カタクチイワシ

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カタクチイワシ
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
上綱 : 魚上綱 Pisciformes
: 条鰭綱 Actinopterygii
上目 : ニシン上目 Clupeiformes
: ニシン目 Clupeiformes
亜目 : ニシン亜目 Clupeoidei
: カタクチイワシ科 Engraulidae
亜科 : カタクチイワシ亜科 Engraulinae
: カタクチイワシ属 Engraulis
: カタクチイワシ E. japonica
学名
Engraulis japonica (Houttuyn, 1782)
英名
Japanese Anchovy

カタクチイワシ(片口鰯) Engraulis japonica は、ニシン目・カタクチイワシ科に分類される魚の一種。いわゆるイワシの一種で、人類の利用のみならず食物連鎖の上でも重要な魚である。最近、学名がE. japonicusと表記されることがあるが、男性名詞を修飾する際に用いるべきjaponicusを、女性名詞である属名Engraulisに対して用いるのは誤りであり、たとえ広く通用している綴りであっても国際動物命名規約条34.2に従って変更しなければならない[要出典]

特徴

成魚の全長は10-20cmほど。体色は背中側が青灰色で、腹側が銀白色をしている。は円形をした「円鱗」(えんりん)だが剥がれやすく、漁獲された際に鱗が脱落してしまうことも多い。断面は背中側がやや膨らんだ卵形をしている。

マイワシウルメイワシと同じくイワシの一種だが、カタクチイワシは目が頭部の前方に寄っていて、が頭部の下面にあり、目の後ろまで大きく開くことが特徴である。和名も「口が頭の片側に寄っている」ことに由来する[1]。また、他の2種よりも体が前後に細長い。分類上でも、マイワシとウルメイワシはニシン科(Clupeidae)だが、カタクチイワシはカタクチイワシ科(Engraulidae)である。

北海道から南シナ海までの西太平洋沿岸に分布する。内湾から沖合いまで、沿岸域の海面近くに大きな群れを作る。プランクトン食性で、泳ぎながら口を大きく開けて植物プランクトンや動物プランクトンを海水ごと吸い込み、の鰓耙(さいは)でプランクトンを濾過摂食する。

一方、敵はカモメカツオドリなどの海鳥、サメカツオなどの肉食魚、クジライルカなどの海生哺乳類イカ、人間など非常に多岐にわたり、人類の利用のみならず食物連鎖の上でも重要な生物である。カタクチイワシは天敵から身を守るために密集隊形を作り、群れの構成員全てが同調して同じ向きに泳いで敵の攻撃をかわす。これは他の小魚にも共通する防衛策である。対する敵はイワシの群れに突進を繰り返して群れを散らし、はぐれた個体を襲う戦法を取る。

産卵期はほぼ1年中だが、に産卵するものが多い[2]。卵は楕円形の分離浮性卵で、1粒ずつがバラバラに水中を漂いながら発生する。孵化した稚魚は急速に成長し、1年経たずに繁殖ができるようになる。寿命は2年-3年ほどである。

利用

カタクチイワシは日本で最も漁獲量の多い魚で、日本各地で巻き網地引き網などで漁獲される。また、「シラス」は主にカタクチイワシの仔魚で、これも食用に多く漁獲されている。

鮮度の良いものは刺身など生で食べることもできるが、傷みが早く入手が限られる。鰯の中でも新鮮なカタクチイワシの刺身は、最も美味しいと言われている。ただし季節と漁場によってはアニサキスの寄生が見られ、生食に際しては細心の注意が必要である。

最も多い利用法は煮干し等の干物だが、良い干物の決め手も鮮度で、加工作業は時間との戦いとなる。カタクチイワシが水揚げされると港や加工場はにわかに忙しくなる。

おもな利用法には以下のようなものがある。

  • 畳鰯(たたみいわし) - 稚魚を板海苔状にまとめ干物にしたもの。
  • 白子干し(しらすぼし) - 稚魚を塩茹でし干したもの。カルシウムを含む食品の代名詞でもある。やわらかいものから乾燥度合いにより「しらすちりめん」「太白ちりめん」「上乾ちりめん」に区別される。やや個体の大きいものは「かえりちりめん」と呼ばれる。
  • 目刺し(めざし) - 立て塩をした後、数匹ずつ竹串に刺して乾燥させた干物。流通段階では竹串は外されていることが多い。乾燥度合いの違いにより「若干し」「丸干し」に分けられる。
  • 煮干し(にぼし) - 茹でて乾燥させたもの。主に出汁をとるために利用される。
  • 田作り(たづくり) - ゴマメ(小型のカタクチイワシを素干ししたもの)を砂糖醤油で煮絡めたもの。御節料理の祝い肴として知られる。
  • アンチョビ - 三枚に下ろして塩漬けした後、植物油に漬け込んだもの。
  • ごま漬け - 千葉県九十九里地方の郷土料理。
  • 調味料 - 魚醤またはたん白自己消化物と呼ばれる発酵調味料原料として用いられる。

食用以外にもカツオなど肉食魚の釣り餌、肥料などに用いられる。

別名

日本では古くから食用に供されてきたため、地方ごとに様々な別名をもつ。ヒシコイワシ、シコ、シコイワシ、田作り(タヅクリ)、五万米(ゴマメ)、背黒鰯(セグロイワシ)、狼鰯(オオカミイワシ)、脹眼(ハンガン)、金山(カナヤマ)、丸(マル)、ヒラレ、泥目(ドロメ)、ドロイワシ、ママゴ、エタレ、クロタレ、シラス、タレクチ、チリメン、タレ、ホオタレ、ホホタレ、ホウタレ、ブト、コシナガ、カエリ、カクハリなど、多種多様な呼び名がある。

カタクチイワシの近縁種 Engraulis ringens

近縁種

カタクチイワシ属(Engraulis 属)は世界各地の熱帯温帯の海から7種類ほどが知られ、どれも重要な漁業資源となっている。

  • E. australis (White, 1790)
  • E. anchoita Hubbs & Marini, 1935
  • E. encrasicolus (Linnaeus, 1758) - 東大西洋と西インド洋
  • E. eurystole (Swain & Meek, 1885)
  • E. japonica (Houttuyn, 1782) - カタクチイワシ
  • E. ringens Jenyns, 1842 - 太平洋南アメリカ沿岸
  • E. mordax Girard, 1854

アンチョビ(Anchovy)はカタクチイワシ属、さらに広義にはカタクチイワシ科の各種を指す総称として用いられるが、日本で「アンチョビ」と呼んだ場合は魚よりも加工品を指すことが多い。

関連項目

脚注

  1. ^ カタクチイワシ語源由来辞典
  2. ^ 「飲食事典」本山荻舟 平凡社 p45 昭和33年12月25日発行

外部リンク

イワシの手開き