シャープペンシル

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シャープペンシル
分解したところ
シャープペンシルの構造
様々なシャープペンシルの先端
シャープペンシルの芯
ファイル:Bestand:Vulpotlood-01.jpg

シャープペンシル: mechanical pencil)は黒鉛の芯を随時補充可能な機械式筆記具鉛筆の代替品として広く用いられる。

鉛筆と異なり、本体の握り部分と芯が分離され、芯の出し入れ・補充が可能となっている。また、鉛筆では書き続けると芯の先端が丸く(太く)なって細かい筆記操作がしづらくなってくるが、シャープペンシルの芯は書き続けても芯の太さは変わらない。そのために、鉛筆削りを使用して芯を削る必要がない。

名前は、現在のシャープの社名の語源にもなっている(詳細は後述)[1]。口語では「シャーペン」という呼称が広く定着しており、一部に「シャープペン」、「シャープ」と呼ばれることもある。なお、英語圏では一般に アメリカ英語: mechanical pencil(メカニカルペンシル)またはイギリス英語: propelling pencil(プロペリンペンシル )と言い、また「黒鉛の芯を使う筆記具の総称」とし一括りに英語: pencil(ペンシル)と言うこともある。

歴史

最古のシャープペンシルの一つは、1791年に沈没したHMSパンドラから見つかっている[2]。実際の発明はこれより前に遡ると考えられている。

初めて特許出願されたシャープペンシルは、1822年イギリスSampson Mordanが発明したものである。1837年または1838年Eversharp Pencil名でアメリカ合衆国で商標申請が出されている[3]。日本にも伝来し、「繰出鉛筆」と呼ばれた。

ユダヤ系クロアチア人Slavoljub Eduard Penkalaは、1906年にオートマチックペンシルと呼ばれるシャープペンシルを発明し[4]1907年には世界初の固体インクの万年筆を発明した[5]ことにより、シャープペンシルの父の一人と考えられている。

1915年、早川金属工業(現在のシャープ)の創業者である早川徳次は、本業の傍ら金属製繰出鉛筆を発明、「早川式繰出鉛筆」として特許を取得した。これ以前の繰出鉛筆はセルロイド製であり、非常に壊れやすく実用的ではなかったが、この発明により実用に耐えるものになった。初期のものは芯が太かったが、翌年1916年に芯をさらに細いものに改良し、「エバー・レディ・シャープ・ペンシル」と改名した。この当時はノック式のものはまだ発明されておらず、本体の末端にあるパーツを回転させることで芯を送り出すものだった。なお、この製品は天理市のシャープ総合開発センター歴史ホールに保管されていて、プラチナ萬年筆によって限定復刻された。シャープの社名は金属製繰出鉛筆の発明が由来であり、その製品名から社名が付けられた。なお、シャープは1923年関東大震災で工場を焼失し、家電メーカーとして再生したため現在は筆記用具を製造販売していない[6]。特許も震災による借金返済のために売却された[7]。 なお、シャープペンシルという呼称は、福井商店の福井庄次郎氏が輸入時に名付けたもので、早川徳次とは知り合いであった事から自分の会社の商品にも付けた事に由来する。

1960年、大日本文具(現在のぺんてる)がハイポリマー芯を開発。これにより、現在使われている0.5mm芯が完成。これを中核とした芯のバリエーションも増える。これ以降折れやすいというシャープペンの芯のイメージは徐々に払拭され実用的な筆記具として市井に受け入れられていくことになる。この頃各社がノック式の機構を開発したことから一気に広まり、1980年ゼブラが1本100円の製品を発売[8]するなど低価格化も進んだ。

この一方、万年筆を製造しているメーカーの多くは万年筆とセットで同じデザインでボールペン、シャープペンシルを販売しており、低価格と高級品との二極化も進んでいる事実もある。機構やインクの改良により滑らかさが極限まで突き詰められた水性・油性ボールペンと異なり、ある程度の筆圧を掛ける必要のあるシャープペンの場合、重量のある高級品を好むユーザーも多い。

構造

先端部

一般的なシャープペンシルには最上部に替え芯補充口の蓋を兼ねた押す部分(ノックボタン)があり、これを押すことにより、下側先端より芯が1mm弱程度繰り出される。この蓋を取ると、消しゴム、さらに芯を入れるパイプがあることが分かる。この消しゴムは芯を入れるパイプの栓の役目も兼ねている。ただし現在では、持った時に人差し指に当たる部分にボタンがついている、サイドノック式と呼ばれる物や、振ることで芯が出せるタイプ(詳細は後述)などもある。過去には三菱鉛筆の製図用シャープペンシルのハイエンド機種、Hi-Uniシリーズ(現在は廃番)の上位モデルが、FF-maticと呼ばれるグリップの下の指先に当たる部分でノックできる方式を採用していたが構造上故障が多く、現在この機構を搭載したシャープペンシルは生産されていない。

下側には芯を一定量出す為のチャックリングと芯を固定する為の金属、若しくは樹脂で構成されたチャックがある。口金内部にはチャック開放時に芯を止めるためのパッキン(かつて「芯ホルダ」と呼ばれていた部品)が付いているものが多い。

現在主流となっているノック式の発明以前は、芯を固定する内側のパイプに螺旋状の溝を彫り、ねじの回転により芯を繰り出す回転式の機構を用いていたため、芯の太さを0.9mmよりも細くすることが困難だった。

機構の信頼性からモンブランのマイスターシュテュックのように回転式の繰り出し機構を採用し続けているメーカーもある。この機構の場合、部品の一部を交換すれば同じペンで太さの異なる芯を使用することが可能である。

芯は鉛筆と同じように硬さの種類を表す記号がJIS(日本工業規格)で定められており、6B、5B、4B、3B、2B、B、HB、F、H、2H、3H、4H、5H、6H、7H、8H、9Hに準拠するものでがあるが、メーカーによってはHBのラインナップを拡充し、Bに近いソフトHB、Fに近いハードHBといった硬さの商品を発売している。 これにさらに芯の直径を選ぶことができる。直径はそのシャープペンシル本体に合ったものを使用しなければならない。芯の直径は0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.7mm、0.9mm等があるが、日本では0.5mmのものが最も多く使われており、芯の種類が最も多い。製図の場合、0.3mmと0.5mmの他に0.7mm、0.9mmなども使用することがある(なお日本国外では 0.3mm、0.9mm をそれぞれ実際の直径により近い 0.35mm、1.0mm で表記するメーカーも多い)。材料を成型して焼く焼成芯と、材料を油成分などで固める非焼成芯がある。 ぺんてるによる0.5mm芯発明以前には1.18mm芯が一般的だったが、現在国内では生産しているメーカーは無い。 一般に字画の多い漢字を使う日本中国韓国では0.5mm以下の細い芯が好まれ、アルファベットアラビア文字圏では0.7mmが主力となっている。

また、最も濃い芯が6Bであるため、鉛筆より若干バリエーションが少ない。

粘土芯

粘土芯は焼成芯の一種で、鉛筆に使われている芯として有名。顔料の黒鉛に結合剤の粘土、水を混合してよく練り約1000℃程で焼いた後油に浸して作る。硬度は、粘土と黒鉛の割合を変えることにより調整する。柔らかくて折れやすいため直径1mm長さ30mm程度のものまでしか実用化されず、現在ではより細くて折れにくいポリマー芯が主に使われている。

ポリマー芯

ポリマー芯(ハイポリマー芯)は焼成芯の一種で、結合剤として粘土の替わりにプラスチックのような高分子有機化合物(ポリマー)を使用し、黒鉛とよく練り合わせて約1000℃程で焼き、油に浸して作った芯。焼成中に有機物の結合剤が分解して炭化するため、焼き上がった芯全体が炭素の塊となる。なめらかで強度が高く色が濃いという理想的な特徴を持つ。この強度の向上により細い芯を作ることが出来るようになり、現在最も細いもので0.2mmのものまで実用化されている。

色芯

色鉛筆のように、色の着いた芯も存在する。顔料をワックスなどの油成分で固めた非焼成芯と、鉱物を焼き固めて作った白い芯にインクを染み込ませて作る焼成芯の2種類がある。後者は日本のパイロットによって発明された。

製図用シャープペンシル

シャープペンシル
製図用シャープペンシル

製図用シャープペンシルとは、線を主に引く製図の技能作業に特化したシャープペンシルである。製図は細かな作図作業が多いため、軸が強い物や壊れにくい物が多く、品質も良い。JISでも、ISOでも、一般用とは別に製図用が規格として定められている。スリーブ(ペンの先端部の金属)が長いのが特長。これにより並行定規などに当てやすいため、快適に正確な線を書くことができる。主に太い線は0.7mm、細い線は0.3mm、寸法線などの文字を書く時は0.5mmが使われる。この他、鉛筆の芯と同じ太さ2.0mmの芯を使う物もある。これは主に芯ホルダーと呼ばれこの場合、鉛筆で描くときと同様、先端を芯ホルダー用の削り機で削る。初めて開発したのはドイツロットリング社で、その後各メーカーが製造に乗り出す。近年では実際の製図はCADを用いて行うことが多いため、実際に製図で使用されることは少なく、学生(特に理系の)や文房具好きな人が書きやすいシャープペンシルとして使用することが多い。そのため、メーカーも過去に販売していた1000円以上するものを減らし、300~1000円の比較的購入しやすい価格帯の商品を増やしている。

マルチ機能ペンシル

多機能ペン、マルチペンとも呼ばれる。国内に於ける先駆けは1977年に発売された「シャーボ」であり、「右へ回すとシャープペンシル、左へ回すとボールペン。1本で2本分」のキャッチコピーで話題となった。その後有用性が認められ、各社から次々と多機能ペンが登場するきっかけとなった。仕組みとしてはツイスト式、レバー式、振り子式があり、低価格帯製品では製造コストが低く操作も簡単なレバー式、高級モデルでは振り子式やツイスト式が主流となっている。

振り子式シャープペンシル

振るだけで芯が出てくる機能のついたシャープペンシル。PILOTドクターグリップや、2020(フレフレ)シリーズ、ゼブラのフリシャオートマチック、三菱鉛筆ユニ アルファゲル シャカシャカなどがある。内部に重量のある金属パイプが仕込まれており、ペンを振ることによってこれを上下させ金属パイプの反動で繰り出し機構を作動させる。金属パイプの分、そうでない種類より重く握りが太目のものが多い。芯を出すのに持ち替える必要がない為、安定したリズムでの筆記が可能。一般のものと比較して価格に大差がないため日本国内では広く普及している。内部の錘は、金属の板を巻いた形状の物や、針金をコイルスプリング状に巻いたものなどが多い。元々は比較的高価であったが、最近は普及したことにより100円ショップなどでも売られている。

残芯が少ないシャープペンシル

環境に配慮し、残芯を少なくしたシャープペンシル。昭和50年代に発売されたPILOTのトップチャックはこの機構であったが、日の目を見ることは少なかったようである。その後継モデルであるクラッチポイントも同様であった。1990年代後半にプラチナのゼロシンがヒットし、その後各社から同じ機構を持つ製品が発売された。当初は1ミリまで使いきれる製品が多かったが、現在はコストダウンなどにより3.5mm程度までに抑えた製品が多い。ただし、残芯3.5mmの製品は100円で購入可能である。

人間工学に基づいたシャープペンシル

人間工学に基づき開発されたシャープペンシル。太軸にして持ちやすくしたり、重心バランスを最適化したりグリップを柔らかくしたりして疲れにくいように設計されている。PILOTの「ドクターグリップ」やユニ「ユニ アルファゲル」、ゼブラ「ニュースパイラルシリーズ」やぺんてる「エルゴノミックス」などがある。関節症等を患っている人を始め汎用的な筆記用具として中高生に好まれる傾向がある。

書きながら芯が出るシャープペンシル

ゼブラの「フリシャオートマチック」がそのひとつ。書きながら芯が出るためノンストップで筆記ができ、使うときにもノックする必要がないため一部の人に人気がある。 ドイツのファーバーカステルが発売したアルファマチックによって実現した構造で、その後、パイロットのオートマチックペンシルなどさまざまなモデルが発売されていた。

芯が回転するシャープペンシル

三菱鉛筆の「クルトガ」が該当。仕組みとしては、芯が紙に当たる度にシャープメカについたギアが回転し、芯を均等に減らす仕組み。偏減りなどを無くす事が目的で、開発した三菱鉛筆は「学生をターゲットとした」と語っている。

木製のボディを採用したシャープペンシル

ある程度の重量があり手に馴染み易い木製のボディを採用するシャープペンシルを販売しているメーカがある。木はプラスチックに比べ加工に多少手間がかかるため、一部を除き中級~高級ラインにしか採用されない。三菱鉛筆のピュアモルトシリーズ、カランダッシュのメットウッド、パイロットコーポレーションのカスタムカエデなど。

学校での利用

シャープペンシルは1970年代後半から[要出典]学校でも使用されるようになった。「高価だから」[9]「芯が飛ぶと危険」[9]などといった理由から、小学校では禁止されることがある。禁止の理由として、上越教育大学書写書道研究室の押木秀樹准教授の説によると、先端の形状が変化する筆記用具では、筆記用具の軸を微妙に回転させる動作が必要で、そのことにより正しく字を書くことが出来るという。そして、鉛筆を用いた方が、回転運動により筆記面を作るという意識ができやすいという[9]

脚注

関連項目