イトヒラアジ

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イトヒラアジ
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: スズキ目 Perciformes
亜目 : スズキ亜目 Percoidei
: アジ科 Carangidae
: ヨロイアジ属 Carangoides
: イトヒラアジ C. dinema
学名
Carangoides dinema
Bleeker, 1851
シノニム
  • Carangichthys dinema
    (Bleeker, 1851)
  • Caranx dinema
    (Bleeker, 1851)
  • Caranx deani
    Jordan & Seale, 1905
和名
イトヒラアジ
英名
Shadow trevally
おおよその生息域

イトヒラアジ(学名:Carangoides dinema)は、アジ科に属する沿岸性の海水魚である。生息域はインド洋太平洋西部の熱帯亜熱帯域に散在し、生息域の西部では南アフリカ、東部では日本サモア、南部ではインドネシアといった国々でみられる。背鰭の基部には特徴的な一連の黒い長方形の斑点が存在する。かなり大型の種であり、最大で全長85cm、体重2.6kgに達した記録がある。サンゴ礁岩礁エスチュアリーなどの浅い沿岸海域でみられ、主に小型の魚や底生甲殻類を捕食する。その他の生態や繁殖についてはまだ分かっていない。漁業においてはほとんど重要性はないが、時々トロール漁などで混獲され、食用とされる。

分類

スズキ目アジ科ヨロイアジ属(Carangoides )に属する[1][2]

本種はオランダ魚類学者ピーター・ブリーカーによって、インドネシアジャワ島ジャカルタから得られた標本ホロタイプとして1851年に初めて記載された[3]。彼は本種をCarangoides dinema と命名し、ヨロイアジ属(Carangoides )に分類した。種小名ラテン語で「2」を意味する"dis"と、ギリシャ語で「糸」を意味する"nema"を合わせたもので、本種のひれの形態に由来する。現在でも主にこのヨロイアジ属への分類が正当とみなされているが、のちの学者の中にはギンガメアジ属(Caranx )や、Carangichthys 属といった他の属への分類を試みた者もいた。本種はまた、デイビッド・スター・ジョーダンとAlvin Sealeによって1908年にCaranx deani として再命名されている。この後行シノニムはのちに国際動物命名規約に基づき下位シノニムとして無効とされている。このように、何度もの再命名や属の移動を経ている同属他種と比べると、本種の分類をめぐる歴史は比較的単純である[4]。ただし、Carangichthys 属を採用している文献も2000年代に出版されたものを含めいくつかみられる[5][6]

形態

背鰭が伸長することが本種の特徴である。

多くの同属他種と同様に強く側偏した卵形の体型をもつ[7]。大型の種であり、最大で全長85cm[8]、体重2.6kgに達した記録がある[4]。背側の輪郭はかなりふくらんでいる一方、腹側の輪郭はそれほどふくらんでいない。項部の輪郭はほぼ直線状になっている[7]。体高が高く、体長の40%以上となっている[5]背鰭は二つの部分に分かれており、第一背鰭は8棘、第二背鰭は1棘、17-19軟条である。第二背鰭の突出部(第一軟条)は伸長し、その長さは頭部長よりも長くなっている。臀鰭には前方に2本の遊離棘がある。遊離棘をのぞくと臀鰭は1棘、15-17軟条[9]。本種の臀鰭はそれほど伸長しないが、同属でよく似たテンジクアジ(C. oblongus)の臀鰭は伸長し、この点で両種を区別できる[6]。細い尾柄をもち、尾鰭は深く二叉する[5]側線は前方でゆるやかに湾曲し、直線部と曲線部の交点は第二背鰭の第10から第12軟条の下部にある。側線曲線部は直線部よりわずかに長く、60から63の鱗が存在する。一方で側線直線部には0から6の鱗と、23から30の稜鱗アジ亜科に特有の鱗)が存在する。胸部腹側は、腹鰭の始点から胸鰭の基底部にかけて鱗がないが、まれにその無鱗域が縦帯状の有鱗域で分断されることもある[9]。両顎には小さな歯からなる歯列が存在し、その幅は前方で広くなる。またその他に、上顎外側には比較的大型の歯が不規則に連続して存在する。大型個体ではこの不規則な大型歯が下顎にもみられる。鰓耙数は24から28、椎骨数は24である[7]

生きている時の体色は、背部で青緑色であり腹部にかけて銀白色になっていく。第二背鰭の基部には一連の黒褐色で長方形の斑が存在し、後方にかけてその斑は大きくなっていく。鰓蓋にも黒褐色でぼんやりとした斑が存在する。第一背鰭は青白色から薄黒い色であり、第二背鰭の突出部は薄黒く軟条の端は黄色味を帯びる。臀鰭の縁は白青色である。尾鰭は上葉で黄色味を帯びる一方後端と下葉の先端では青白色である。胸鰭は透明で、腹鰭は白色から薄い黒色である[7]

分布

インドネシアのバリ島で釣り人によって釣り上げられた個体。

インド洋太平洋西部の熱帯・亜熱帯域に散在する分布域をもつ。分布の西限はアフリカ東海岸で、南アフリカからタンザニアにかけて生息する。インド洋のより北部では、インドスリランカを除いて記録が無い[10]。太平洋では中国韓国東南アジアインドネシアフィリピンなどでみられる。生息域の東側では、北は台湾日本、南はトンガサモアなど多くの小さな島々に生息する[4]

日本では三重県以南の南日本、琉球列島でみられる[5][6]

ふつう水深15m以下の沿岸海域に生息する。岩礁サンゴ礁の縁の急峻な崖にそって小型の群れを作り泳いでいるのがみられる[4]エスチュアリーでもみられることがある[11]沈没船のまわりでもみられることがあり、一つの研究によれば、本種は船が沈んでから初めて船内に侵入してきた魚のうちの一種であったという[12]

生態

本種の生態に関してはほとんど知られていない。単独、あるいは小型の群れで行動し、小型の魚類や底生甲殻類を捕食する肉食魚であることは分かっている[4]

人間との関係

本種は生息域の全域において漁業における重要性をほとんどもたない。混獲により漁獲されることがあるが、その取り扱いにおいてはふつう他のアジ科魚類と区別されない。しばしば底引きトロール網や、様々な種類の零細漁業で漁獲される[7]。日本では刺身ムニエル塩焼きなどにされ、食用魚として人気が高い[13]

出典

  1. ^ "Carangoides dinema" (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2008年8月29日閲覧
  2. ^ イトヒラアジ”. JODC Dataset. 日本海洋データセンター(海上保安庁) (2009年). 2015年9月9日閲覧。
  3. ^ Lin, Pai-Lei; Shao, Kwang-Tsao (28 March 1999). “A Review of the Carangid Fishes (Family Carangidae) From Taiwan with Descriptions of Four New Records”. Zoological Studies 38 (1): 33–68. http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=10055944. 
  4. ^ a b c d e Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2008). "Carangoides dinema" in FishBase. September 2008 version.
  5. ^ a b c d 阿部宗明、落合明『原色魚類検索図鑑 2』北隆館、1989年、63頁。ISBN 4832600303 
  6. ^ a b c 『日本の海水魚』瀬能宏 監修、山と渓谷社、2008年、174頁。ISBN 4635070255 
  7. ^ a b c d e Carpenter, Kent E.; Volker H. Niem, eds (2001) (PDF). FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the Western Central Pacific. Volume 4: Bony fishes part 2 (Mugilidae to Carangidae). FAO. Rome: Food and Agriculture Organization of the United Nations. pp. 2694. ISBN 92-5-104587-9. ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/009/x2400e/x2400e52.pdf 
  8. ^ Kuiter, Rudie H.; T. Tonozuka (2001). Pictorial guide to Indonesian reef fishes. Part 1. Eels- Snappers, Muraenidae - Lutjanidae. Australia: Zoonetics. pp. 302. ISBN 979-98188-1-8 
  9. ^ a b Gloerfelt-Tarp, Thomas; Patricia J. Kailola (1984). Trawled Fishes of Southern Indonesia and Northeastern Australia. Singapore: Australian Development Assistance Bureau. pp. 285. ISBN 0-642-70001-X 
  10. ^ Kapoor, D.; R. Dayal and A.G. Ponniah (eds.) (2002). Fish Biodiversity of India. Lucknow: National Bureau of Fish Genetic Resources. pp. 228. ISBN 81-901014-8-X 
  11. ^ Kuo, S.R.; K.T. Shao (1999). “Species composition of fish in the coastal zones of the Tsengwen estuary, with descriptions of five new records from Taiwan” (PDF). Zoological Studies 38 (4): 391–404. http://zoolstud.sinica.edu.tw/Journals/38.4/391-404.pdf 2008年9月21日閲覧。. 
  12. ^ Wantiez, Laurent; Pierre Thollotw (2000). “Colonisation of the F/V Caledonie Toho 2 Wreck by a Reef-Fish Assemblage Near Noumea (New Caledonia)” (PDF). Atoll Research Bulletin 485: 2–19. doi:10.5479/si.00775630.485.1. http://si-pddr.si.edu/dspace/bitstream/10088/4873/1/00485.pdf 2008年9月21日閲覧。. 
  13. ^ イトヒラアジ”. 三重県のお魚図鑑. 三重県漁業共同組合連合会. 2015年9月9日閲覧。