アラック

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シリアのアラック(アラック・ラヤン)のボトル
水が混ざり白濁したアラック

アラック、あるいはアラクアラビア語:عرق)は、中近東、特にイラクシリアを中心とし、エジプトスーダンのような北アフリカ地方などでも伝統的につくられてきた蒸留酒

アラック(アラビア語: عرق、‘araq)の名称はアラビア語起源である。アラビア語のようなセム語派の言語には子音部分が語根となり、母音部分が入れ替わることで意味の派生が起きる特徴がある。 ‘araq の語根 ‘-r- q には「汗がにじみ出ること」「少量の水」の意味があり、もともと ‘araq 単体で蒸留や蒸留物を指していたと思われる。ここから派生した「酒に水を少々混ぜる」を意味する動詞が ‘arraqa または ra‘arraqa で、アラックの名称はここに由来する。

トルコ語ではアラックから派生したラクの名で呼び、ギリシャ語では同系統の蒸留酒をウーゾと称す。英語では arrack 、 arak 、スペイン語では arac 、 erraca 、ポルトガル語では araca araque 、 orraca 、 rac と綴る。1330年元朝の飲膳太医・忽思慧が著した料理書『飲膳正要』第三巻「酒」に「阿剌吉酒」という「回方」(イスラーム世界)からもたらされた蒸留酒が紹介されている。これは「アラック」の漢語音写であり、13、14世紀には名称を含めモンゴル高原華北に伝来し広く愛飲されていた。モンゴルでは家畜乳や穀物由来の蒸留酒アルヒ(архи)として現在に受け継がれている。これが日本には既に江戸時代長崎経由で輸入されており、阿剌吉、阿剌基と書いて「あらき」と呼んだ。

もともとはナツメヤシブドウといった中近東乾燥地帯原産の糖度の高い果実を醗酵させてから蒸留した酒であるが、イスラム文化の拡大とともに中近東の蒸留技術が各地に伝播し、その土地の伝統的な様々な醸造酒を蒸留してローカル色豊かなアラックがつくられるようになった。例えばインドスリランカマレーシアなどでは、から作られた醸造酒や、ヤシの花穂を切断して採取した樹液を醗酵させたヤシ酒を蒸留して、アラックをつくる。ヨーロッパにも伝えられ、フランス王家のブルボン家では、サトウキビを原料としたアラックをつくっていた。アラック、あるいはアラック系統の蒸留酒の中には、ニガヨモギなどのハーブ類を醸造時、あるいは蒸留時などに加えて香りをつけるもの(アブサンなど)もある。

アルコール濃度は、加糖してある低品質のものでは10%以下、高品質の濃いものになると60%近くにもなる。

アルコール度の高いものは氷を入れずに水で割って飲まれる。アラックそのものは無色透明だが、水で割ると非水溶成分が析出して白濁するため、「獅子の乳」の別名がある。メゼという軽食をつまみながら飲むことが多い。

あまり水を加えすぎて重たく白濁すると、いっしょに飲んでいる相手が縁起をかついで敬遠する、という習慣を持つ地方もある。

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