masashi Nakatuska, Fumio Kawamoto, and Takeo Saegusa (1988). "One-Carbon Ring Expansion of Cycloalkanones to Conjugated Cycloalkenones: 2-Cyclohepten-1-one". Organic Syntheses (英語).; Collective Volume, vol. 6, p. 327
  8. ^ Nicholson Baker (2002). Double Fold: Libraries and the Assault on Paper. Vintage. ISBN 0375726217 
  9. ^ 製品安全データシート (PDF)宇部興産