ゴーストライター

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ゴーストライターとは、書籍や記事、脚本などの代作生業とする著作家のことである(以下、ゴーストと表記)。

概要

出版業界

本人が話したことを一言一句そのまま書かせる「口述筆記」から、本人の書いた文章を読みやすく加除訂正する「編集・リライト」もあれば、殆ど書き下ろしに近い「代筆」まで、様々なケースが見られる。謝辞その他の何らかの形で名前が出る場合もあれば、まったく出ないことも少なくない。謝礼の支払い形態もいろいろである。ゴーストが勝手に名乗りを挙げることはタブーとされているが、ゴースト以外の作品で成功した場合、かえってそのことを表に出して再刊されることもある。

文筆や学術研究を主業としないタレント政治家スポーツ選手その他著名人の名前で出版されている本のかなりの割合が、多かれ少なかれゴーストを使っていると言われる(松本伊代オールナイトフジ1984年12月29日)で“自筆エッセイ”の内容を司会者に聞かれ、「まだ読んでない」と答えてしまった例は有名)。他方で、作家業や文筆業にある者でも、高い知名度を持つ人物が、かつてゴーストをやっていたことがあったり、逆にゴーストを使っていたりする場合もあるとされる。みずからもゴーストライターを務める吉田典史によると、「約9割のビジネス書は、ゴーストライターが書いている[1]」という。

ゴーストライターが重宝されるのは、文章を書く訓練をしていない著名人が、一から原稿を書き上げるのは難しいこと、書いたとしても、そのままでは読者が理解しにくい、読みにくい文章になりがちだからである[2]。そのため、ゴーストライターは文章を書き慣れない人をサポートして、文章の質や量の向上に寄与しているとも言えるが、時として内容が問題になった際に文責の所在が曖昧にされることがある。

また、レアケースではあるが、文字を書くことが困難、あるいは翻訳作業などが必要な外国出身者が本を出版する際、事実上の代筆担当者としてゴーストライターが起用される事もある(口述筆記)。この場合には著者や出版社がゴーストライターの起用を自ら明かす事もある。また、著者が視覚障害者の場合は多くのケースで代筆担当者が存在するが、代筆担当の名前を出さない場合にはおのずからゴーストライターと同様の事になる。

漫画の分野では、漫画原作者シナリオライターなどが何らかの理由により表には名前を出さずにストーリーを手掛け、作品自体は漫画家のみの名義で出されるなどという形で、多くはストーリーの面についてゴーストライターの存在が噂されることがある。また、編集部サイドや担当編集者の強い主導によって作品企画が進められるスタイルの雑誌の場合、キャラクター設定や物語の概要のみならず、ストーリー制作の実権をも編集部や編集者が握ってしまうこともあり、この様な場合には編集部の内部でストーリーを考案している雑誌スタッフや編集者が実質的なストーリー担当者となる。ただし、この様な場合にも編集部・編集者が原作者や脚本担当としてクレジットされることはほとんど無く、多くはゴーストライターと同様の実態になる。

放送業界

放送業界においては、主にテレビドラマテレビアニメ脚本家についてゴーストライターにまつわる噂が発生することがある。

たとえば、以下の様な形である。

  • 脚本家の身近に別の執筆家がいる場合にはその執筆家が実制作を担っている。
  • ベテランの脚本家が、弟子筋に当たる若手脚本家や見習いの育成の一環として、自分名義の仕事を任せて実作業を行わせる。実際に名前が出る脚本家の方では品質・内容のチェックと修正を適宜行う。
  • 番組企画をテレビ局のプレゼンに通すために脚本担当として名前を借りた著名な脚本家の名前を表に出して、実際には別の脚本家が執筆している。

実例としては、2008年のNHK大河ドラマ篤姫』における、脚本家田渕久美子担当分の脚本について、実際には、シリーズ後半から「脚本協力」としてクレジットされた田渕の兄であるコピーライター田渕高志が、シリーズの当初から事実上のゴーストライターを務めていたのではないかという疑惑説が存在している[3]。実際、田渕久美子を巡る民事訴訟の法廷でも田渕の元関係者が、高志が事実上のゴーストであったことを証言している[4]

音楽業界

出版業界と同様に、音楽業界、特にテレビ番組の主題歌やCM音楽などでゴーストライターの存在が噂される事がある。これについては主に作詞の名義について言われる事が多いが、一部には作曲編曲などでこの種の噂が発生する事もある。

特にテレビアニメなどでは、主役級のキャラクターの声を演じる人気女性声優が番組主題歌を歌唱し、同時にその主題歌の作詞を担当する事が一部に見られるが、これらの中にも「声優に対する報酬確保の為、主題歌の作詞者として声優の名義を設定し、実際には別の作詞家がゴーストとして作詞している」などという噂が、真偽は別としても発生する事がある。この様な噂が発生する背景には、大半の声優のアニメ出演において、そのギャラの金額決定に際して、「ランク制」という声優業界の制度が用いられており、これによる大きな制約が存在している為、どれほど人気絶頂にあっても金額的な上限が存在するという事情がある。このため、出演に対してそれ以上の報酬を出す事が必要とされる場合には、主題歌の歌唱担当など以外にもこの様な「ランク制」の影響を受けない別の手段を講じる事が求められる場合があるという、声優業界特有の要因が存在する。

参考文献

  • 猪野健治 『ゴースト・ライター―“影”の大作者たち』 エフプロ出版、1978
  • 北尾トロ 『怪しいお仕事!―儲けたいなら、頭を使え。』 ISBN 4102901086

ゴーストライターの例

脚注

  1. ^ 『Business Media 誠』吉田典史 吉田典史の時事日想:約9割のビジネス書は、ゴーストライターが書いている
  2. ^ 前掲、吉田
  3. ^ NHK大河ドラマ脚本家、「替え玉」だった - Ameba News 2011年5月18日
  4. ^ 光文社「FLASH」2011年5月31日号「元秘書は見た!『江』『篤姫』の田渕久美子さんを巡って飛び出した“仰天供述”NHK大河・脚本家は「替え玉」だ 衝撃裁判!」
  5. ^ a b 木村徳三『文芸編集者の戦中戦後』(大空社、1995年)pp.78-79
  6. ^ 元創価学会幹部原島嵩の証言より

参考文献

  • 平山城児『川端康成余白を埋める』(研文選書、2003年)

関連項目